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【7】①

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瑛璃(えいり)さん?」
 伯母が行こうとするのを止めて、郵便受けを見に来た瑛璃を呼ぶ声。
「え? ……あ、佐野(さの)さん、でしたよね?」
 門の外にいたのは見知った顔だった。(わたる)の友人だという少女。
「そうよ。佐野 めぐみ。ねえ、変だと思わない? つい最近会ったばっかのあなたが『瑛璃ちゃん』で、あたしが『佐野』ってさあ」
 航の呼び方? そういえば、佐野は彼を「航」と呼び捨てにしていた。
「む、昔から、の習慣ならそういうものなんじゃ──」
「昔は『めぐみ』だったよ。この辺子どもの数も多くないし、小学校は一クラスしかなくてずっと一緒だからね」
 食い気味に被せて来る彼女。だったら何だというのだろう。瑛璃にはどうしようもない、……関係もないことなのに。
 わけもわからないまま「それが何か……?」と訊く前に、佐野が瑛璃を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「中学卒業するとき、あたしが航に告白したから。『そんなつもりない』って、それ以来急に『佐野』になったの。なんだよ、わざとらしい」
「こ、告……」
 告白!? 佐野は航が好きだった、ということか? それを、彼は断った?
「あいつ、ずっとこの町にいるって言ってたのよ。東京とか都会には行きたくないんだってさ。みんな出て行きたがるのに。あたしは家に、ここに残らなきゃなんない。だから航にはあたしが、……それなのに、よそからちょっと来ただけの子が邪魔しないでよ!」
 必死の形相で捲し立てる彼女。
 瑛璃の心に浮かんだのは、怒りや悲しみよりも彼女に対する違和感だった。
 もともと佐野は、このように誰かれなく他人を攻撃するタイプだとは思えない。
 根がそういう人間だとしたら、航も距離を置きそうな気がした。
 いくら幼馴染みだとはいえ、浜で初めて会ったときのように普通に会話もしないのではないだろうか。
 佐野はきっと、何とかして瑛璃を傷つけて航から引き離そうとしているのだろう。
「あんたくらいキレイで可愛かったら、向こうにいくらでも相手いるでしょ! 航はこれからもここで生きてくんだから、この町の人間が一番いいのよ!」
 瑛璃の反応など最初から気にしてもいないかのように、彼女が瑛璃の目をじっと見据えたまま言葉をぶつけて来る。
 自分のように、と目の前の彼女が言わんとしているのは伝わった。
 そうだ、そうなるのかもしれない。
 航が「この町」に拘るのなら、……単純に「ここで一緒に住む」だけではなく、この町で共に育ったよく知る相手の方がいい、となっても何もおかしくはなかった。
 伯母は東京で伯父と知り合い、結婚してこの町に来たと聞かされていた。彼らに限らず、そういう事象など全国的に珍しくもない。
 しかし航が幼い頃からの時間を共有した存在を求めるなら、瑛璃は何があろうとも佐野のような立ち位置の相手には敵わないのだ。
 いや、それ以前の問題か。瑛璃は航にとって「ただの従妹」なのだから。
 そんな風にいろいろ考えて自分の中に入り込んでしまっていたため、気がついた時にはもう彼女の姿はなかった。いったい、その間瑛璃は何をしていたのだろう。
 佐野は何も言わずに帰ったのか? それさえ覚えていないことが堪らなく後ろめたかった。

『波打ち際のMelancholy』佐野
 *佐野めぐみです。


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「|瑛璃《えいり》さん?」
 伯母が行こうとするのを止めて、郵便受けを見に来た瑛璃を呼ぶ声。
「え? ……あ、|佐野《さの》さん、でしたよね?」
 門の外にいたのは見知った顔だった。|航《わたる》の友人だという少女。
「そうよ。佐野 めぐみ。ねえ、変だと思わない? つい最近会ったばっかのあなたが『瑛璃ちゃん』で、あたしが『佐野』ってさあ」
 航の呼び方? そういえば、佐野は彼を「航」と呼び捨てにしていた。
「む、昔から、の習慣ならそういうものなんじゃ──」
「昔は『めぐみ』だったよ。この辺子どもの数も多くないし、小学校は一クラスしかなくてずっと一緒だからね」
 食い気味に被せて来る彼女。だったら何だというのだろう。瑛璃にはどうしようもない、……関係もないことなのに。
 わけもわからないまま「それが何か……?」と訊く前に、佐野が瑛璃を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「中学卒業するとき、あたしが航に告白したから。『そんなつもりない』って、それ以来急に『佐野』になったの。なんだよ、わざとらしい」
「こ、告……」
 告白!? 佐野は航が好きだった、ということか? それを、彼は断った?
「あいつ、ずっとこの町にいるって言ってたのよ。東京とか都会には行きたくないんだってさ。みんな出て行きたがるのに。あたしは家に、ここに残らなきゃなんない。だから航にはあたしが、……それなのに、よそからちょっと来ただけの子が邪魔しないでよ!」
 必死の形相で捲し立てる彼女。
 瑛璃の心に浮かんだのは、怒りや悲しみよりも彼女に対する違和感だった。
 もともと佐野は、このように誰かれなく他人を攻撃するタイプだとは思えない。
 根がそういう人間だとしたら、航も距離を置きそうな気がした。
 いくら幼馴染みだとはいえ、浜で初めて会ったときのように普通に会話もしないのではないだろうか。
 佐野はきっと、何とかして瑛璃を傷つけて航から引き離そうとしているのだろう。
「あんたくらいキレイで可愛かったら、向こうにいくらでも相手いるでしょ! 航はこれからもここで生きてくんだから、この町の人間が一番いいのよ!」
 瑛璃の反応など最初から気にしてもいないかのように、彼女が瑛璃の目をじっと見据えたまま言葉をぶつけて来る。
 自分のように、と目の前の彼女が言わんとしているのは伝わった。
 そうだ、そうなるのかもしれない。
 航が「この町」に拘るのなら、……単純に「ここで一緒に住む」だけではなく、この町で共に育ったよく知る相手の方がいい、となっても何もおかしくはなかった。
 伯母は東京で伯父と知り合い、結婚してこの町に来たと聞かされていた。彼らに限らず、そういう事象など全国的に珍しくもない。
 しかし航が幼い頃からの時間を共有した存在を求めるなら、瑛璃は何があろうとも佐野のような立ち位置の相手には敵わないのだ。
 いや、それ以前の問題か。瑛璃は航にとって「ただの従妹」なのだから。
 そんな風にいろいろ考えて自分の中に入り込んでしまっていたため、気がついた時にはもう彼女の姿はなかった。いったい、その間瑛璃は何をしていたのだろう。
 佐野は何も言わずに帰ったのか? それさえ覚えていないことが堪らなく後ろめたかった。
 *佐野めぐみです。