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第28話 シトラスの香りと暴かれた投稿主

ー/ー



「それじゃ、勉強会の日程が決まったら連絡してね!」

 そう言って、上坂部葉月(かみさかべはづき)は放課後の教室を去って行く。

「うん、LANEでメッセを送るね!」

 クラス委員の言葉に反応した名和リッカは、笑顔で返答し、室内にはオレと彼女だけが残った。
 もう用事が済んだのだろうと、オレも下校する準備をしようとすると、不意に女子生徒が声をかけてくる。

「待ってよ、立花クン。あなたには、まだ確認したいことがあるの」

 そう言った名和リッカは、耳元にかかる髪をかきあげた。その仕草とともに、これまでただよっていた上坂部のものと思われるジャスミンとバニラを混ぜたような濃密なフレグランスに変わって、オレンジなどの柑橘系の実を思わせる爽やかで明るいシトラスフローラルの香りが、オレの鼻をくすぐった。

 それは、以前にも感じたように、それは、オレに幼少期の記憶を呼び起こさせる不思議な香りだった。
 ただ、いまは過去の思い出にひたること以上に、目の前の女子の思惑のほうが気になってしまう。
 
「なんだ? カラオケに続いて、また、上坂部を誘い出そうとして……それに、今回はオレまで呼び出して。また、なにか怪しげな企みをしてるんじゃないだろうな?」
 
 彼女の言動には不信感しか無いオレが、疑いの目を向けながらたずねると、名和リッカは、

「怪しげな企みなんて心外だなぁ……立花クンが、国語と古典の科目が得意だって聞いたから、試験勉強の方法を教わりたいって、思っただけなのに……そんなことよりも――――――」

と、話題を変えようとする。

「葉月のこと、このままで良いの? 四葉ちゃんの動画で()()()()をしたのは、あなたなんでしょ、立花クン?」

 その一言は、発言の矛先が、上坂部や試験勉強のことからオレ自身に変わったことを示していた。
 突然の指摘に動揺しつつも、匿名の相談なのでそう簡単に正体が判明することはないはずだ……と、とりあえず、シラを切ることにする。

「な、なんのことだ? 四葉ちゃんの動画って? オレはなにも知らないぞ?」

 こちらの返答に、「ふ〜ん、そうやって、とぼけるんだ……」と、つぶやいた女子生徒は、これまで、オレが把握していなかった情報を開示してきた。

「立花クンには言ってなかったかもだけど……私、モデルの仕事してて、白草四葉ちゃんと仲が良いんだよね〜。その四葉ちゃんに、この前の『彼女がデキてしまった男子と付き合うための方法』のアドバイスを面白かったよ、あの相談って、ホントに視聴者からの投稿なの? って聞いたら、『あれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』って、教えてくれたんだ。そのコメントのアカウント名は、たしか……」

 なんということだ! そんなところまでバレていたとは――――――。
 
 彼女が最後まで言い終わらないうちに、オレは白旗を上げることにする。
 
「わかった、わかった! そうだよ、あの相談は、オレがコメント欄に投稿したものだ」

 まさか、「知り合いの女の子のために、一生懸命がんばれる男の子って素敵じゃない?」と、オレのことを肯定してくれた()使()()()()()()()()()()と、目の前にいる、本性は口の悪さも性格の悪さも極上である()()()()()()()()()()()が、友人関係にあるなんて、思いもしなかった。

(四葉ちゃん、イイ人だから、きっと名和リッカのことを疑いもしてないんだろうな……)

 同世代のカリスマにしてインフルエンサーである女子に同情しつつ、人間関係のめぐり合わせの悪さに愕然とする。そんなオレに対して、名和リッカが口を開いた。
 
「そっか……やっぱり、あなただったのね」

 つぶやくように言う彼女の問いかけに、オレは、なかば、うなだれるように答える。

「あぁ、そうだよ」

 ただ、名和リッカからの非難を覚悟してたオレにとって、その後の彼女の反応は予想外のものだった。
 オレの返答に、軽くうなずいた女子生徒は、思案顔で問いかけてくる。

「さっきも、『葉月のことはこのままで良いの?』と、聞いたけど……女子の間では、この間の四葉ちゃんの動画の相談主が、あのコなんじゃないか、ってウワサになってるよ」

「な、なんだって!? どうして、上坂部が?」

 とっさに、そう口にしたが、あらためて四葉ちゃんの動画の内容を思い出す。
 オレが投稿した相談が取り上げられた動画では、配信者の四葉ちゃん自身と掛け合いをするかたちで、

 ―――これ、第三者的な立ち位置で質問してるけど、幼なじみのコ本人が投稿してるんじゃないの?

というテロップが表示されていた。

 自分が投稿主であることから、客観的な視点が抜け落ちていたが……。
 他人から見れば、たしかに、オレ自身がコメント欄に書き込んだ内容は、「片思いをする幼なじみの女子」が、第三者を装って相談を持ちかけた、と感じ取れる部分があるかも知れない……。

 オレの表情から、なにかを察したのだろう、名和リッカは、こんなことを言い残して、教室を去って行った。

「葉月の印象が変わったのは、四葉ちゃんの動画が公開された週末の直後だったからね……あのコのためと考えているなら、なにか策を取った方が良いんじゃないの?」


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「それじゃ、勉強会の日程が決まったら連絡してね!」
 そう言って、|上坂部葉月《かみさかべはづき》は放課後の教室を去って行く。
「うん、LANEでメッセを送るね!」
 クラス委員の言葉に反応した名和リッカは、笑顔で返答し、室内にはオレと彼女だけが残った。
 もう用事が済んだのだろうと、オレも下校する準備をしようとすると、不意に女子生徒が声をかけてくる。
「待ってよ、立花クン。あなたには、まだ確認したいことがあるの」
 そう言った名和リッカは、耳元にかかる髪をかきあげた。その仕草とともに、これまでただよっていた上坂部のものと思われるジャスミンとバニラを混ぜたような濃密なフレグランスに変わって、オレンジなどの柑橘系の実を思わせる爽やかで明るいシトラスフローラルの香りが、オレの鼻をくすぐった。
 それは、以前にも感じたように、それは、オレに幼少期の記憶を呼び起こさせる不思議な香りだった。
 ただ、いまは過去の思い出にひたること以上に、目の前の女子の思惑のほうが気になってしまう。
「なんだ? カラオケに続いて、また、上坂部を誘い出そうとして……それに、今回はオレまで呼び出して。また、なにか怪しげな企みをしてるんじゃないだろうな?」
 彼女の言動には不信感しか無いオレが、疑いの目を向けながらたずねると、名和リッカは、
「怪しげな企みなんて心外だなぁ……立花クンが、国語と古典の科目が得意だって聞いたから、試験勉強の方法を教わりたいって、思っただけなのに……そんなことよりも――――――」
と、話題を変えようとする。
「葉月のこと、このままで良いの? 四葉ちゃんの動画で|あ《・》|の《・》|相《・》|談《・》をしたのは、あなたなんでしょ、立花クン?」
 その一言は、発言の矛先が、上坂部や試験勉強のことからオレ自身に変わったことを示していた。
 突然の指摘に動揺しつつも、匿名の相談なのでそう簡単に正体が判明することはないはずだ……と、とりあえず、シラを切ることにする。
「な、なんのことだ? 四葉ちゃんの動画って? オレはなにも知らないぞ?」
 こちらの返答に、「ふ〜ん、そうやって、とぼけるんだ……」と、つぶやいた女子生徒は、これまで、オレが把握していなかった情報を開示してきた。
「立花クンには言ってなかったかもだけど……私、モデルの仕事してて、白草四葉ちゃんと仲が良いんだよね〜。その四葉ちゃんに、この前の『彼女がデキてしまった男子と付き合うための方法』のアドバイスを面白かったよ、あの相談って、ホントに視聴者からの投稿なの? って聞いたら、『あれは、|別《・》|の《・》|動《・》|画《・》|の《・》|コ《・》|メ《・》|ン《・》|ト《・》|欄《・》|か《・》|ら《・》|採《・》|用《・》|し《・》|た《・》|ん《・》|だ《・》|よ《・》』って、教えてくれたんだ。そのコメントのアカウント名は、たしか……」
 なんということだ! そんなところまでバレていたとは――――――。
 彼女が最後まで言い終わらないうちに、オレは白旗を上げることにする。
「わかった、わかった! そうだよ、あの相談は、オレがコメント欄に投稿したものだ」
 まさか、「知り合いの女の子のために、一生懸命がんばれる男の子って素敵じゃない?」と、オレのことを肯定してくれた|天《・》|使《・》|の《・》|よ《・》|う《・》|な《・》|四《・》|葉《・》|ち《・》|ゃ《・》|ん《・》と、目の前にいる、本性は口の悪さも性格の悪さも極上である|ケ《・》|モ《・》|ノ《・》|の《・》|よ《・》|う《・》|な《・》|女《・》|子《・》|生《・》|徒《・》が、友人関係にあるなんて、思いもしなかった。
(四葉ちゃん、イイ人だから、きっと名和リッカのことを疑いもしてないんだろうな……)
 同世代のカリスマにしてインフルエンサーである女子に同情しつつ、人間関係のめぐり合わせの悪さに愕然とする。そんなオレに対して、名和リッカが口を開いた。
「そっか……やっぱり、あなただったのね」
 つぶやくように言う彼女の問いかけに、オレは、なかば、うなだれるように答える。
「あぁ、そうだよ」
 ただ、名和リッカからの非難を覚悟してたオレにとって、その後の彼女の反応は予想外のものだった。
 オレの返答に、軽くうなずいた女子生徒は、思案顔で問いかけてくる。
「さっきも、『葉月のことはこのままで良いの?』と、聞いたけど……女子の間では、この間の四葉ちゃんの動画の相談主が、あのコなんじゃないか、ってウワサになってるよ」
「な、なんだって!? どうして、上坂部が?」
 とっさに、そう口にしたが、あらためて四葉ちゃんの動画の内容を思い出す。
 オレが投稿した相談が取り上げられた動画では、配信者の四葉ちゃん自身と掛け合いをするかたちで、
 ―――これ、第三者的な立ち位置で質問してるけど、幼なじみのコ本人が投稿してるんじゃないの?
というテロップが表示されていた。
 自分が投稿主であることから、客観的な視点が抜け落ちていたが……。
 他人から見れば、たしかに、オレ自身がコメント欄に書き込んだ内容は、「片思いをする幼なじみの女子」が、第三者を装って相談を持ちかけた、と感じ取れる部分があるかも知れない……。
 オレの表情から、なにかを察したのだろう、名和リッカは、こんなことを言い残して、教室を去って行った。
「葉月の印象が変わったのは、四葉ちゃんの動画が公開された週末の直後だったからね……あのコのためと考えているなら、なにか策を取った方が良いんじゃないの?」