【1】
ー/ー
「おっと、そろそろ時間だな」
時計を確かめて、俺は駅へ向かうべく一人暮らしの部屋を出た。
この連休中、恋人の舞が遊びに来るんだ。
新緑の五月。「杜の都」と謳われる、緑溢れる仙台を訪ねるにはいい季節だった。
少し前から思いがけず仙台で働くことになり、東京に残して来た彼女とは遠距離恋愛状態になる。
超のつくインドア派であまり出掛けたがらない舞にとっては、東京から仙台への新幹線で二時間掛からない程度の道のりも「大旅行」なのは想像に難くない。それがほんの二、三か月で二度もだからな。
「仙台で行きたいとこある?」
連休に彼女がこちらに来ることになったとき。
どこを希望されてもどうにか連れて行ってやりたいと俺は意気込んで訊いた。
「……特には。彰人さんの家の近くで何かあればそこで」
それが舞の返事だった。薄々予想してた通り、観光にはあまり興味がないんだろう。
こちらで二人過ごせるのはたった四日、──移動を考えれば三日半か。どうやら俺の部屋で三泊するのがメインになりそうだ。
不満なんてあるわけないけど、どうせなら楽しませてやりたいよ。
◇ ◇ ◇
「彰人さん。わたし、今の会社辞めてこちらに来てもいいですよ」
部屋について椅子に腰を下ろし、俺が勧めたコーヒーに口をつけた彼女が唐突に切り出した。
舞は浮かんだことを不用意に口に出すようなタイプじゃない。離れている時間に、一人でずっと思い巡らせてたに違いなかった。
「そんな必要ないな。……もちろんお前が『合わないから辞めたい』とか『他にやりたいことがある』って言うなら別だけど、俺に合わせてなら嬉しくない」
「合わせる、のはそうかもしれません。でもわたしも彰人さんと一緒にいたいんです」
ひとつひとつ言葉を探すように、静かに語る彼女。
「今はそれでよくてもさ。お前には、……俺にもこの先があるだろ。焦らない方がいい。原因になった俺が言うことじゃないのはわかってるよ。でも、俺が東京に戻るにしろ、お前が転職して仙台に来るにしろ、結論出す前にもっと二人で考えないか? ──今はとにかく落ち着いて」
きっとこの子も理解してる。決して短絡的じゃない、むしろ慎重な性格だから。
その舞が、「俺といたい」とせっかく入った会社も辞めていいって言う。
その申し出が嬉しくないわけない。でも、俺はここで飛びつくわけにはいかないんだ。
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「おっと、そろそろ時間だな」
時計を確かめて、俺は駅へ向かうべく一人暮らしの部屋を出た。
この連休中、恋人の|舞《まい》が遊びに来るんだ。
新緑の五月。「杜の都」と謳われる、緑溢れる仙台を訪ねるにはいい季節だった。
少し前から思いがけず仙台で働くことになり、東京に残して来た彼女とは遠距離恋愛状態になる。
超のつくインドア派であまり出掛けたがらない舞にとっては、東京から仙台への新幹線で二時間掛からない程度の道のりも「大旅行」なのは想像に難くない。それがほんの二、三か月で二度もだからな。
「仙台で行きたいとこある?」
連休に彼女がこちらに来ることになったとき。
どこを希望されてもどうにか連れて行ってやりたいと俺は意気込んで訊いた。
「……特には。|彰人《あきひと》さんの家の近くで何かあればそこで」
それが舞の返事だった。薄々予想してた通り、観光にはあまり興味がないんだろう。
こちらで二人過ごせるのはたった四日、──移動を考えれば三日半か。どうやら俺の部屋で三泊するのがメインになりそうだ。
不満なんてあるわけないけど、どうせなら楽しませてやりたいよ。
◇ ◇ ◇
「彰人さん。わたし、今の会社辞めてこちらに来てもいいですよ」
部屋について椅子に腰を下ろし、俺が勧めたコーヒーに口をつけた彼女が唐突に切り出した。
舞は浮かんだことを不用意に口に出すようなタイプじゃない。離れている時間に、一人でずっと思い巡らせてたに違いなかった。
「そんな必要ないな。……もちろんお前が『合わないから辞めたい』とか『他にやりたいことがある』って言うなら別だけど、俺に合わせてなら嬉しくない」
「合わせる、のはそうかもしれません。でもわたしも彰人さんと一緒にいたいんです」
ひとつひとつ言葉を探すように、静かに語る彼女。
「今はそれでよくてもさ。お前には、……俺にもこの先があるだろ。焦らない方がいい。原因になった俺が言うことじゃないのはわかってるよ。でも、俺が東京に戻るにしろ、お前が転職して仙台に来るにしろ、結論出す前にもっと二人で考えないか? ──今はとにかく落ち着いて」
きっとこの子も理解してる。決して短絡的じゃない、むしろ慎重な性格だから。
その舞が、「俺といたい」とせっかく入った会社も辞めていいって言う。
その申し出が嬉しくないわけない。でも、俺はここで飛びつくわけにはいかないんだ。