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【2】

ー/ー



田尾(たお)ってさ、やっぱ春生まれ? 『さくら』って名前」
 高校二年生直前の春休みだった。
 三月末で、あたしの十七歳の誕生日の数日前。四月に入ってすぐだから、同級生でも真っ先に年取っちゃうの。
 もう桜が咲いてたのだけは覚えてるわ。毎年早くなるよね、ってそれこそ毎年のお約束みたいな会話を交わしたのも。

「そうだよ。もう来週誕生日なんだ。良くある名前だし、春以外でもつける人いるかもしれないけどね。お母さんがあたしを生んで入院してた時、窓から満開の桜見えたんだって。安易でしょー」
「そうかな。いい名前だと思うよ、俺。田尾に似合ってる。……可愛くて」
 塾で一緒だった他校の男子。
 テキスト忘れた彼に頼まれて見せたことで、なんとなく話すようになった相手だった。

奥野(おくの)くんも国立志望でしょ? 二人とも受かったらいいね」
 地元には、自宅通学できる国立大学は一校しかない。だから中高生が『国立』って言えばそれはもう決まってるのよ。

「うん。そしたらさ、……いや、また」
「? なに?」
「なんでもない」
 はにかんだような笑顔。優しかった男友達。
 あの時はまだ、ただの友達だった。受験があるから。恋愛にうつつ抜かしてる場合じゃない。子どもだってそれくらいの分別はあったのよ。

 ──もし同じ大学に通えていたら、きっと関係は変わってた、んじゃないかな。夢見がちな女子高生の希望だけじゃなかったと思う。今も。

 なのにその一年後、高校三年生になる少し前から奥野くんは突然塾に来なくなった。
 最初は体調でも崩したのかな、と思ってたんだ。高校は別だったし、共通の友人もいなかったから。……事情を知るまでは。

「え、と。田尾 さくらさん? 北高の」
「そう、ですけど」
 塾の講義開始前に席についてたあたしは、奥野くんと同じ制服の知らない男子生徒に声を掛けられて無意識に引き気味になってしまった。

「あー、その。奥野に頼まれたんだ」
 それだけ言うと、その男子は机の上に紙、……素っ気ない普通の白封筒を置いてあたしから目を逸らし逃げるように立ち去った。
 いったいなんなの?

 わけもわからず開けた封筒の中の手紙を、あたしは一生忘れない。
 瞬きでシャッターを切ったみたいに、脳裏に焼き付いてる。
 短い、とても短い奥野くんの言葉。

『田尾。今までありがとう。楽しかった。さようなら』
 文字を目でなぞると同時に何も考えられないまま席を立ち、あたしはさっきの男子を追い掛けた。




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「|田尾《たお》ってさ、やっぱ春生まれ? 『さくら』って名前」
 高校二年生直前の春休みだった。
 三月末で、あたしの十七歳の誕生日の数日前。四月に入ってすぐだから、同級生でも真っ先に年取っちゃうの。
 もう桜が咲いてたのだけは覚えてるわ。毎年早くなるよね、ってそれこそ毎年のお約束みたいな会話を交わしたのも。
「そうだよ。もう来週誕生日なんだ。良くある名前だし、春以外でもつける人いるかもしれないけどね。お母さんがあたしを生んで入院してた時、窓から満開の桜見えたんだって。安易でしょー」
「そうかな。いい名前だと思うよ、俺。田尾に似合ってる。……可愛くて」
 塾で一緒だった他校の男子。
 テキスト忘れた彼に頼まれて見せたことで、なんとなく話すようになった相手だった。
「|奥野《おくの》くんも国立志望でしょ? 二人とも受かったらいいね」
 地元には、自宅通学できる国立大学は一校しかない。だから中高生が『国立』って言えばそれはもう決まってるのよ。
「うん。そしたらさ、……いや、また」
「? なに?」
「なんでもない」
 はにかんだような笑顔。優しかった男友達。
 あの時はまだ、ただの友達だった。受験があるから。恋愛にうつつ抜かしてる場合じゃない。子どもだってそれくらいの分別はあったのよ。
 ──もし同じ大学に通えていたら、きっと関係は変わってた、んじゃないかな。夢見がちな女子高生の希望だけじゃなかったと思う。今も。
 なのにその一年後、高校三年生になる少し前から奥野くんは突然塾に来なくなった。
 最初は体調でも崩したのかな、と思ってたんだ。高校は別だったし、共通の友人もいなかったから。……事情を知るまでは。
「え、と。田尾 さくらさん? 北高の」
「そう、ですけど」
 塾の講義開始前に席についてたあたしは、奥野くんと同じ制服の知らない男子生徒に声を掛けられて無意識に引き気味になってしまった。
「あー、その。奥野に頼まれたんだ」
 それだけ言うと、その男子は机の上に紙、……素っ気ない普通の白封筒を置いてあたしから目を逸らし逃げるように立ち去った。
 いったいなんなの?
 わけもわからず開けた封筒の中の手紙を、あたしは一生忘れない。
 瞬きでシャッターを切ったみたいに、脳裏に焼き付いてる。
 短い、とても短い奥野くんの言葉。
『田尾。今までありがとう。楽しかった。さようなら』
 文字を目でなぞると同時に何も考えられないまま席を立ち、あたしはさっきの男子を追い掛けた。