表示設定
表示設定
目次 目次




【1】③

3/4



「嬉しい。──あたしも、あげたのとお揃いのペン今も使ってるんだよ。学校行くとき、ペンケースに入れて毎日持ち歩いてるの。さすがに今日は持ってないけど」
 口先だけではなく心からの喜びが窺える彼女の表情に、宏基の鼓動はより高鳴って行く。

 八年近く前から止まったままだった時間が、ようやく動き出した。
 今を逃せば、きっと二度と二人の生きる道は重ならない。一瞬交差して、また離れて行くだけだ。
 そんな予感がした。
 久しぶりの再会は、きっとだ。彼女の存在を忘れたことはないが、今日会えるなどと頭の片隅にもなかった。

「三倉さん。──後で連絡するから」
 同窓会がお開きになって、帰り掛けの喧騒の中。

「うん、待ってる。ありがと」
 喉がカラカラになりながらもなんとか絞り出した宏基の台詞に、陽奈ははにかんだように笑ってくれた。
 後悔の日々は今日で終わりにしよう。明日からは、彼女との関係が変わるといい。
 単なる懐かしい幼友達だけではなく、ひとつその先へ。移り変わろうとする季節とともに、鮮やかに。


    ◇  ◇  ◇
《三倉さん、小野寺です。今日はすごく楽しかったね。もしよかったらまた会いたいです。予定教えてもらえないかな。》
 早速、帰宅して一息つくなり彼女に送ったメッセージ。

《メッセありがとう、小野寺くん。あたし、明日は大学三限で終わるの。だから夕方でよければ会えるよ。小野寺くんはどう?》

《俺は明日、午前中で終わり! 早い方がいいから明日会いたい。》
 ほぼリアルタイムのやり取りで、とんとん拍子に話が進んだ。

 ──互いに「会いたい」気持ちがあるからだ、と嬉しくなる。

 待ち合わせは二人の大学のちょうど中間にあたる街。
 生憎小雨の降る中、翌日の夕方に駅で落ち合った。とりあえず屋内に、とリーズナブルで名の通ったファミリーレストランに向かい食事をしたのだ。
 どこにでもある行き慣れた店で、よく知らない街では他に何も浮かばなかった。切り出した際に彼女も難色を示さなかったので、問題があるとは考えもしなかった。

 のちに「初デートでファミレスに連れて行く男なんてその時点でNG」という女性側の意見を耳にした時は青褪めたものだ。

「はあ!? あたしあのお店大好き~。美味しいじゃない? 気楽に一杯食べてもお安くて学生には安心だしさ。いや、なんか食べたくなって来た! これから行かない?」
 冷や汗の出る気分で謝った宏基を、恋人は明るく笑い飛ばした。



write-comment-iconコメントを書く
write-comment-iconレビューを書く



comment-icon新着コメント



コメントはありません。投稿してみようっ!


表示設定 表示設定
ツール 目次
前のエピソード 【1】②

【1】③

3/4

「嬉しい。──あたしも、あげたのとお揃いのペン今も使ってるんだよ。学校行くとき、ペンケースに入れて毎日持ち歩いてるの。さすがに今日は持ってないけど」
 口先だけではなく心からの喜びが窺える彼女の表情に、宏基の鼓動はより高鳴って行く。

 八年近く前から止まったままだった時間が、ようやく動き出した。
 今を逃せば、きっと二度と二人の生きる道は重ならない。一瞬交差して、また離れて行くだけだ。
 そんな予感がした。
 久しぶりの再会は、きっとだ。彼女の存在を忘れたことはないが、今日会えるなどと頭の片隅にもなかった。

「三倉さん。──後で連絡するから」
 同窓会がお開きになって、帰り掛けの喧騒の中。

「うん、待ってる。ありがと」
 喉がカラカラになりながらもなんとか絞り出した宏基の台詞に、陽奈ははにかんだように笑ってくれた。
 後悔の日々は今日で終わりにしよう。明日からは、彼女との関係が変わるといい。
 単なる懐かしい幼友達だけではなく、ひとつその先へ。移り変わろうとする季節とともに、鮮やかに。


    ◇  ◇  ◇
《三倉さん、小野寺です。今日はすごく楽しかったね。もしよかったらまた会いたいです。予定教えてもらえないかな。》
 早速、帰宅して一息つくなり彼女に送ったメッセージ。

《メッセありがとう、小野寺くん。あたし、明日は大学三限で終わるの。だから夕方でよければ会えるよ。小野寺くんはどう?》

《俺は明日、午前中で終わり! 早い方がいいから明日会いたい。》
 ほぼリアルタイムのやり取りで、とんとん拍子に話が進んだ。

 ──互いに「会いたい」気持ちがあるからだ、と嬉しくなる。

 待ち合わせは二人の大学のちょうど中間にあたる街。
 生憎小雨の降る中、翌日の夕方に駅で落ち合った。とりあえず屋内に、とリーズナブルで名の通ったファミリーレストランに向かい食事をしたのだ。
 どこにでもある行き慣れた店で、よく知らない街では他に何も浮かばなかった。切り出した際に彼女も難色を示さなかったので、問題があるとは考えもしなかった。

 のちに「初デートでファミレスに連れて行く男なんてその時点でNG」という女性側の意見を耳にした時は青褪めたものだ。

「はあ!? あたしあのお店大好き~。美味しいじゃない? 気楽に一杯食べてもお安くて学生には安心だしさ。いや、なんか食べたくなって来た! これから行かない?」
 冷や汗の出る気分で謝った宏基を、恋人は明るく笑い飛ばした。



write-comment-iconコメントを書く
write-comment-iconレビューを書く



comment-icon新着コメント



コメントはありません。投稿してみようっ!