「あたし、あんたみたいな子大嫌い! そんなキレイで都会に住んで何でも持ってるんでしょ!? なんでこの町に来たのよ! なんであたしから航を取ってくのよ!」
取ったなどと責められる謂れはない。航は元々佐野の所有物ではないのだ。
……そして当然、瑛璃のものでもなかった。
航とは、おそらくは彼女が考えているような関係ではないのだから。
「あ、あたしなんか母親にまで『幸せの邪魔しないで! あの男に似たお前も宗太も、もう顔も見たくない!』って言われてさ! あたしはここでお父ちゃんと宗太の面倒見るしか価値ないんだよ。よその親はあたしとはあんまり付き合うなって言う。でも航はそんなの全然気にしないから、だから──!」
彼女の「叫び」に呑まれたように、瑛璃は口を開くことができなかった。
瑛璃を激しく罵倒しながら、その言葉の刃は佐野自身にも向けられている気がする。切り裂かれたその心から血が噴き出しているのが見えるようだ。
きっとこんなことを言いたくはないのだ。やはりこの人は……。
そんな佐野に追い打ちを掛けるようなことはしたくない。「航に聞かされて知っている」という事実が、どれほど彼女を打ちのめすかは考えるまでもなかった。
これも「上から目線」になってしまうのだろうか。
「あたしに勝ったなんて思わないでよ! そんなのまだわかんない! 航は東京なんて合わないんだから。絶対ここに戻って来るわ!」
「そんな風には思ってません」
まるで瑛璃の心を読んだかのような佐野の台詞に、口から零れたのは思ったより小さく掠れた声だった。
これだけは伝えたかった。
瑛璃は彼女に「勝った」などとは思ってもいないし、何より勝ち負けの問題ではない。
「そうよね。あんたみたいな子から見たら、あたしなんてなんの取柄もない田舎の子だもん。最初から勝負になんかならないよね! あたしがあんたに適うとこなんて、見た目からしてただの一個もないんだから!」
しかしその返答は、佐野には瑛璃の意図とは異なった意味を持って届いたらしい。
ほとんど何も言わずに棒立ちで聞いていた瑛璃の最後の答えに、彼女は自嘲するように、それでも気丈な態度は崩さなかった。
そして佐野は、自ら口にした言葉に貫かれたかのように、一瞬顔を歪めてくるりと身を翻し走り去ってしまった。
「なんか佐野が《あんた絶対東京なんて向いてない!》ってメッセージ寄越しやがってさあ。なんなんだよいったい。瑛璃ちゃん、あいつに何かいやなこと言われたりしなかった?」
帰って来るなり着替えることもせず真っ先に瑛璃の部屋を訪れた従兄に、「何も」とだけ告げる。
それ以上語る気はなかった。少なくとも瑛璃の口からは。