第8話 延滞者は誰?
ー/ー「ブックスタンド? ああ、そういえば一個余ってたなあ」
お昼休み。
僕と泉さんは、図書室の隣にある事務部屋に来ていた。ここは、司書の先生や図書委員が仕事をするための部屋だ。
君島先輩に話を聞きたいとメッセージを送ると、昼休みはここで作業をしてると返答が来た。
そんな君島先輩に今朝の話をすると、あっさりと言った。
「片付けてた時に一個余ったけど、そのまましまっちまった。……なにかまずかったか?」
気まずそうな口調に僕は思わず泉さんの横顔を見る。泉さんの表情は特に変化していなかった。その大きな目でまっすぐ先輩を見つめている。
間宮先輩が増えたブックスタンドに気がつかなかったということは、一緒にいた君島先輩が片付けたということだ。これは予想できたことだけど、当の本人はあまり重大なことだと捉えていないようだ。考えてみれば、それもそうか。散らばった本を並べ直してる最中に、ブックスタンドが一つ増えたところで気にする者のほうが少なそうだ。だが、彼が意図的に隠したという見方もできる。果たしてどちらだろうか。
「……まずかったみたいだな。なんか、申し訳ない」
君島先輩は頭を下げる。泉さんは「いえ別に」と短く言うと、昨日の朝のことについて改めて尋ねた。
けれど、君島先輩が答えたことはすでに知っている内容だった。朝に図書室で勉強をしようと思って来たこと。その途中で間宮先輩に会って鍵を渡されたこと。中に入ると展示コーナーが荒らされており驚いたこと。間宮先輩から聞いた話とも矛盾しない。
ブックスタンドが増えていた理由について何か思い当たることはないかと尋ねてみたが、先輩は首を横に振った。ちなみに、ブックスタンドは貸し出しカウンターの奥にある引き出しにしまってあって、特に鍵などかけていない。なので誰でも取り出すことが可能だ。図書委員以外は、カウンターに入る心理的抵抗はあるだろうが。
新たな収穫はなしか……。僕はそう思い、腰を浮かしかけた。だが、ふと泉さんが問いかける。
「君島先輩は、今は何の仕事をしていたんですか?」
「ん? ああ、督促状の作成だよ」
先輩は、目の前のノートパソコンにちらりと目をやってから答えた。
「本を借りても返さないやつがいるからな。ひと月とか超えて返さない場合は、通知書を作って渡すんだ」
君島先輩の説明に、泉さんはふうんと気のない返事をする。自分で聞いておきながら、興味があるのかないのかわからない反応だ。
「雛子君もやってるの?」
「僕は渡すのだけ。作ったりはしないよ」
「通知書を作れるのは、副委員長以上の役職だけなんだ。いろいろプライバシーもあるからな。そうは言っても、各クラスの図書委員が配る以上、渡す相手については知ってるわけだけどな。まあ一応って感じの配慮だ」
「じゃあ、君島先輩は偉いんですね」
「偉いって……たかが副委員長だけどな」
君島先輩は苦笑して言った。
「でも、間宮先輩もヒラの委員なんですよね。あの人、私が!って感じなのに」
それを聞くと、君島先輩は口をあけて笑った。
「ああ、たしかにあいつは今年の初めに副委員長に立候補したよ。委員長は三年生の人でほぼ決まってたから、さすがにそっちはやめたみたいだけどな」
その時の話なら僕も知ってる。と言ってもまだ学校に入ったばかりの時のことだ。僕は一年生だから、当然役職に就く気もなく、黙って会議を眺めていた記憶がある。
「でも、ほら……あいつは『副』って感じじゃないだろ? やるならトップって感じ。で、まあ司書の先生の推薦とかもあって、俺にお鉢が回ってきたってわけ」
「なるほど」
まあ、司書の先生の言いたいこともわかる。間宮先輩が副委員長になったら、ことあるごとに委員長などと対立しそうだ。誰かを手助けし、サポートする役目は、君島先輩のような穏やかな性格の人のほうが向いているのだろう。
「――先輩、荒らされた展示コーナーが見たいです。案内してくれませんか」
急にそんなことを言い出されたので、さすがの君島先輩も面食らったようだった。ころころ興味の対象が移る気まぐれな性格に見えているかもしれない。だが多分、聞きたいことは全部聞き終わった、と彼女の中で判断されたから、次の話題に移っただけだ。
「案内って言っても、奥にあるのは見ればわかると思うけど……」
「いえ、昨日の様子を直接見た君島先輩の意見も聞いておきたいんです」
泉さんが断固とした口調で言う。君島先輩も不承不承ながら頷いた。作業の途中で話を聞くだけでなく、案内までさせるとは。強引だが、これくらいの胆力がないと謎を解くなどできないのかもしれない。
君島先輩が立ち上がり、その後に泉さんが続く。僕も立ち上がろうとしたところ、泉さんが言った。
「雛子君は、ジュース買ってきて。私、喉渇いたから」
唖然とする。いきなりパシリの要求か。いくらなんでも強引すぎやしないか。
「いや、僕も一緒に……」
「お願い」
口ではそう言うが、表情は明らかに命令のものだった。
僕はなおももごもご抗弁したが、ひと睨みされて黙る。はい、と仕方なく頷いた。
君島先輩が苦笑してこっちを見ている。僕は言われるまま、駆け足で買い出しに向かうことにした。
お昼休み。
僕と泉さんは、図書室の隣にある事務部屋に来ていた。ここは、司書の先生や図書委員が仕事をするための部屋だ。
君島先輩に話を聞きたいとメッセージを送ると、昼休みはここで作業をしてると返答が来た。
そんな君島先輩に今朝の話をすると、あっさりと言った。
「片付けてた時に一個余ったけど、そのまましまっちまった。……なにかまずかったか?」
気まずそうな口調に僕は思わず泉さんの横顔を見る。泉さんの表情は特に変化していなかった。その大きな目でまっすぐ先輩を見つめている。
間宮先輩が増えたブックスタンドに気がつかなかったということは、一緒にいた君島先輩が片付けたということだ。これは予想できたことだけど、当の本人はあまり重大なことだと捉えていないようだ。考えてみれば、それもそうか。散らばった本を並べ直してる最中に、ブックスタンドが一つ増えたところで気にする者のほうが少なそうだ。だが、彼が意図的に隠したという見方もできる。果たしてどちらだろうか。
「……まずかったみたいだな。なんか、申し訳ない」
君島先輩は頭を下げる。泉さんは「いえ別に」と短く言うと、昨日の朝のことについて改めて尋ねた。
けれど、君島先輩が答えたことはすでに知っている内容だった。朝に図書室で勉強をしようと思って来たこと。その途中で間宮先輩に会って鍵を渡されたこと。中に入ると展示コーナーが荒らされており驚いたこと。間宮先輩から聞いた話とも矛盾しない。
ブックスタンドが増えていた理由について何か思い当たることはないかと尋ねてみたが、先輩は首を横に振った。ちなみに、ブックスタンドは貸し出しカウンターの奥にある引き出しにしまってあって、特に鍵などかけていない。なので誰でも取り出すことが可能だ。図書委員以外は、カウンターに入る心理的抵抗はあるだろうが。
新たな収穫はなしか……。僕はそう思い、腰を浮かしかけた。だが、ふと泉さんが問いかける。
「君島先輩は、今は何の仕事をしていたんですか?」
「ん? ああ、督促状の作成だよ」
先輩は、目の前のノートパソコンにちらりと目をやってから答えた。
「本を借りても返さないやつがいるからな。ひと月とか超えて返さない場合は、通知書を作って渡すんだ」
君島先輩の説明に、泉さんはふうんと気のない返事をする。自分で聞いておきながら、興味があるのかないのかわからない反応だ。
「雛子君もやってるの?」
「僕は渡すのだけ。作ったりはしないよ」
「通知書を作れるのは、副委員長以上の役職だけなんだ。いろいろプライバシーもあるからな。そうは言っても、各クラスの図書委員が配る以上、渡す相手については知ってるわけだけどな。まあ一応って感じの配慮だ」
「じゃあ、君島先輩は偉いんですね」
「偉いって……たかが副委員長だけどな」
君島先輩は苦笑して言った。
「でも、間宮先輩もヒラの委員なんですよね。あの人、私が!って感じなのに」
それを聞くと、君島先輩は口をあけて笑った。
「ああ、たしかにあいつは今年の初めに副委員長に立候補したよ。委員長は三年生の人でほぼ決まってたから、さすがにそっちはやめたみたいだけどな」
その時の話なら僕も知ってる。と言ってもまだ学校に入ったばかりの時のことだ。僕は一年生だから、当然役職に就く気もなく、黙って会議を眺めていた記憶がある。
「でも、ほら……あいつは『副』って感じじゃないだろ? やるならトップって感じ。で、まあ司書の先生の推薦とかもあって、俺にお鉢が回ってきたってわけ」
「なるほど」
まあ、司書の先生の言いたいこともわかる。間宮先輩が副委員長になったら、ことあるごとに委員長などと対立しそうだ。誰かを手助けし、サポートする役目は、君島先輩のような穏やかな性格の人のほうが向いているのだろう。
「――先輩、荒らされた展示コーナーが見たいです。案内してくれませんか」
急にそんなことを言い出されたので、さすがの君島先輩も面食らったようだった。ころころ興味の対象が移る気まぐれな性格に見えているかもしれない。だが多分、聞きたいことは全部聞き終わった、と彼女の中で判断されたから、次の話題に移っただけだ。
「案内って言っても、奥にあるのは見ればわかると思うけど……」
「いえ、昨日の様子を直接見た君島先輩の意見も聞いておきたいんです」
泉さんが断固とした口調で言う。君島先輩も不承不承ながら頷いた。作業の途中で話を聞くだけでなく、案内までさせるとは。強引だが、これくらいの胆力がないと謎を解くなどできないのかもしれない。
君島先輩が立ち上がり、その後に泉さんが続く。僕も立ち上がろうとしたところ、泉さんが言った。
「雛子君は、ジュース買ってきて。私、喉渇いたから」
唖然とする。いきなりパシリの要求か。いくらなんでも強引すぎやしないか。
「いや、僕も一緒に……」
「お願い」
口ではそう言うが、表情は明らかに命令のものだった。
僕はなおももごもご抗弁したが、ひと睨みされて黙る。はい、と仕方なく頷いた。
君島先輩が苦笑してこっちを見ている。僕は言われるまま、駆け足で買い出しに向かうことにした。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。