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2話 『0』

ー/ー



「えっとー、とりあえず、ポイントの確認と、コース選択があるわ!」


 ついに、死後の面接とやらが始まった。
 さっきまで俺が泣いていたとは思えないテンションで、 目の前の天使は、塾の夏期講習の説明会みたいなノリで話を進めている。
 とりあえず、俺は死んだ。そこはもう確定らしい。
 
 問題はその後だ。


「ポイントとかコース選択ってなんだよ! 死んだ後に何でそんな携帯ショップみたいなんだよ!」

 死後初のツッコミが、いい感じに炸裂した。

「そ、そんなこと言われても~、ホントのことだし? 初ツッコミおめでとうございます」

「まあいいや、とりあえずポイントってなんだ。俺貯めた覚えないぞ。あと、新年みたいな雰囲気を出すな」

 さっき会ったばっかりのはずなのに、普通に友達みたいに喋ってる。生きいてた頃なんて、まともに人と話していなかったのに。


ーーーーーー案外、いけるもんだな俺。


「えっと、ポイントって言うのは楓の人生で得られたポイントのことを言うの。そのポイントによって来世何になるか、つまり、コースを決められる!」
「例えば、ゴミ拾いとか、筆記用具忘れた子にシャーペン貸してあげたりとか、教科書忘れた子に教科書貸してあげたりだとか! そういう小さな良い行いでポイントが貯まるわ!」

「もちろん、大きな良い行いほどポイントは高くなるの!」


 なるほど。いかにもな設定だ。


「友人の忘れ物率が異常な件は置いといて、とりあえず仕組みはわかった。じゃあ悪いことしたら減るのか?」

「いい質問ね! もちろんマイナスもあるわよ!」

 なんか嬉しい、褒められた。授業中みたいだ。

「道路にガム吐き捨てたり、万引きしたり、そういうことするとポイントは引かれるの。でもそのくらいなら地獄行きにはならないわ」

 彼女はそう言い切って一息吐くと、少し声のトーンを落として続けた。

「ただし、人を殺めた場合は別。これはもう地獄確定レベルのマイナスね」

「なるほどな……ちなみに何が何点とか決まってんのか?」

「具体的には決まってないの。私たち天使でも配点は知らないわ」

「じゃあどうやって点数つけてんだよ」

「ちょっと手、ここにかざしてみて」

 いつの間にか、手のひらサイズの瑠璃色の水晶が差し出されていた。
 占い師かよ、と思いつつも、言われるがまま手をかざす。

「こ、こうか?」

「そう、これでポイントがわかる」

 次の瞬間、水晶が光り出した。
 青白い光が広がって、部屋全体が妙に幻想的になる。

「なんか急にファンタジー感出してきたな」

「残念ね、これは現実よ。数値が見えてきたわ」

 その現実に興奮と切なさを同時に感じながら水晶を見つめる。しかし、俺の方向からはその数値を確認することが出来ない。そもそも本当に映っているのだろうか。
 仕方がないと、彼女の表情で高いか低いか判断しようと決め、彼女の顔が明るくなることを期待する。

「んー、やっぱそうかぁ」

「その微妙な反応はなんだ」

「0! 楓のポイントは0!」

「0ってそんなことあるのか?」

「初めてよ、0なんて。ここに来た時からなんとなく数値は低そうに見えたから、予想はしてたけど、まさか0とはね」

 「数値が低そう」という言葉がものすごい悪口に聞こえたのは、一旦考えないことにする。

「0って。もぐらにも生まれ変われないんじゃないか?」

 だが、0ポイントと言われても俺の中に疑念は生まれなかった。そこそこ良いことをして、ほんの少しだけ悪いことをしてきたイメージしかない俺の人生は実際の所、プラマイゼロだったのだ。最後の、命を賭けて助けたあれで稼いだポイントを足したとしてもだ。
 目の前の天使は、困った様子で水晶をまじまじと見つめている。0ポイントが一体何を意味しているのか、俺には今のところ理解ができない。

「あのね、楓」

「なんだよ、ポイント間違ってた? 実は1000ぐらいあった?」

 彼女が急に真面目な顔を見せたため、少し驚きながらも冗談を言ってやると、彼女は本来の面接らしい態度で話し始めた。

「少なくともポイントがあれば生まれ変われるわ。しかも、基本的に人間になれる。他の生き物になるとちょっと面倒なことにもなるしね。でも楓、あなたは0点なの」

「俺、地獄でも行っちゃうの?」

「この面接で、地獄に連れていかれるのはポイントがマイナスの人だけよ」

「え、じゃあ俺どうすれば」

「今はここに留まるしかないわ」

 予想外の返答に驚きが隠せず、目を見開く。

「留まる? ここに? まさか永遠にとかじゃないよな?」

「それはダメ。絶対に。とんでもないことになる」

 珍しく強い口調に少し怖気づきながらも、こちらも食い下がってはいられない。

「何だそれ物騒な。とんでもないことってなんだ」

「なんか天界法で、人間は絶対に生まれ変わるか地獄に行くかしなければいけないみたいなのがあって、それに、長期間人間がこっちに留まると、地獄に強制的に送られるって書いてあった気がするわ」

「長期間ってのは、どのくらいなんだ」

「んー、それはわからないわね、あんまりこっちでは時間を数値として表す概念が無いから」

「じゃあ地獄は」

「え?」

「地獄はどんな所なんだ?」


 ずっと知りたかったことだ。彼女が言うには、生きている間人間を殺した人間が行く場所。
 「地獄に落ちろ」なんて言っている奴もいたが、その地獄と言われる所は、一体どんなことが待ち受けているのか気になってしまった。

「苦しみが降り注ぐ場所。そう言われてるわ。それも、並大抵の苦しみじゃない。人間界じゃ味わえないわよ」

 人間界じゃ味わえない、その一言で、恐ろしさは想像の範疇を超えた。
 針地獄だったり、マグマに落とされるだったり、そんな具体的な説明があれば、想像もしやすかった。
 想像したくても何も頭に浮かんでいない俺に対し、彼女は話を続ける。

「ただただマイナスポイントを精算するまでそこを彷徨い続ける。どれだけボロボロになってもね。そしてその後は消滅。生まれ変わることもなく消えるわ」

「そりゃあ……地獄に落ちたらたまったもんじゃないな」

「そういうこと。それで、さっきの話にも繋がるけど、基本地獄に落ちた人間はマイナスポイントを精算するまで地獄に居ることになる。じゃあ0ポイントの人が落ちたらどうなると思う?」

「まさか、精算するポイントが無いから永遠に、ってことはないよな?」

「私は、そのまさかだと思うの。だから、楓は生まれ変わらなきゃいけない」

 真剣なその水色の瞳の眼差しから、事の重大さが伝わる。わからないことだらけではあるが、状況は飲み込めつつあった。
 このままでは、いずれ強制的に地獄に送り込まれ、0ポイントのままでは一生地獄で彷徨うという結末を迎える可能性があるということだ。

「地獄送りだけは避けたいな」

「とりあえず0ポイントじゃ生まれ変われない、こうなったら今からポイントを貯めるしかないわ!」

 鼻を高くしてそう言い放ち俺を見つめる彼女の目は、さっきまでの真面目な雰囲気など全く感じさせない、非常に楽観的な態度だった。

「ちなみに、どうやってポイント貯めるんだ? ここにいちゃ何もできないだろ」

「そうねぇ、せいぜい私の足を揉むとか、この部屋の掃除とかそんな程度じゃない?」

「まじかよ、じゃあちゃっちゃと掃除するわ」

 この美少女天使のマッサージ機になるのも、出会いたてなら悪くないと思えたが、ある程度話して感じた小生意気さが少し鼻につくからか、今の俺には掃除一択だった。美人は三日で飽きるというが、今回の場合はおよそ30分だ。
 さっさと人間に、せめて哺乳類には生まれ変わりたいと願いつつ、周りを見渡したが、掃除道具が無いことに気がつき、呆然とする。その時ふと、素朴な疑問が頭に浮かぶ。

「そもそも、天界とか地獄とか、いったいここはどこなんだ?」

「やっぱり気になるわよね。ここは、天界。天使が住む世界。そして、この部屋は天界の傍にあるローズベルクよ。ちなみに、天界には五つの地方があるの。シュンセイ村、トウゲン村。あとは、ハクシュウ村とカシユ村。その中心にあるのが、コハクリア。人間界でいう、首都みたいなものね。星域っていう場所もある。まあ、それらをまとめて天界っていうの」

 長すぎる。ゲームでこんな説明を村人が話し始めたら諦めてスキップしている。ボタンを連打だ。
 「あぁなるほど」と応えつつも、全体像が全く見えない。ゲームでもマップを覚えるのは苦手だった。
 まだ聞きたいことが山ほどあるのにも関わらず、何をどう質問すればいいのかわからない。脳内整理中で黙り込んだ俺に話題を振ってくれたのは、目の前の椅子に座った天使だった。

「まあ、まだ生まれ変わらないなら、これは不要ね」

 相変わらずどこから持ってきたのかはわからないが、いつの間にか彼女の手に抱かれた高そうな壺。どこかの夢の国で、喋るくまの持ってるはちみつの入った壺みたいなそれを見ながら、彼女はそう呟いた。

「それは何?」

「これは幸せの粉よ?」

「粉? 幸せの?」

 今まで、急に死んでいると告げられ、天使と名乗った彼女の背から羽が生えてきて、人生にポイント制度があるなんてことを知らされた挙句、地獄の恐ろしさを教え込まれた俺は、幸せになれる粉のようなチートアイテムがあってももう驚かない。

「この粉を振りかけられた人は、幸せになれるの。どれだけ不幸に見舞われていたとしてもね」

「なら俺にそれ振りかけて、俺を来世人間にしてくれよ」

 今までの苦労は何だったのか、この部屋をピカピカにして、人間とまでは言わない。せめて犬やイルカ、ライオンなどの哺乳類に、もはや植物でも構わないと思っていた俺はこの気持ちを返してくれと叫び、そして今すぐその壺を頭から被りたいと願った。

「それは無理ね。この粉は、生きている者と生まれ変わり先が決まった者にしか効果がないわ」

「じゃあそれ、ピンポイントで俺には効果がないってわけだ。なら、どのタイミングで誰にかけるんだよ」

 彼女の目が光ったように感じる。スイッチが入った。また饒舌な説明が始まる。

「例えば、人間に生まれ変われる亡くなった生き物の中でもそれぞれ集めていたポイントが変わってくるわよね?」

 「ちなみに熊のポイントもここで調べるのか?」そう質問すると、「今話の途中でしょ」と言わんばかりの呆れた顔を見せた後、彼女は俺の質問は無視して、ペラペラと達者な口ぶりで続ける。

「ポイントを人間に生まれ変われる基準よりも大幅に上回った状態で亡くなった生き物と、ギリギリ人間でおーけーってなった生き物とで、この粉の量を変えているの。もちろん、前者の場合は沢山かけてあげるし、後者の場合は少ししかかけてあげないわ」

「つまりお前は、人生をeasyモードかhardモードかで設定できるってわけか」

「ちょっと言い方宜しくないけど、まあ大方そういうことね、あと! 私にもちゃんと名前があるの、お前じゃないの! 私だって楓のこと、かえでって読んであげてるんだから、楓も私のことも名前で呼びなさいよ!」

「名前って……フィ、ロ……なんだっけ、すまん忘れちまった」

「もうそれでいいわよ、フィロ、私のことはそう呼びなさい! 楓!」

「わ、わかったよ、フィロ」

 女の子を下の名前で呼ぶなんて、何年ぶりだろうか。
 いや、そもそもこれは下の名前と言えるのだろうか。
 


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「えっとー、とりあえず、ポイントの確認と、コース選択があるわ!」
 ついに、死後の面接とやらが始まった。
 さっきまで俺が泣いていたとは思えないテンションで、 目の前の天使は、塾の夏期講習の説明会みたいなノリで話を進めている。
 とりあえず、俺は死んだ。そこはもう確定らしい。
 問題はその後だ。
「ポイントとかコース選択ってなんだよ! 死んだ後に何でそんな携帯ショップみたいなんだよ!」
 死後初のツッコミが、いい感じに炸裂した。
「そ、そんなこと言われても~、ホントのことだし? 初ツッコミおめでとうございます」
「まあいいや、とりあえずポイントってなんだ。俺貯めた覚えないぞ。あと、新年みたいな雰囲気を出すな」
 さっき会ったばっかりのはずなのに、普通に友達みたいに喋ってる。生きいてた頃なんて、まともに人と話していなかったのに。
ーーーーーー案外、いけるもんだな俺。
「えっと、ポイントって言うのは楓の人生で得られたポイントのことを言うの。そのポイントによって来世何になるか、つまり、コースを決められる!」
「例えば、ゴミ拾いとか、筆記用具忘れた子にシャーペン貸してあげたりとか、教科書忘れた子に教科書貸してあげたりだとか! そういう小さな良い行いでポイントが貯まるわ!」
「もちろん、大きな良い行いほどポイントは高くなるの!」
 なるほど。いかにもな設定だ。
「友人の忘れ物率が異常な件は置いといて、とりあえず仕組みはわかった。じゃあ悪いことしたら減るのか?」
「いい質問ね! もちろんマイナスもあるわよ!」
 なんか嬉しい、褒められた。授業中みたいだ。
「道路にガム吐き捨てたり、万引きしたり、そういうことするとポイントは引かれるの。でもそのくらいなら地獄行きにはならないわ」
 彼女はそう言い切って一息吐くと、少し声のトーンを落として続けた。
「ただし、人を殺めた場合は別。これはもう地獄確定レベルのマイナスね」
「なるほどな……ちなみに何が何点とか決まってんのか?」
「具体的には決まってないの。私たち天使でも配点は知らないわ」
「じゃあどうやって点数つけてんだよ」
「ちょっと手、ここにかざしてみて」
 いつの間にか、手のひらサイズの瑠璃色の水晶が差し出されていた。
 占い師かよ、と思いつつも、言われるがまま手をかざす。
「こ、こうか?」
「そう、これでポイントがわかる」
 次の瞬間、水晶が光り出した。
 青白い光が広がって、部屋全体が妙に幻想的になる。
「なんか急にファンタジー感出してきたな」
「残念ね、これは現実よ。数値が見えてきたわ」
 その現実に興奮と切なさを同時に感じながら水晶を見つめる。しかし、俺の方向からはその数値を確認することが出来ない。そもそも本当に映っているのだろうか。
 仕方がないと、彼女の表情で高いか低いか判断しようと決め、彼女の顔が明るくなることを期待する。
「んー、やっぱそうかぁ」
「その微妙な反応はなんだ」
「0! 楓のポイントは0!」
「0ってそんなことあるのか?」
「初めてよ、0なんて。ここに来た時からなんとなく数値は低そうに見えたから、予想はしてたけど、まさか0とはね」
 「数値が低そう」という言葉がものすごい悪口に聞こえたのは、一旦考えないことにする。
「0って。もぐらにも生まれ変われないんじゃないか?」
 だが、0ポイントと言われても俺の中に疑念は生まれなかった。そこそこ良いことをして、ほんの少しだけ悪いことをしてきたイメージしかない俺の人生は実際の所、プラマイゼロだったのだ。最後の、命を賭けて助けたあれで稼いだポイントを足したとしてもだ。
 目の前の天使は、困った様子で水晶をまじまじと見つめている。0ポイントが一体何を意味しているのか、俺には今のところ理解ができない。
「あのね、楓」
「なんだよ、ポイント間違ってた? 実は1000ぐらいあった?」
 彼女が急に真面目な顔を見せたため、少し驚きながらも冗談を言ってやると、彼女は本来の面接らしい態度で話し始めた。
「少なくともポイントがあれば生まれ変われるわ。しかも、基本的に人間になれる。他の生き物になるとちょっと面倒なことにもなるしね。でも楓、あなたは0点なの」
「俺、地獄でも行っちゃうの?」
「この面接で、地獄に連れていかれるのはポイントがマイナスの人だけよ」
「え、じゃあ俺どうすれば」
「今はここに留まるしかないわ」
 予想外の返答に驚きが隠せず、目を見開く。
「留まる? ここに? まさか永遠にとかじゃないよな?」
「それはダメ。絶対に。とんでもないことになる」
 珍しく強い口調に少し怖気づきながらも、こちらも食い下がってはいられない。
「何だそれ物騒な。とんでもないことってなんだ」
「なんか天界法で、人間は絶対に生まれ変わるか地獄に行くかしなければいけないみたいなのがあって、それに、長期間人間がこっちに留まると、地獄に強制的に送られるって書いてあった気がするわ」
「長期間ってのは、どのくらいなんだ」
「んー、それはわからないわね、あんまりこっちでは時間を数値として表す概念が無いから」
「じゃあ地獄は」
「え?」
「地獄はどんな所なんだ?」
 ずっと知りたかったことだ。彼女が言うには、生きている間人間を殺した人間が行く場所。
 「地獄に落ちろ」なんて言っている奴もいたが、その地獄と言われる所は、一体どんなことが待ち受けているのか気になってしまった。
「苦しみが降り注ぐ場所。そう言われてるわ。それも、並大抵の苦しみじゃない。人間界じゃ味わえないわよ」
 人間界じゃ味わえない、その一言で、恐ろしさは想像の範疇を超えた。
 針地獄だったり、マグマに落とされるだったり、そんな具体的な説明があれば、想像もしやすかった。
 想像したくても何も頭に浮かんでいない俺に対し、彼女は話を続ける。
「ただただマイナスポイントを精算するまでそこを彷徨い続ける。どれだけボロボロになってもね。そしてその後は消滅。生まれ変わることもなく消えるわ」
「そりゃあ……地獄に落ちたらたまったもんじゃないな」
「そういうこと。それで、さっきの話にも繋がるけど、基本地獄に落ちた人間はマイナスポイントを精算するまで地獄に居ることになる。じゃあ0ポイントの人が落ちたらどうなると思う?」
「まさか、精算するポイントが無いから永遠に、ってことはないよな?」
「私は、そのまさかだと思うの。だから、楓は生まれ変わらなきゃいけない」
 真剣なその水色の瞳の眼差しから、事の重大さが伝わる。わからないことだらけではあるが、状況は飲み込めつつあった。
 このままでは、いずれ強制的に地獄に送り込まれ、0ポイントのままでは一生地獄で彷徨うという結末を迎える可能性があるということだ。
「地獄送りだけは避けたいな」
「とりあえず0ポイントじゃ生まれ変われない、こうなったら今からポイントを貯めるしかないわ!」
 鼻を高くしてそう言い放ち俺を見つめる彼女の目は、さっきまでの真面目な雰囲気など全く感じさせない、非常に楽観的な態度だった。
「ちなみに、どうやってポイント貯めるんだ? ここにいちゃ何もできないだろ」
「そうねぇ、せいぜい私の足を揉むとか、この部屋の掃除とかそんな程度じゃない?」
「まじかよ、じゃあちゃっちゃと掃除するわ」
 この美少女天使のマッサージ機になるのも、出会いたてなら悪くないと思えたが、ある程度話して感じた小生意気さが少し鼻につくからか、今の俺には掃除一択だった。美人は三日で飽きるというが、今回の場合はおよそ30分だ。
 さっさと人間に、せめて哺乳類には生まれ変わりたいと願いつつ、周りを見渡したが、掃除道具が無いことに気がつき、呆然とする。その時ふと、素朴な疑問が頭に浮かぶ。
「そもそも、天界とか地獄とか、いったいここはどこなんだ?」
「やっぱり気になるわよね。ここは、天界。天使が住む世界。そして、この部屋は天界の傍にあるローズベルクよ。ちなみに、天界には五つの地方があるの。シュンセイ村、トウゲン村。あとは、ハクシュウ村とカシユ村。その中心にあるのが、コハクリア。人間界でいう、首都みたいなものね。星域っていう場所もある。まあ、それらをまとめて天界っていうの」
 長すぎる。ゲームでこんな説明を村人が話し始めたら諦めてスキップしている。ボタンを連打だ。
 「あぁなるほど」と応えつつも、全体像が全く見えない。ゲームでもマップを覚えるのは苦手だった。
 まだ聞きたいことが山ほどあるのにも関わらず、何をどう質問すればいいのかわからない。脳内整理中で黙り込んだ俺に話題を振ってくれたのは、目の前の椅子に座った天使だった。
「まあ、まだ生まれ変わらないなら、これは不要ね」
 相変わらずどこから持ってきたのかはわからないが、いつの間にか彼女の手に抱かれた高そうな壺。どこかの夢の国で、喋るくまの持ってるはちみつの入った壺みたいなそれを見ながら、彼女はそう呟いた。
「それは何?」
「これは幸せの粉よ?」
「粉? 幸せの?」
 今まで、急に死んでいると告げられ、天使と名乗った彼女の背から羽が生えてきて、人生にポイント制度があるなんてことを知らされた挙句、地獄の恐ろしさを教え込まれた俺は、幸せになれる粉のようなチートアイテムがあってももう驚かない。
「この粉を振りかけられた人は、幸せになれるの。どれだけ不幸に見舞われていたとしてもね」
「なら俺にそれ振りかけて、俺を来世人間にしてくれよ」
 今までの苦労は何だったのか、この部屋をピカピカにして、人間とまでは言わない。せめて犬やイルカ、ライオンなどの哺乳類に、もはや植物でも構わないと思っていた俺はこの気持ちを返してくれと叫び、そして今すぐその壺を頭から被りたいと願った。
「それは無理ね。この粉は、生きている者と生まれ変わり先が決まった者にしか効果がないわ」
「じゃあそれ、ピンポイントで俺には効果がないってわけだ。なら、どのタイミングで誰にかけるんだよ」
 彼女の目が光ったように感じる。スイッチが入った。また饒舌な説明が始まる。
「例えば、人間に生まれ変われる亡くなった生き物の中でもそれぞれ集めていたポイントが変わってくるわよね?」
 「ちなみに熊のポイントもここで調べるのか?」そう質問すると、「今話の途中でしょ」と言わんばかりの呆れた顔を見せた後、彼女は俺の質問は無視して、ペラペラと達者な口ぶりで続ける。
「ポイントを人間に生まれ変われる基準よりも大幅に上回った状態で亡くなった生き物と、ギリギリ人間でおーけーってなった生き物とで、この粉の量を変えているの。もちろん、前者の場合は沢山かけてあげるし、後者の場合は少ししかかけてあげないわ」
「つまりお前は、人生をeasyモードかhardモードかで設定できるってわけか」
「ちょっと言い方宜しくないけど、まあ大方そういうことね、あと! 私にもちゃんと名前があるの、お前じゃないの! 私だって楓のこと、かえでって読んであげてるんだから、楓も私のことも名前で呼びなさいよ!」
「名前って……フィ、ロ……なんだっけ、すまん忘れちまった」
「もうそれでいいわよ、フィロ、私のことはそう呼びなさい! 楓!」
「わ、わかったよ、フィロ」
 女の子を下の名前で呼ぶなんて、何年ぶりだろうか。
 いや、そもそもこれは下の名前と言えるのだろうか。