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◇ ◇ ◇
「絵里、あの子覚えてる? って、忘れるわけないか。ほら、──日下部」
久し振りに会った仲の良い幼友達との二人飲みで、祐実が唐突に口にした名前。小学校三年生までのクラスメイトの。
「あ~、綾ちゃんねー」
「そうそう、綾だった! 記憶力スゴイね。あたし、名前なんて今聞いてやっと思い出したわ」
クラスでは「日下部さん」だったもんね。
「すぐ近所に住んでたから」
「あー、あの頃は家近いって大きかったよね~」
わたしの言葉に祐実が頷く。
「で、綾ちゃんが何?」
さり気なさを装いながら、胸踊らせて訊いたわたしに彼女の返事は期待したようなものじゃなかった。
「この間実家行ったら、なんかお母さんが急に名前出してさぁ。特に何かあったとかじゃなかったんだけど、今ふっと浮かんじゃって」
思いがけず消息聞けるのかと思っちゃったよ。なーんだ。
まあ、祐実のお母さんがどういうつもりだったのかはわかんないけど、純粋な「心配」じゃないのくらいは想像つくね。あいつなら。
「あの子って今どうしてんのかな」
ふっと零したわたしに、今度の友達の答えこそが予想外だったわ。
「なんか中学卒業してすぐ家飛び出したとか聞いたけど。それこそお母さんに、もうずいぶん前にね。そのあとはわかんない」
え!? それ、初耳なんだけど!
本当に何気ない呟きだったから逆にびっくりしたよ。……へぇ、そうなんだ。ふーん。
お母さん、もし知ってたとしてもわたしの前で噂話するタイプじゃないからなぁ。知ってても不思議じゃないないよね。うちは仕事柄、近所付き合いも大事だから。
「うわ、知らなかった。そっかぁ」
「でもさ、本人は小学校の途中から全然音沙汰なしだもん。もう十五年? くらい経つんだね」
本心からの驚きに、祐実はどこまでも他人事みたいにあっけらかんとしてる。いや、間違いなく完全に他人事だよね。
「早いよねぇ。わたしたちがもう二十四なんだから」
「そうだよぉ! もう来年には『四捨五入したら三十』なんだよ!?」
祐実の頭からはもう綾のことなんて消えちゃったみたい。そりゃそうか。だけど。
──日下部 綾。
わたしはよーく覚えてるよ、当たり前じゃない。
一生涯、忘れられないお友達だもの。
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◇ ◇ ◇
「|絵里《えり》、あの子覚えてる? って、忘れるわけないか。ほら、──|日下部《くさかべ》」
久し振りに会った仲の良い幼友達との二人飲みで、|祐実《ゆみ》が唐突に口にした名前。小学校三年生までのクラスメイトの。
「あ~、|綾《あや》ちゃんねー」
「そうそう、綾だった! 記憶力スゴイね。あたし、名前なんて今聞いてやっと思い出したわ」
クラスでは「日下部さん」だったもんね。
「すぐ近所に住んでたから」
「あー、あの頃は家近いって大きかったよね~」
わたしの言葉に祐実が頷く。
「で、綾ちゃんが何?」
さり気なさを装いながら、胸踊らせて訊いたわたしに彼女の返事は期待したようなものじゃなかった。
「この間実家行ったら、なんかお母さんが急に名前出してさぁ。特に何かあったとかじゃなかったんだけど、今ふっと浮かんじゃって」
思いがけず消息聞けるのかと思っちゃったよ。なーんだ。
まあ、祐実のお母さんがどういうつもりだったのかはわかんないけど、純粋な「心配」じゃないのくらいは想像つくね。《《あいつ》》なら。
「あの子って今どうしてんのかな」
ふっと零したわたしに、今度の友達の答えこそが予想外だったわ。
「なんか中学卒業してすぐ家飛び出したとか聞いたけど。それこそお母さんに、もうずいぶん前にね。そのあとはわかんない」
え!? それ、初耳なんだけど!
本当に何気ない呟きだったから逆にびっくりしたよ。……へぇ、そうなんだ。ふーん。
お母さん、もし知ってたとしてもわたしの前で噂話するタイプじゃないからなぁ。知ってても不思議じゃないないよね。うちは仕事柄、近所付き合いも大事だから。
「うわ、知らなかった。そっかぁ」
「でもさ、本人は小学校の途中から全然音沙汰なしだもん。もう十五年? くらい経つんだね」
本心からの驚きに、祐実はどこまでも他人事みたいにあっけらかんとしてる。いや、間違いなく完全に他人事だよね。
「早いよねぇ。わたしたちがもう二十四なんだから」
「そうだよぉ! もう来年には『四捨五入したら三十』なんだよ!?」
祐実の頭からはもう綾のことなんて消えちゃったみたい。そりゃそうか。だけど。
──日下部 綾。
わたしはよーく覚えてるよ、当たり前じゃない。
一生涯、忘れられないお友達だもの。