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【8】②

ー/ー



「食べ終わってもすぐ出なくて大丈夫よね?」
「待ってる人がいたらもちろんダメだろうけど、カフェってそういうもんじゃないの? 食べてお茶飲んでしゃべって〜ってそういうのを楽しむとこだろ?」
 プレートを空にして、食後のコーヒーと紅茶を飲みながらの瑛璃の問い掛けに、従兄が笑いながら返して来た。
 それは確かにその通りかもしれない。ただ空腹を満たすだけではない、この雰囲気も込みのカフェランチ。
「もっと頼めるならその方がいいのはわかってても、あのプレート結構ボリュームあったよな。あいつ、よくあれ食べてからスコーンなんて入ったな……。メニューの写真のスコーン、結構大きくなかった?」
「うん、全体的に量多い? 私もうお腹いっぱい」
 航の言葉に、瑛璃は「これ以上は無理だ」と意思表示して見せた。
「でもさ、伯母さんてお料理上手よね。ご飯だけじゃなくてお菓子まで! スコーンもクッキーも、形はちょっと崩れてたり完全には揃ってないけど、味はお店みたいに美味しかったわ」
「ああ、俺はああいうのよく知らないけどそうらしいな。あんまり細かく気をつける人じゃないから見た目は適当だけど、おすそ分けした人なんかに味はいいってよく言われる」
 美味しかった、という気分のままに、航が出した「スコーン」という単語に伯母を連想して話し出した瑛璃に、航があっさり答える。
 彼女は普段から、航が部活で家を空けている日中に手作りの焼き菓子を出してくれていた。
「……そういえばさあ。昔、小学校の遠足の弁当がすげえおかずいっぱいで美味そうだ、って騒がれたことあったんだ」
「なんとなくわかるわ。伯母さんそういうの好きだし張り切りそう」
 何気ない風に切り出した航の台詞に、特に思うところもなく返す。
「それ見て『もらわれた子なのに、そんな弁当作ってもらってずるい!』って言ったやつがいてさ。……そいつ、おばあちゃんの作った茶色い弁当が恥ずかしかった、って後で謝って来た」
「それは言った子がおかしいよ。──でもちゃんと謝ったんだ」
 この話題はよくなかったかもしれない、と瑛璃は内心焦る。
 しかしいったん口にしてしまった以上、下手に慌てて撤回などしたら不自然だ。
「友達だったしな〜。第一、母さんのも別にカラフルなキャラ弁とかじゃないんだけど。唐揚げにミートボール、卵焼きにきんぴらごぼうとか、茶色といえば茶色だったな」
 いきなり重さを増した会話に掛ける言葉を探りつつの瑛璃に、航が労るような声音で話す。
「俺たちの間ではもうそれで終わったんだよ。でも他のクラスメイトが家で話したりして、親関係でちょっと問題になったみたいで。『航くんがいじめられた、あの子は父親いなくてばあちゃんが甘やかすからしつけできてない、うちの子にも〜』とかって」
 まあ確かにちょっとやんちゃっていうか、間違っても「おとなしいいい子」じゃなかったけどさ、と航の少し沈んだ声。
「その、子は?」
「今はここにいない。小学校の途中で、お母さんが結婚して新しいお父さんと暮らすからって引っ越してった。どこからだったか忘れたけど、幼稚園入る前くらいの小さいときにお母さんの実家に二人で帰って来たんだって。お父さんは最初からいなかったって聞いた。おじいちゃんとお母さんが働いて、おばあちゃんがそいつの面倒見てたらしいよ」
 完全に他人事として、それでも上手く行ったのなら良かったのか、と聞いていた瑛璃は続く航の声に今度こそ胸が締め付けられる気がした。
「……そのとき、もし俺がなにか『悪いこと』したらこんな風に言われるんだな、と思ったんだ。父さんや母さんには何の関係もなくても『ホントの子じゃないから・貰われた子だからちゃんとしてない』って責められる。もともとなにかする気なんてないけど、ガキなりに『自分はよりきちんとしないといけないんだ』って痛感したっていうか」
 おそらくその時からずっと、航はその思いを抱えて来たのだろう。
「航くんはわざわざ気をつけなくたって、考え方もすごいしっかりしてるじゃない! そんな、そんなの気にする必要なんかないくらいに……!」
 思わず言い募った瑛璃に、彼はテーブルを挟んだ距離のまま目を見つめて「ありがとう」と呟いた。
「そろそろ出ようか」
 一息入れて航が切り替えるように口にするのに、瑛璃も逆らう気もなく頷いて立ち上がった。


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みんなのリアクション

「食べ終わってもすぐ出なくて大丈夫よね?」
「待ってる人がいたらもちろんダメだろうけど、カフェってそういうもんじゃないの? 食べてお茶飲んでしゃべって〜ってそういうのを楽しむとこだろ?」
 プレートを空にして、食後のコーヒーと紅茶を飲みながらの瑛璃の問い掛けに、従兄が笑いながら返して来た。
 それは確かにその通りかもしれない。ただ空腹を満たすだけではない、この雰囲気も込みのカフェランチ。
「もっと頼めるならその方がいいのはわかってても、あのプレート結構ボリュームあったよな。あいつ、よくあれ食べてからスコーンなんて入ったな……。メニューの写真のスコーン、結構大きくなかった?」
「うん、全体的に量多い? 私もうお腹いっぱい」
 航の言葉に、瑛璃は「これ以上は無理だ」と意思表示して見せた。
「でもさ、伯母さんてお料理上手よね。ご飯だけじゃなくてお菓子まで! スコーンもクッキーも、形はちょっと崩れてたり完全には揃ってないけど、味はお店みたいに美味しかったわ」
「ああ、俺はああいうのよく知らないけどそうらしいな。あんまり細かく気をつける人じゃないから見た目は適当だけど、おすそ分けした人なんかに味はいいってよく言われる」
 美味しかった、という気分のままに、航が出した「スコーン」という単語に伯母を連想して話し出した瑛璃に、航があっさり答える。
 彼女は普段から、航が部活で家を空けている日中に手作りの焼き菓子を出してくれていた。
「……そういえばさあ。昔、小学校の遠足の弁当がすげえおかずいっぱいで美味そうだ、って騒がれたことあったんだ」
「なんとなくわかるわ。伯母さんそういうの好きだし張り切りそう」
 何気ない風に切り出した航の台詞に、特に思うところもなく返す。
「それ見て『もらわれた子なのに、そんな弁当作ってもらってずるい!』って言ったやつがいてさ。……そいつ、おばあちゃんの作った茶色い弁当が恥ずかしかった、って後で謝って来た」
「それは言った子がおかしいよ。──でもちゃんと謝ったんだ」
 この話題はよくなかったかもしれない、と瑛璃は内心焦る。
 しかしいったん口にしてしまった以上、下手に慌てて撤回などしたら不自然だ。
「友達だったしな〜。第一、母さんのも別にカラフルなキャラ弁とかじゃないんだけど。唐揚げにミートボール、卵焼きにきんぴらごぼうとか、茶色といえば茶色だったな」
 いきなり重さを増した会話に掛ける言葉を探りつつの瑛璃に、航が労るような声音で話す。
「俺たちの間ではもうそれで終わったんだよ。でも他のクラスメイトが家で話したりして、親関係でちょっと問題になったみたいで。『航くんがいじめられた、あの子は父親いなくてばあちゃんが甘やかすからしつけできてない、うちの子にも〜』とかって」
 まあ確かにちょっとやんちゃっていうか、間違っても「おとなしいいい子」じゃなかったけどさ、と航の少し沈んだ声。
「その、子は?」
「今はここにいない。小学校の途中で、お母さんが結婚して新しいお父さんと暮らすからって引っ越してった。どこからだったか忘れたけど、幼稚園入る前くらいの小さいときにお母さんの実家に二人で帰って来たんだって。お父さんは最初からいなかったって聞いた。おじいちゃんとお母さんが働いて、おばあちゃんがそいつの面倒見てたらしいよ」
 完全に他人事として、それでも上手く行ったのなら良かったのか、と聞いていた瑛璃は続く航の声に今度こそ胸が締め付けられる気がした。
「……そのとき、もし俺がなにか『悪いこと』したらこんな風に言われるんだな、と思ったんだ。父さんや母さんには何の関係もなくても『ホントの子じゃないから・貰われた子だからちゃんとしてない』って責められる。もともとなにかする気なんてないけど、ガキなりに『自分は《《普通》》よりきちんとしないといけないんだ』って痛感したっていうか」
 おそらくその時からずっと、航はその思いを抱えて来たのだろう。
「航くんはわざわざ気をつけなくたって、考え方もすごいしっかりしてるじゃない! そんな、そんなの気にする必要なんかないくらいに……!」
 思わず言い募った瑛璃に、彼はテーブルを挟んだ距離のまま目を見つめて「ありがとう」と呟いた。
「そろそろ出ようか」
 一息入れて航が切り替えるように口にするのに、瑛璃も逆らう気もなく頷いて立ち上がった。