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美来来(みらいらい)♡第3話 すれちがい♡

ー/ー




「あたしは趣味のバンドで歌っています」
 自分のことを知って欲しくて美来が話題を振った。

「あ! そうなんだ~!」
 人間らしい血の通った返事が返って来た。パンク一筋、音楽人間の園之、趣味の話題で嬉しいのだろう。

「うん。オリジナルの曲を()っています」

「へ~。美来ちゃんが作っているの?」

「はい。歌詞と歌メロはね。作曲はギターの人です」

「凄いですね!」 
 園之の暗い洞窟に一筋の光が届いたようだ。それを彼のラミー、否、ミラーで跳ね返しているかのように放ち始めた明るさ。

「でもさ、園之さんも『ラミーの一生懸命』で発信し続けていたでしょう。凄いよ! あたしはいわゆる古参ファンではなかったけど、すぐに虜になっちゃって半年欠かさず動画を観ていました。だから最終回はショックだったのよ?」 

 まんざらでもなさそうな園之。

「ンー。なんか表現したくって。オレ、俳優の端くれなのに仕事が回って来ない。なにかこう、オレのオレを出したかったの」

「うん、うん」 
 園之と美来と、沙華やや子にしか意味がわからないかもしれないが、美来には通じたのだ、その時園之のラミー語が。 
 でもこれは小説だから、読者がわかるように書くべきなんじゃないか? と悩む沙華やや子。――――彼女のことは置いといて、今一度二人のデートを覗いてみようじゃあないか。 

 ――――そこへごはんがやって来た。
「うわっほぉーい、美味しそうなパスタ! 蛸とホタテの量が凄い~」

「あは。美来ちゃん……美来ちゃん、美来ちゃん?」

「ハイ」

 園之がなにか言いたそうだ。

「か、かかかか、可愛い、ね」
 やっと言えた。

 ポッ。
 パスタの中、魚介と一緒に入っているトマトよりも頬を真っ赤にする美来。
「ありがとう」

 園之の前には鉄板ハンバーグがジュージュー言っている。
「た、食べよっか、美来ちゃん」 
 気を取り直すかのように園之がナイフとフォークを持った。

「そうね、うん!」 

 美来は、パスタを堪能している途中でジュースを飲む時にやっと、店内の様子を落ち着いて見ることが出来た。だって乙女だもん! やっぱ園之さん、超イケメンなんだもん。
 美来にとって園之は『ラミー』としてパソコンで見るよりも、実物がはるかにセクシーオーラを放っているのだ。
 だけど話し始めると頓珍漢。たまらぬギャップだ。
 店内はアンティークドールやテディーベアに、ロマンチックな装飾のオルゴールが所狭しと飾られたメルヘンチックなムード。かわゆい物が大好きな美来のツボをついて来る。

([素敵な女性の口説き方]にはまさか、お店までは載っていないわよねー。あたしのために……。嬉しいな!)

「うま! うっま。このハンバーグ。大正解、このお店!」
 叫ぶ園之。まるで初めて食べた人であるかのようだ。

「そうなのね。ハンバーグは初体験だったんだあ、園之さん」

「あ、だって初めて来るお店だもん」

「え?!」

「あ……『素敵な女性の口説き方』でね、このお店が良いよと載っていたの。ついでに知ったかぶりをしろ、って」 

 美来はフォークとスプーンをナフキンに置いた。

「嘘つき! 園之さんなんか大っ嫌い!」

 そう言い残し、店を飛び出した。自分はこんなに速く走れたのかという程のスピードだ。涙が千切れて後ろへ流れ行く。

「ヴ、ヴ、ヴヴッヴヲウオオオオオォ――――ッ!」 
 デス声、出た。 
 街中であろうとも、なりふり構わず、好きな人の裏切りに泣く女の雄たけび。
(デス声なんか要らん! 要らん、要らん、要らんよっ。あたしは園之さんが!)

「ヴウォォオオオオオ――――!」
 とめどなく溢れ出る愛情たっぷりのデスボイス。

 駅近くの小さな公園まで辿り着いた。この胸の痛みと疲労を癒やしたく、ブランコに揺られる美来。

 ブランコを10回ぐらいこいだ頃、現れたるは汗だくの園之。美来をみとめた園之は、公園の入り口で一度膝に両手をやった。肩で息をしている。

 そして顔を上げた園之と、園之をじっと見つめる美来の目が合った。 
 ひとたびおさまっていた美来の涙が再び溢れ出す。ウルウルした瞳にへの字口。

「聴こえていたよ、美来ちゃん。立派なデス声だ」

「この期に及んでなに言ってんの! 園之さん」

「……」
 なにも言えない園之。

「あたし、帰る」

「待って!」

「待たない。園之さんのこと嫌いになった。嬉しかったのに。素敵なお店に連れて行ってくれて、本当に嬉しかったのに! うっ、う、ううう」 
 美来はさっきみたいに上手にデス声が出ないように気を付けて泣いた。今要らんから。今じゃないから。

「オレ、恋の仕方がわからないけど、美来ちゃんを喜ばせたい気持ちは本物だ」
 キッパリと園之が言い切った。

「そう」 
 今、美来は遠い目だ。デスボイスを出し切った疲れもある。

「あのさ、未來ちゃんのバンドはなんというの?」

「美来来よ」

「ライブいつ?」

「ちょうど2か月後の9月」

「チケットもう買える?」

「まだ」

「そか」

「ライブは9月10日の19時から。『ライブハウス・オールライト』であるの」

 その時鳩のフンが園之の頭に落ちた。
「あ! あっ、やられた~」

「じゃあね、バイバイ」 
 あんたがクソ男だからそんなことになるのよ、と心の片隅で思わなくもない美来が陽炎の中に消えて行った。 
 ピンクの髪の毛にくっついたフンをティッシュで拭いつつ、淋し気な顔の園之は美来の背中を見送った。

* 

 今年の夏は猛暑だというけど、美来の胸の中には、一足お先に木枯らしが吹き荒むようだ。 あれから何度も園之から連絡があった。メールには『美来ちゃん、オレが悪かったよ。物を知らなくてすみません。気が利かない男でごめんなさい』『美来ちゃんに逢いたいです』 
 でも美来は、差し迫って来ているライブのために集中したかった。穏やかな恋ならバンド活動の心の支えにもなるが、園之の独特な言動にはどうしても振り回されてしまう。だから美来は一切返事をしなかった。



「だいぶん仕上がって来たよね。とけちゃん、良い感じじゃん! よし、ライブで演る曲もっかい流そ」 
 ハスタがカウントを取り演奏がスタジオで始まる。

 今日は土曜日。いつも通り、美来来のバンド練習の日だ。

 ひと通り演奏し終わったタイミングでベースの町木が言う。
「新曲の詞も歌メロも良いよね。こういう、ロマンチックな雰囲気の歌って初めて作ったよね、とけちゃん」

「そうだよ、俺のイメージしてた通りに作ったね、とけちゃん」と続けてギターの辰。

 それはハッピーエンドを歌ったラブソングだ。実は園之とのデートの前日に、突如と沸き起こった詞とメロディーだった。
(大好きだったのにな、あたし、ラミーのことも園之さんのことも)
 密やかなため息にバンドメンバーは気づかなかった。そうしてみっちり2時間、本気120%のスタジオ練習は続けられた。 


 ――――いよいよ迎えたライブ当日。
 今回のライブはワンマンではなく、美来来を含め3バンド出る。美来来はトリを飾る。
 本日はかなりの入りだ。お客さん、スタンディングで200人は入っているだろう。『ライブハウス・オールライト』満員だ。
 自分達より先に演奏するバンドを客席で観ても良いんだけれど、今夜はなぜかそんな気分になれず、美来は控え室にいた。他のメンバーは客席に行き、自分たち以外の2バンドを観に行っている。 

 ボンテージファッションに身を包みツインテールにしている今日の美来。編み上げロングブーツを履いている。
 2番度目の中盤辺りで、ハスタ、辰、町木が控え室に帰って来た。

「楽しもうぜ」とハスタ。

 ――――出番だ! 

 お気に入りのミュージシャンのSEが流れ、照明の落とされたステージに、美来来一人一人のメンバーが入って行く。
 時計草こと美来がマイクスタンドの前に立つとどよめきが起こり、パッとライトアップされ、すぐにロックンロールが始まった。 白熱するステージ。グイグイ客席から伝って来る感触。メンバーそれぞれの名を呼ぶファンたち。

 2曲終わった後MCをする。
「えー、ああ! 今日はこんなにお越しくださりありがとう! みんな喜んでいます」 
 そこで美来はメンバー3人の顔を見渡した。3人はうんうん、と頷いた。
「じゃあ、次は激し目な奴」と投げキッス。
 ゴッリゴリのギターサウンドの中、ハードコアナンバーが始まる。美来来の人気ナンバーだ。 
 この曲のために時計草(美来)はデス声が出せたら良いのになー、と思っていたのである。
 演奏が始まるや否や、鋲の付いたライダースジャケットで皮のピタパンを履いたブーツ姿の男性が前に躍り出て来た。 
 ピンクの髪がツンツンしている。

 園之だ!
 泣けて来た。あらゆる意味で美来は泣けて来た。久しぶりに逢う、やっぱり忘れられない好きな人が今目の前にいる喜びだけじゃなく、気が散るから今直ぐどこかへ行って欲しいと焦る気持ちで泣きそう。
 それでも必死で歌う時計草こと美来。

 園之はノリノリでヘッドバンキングしている。ひ! 頭取れるよッ?! 
 間奏の所でステージに上がる園之。 
 拳を掲げる園之に合わせ「うおぉぉ――!」と会場の皆も拳を上げる。叫ぶ。「同志よ~!」ってな感じで。 
 そして園之が客の渦へとダイブした!(危ない!)
「ヴゥッゥゥッォォォオオオオ――――」すんごいデス声、時計草から出た。泣きながら出た。マイクは余さず時計草の叫びを拾い『ライブハウス・オールライト』中に響き渡らせた。 
 ハードコアナンバーを歌い切った。なんとか涙を止め、汗に見せかけタオルで拭き次の曲へと移る美来。 




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「あたしは趣味のバンドで歌っています」
 自分のことを知って欲しくて美来が話題を振った。
「あ! そうなんだ~!」
 人間らしい血の通った返事が返って来た。パンク一筋、音楽人間の園之、趣味の話題で嬉しいのだろう。
「うん。オリジナルの曲を|演《や》っています」
「へ~。美来ちゃんが作っているの?」
「はい。歌詞と歌メロはね。作曲はギターの人です」
「凄いですね!」 
 園之の暗い洞窟に一筋の光が届いたようだ。それを彼のラミー、否、ミラーで跳ね返しているかのように放ち始めた明るさ。
「でもさ、園之さんも『ラミーの一生懸命』で発信し続けていたでしょう。凄いよ! あたしはいわゆる古参ファンではなかったけど、すぐに虜になっちゃって半年欠かさず動画を観ていました。だから最終回はショックだったのよ?」 
 まんざらでもなさそうな園之。
「ンー。なんか表現したくって。オレ、俳優の端くれなのに仕事が回って来ない。なにかこう、オレのオレを出したかったの」
「うん、うん」 
 園之と美来と、沙華やや子にしか意味がわからないかもしれないが、美来には通じたのだ、その時園之のラミー語が。 
 でもこれは小説だから、読者がわかるように書くべきなんじゃないか? と悩む沙華やや子。――――彼女のことは置いといて、今一度二人のデートを覗いてみようじゃあないか。 
 ――――そこへごはんがやって来た。
「うわっほぉーい、美味しそうなパスタ! 蛸とホタテの量が凄い~」
「あは。美来ちゃん……美来ちゃん、美来ちゃん?」
「ハイ」
 園之がなにか言いたそうだ。
「か、かかかか、可愛い、ね」
 やっと言えた。
 ポッ。
 パスタの中、魚介と一緒に入っているトマトよりも頬を真っ赤にする美来。
「ありがとう」
 園之の前には鉄板ハンバーグがジュージュー言っている。
「た、食べよっか、美来ちゃん」 
 気を取り直すかのように園之がナイフとフォークを持った。
「そうね、うん!」 
 美来は、パスタを堪能している途中でジュースを飲む時にやっと、店内の様子を落ち着いて見ることが出来た。だって乙女だもん! やっぱ園之さん、超イケメンなんだもん。
 美来にとって園之は『ラミー』としてパソコンで見るよりも、実物がはるかにセクシーオーラを放っているのだ。
 だけど話し始めると頓珍漢。たまらぬギャップだ。
 店内はアンティークドールやテディーベアに、ロマンチックな装飾のオルゴールが所狭しと飾られたメルヘンチックなムード。かわゆい物が大好きな美来のツボをついて来る。
([素敵な女性の口説き方]にはまさか、お店までは載っていないわよねー。あたしのために……。嬉しいな!)
「うま! うっま。このハンバーグ。大正解、このお店!」
 叫ぶ園之。まるで初めて食べた人であるかのようだ。
「そうなのね。ハンバーグは初体験だったんだあ、園之さん」
「あ、だって初めて来るお店だもん」
「え?!」
「あ……『素敵な女性の口説き方』でね、このお店が良いよと載っていたの。ついでに知ったかぶりをしろ、って」 
 美来はフォークとスプーンをナフキンに置いた。
「嘘つき! 園之さんなんか大っ嫌い!」
 そう言い残し、店を飛び出した。自分はこんなに速く走れたのかという程のスピードだ。涙が千切れて後ろへ流れ行く。
「ヴ、ヴ、ヴヴッヴヲウオオオオオォ――――ッ!」 
 デス声、出た。 
 街中であろうとも、なりふり構わず、好きな人の裏切りに泣く女の雄たけび。
(デス声なんか要らん! 要らん、要らん、要らんよっ。あたしは園之さんが!)
「ヴウォォオオオオオ――――!」
 とめどなく溢れ出る愛情たっぷりのデスボイス。
 駅近くの小さな公園まで辿り着いた。この胸の痛みと疲労を癒やしたく、ブランコに揺られる美来。
 ブランコを10回ぐらいこいだ頃、現れたるは汗だくの園之。美来をみとめた園之は、公園の入り口で一度膝に両手をやった。肩で息をしている。
 そして顔を上げた園之と、園之をじっと見つめる美来の目が合った。 
 ひとたびおさまっていた美来の涙が再び溢れ出す。ウルウルした瞳にへの字口。
「聴こえていたよ、美来ちゃん。立派なデス声だ」
「この期に及んでなに言ってんの! 園之さん」
「……」
 なにも言えない園之。
「あたし、帰る」
「待って!」
「待たない。園之さんのこと嫌いになった。嬉しかったのに。素敵なお店に連れて行ってくれて、本当に嬉しかったのに! うっ、う、ううう」 
 美来はさっきみたいに上手にデス声が出ないように気を付けて泣いた。今要らんから。今じゃないから。
「オレ、恋の仕方がわからないけど、美来ちゃんを喜ばせたい気持ちは本物だ」
 キッパリと園之が言い切った。
「そう」 
 今、美来は遠い目だ。デスボイスを出し切った疲れもある。
「あのさ、未來ちゃんのバンドはなんというの?」
「美来来よ」
「ライブいつ?」
「ちょうど2か月後の9月」
「チケットもう買える?」
「まだ」
「そか」
「ライブは9月10日の19時から。『ライブハウス・オールライト』であるの」
 その時鳩のフンが園之の頭に落ちた。
「あ! あっ、やられた~」
「じゃあね、バイバイ」 
 あんたがクソ男だからそんなことになるのよ、と心の片隅で思わなくもない美来が陽炎の中に消えて行った。 
 ピンクの髪の毛にくっついたフンをティッシュで拭いつつ、淋し気な顔の園之は美来の背中を見送った。
* 
 今年の夏は猛暑だというけど、美来の胸の中には、一足お先に木枯らしが吹き荒むようだ。 あれから何度も園之から連絡があった。メールには『美来ちゃん、オレが悪かったよ。物を知らなくてすみません。気が利かない男でごめんなさい』『美来ちゃんに逢いたいです』 
 でも美来は、差し迫って来ているライブのために集中したかった。穏やかな恋ならバンド活動の心の支えにもなるが、園之の独特な言動にはどうしても振り回されてしまう。だから美来は一切返事をしなかった。
「だいぶん仕上がって来たよね。とけちゃん、良い感じじゃん! よし、ライブで演る曲もっかい流そ」 
 ハスタがカウントを取り演奏がスタジオで始まる。
 今日は土曜日。いつも通り、美来来のバンド練習の日だ。
 ひと通り演奏し終わったタイミングでベースの町木が言う。
「新曲の詞も歌メロも良いよね。こういう、ロマンチックな雰囲気の歌って初めて作ったよね、とけちゃん」
「そうだよ、俺のイメージしてた通りに作ったね、とけちゃん」と続けてギターの辰。
 それはハッピーエンドを歌ったラブソングだ。実は園之とのデートの前日に、突如と沸き起こった詞とメロディーだった。
(大好きだったのにな、あたし、ラミーのことも園之さんのことも)
 密やかなため息にバンドメンバーは気づかなかった。そうしてみっちり2時間、本気120%のスタジオ練習は続けられた。 
 ――――いよいよ迎えたライブ当日。
 今回のライブはワンマンではなく、美来来を含め3バンド出る。美来来はトリを飾る。
 本日はかなりの入りだ。お客さん、スタンディングで200人は入っているだろう。『ライブハウス・オールライト』満員だ。
 自分達より先に演奏するバンドを客席で観ても良いんだけれど、今夜はなぜかそんな気分になれず、美来は控え室にいた。他のメンバーは客席に行き、自分たち以外の2バンドを観に行っている。 
 ボンテージファッションに身を包みツインテールにしている今日の美来。編み上げロングブーツを履いている。
 2番度目の中盤辺りで、ハスタ、辰、町木が控え室に帰って来た。
「楽しもうぜ」とハスタ。
 ――――出番だ! 
 お気に入りのミュージシャンのSEが流れ、照明の落とされたステージに、美来来一人一人のメンバーが入って行く。
 時計草こと美来がマイクスタンドの前に立つとどよめきが起こり、パッとライトアップされ、すぐにロックンロールが始まった。 白熱するステージ。グイグイ客席から伝って来る感触。メンバーそれぞれの名を呼ぶファンたち。
 2曲終わった後MCをする。
「えー、ああ! 今日はこんなにお越しくださりありがとう! みんな喜んでいます」 
 そこで美来はメンバー3人の顔を見渡した。3人はうんうん、と頷いた。
「じゃあ、次は激し目な奴」と投げキッス。
 ゴッリゴリのギターサウンドの中、ハードコアナンバーが始まる。美来来の人気ナンバーだ。 
 この曲のために時計草(美来)はデス声が出せたら良いのになー、と思っていたのである。
 演奏が始まるや否や、鋲の付いたライダースジャケットで皮のピタパンを履いたブーツ姿の男性が前に躍り出て来た。 
 ピンクの髪がツンツンしている。
 園之だ!
 泣けて来た。あらゆる意味で美来は泣けて来た。久しぶりに逢う、やっぱり忘れられない好きな人が今目の前にいる喜びだけじゃなく、気が散るから今直ぐどこかへ行って欲しいと焦る気持ちで泣きそう。
 それでも必死で歌う時計草こと美来。
 園之はノリノリでヘッドバンキングしている。ひ! 頭取れるよッ?! 
 間奏の所でステージに上がる園之。 
 拳を掲げる園之に合わせ「うおぉぉ――!」と会場の皆も拳を上げる。叫ぶ。「同志よ~!」ってな感じで。 
 そして園之が客の渦へとダイブした!(危ない!)
「ヴゥッゥゥッォォォオオオオ――――」すんごいデス声、時計草から出た。泣きながら出た。マイクは余さず時計草の叫びを拾い『ライブハウス・オールライト』中に響き渡らせた。 
 ハードコアナンバーを歌い切った。なんとか涙を止め、汗に見せかけタオルで拭き次の曲へと移る美来。