11話 カンファレンス(2)
ー/ー「んー。やはり一番の課題は、こだわりですね?」
斉藤先生の言葉に、凛ちゃんの生育歴をまとめた書類をまじまじと眺める先生達。それは凛ちゃんの入園時に、凛ちゃんのお母さんから聞き取りを行った斉藤先生がまとめた情報。
そこには、想像するのも辛いぐらいの壮絶な内容が書き込まれている。
「はい。保育園の時は、音がなるおもちゃ。親子教室の時は飛び出す絵本。ここに来たら、うさぎのぬいぐるみと対象は変わっていますが、いつもの場所にないと不安からパニックを起こし、時に自傷や他害に発展することがありました」
「家では、もっと出ているみたいですね?」
用紙の二ページ目には入園して半年の自宅や療育園での様子を書かれたものがあり、それは担当の私がまとめたものだった。
凛ちゃんのお母さんからの聞き取りした最近の状態を読んだ小林先生は、眉を顰めペン立てからマーカーペンを取り出し線を引いていた。
「はい。家ではぬいぐるみの配置が違う、赤色やピンク以外の服を着ない、お父さんが昼に居ることが許せない、そしてお母さんに対してですね。家みたいな生活空間でも、視界から外れると大泣きするそうです」
私の話を聞いていた先生方は明らかに表情を険しくし、配布した情報を読み直し小さく溜息を漏らす。子育て経験があるからこそ壮絶さが想像しやすく、凛ちゃんのお母さんに共感してしまうのだろう。
凛ちゃんのこだわりは押し寄せる不安からきていて、人や物がいつも通りじゃないと怖くて仕方がないらしい。
凛ちゃんは今日、朝のパニック以外は落ち着いていた。それはお母さんが側に居てくれたから。関わりを持ちたがるわけではないけど、側にいないと不安みたいだ。
……あまりこうゆうことは言いたくないけど、それは愛着ではなくこだわりだと思われる。凛ちゃんがお母さんに甘える姿を見たことないから。
「お母さん、大変ですよね? 凛ちゃんは夜驚症や睡眠障害もあるし、週三回の療育に、隔週ずつの理学療法に作業療法、毎週の言語療法。平日はどこかに出掛けている状態じゃないですか?」
用紙の三ページ目に書いてある一週間の生活習慣グラフを眺めた筧先生が、ボソッと呟く。
夜驚症とは睡眠中に突然叫びだすことを指し、三歳から六歳の幼児期に起こりやすい。甲高く大きな声であることから共に寝ている保護者も寝ていられるはずもなく、泣き叫ぶ子供を宥めるのも難しいとされている。
時間的には数十分程度らしいけど夜中に泣き叫ばれてその後寝付くことも難しく、特に保護者が睡眠不足になることが多い。
睡眠障害は名前通り睡眠に対する障害で、寝付きが悪い、眠りが浅い、夜中に起きてしまう、逆に朝起きられない、昼間に眠ってしまうなどの症状だ。
健常児に比べて自閉傾向がある子供は明らかに夜驚症や睡眠障害を起こす確率が高く、子供を育てる保護者が抱える深刻な悩みの一つだったりする。
小児の理学療法とは、運動発達が遅れている子供を対象にした運動訓練のことだ。座る、立つ、歩く、などは大体の子供は訓練を受けなくてもひとりでに成長していく。
しかし何らかの病気や障害により出来ない、原因不明だけど成長が明らかに遅れている。座位が保てなかったり、上手く歩けず転けてしまうなど。様々な理由により運動発達が遅れている子が対象で、医師の指示の元で受けられると決まっている。
凛ちゃんは座ることも歩くことも出来るけど体全体の筋力が弱く、じっと座っていることや立っていることが出来ない。
知的障害や発達障害を診断されていたり、その傾向がある子は筋力が弱いことが多い。
座位や立位を保つ筋力が弱くて疲れてしまうから、立ち歩いてしまうのではないか? 集中力が低下するのではないか? 疲れやすい体質なのに健常児と同レベルを求められて、生きづらいのではないだろうか?
そう医学的に論じられているぐらい、低緊張は子供達の生活に影響している。
だからここに来ている子達は理学療法に通っていることが多く、正しい体の使い方を専門の先生に教えてもらっている。
小児の作業療法は指先の訓練で、凛ちゃんの興味関心が狭いことから動きが限られてしまう。だから生活していく為に必要な動きを、教えてもらっている。
言語療法は言葉の訓練。気持ちを言葉に出来たら癇癪も減るし、人と会話が出来る。感情を言葉に出来るようにと通っている。
これら全て必要な支援だけど、当然ながらそれら全て子供に受けさせようと思うと保護者に相当な負担がかかる。
それに加え月に一回の、大学病院への受診もあるのだから。
「療育の付き添いはそろそろ辞めてもらって、少し休んでもらった方が良いのではないですか?」
筧先生が、私にそう問いかけてくる。その目に怒りとかはなく、寧ろ申し訳なさそうだった。
「……はい。何度か預かりを提案していますが、お母さんが付き添いを希望されまして……」
目がキョロキョロと動き、手の平にじんわりと汗が滲んでくる。責められていないはずの、視線が怖い。
「あ、そうなんですか。失礼しました。……お母さんの希望ならね……」
「仕方ありませんよね」
顔を合わせていた先生方が頷き合い、視線を用紙に戻していく。
療育園は、こちらから支援について提案することもあるけど、当然ながら子供と保護者の要望を第一にしている。
だから付き添いたいと思っているお母さんの希望を優先させていて、当然ながら意見を押し付けることはしない。
あくまで私達は、サポートする立場なのだから。
斉藤先生の言葉に、凛ちゃんの生育歴をまとめた書類をまじまじと眺める先生達。それは凛ちゃんの入園時に、凛ちゃんのお母さんから聞き取りを行った斉藤先生がまとめた情報。
そこには、想像するのも辛いぐらいの壮絶な内容が書き込まれている。
「はい。保育園の時は、音がなるおもちゃ。親子教室の時は飛び出す絵本。ここに来たら、うさぎのぬいぐるみと対象は変わっていますが、いつもの場所にないと不安からパニックを起こし、時に自傷や他害に発展することがありました」
「家では、もっと出ているみたいですね?」
用紙の二ページ目には入園して半年の自宅や療育園での様子を書かれたものがあり、それは担当の私がまとめたものだった。
凛ちゃんのお母さんからの聞き取りした最近の状態を読んだ小林先生は、眉を顰めペン立てからマーカーペンを取り出し線を引いていた。
「はい。家ではぬいぐるみの配置が違う、赤色やピンク以外の服を着ない、お父さんが昼に居ることが許せない、そしてお母さんに対してですね。家みたいな生活空間でも、視界から外れると大泣きするそうです」
私の話を聞いていた先生方は明らかに表情を険しくし、配布した情報を読み直し小さく溜息を漏らす。子育て経験があるからこそ壮絶さが想像しやすく、凛ちゃんのお母さんに共感してしまうのだろう。
凛ちゃんのこだわりは押し寄せる不安からきていて、人や物がいつも通りじゃないと怖くて仕方がないらしい。
凛ちゃんは今日、朝のパニック以外は落ち着いていた。それはお母さんが側に居てくれたから。関わりを持ちたがるわけではないけど、側にいないと不安みたいだ。
……あまりこうゆうことは言いたくないけど、それは愛着ではなくこだわりだと思われる。凛ちゃんがお母さんに甘える姿を見たことないから。
「お母さん、大変ですよね? 凛ちゃんは夜驚症や睡眠障害もあるし、週三回の療育に、隔週ずつの理学療法に作業療法、毎週の言語療法。平日はどこかに出掛けている状態じゃないですか?」
用紙の三ページ目に書いてある一週間の生活習慣グラフを眺めた筧先生が、ボソッと呟く。
夜驚症とは睡眠中に突然叫びだすことを指し、三歳から六歳の幼児期に起こりやすい。甲高く大きな声であることから共に寝ている保護者も寝ていられるはずもなく、泣き叫ぶ子供を宥めるのも難しいとされている。
時間的には数十分程度らしいけど夜中に泣き叫ばれてその後寝付くことも難しく、特に保護者が睡眠不足になることが多い。
睡眠障害は名前通り睡眠に対する障害で、寝付きが悪い、眠りが浅い、夜中に起きてしまう、逆に朝起きられない、昼間に眠ってしまうなどの症状だ。
健常児に比べて自閉傾向がある子供は明らかに夜驚症や睡眠障害を起こす確率が高く、子供を育てる保護者が抱える深刻な悩みの一つだったりする。
小児の理学療法とは、運動発達が遅れている子供を対象にした運動訓練のことだ。座る、立つ、歩く、などは大体の子供は訓練を受けなくてもひとりでに成長していく。
しかし何らかの病気や障害により出来ない、原因不明だけど成長が明らかに遅れている。座位が保てなかったり、上手く歩けず転けてしまうなど。様々な理由により運動発達が遅れている子が対象で、医師の指示の元で受けられると決まっている。
凛ちゃんは座ることも歩くことも出来るけど体全体の筋力が弱く、じっと座っていることや立っていることが出来ない。
知的障害や発達障害を診断されていたり、その傾向がある子は筋力が弱いことが多い。
座位や立位を保つ筋力が弱くて疲れてしまうから、立ち歩いてしまうのではないか? 集中力が低下するのではないか? 疲れやすい体質なのに健常児と同レベルを求められて、生きづらいのではないだろうか?
そう医学的に論じられているぐらい、低緊張は子供達の生活に影響している。
だからここに来ている子達は理学療法に通っていることが多く、正しい体の使い方を専門の先生に教えてもらっている。
小児の作業療法は指先の訓練で、凛ちゃんの興味関心が狭いことから動きが限られてしまう。だから生活していく為に必要な動きを、教えてもらっている。
言語療法は言葉の訓練。気持ちを言葉に出来たら癇癪も減るし、人と会話が出来る。感情を言葉に出来るようにと通っている。
これら全て必要な支援だけど、当然ながらそれら全て子供に受けさせようと思うと保護者に相当な負担がかかる。
それに加え月に一回の、大学病院への受診もあるのだから。
「療育の付き添いはそろそろ辞めてもらって、少し休んでもらった方が良いのではないですか?」
筧先生が、私にそう問いかけてくる。その目に怒りとかはなく、寧ろ申し訳なさそうだった。
「……はい。何度か預かりを提案していますが、お母さんが付き添いを希望されまして……」
目がキョロキョロと動き、手の平にじんわりと汗が滲んでくる。責められていないはずの、視線が怖い。
「あ、そうなんですか。失礼しました。……お母さんの希望ならね……」
「仕方ありませんよね」
顔を合わせていた先生方が頷き合い、視線を用紙に戻していく。
療育園は、こちらから支援について提案することもあるけど、当然ながら子供と保護者の要望を第一にしている。
だから付き添いたいと思っているお母さんの希望を優先させていて、当然ながら意見を押し付けることはしない。
あくまで私達は、サポートする立場なのだから。
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