第2幕 その3
ー/ー 砂の坂の上から海と海岸線を見渡す。水平線を見ていると地球平面説を信じたくなるような、やっぱり球体に思えるようなそんな気がした。
メメ子を先頭に坂の下にある海辺へと降りていく。海風が心地よいが砂が結構熱い。時折足の砂を払って熱さまししながら進んでいく。
「海だー」
一番乗りを切ったメメ子がバシャバシャと砂浜を駆けていく。今日の波は穏やかだ。波が寄せてはを返すのをずっと見ていられるな。 遅れて追いついたデス子が水を掛けるフリをしてメメ子をからかう。やったなーと本当に少し波をすくってかけるメメ子。冷たーいとはしゃぐデス子。
平和だなぁと微笑ましく眺めていたら、少し右奥にJKの集団がいた。何だか知らないが楽しそうに笑っていた。 つい見比べてしまう。メメ子とデス子とJKと。みんな夏の太陽を受けてにぱーっと笑っている。
リスカ痕以外は同じなのになと思った。勿論向こうのJKの悩みやら何やらは知る由もないが。
「どうもキラキラJKになりたかった人生だったネキでーすー」
向こうを観察していたのがバレたのか、メメ子がいきなりに自虐してくる。
確かにJKブランドは強い。TikTokのショート動画は大体JKが踊ってる。さすらいネキも流行ってる。ルッキズムか。
当の本人たちはどうなんだろう。記号化された青春。日めくりカレンダーのように過ぎるそれが最後のモラトリアムだと知ってるのかもしれない。その後はもう懲役刑だと。
「どうしてワイちゃんの動画がセカイでバズらないんですか」
現場猫(電話猫)の真似をしながらメメ子が継いだ。
「どうしてですかねぇ」「メメ子面白いのにね」
デス子と返事がかぶった。ごめんと軽く笑いかけて、
「誰かCreapyNutsのBlingBangBangBornの替え歌、BlingBangBangブロン踊ってクレメンス」
「何それー」
うまく伝わらなかったようなので俺は自分のTikTok垢を立ち上げると、BlingBangBangBornをBGMにぬいぐるみが咳止めのブロン瓶とワチャワチャしてる動画を見せた。
「あははーかわいいー」
「くまさん可愛いね」
「親友のちびくまちゃんやで」
「そっか。堂島さんODするんだったねー」
「まあ少しね」
何となくごまかすようにサムズアップする。
「昔ノーシンODして死んだよーワイちゃん」
「どうして鎮痛剤なんかオーバードーズしたんですか」
「どうしてですかねぇ」
狙った通りの"天丼"的返しをしたメメ子に思わず吹き出す。視界の端のデス子も笑いを堪えきれなかったようだ。
市販の鎮痛剤はODしたことがない。基本的に気持ち良くなる成分が入っていないからだ。オピオイド系だとアメリカで社会問題化したようにまた違うのだろうが。
「ワイちゃん整形しようかなー」
メメ子が水面を見つめつつ言う。
「えー私もしたい!」
デス子が同調する。
「おー一緒にしよしよー」
しばしして砂浜に丁度いい流木があったので座ってまだ元気にはしゃぐ二人を眺める。病んでいたって元気に笑う瞬間はたくさんあるさ。 いつの間にかJK集団はまたぞろ帰っていったので無駄な心配をしなくていい。 良き良きと一人うなずきながらスマホから曲を流した。トップに挙がっていたYENTOWN「不幸中の幸い」を再生。 心地よい曲調の曲だ。不幸中の幸い。不幸の中の幸せ。
少し日が陰ってオレンジ色を伴い始めた。 夕焼け時間。寄せては返す波。傷ついた少女たち。太陽みたいに笑ってる。不幸中の幸い。
いろんな情報が頭をめぐる。パンクしそうな感覚がなんだか心地よかった。
「んー疲れたー」
波打ち際から離れてきたメメ子。後ろにはデス子。
「ポカリ飲む? ぬるくなってるけど」
「おおー」
「あ、デス子さんのもあるよ」
「ありがとうございます」
自然な感謝の言葉に思えた。ヨシだな。なんか餌付けばかりしてないか?
「そろそろ帰ろー」
ポカリで一息ついてメメ子が言う。
「もうすぐ夕方だ」
俺の言葉に促されるようにして二人が太陽を見た。
「バスは15分後だってさ――」
そう言いかけて何か異変を感じる。メメ子が少しよろめいた。そしてそのまましゃがみ込んだと思ったらまたすぐ立ち上がるとせわしなくうろつき始めた。
なんだ? 視線でデス子に問いかけようとしたが彼女は既にメメ子に近づいていた。優しく手を握る。メメ子はもう泣いている。
――パニック発作か!
メメ子の自己紹介カードの内容を思い出す。しかもちょっとひゅーと音が聞こえる。これ過呼吸じゃないのか?
思い付いたのはコンビニ袋を渡すことだった。近づこうとしてデス子に手で制させる。
拒絶というよりは任せろの意に感じた。コンビニ袋と自分の頓服のデパスを渡してどうしたもんかとあたりを見渡す。今砂浜にいるのは数名でどれも俺たちから遠かった。
本当はパニックや過呼吸の対処をググりたかったが気が引ける。そもそもじろじろ見るべきなのか迷って結局、二人が日陰になるような位置に陣取って太陽とにらめっこすることにした。
背後からの気配に集中するがよくわからない。でも優しく姉か母親でもあるようになだめているようだ。本当に親友なんだなとその時初めて感じた。
「おまたせ」
小さな声でデス子から声がかかる。
「うん。えっと……」
「ワイちゃん復活ー」
涙痕を隠そうともせずメメ子が元気よく言う。 現場猫ポーズでヨシをして帰路へ着くことにした。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。