雛の宴
ー/ー ぼんぼりに火が灯る。
仄かな橙の明かりが、高貴な二人を照らす。
清楚で爽やかな香りが、ほんのりと漂う。
桃は、雛の名を映すように花を開いていた。
二人の手には朱塗りの盃。
官女が、とろみのある白い酒を注ぐ。
桃に甘美な香りが足された。
芳香に包まれながら、二人が顔を見合わせる。
雛の慎まやかな笑顔、内裏の慈しむ笑顔。
揃って、杯を口元に近づけ、僅かに含む。
まろやかな糀の、軽やかな甘味が広がった。
官女が手を打つ。
太鼓が柔らかく響けば、笛の音が時の流れを操る。
乾いた大鼓と、湿った小鼓。
音が重なり、得も言われぬ拍子を刻む。
謡い手は扇を手に、厳かに謡い、力強く舞う。
内裏は、謡に合わせて手を打ち、雛は楽しげな内裏に白酒を注ぐ。
時折謡い手が、謡に合わせて艶めかしい顔つきを二人に向ける。舞もまた、目を離せぬほどの色香を漂わせた。
官女がそろりと内裏に耳打ちする。
内裏が満面の笑みで頷くと、謡い手は一段上に登り、官女たちの段で舞を続ける。
謡い手の視線が、雛の指先を捉える。
内裏に酒を注ぐ動きを真似ると、妖しく雛の瞳を見据えて、無言で何かを話す。
雛の手が僅かに震え、杯から酒が溢れた。
官女がそそくさと寄り、溢れた酒を拭き取る。
機嫌の良い内裏は、それもまた興と手を叩いた。
謡い手は官女の着物を羽織り、帯を巧みに操り、女形の舞を披露する。
謡い手の視線は、常に雛にあった。
雛の顔から笑みが消えてゆく。
謡い手は最後にと、帯を結い合わせて大縄を蛇に見立てて華麗に舞う。
雛はその舞から目を逸らすことができなかった。
舞い終えた謡い手は、上段の二人に深々と頭を垂れると、下段へと戻っていった。
宴は終焉を迎え、ぼんぼりの明かりが消された。
闇だけが、雛の想いを嗅ぎ取っていた。
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