第27話 強襲!転校生の可愛すぎるお願い
ー/ー 二年生になってから、最初の定期テストまで残り4日となった平日の放課後―――。
「ねぇ、立花クン。あなたに相談したいことがあるんだけど……ちょっと、葉月と一緒に残ってくれない? あのコの了解は、もう取ってるから」
帰り支度をして、席を立とうとしたところに、意外な人物から声をかけられた。
声の主は、上坂部葉月・復縁(?)計画の最大の障壁とも言える存在、名和リッカだった。
先週末から、この転校生の動向を気にしながら会話をすることが多かったので、当の本人から、指名を受けたことに動揺を隠しきれない自分がいる。
「な、なんだよ? オレと上坂部に、なにか用があるのか?」
自分でも、声が裏返っていたのではないかと感じるくらい、緊張しながら返答すると、フッと笑みを見せた彼女は、
「とつぜん話しかけられて動揺するところは相変わらずね……」
と、ポツリと一言もらしたあと、
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ、ちょっと、あなた達におねがいしたいことがあるだけだから」
と言って、教室に残っている上坂部とオレに向かって交互に視線を送る。
「お願いしたいことって、なにかなリッカ?」
笑顔で取り繕いながら、クラスメートにたずねる上坂部に対して、名和リッカは意味深長な笑みを浮かべながら答えた。
「それは、三人だけになってから、ね……」
オレたちの会話は、放課後の教室内の喧騒にまぎれて、他の生徒たちには聞こえないのだろうか?
上坂部やオレの動揺に気づく生徒はおらず、教室内の廊下側で他の男子たちと談笑していた久々知大成は、こちらに向かって、屈託のない表情で声をかけてくる。
「じゃあ、今日は先に帰るから! また明日な!」
「「うん、また明日ね!」」
二人の女子生徒の声がハモったあと、久々知たちは教室から出ていき、程なくして、教室内に残っているはオレたち三人だけになった。
(三日続けて、女子と放課後に語り合うなんて、オレもいよいよリア充の仲間入りだな……)
緊張をまぎらわせようと、わざと自分の立場を皮肉るように考えを巡らせていると、女子生徒がオレに声をかける。
「どうしたの? 『放課後に女子と一緒に教室に残るオレってリア充だな』とか非モテ男子っぽいことでも考えてるの?」
そう言って、名和リッカがクスクスと笑う。
(オレの思考を勝手にトレースするんじゃねぇ!)
苦虫を噛み潰したような表情で、相手に視線を向けると、彼女は、「ゴメンね図星だった?」と言いながら、悪びれるようすもなく、澄ました表情のままだ。
そして、戸惑ったような顔の上坂部を見据え、名和リッカは宣言する。
「葉月、今日、立花クンといっしょに残ってもらったのは、あなた達にお願いしたいことがあるからなの」
その一言に、オレは、固い唾を飲み込む。
「私ね、転入してきたばかりで、こっちの学校の試験勉強のやり方がわからなくて……転校する前の学校とは教科書も違うし、先生たちの出題傾向なんかも教えてもらえたら嬉しいなって」
新学期からオレたちの学年に加わった女子生徒の意外な言葉に驚いていると、彼女は顔の前で、パンと手を合わせて、「お願い!」と、可愛らしくウインクまでして見せる。
その仕草は、蠱惑的と言うか、彼女の本性を知っているオレですら、即座に首を縦に振ってしまいそうな程、魅力にあふれていた。
(いったい、どう言うつもりなんだ―――?)
あまりに魅惑的な素振りに対して、反射的にうなずきそうになった自分を理性で抑えたオレは、転入生の意図が理解できずに戸惑うばかりだ。
一方、そんな名和リッカの振る舞いに、我がクラスのクラス委員は、ホッとするような表情を見せたあと、
「な〜んだ、そんなことかぁ。わざわざ、私たちだけに残ってほしい、って言うからどんな相談かと思ったら……いいよ、私で良ければ、リッカの試験勉強に付き合うよ! でも、立花くんは大丈夫?」
と、自分の想い人をかすめ取った上に、その交際相手を告白避けなどと言ってしまうクラスメートに甘すぎる対応を取り、さらに、オレにまで予定の確認をしてきた。
(なあ、上坂部……アンタは、そういう人の良さにつけ込まれたんじゃないか……?)
思わず、そう声をかけてしまいそうになるが、目の前には面倒な相手がいるので、心の中の言葉は口に出さないでおく。そして、オレの予定を気に掛けている相手の身を案じ、転入生のやや強引に感じる依頼を引き受けることにした。
「あぁ、オレも大丈夫だよ。上坂部が引き受けたこの状況で、断るのもアレだしな」
オレが、渋々ながら、そう答えると、クラス委員は転入生に、
「そっか! 良かったね、リッカ」
と語りかけ、声をかけられた女子生徒は、「うん!」と無邪気な笑顔を見せたあと、感激するように言葉を発する。
「二人とも、ありがとう! 私、本当にクラスメートに恵まれてるなって思うよ」
「もう、大げさだよリッカは……困ったときは、お互い様じゃない!」
屈託の無い笑顔で返答する上坂部に対して、
(ホント、イイ奴だな……)
と感心しながらも、これ以上、彼女の心が傷つくようなシチュエーションを作らないようにしなければ……と、決意した。
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