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第20話 「すべては、真実から始まる」

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 彼女の舌足らずな、けれど力強い言葉が静まり返った図書室に響きわたった。

「――すべては、真実から始まる。私はいつもそう思っています。皆さんは誰一人、真実を見ようとしなかった。そして暗闇の中で、互いを傷つけ合った」

 疲れ切った表情のまま、三人は泉さんを見上げる。

「私、久野巧さんに会ってきたんです」
「え」

 僕は驚き声を上げた。会ってきたって、いつ? いや、そうか。放課後行くところがあると言ってたのは、それか!

「だって、それが一番早いから。関係者なんだから、話を聞くのは一番でしょ」
「そうかもしれないけど……。でも、どうやって? 住所知ってたの?」
「それはまあ、職員室でちょっと」

 先生のデスクから盗み見たというわけか。個人情報の管理、ゆるゆるだなあ。

「で、家にいらっしゃったので、いろいろ話しました。今起こっていること、私の推理、それと、どうして学校に来なくなったのか。……久野巧さん、なんていったと思います?」

 少し微笑んで、彼女は言う。もっとも、かなり皮肉気な笑みだったが。

「『別に、なんとなく』って。間宮先輩と何かありましたか? とも聞いたんですけど、驚いていました。覚えてないみたいです」

 僕は脱力してしまった。なんだそれ、久野巧は何とも思ってなかったのか?

「嘘……。本当なの?」

 一ノ瀬先輩が呆然として言った。

「さあ。初めて会った私にどこまで本当のことを話すのかなんてわかりません。でもあなたたちは誰一人として、久野巧さんの気持ちという真実を見ようとしなかった」

 珍しく、怒気を含んだ声音だった。彼女は表情の変化が少ない方だが、僕にはわかる。彼女は先輩たちに、怒っていた。
 そうだ、誰も真実を見ようとしなかった。彼が学校に来なくなった本当の理由。間宮先輩の言葉が理由だと勝手に思い込んだ。一ノ瀬先輩は間宮先輩を責め、間宮先輩は久野巧に怯え、君島先輩は久野巧が恨みを持っていると考えた。その結果がこの事件だ。互いを傷つけ合ったのは、彼らの誰一人として、真実に向き合う勇気を持っていなかったからだ。

「……すべては、真実から始まる。私はそう思います。あなたたちがその真実とどう向き合うのかは、私には関係ないですけど」

 泉さんはそっけなく言って、背を向け歩き出す。僕は慌ててそのあとを追った。もうここに僕たちのやることはない。帰り際、背後を振り返る。先輩たちは椅子に座ったまま、顔を見合わせていた。闇の中に閉じこもったまま、互いを傷つけ合った友人たち。暗闇は晴れ、真実の中で彼らはどうするのか。しかしそれは、彼女の、探偵の仕事ではないのだろう。すべては真実から始まる。何を始めるのかは、彼ら次第だ。


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 彼女の舌足らずな、けれど力強い言葉が静まり返った図書室に響きわたった。
「――すべては、真実から始まる。私はいつもそう思っています。皆さんは誰一人、真実を見ようとしなかった。そして暗闇の中で、互いを傷つけ合った」
 疲れ切った表情のまま、三人は泉さんを見上げる。
「私、久野巧さんに会ってきたんです」
「え」
 僕は驚き声を上げた。会ってきたって、いつ? いや、そうか。放課後行くところがあると言ってたのは、それか!
「だって、それが一番早いから。関係者なんだから、話を聞くのは一番でしょ」
「そうかもしれないけど……。でも、どうやって? 住所知ってたの?」
「それはまあ、職員室でちょっと」
 先生のデスクから盗み見たというわけか。個人情報の管理、ゆるゆるだなあ。
「で、家にいらっしゃったので、いろいろ話しました。今起こっていること、私の推理、それと、どうして学校に来なくなったのか。……久野巧さん、なんていったと思います?」
 少し微笑んで、彼女は言う。もっとも、かなり皮肉気な笑みだったが。
「『別に、なんとなく』って。間宮先輩と何かありましたか? とも聞いたんですけど、驚いていました。覚えてないみたいです」
 僕は脱力してしまった。なんだそれ、久野巧は何とも思ってなかったのか?
「嘘……。本当なの?」
 一ノ瀬先輩が呆然として言った。
「さあ。初めて会った私にどこまで本当のことを話すのかなんてわかりません。でもあなたたちは誰一人として、久野巧さんの気持ちという真実を見ようとしなかった」
 珍しく、怒気を含んだ声音だった。彼女は表情の変化が少ない方だが、僕にはわかる。彼女は先輩たちに、怒っていた。
 そうだ、誰も真実を見ようとしなかった。彼が学校に来なくなった本当の理由。間宮先輩の言葉が理由だと勝手に思い込んだ。一ノ瀬先輩は間宮先輩を責め、間宮先輩は久野巧に怯え、君島先輩は久野巧が恨みを持っていると考えた。その結果がこの事件だ。互いを傷つけ合ったのは、彼らの誰一人として、真実に向き合う勇気を持っていなかったからだ。
「……すべては、真実から始まる。私はそう思います。あなたたちがその真実とどう向き合うのかは、私には関係ないですけど」
 泉さんはそっけなく言って、背を向け歩き出す。僕は慌ててそのあとを追った。もうここに僕たちのやることはない。帰り際、背後を振り返る。先輩たちは椅子に座ったまま、顔を見合わせていた。闇の中に閉じこもったまま、互いを傷つけ合った友人たち。暗闇は晴れ、真実の中で彼らはどうするのか。しかしそれは、彼女の、探偵の仕事ではないのだろう。すべては真実から始まる。何を始めるのかは、彼ら次第だ。