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第2編「魔法」——ナノマシンと魔法の統一理論

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 この世界で「魔法」と呼ばれている現象の正体は、大気中に充満する自律型環境制御ナノマシン群「Type-Gaia」の集団挙動である。

 一般の人々はこれを精霊の力、神の恩恵と信じている。だが2000年前の知識を持つリュウガから見れば、魔法とは「大気中に漂う数兆個のマイクロドローンに対する音声コマンド入力」に過ぎない。

 魔法の発動は3つのステップで構成される。

 第1ステップは「入力」。現代の魔導師にとってこれは「詠唱」である。長く複雑な呪文を唱える行為は、実際には精密な音波信号をナノマシン群に送信するプロセスだ。音階、リズム、周波数のパターンがプログラムの座標入力として機能する。詠唱が長いほど精度が上がり、省略すれば制御が粗くなって暴発のリスクが生じる。リュウガの場合、脳内の管理者インターフェースから直接コマンドを送信できるため、詠唱は不要である。

 第2ステップは「認証」。ナノマシンは使用者の遺伝子マーカーと生体エネルギーを確認し、アクセス権限を付与する。新人類が持つ「魔力回路」とは、ナノマシンへの無線給電能力のことであり、魔力が強い=供給できるエネルギー量が大きい、ということだ。リュウガは旧人類であるため魔力回路を持たないが、ナノマシンの開発者権限コードをDNAレベルで保有しているため、エネルギーを消費せずにナノマシンを従わせることができる。これが「Admin権限」と呼ばれるものの正体である。

 第3ステップは「実行」。コマンドを受けたナノマシンが集合し、物理干渉を行う。炎の魔法なら対象エリアの分子振動を激化させて発火させ、氷の魔法なら分子運動を強制停止させて熱を奪い、雷なら指定座標間に強制的な放電路を形成する。人々が畏怖する魔法陣とは、ナノマシンに座標と範囲を指定するためのインターフェース——いわば操作画面のようなものである。

 この理論から導かれるリュウガの戦い方は独特だ。彼自身は魔法を「使えない」が、魔法の法則を「書き換える」ことができる。敵がファイアボールを撃とうとした瞬間、その座標のナノマシンに停止命令を送れば不発に終わる。出力を意図的に上げさせれば暴発による自爆を誘える。飛来する氷のプログラムを途中で書き換え、水蒸気に変えて無害化することもできる。戦場において彼は「最強の兵士」ではなく「最強のハッカー」なのだ。

 「魔性石」はナノマシンが高密度に凝縮・結晶化したものである。増幅器として周囲のナノマシンを呼び寄せ、記憶媒体として特定のプログラムを保持する。シスターズの心臓部では超高性能バッテリー兼演算プロセッサとして機能しており、彼女たちが超人的な力を発揮できる根源でもある。

 次元震もこの理論の延長線上にある。「次元の錨」のエラーにより時空間座標にバグが生じ、空間に裂け目が走る。そこから流入する存在が「魔物」と呼ばれるものの正体だ。200〜300年周期で発生するこの災害を、人々は世界の呪いと恐れてきた。だがリュウガの知識は告げている——これは呪いではなく、2000年前の装置の故障であると。

 壊れた装置なら、直せばいい。問題は、その装置がどこにあるのか、だ。



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 この世界で「魔法」と呼ばれている現象の正体は、大気中に充満する自律型環境制御ナノマシン群「Type-Gaia」の集団挙動である。
 一般の人々はこれを精霊の力、神の恩恵と信じている。だが2000年前の知識を持つリュウガから見れば、魔法とは「大気中に漂う数兆個のマイクロドローンに対する音声コマンド入力」に過ぎない。
 魔法の発動は3つのステップで構成される。
 第1ステップは「入力」。現代の魔導師にとってこれは「詠唱」である。長く複雑な呪文を唱える行為は、実際には精密な音波信号をナノマシン群に送信するプロセスだ。音階、リズム、周波数のパターンがプログラムの座標入力として機能する。詠唱が長いほど精度が上がり、省略すれば制御が粗くなって暴発のリスクが生じる。リュウガの場合、脳内の管理者インターフェースから直接コマンドを送信できるため、詠唱は不要である。
 第2ステップは「認証」。ナノマシンは使用者の遺伝子マーカーと生体エネルギーを確認し、アクセス権限を付与する。新人類が持つ「魔力回路」とは、ナノマシンへの無線給電能力のことであり、魔力が強い=供給できるエネルギー量が大きい、ということだ。リュウガは旧人類であるため魔力回路を持たないが、ナノマシンの開発者権限コードをDNAレベルで保有しているため、エネルギーを消費せずにナノマシンを従わせることができる。これが「Admin権限」と呼ばれるものの正体である。
 第3ステップは「実行」。コマンドを受けたナノマシンが集合し、物理干渉を行う。炎の魔法なら対象エリアの分子振動を激化させて発火させ、氷の魔法なら分子運動を強制停止させて熱を奪い、雷なら指定座標間に強制的な放電路を形成する。人々が畏怖する魔法陣とは、ナノマシンに座標と範囲を指定するためのインターフェース——いわば操作画面のようなものである。
 この理論から導かれるリュウガの戦い方は独特だ。彼自身は魔法を「使えない」が、魔法の法則を「書き換える」ことができる。敵がファイアボールを撃とうとした瞬間、その座標のナノマシンに停止命令を送れば不発に終わる。出力を意図的に上げさせれば暴発による自爆を誘える。飛来する氷のプログラムを途中で書き換え、水蒸気に変えて無害化することもできる。戦場において彼は「最強の兵士」ではなく「最強のハッカー」なのだ。
 「魔性石」はナノマシンが高密度に凝縮・結晶化したものである。増幅器として周囲のナノマシンを呼び寄せ、記憶媒体として特定のプログラムを保持する。シスターズの心臓部では超高性能バッテリー兼演算プロセッサとして機能しており、彼女たちが超人的な力を発揮できる根源でもある。
 次元震もこの理論の延長線上にある。「次元の錨」のエラーにより時空間座標にバグが生じ、空間に裂け目が走る。そこから流入する存在が「魔物」と呼ばれるものの正体だ。200〜300年周期で発生するこの災害を、人々は世界の呪いと恐れてきた。だがリュウガの知識は告げている——これは呪いではなく、2000年前の装置の故障であると。
 壊れた装置なら、直せばいい。問題は、その装置がどこにあるのか、だ。