【1】①
1/4 会場の店に着き、宏基は入り口のガラスドアを押し開けた。
「あの、同窓会なんですが。あ、南第一小学校、の」
迎えてくれた店員にそう告げると、笑顔で奥に案内される。
今日は、小学校の初めての同窓会にやって来たのだ。
大学に入学してひと月と少し経ち、季節はもう初夏。晴天の日中なら半袖でも過ごせるくらいになった。
「こちらになります」
先導してくれた店員に礼を述べてパーテーションで区切られたその一角に足を踏み入れる。
「おー! 小野寺、久しぶりぃ」
一番手前のテーブルで受付をしていたらしい男子が、片手を上げて呼び掛けて来た。
「佐野」
考えるまでもなく、彼の名が口をついて出ていた。
小学校の同級生とは大半が中学卒業以来になる。それも一学年二クラスだけだった小学校と違い、七クラスあった中学では疎遠になってしまったメンバーも含めて、の話だ。
なのに、ほんの一瞬で記憶が蘇った。変わったのに変わっていない。おそらくは自分も同様なのだろう。
「覚えててくれてサンキュ。あ、受付してって」
「小野寺くん、これ席順のくじ引いて~」
佐野の言葉に、隣に座っていた女子がくじの入っているらしい紙袋を差し出して来る。
「あ、うん。えっと、津島さん?」
女子はさすがに髪型や化粧もあって、変わり具合が男子の比ではなかった。当然、親しさの度合いそのものも異なる。
そのため多少疑問符付ではあったものの、すっと名が出て宏基は逆に驚きを覚えた。
「そうそう。卒業してもう六年経つけど意外とわかるもんだよね。中学も一緒の子多いからかもしれないけど」
そういえば、同窓会の案内に幹事としてこの二人の名が記されていたような、と思い当たる。
「今日は何人くらい来るの?」
割り当てられたスペースはそれほど広くはないように感じられた。宏基の問いに佐野が答えてくれる。
「二十人ってとこ。やっぱ小学校じゃなかなか集まんないか。まー大学進学で遠く行った奴らもいるし、浪人組はそれどころじゃないみたいだしな」
話しながらくじを引いて席を決め、会費を払った。
「きゃー、陽奈ちゃん!?」
受付も済ませて、幹事を労い席に向かおうかと顔を上げたタイミングで甲高い歓声が上がったのを耳が拾う。
思わずそちらに目を向けた瞬間、宏基は己を取り巻く世界のすべてがスローモーションに切り替わった気がした。
「……み、くらさん」
無意識に零れた呟きに、津島が即座に反応する。
「あ、そーなの! 陽奈ちゃん、東京の大学来たんだよね。別に『六年一組二組の同窓会』じゃないからいいでしょ?」
二クラスで六年過ごし全員がクラスメイトのようなものなので、特に『何年何組』と対象クラスを区切らす学年全体の同窓会という括りらしい。
「そ、れはいいんじゃない? うん、別に」
津島の言葉に何とか相槌を打って、宏基は足元がおぼつかないまま奥のテーブルの方へ進んだ。
三倉 陽奈は、五年生の夏に名古屋へと転校して行った元クラスメイトだ。宏基の、淡い初恋の相手でもある。
芽生えてすぐに目の前から立ち消えた恋の。
「あの、同窓会なんですが。あ、南第一小学校、の」
迎えてくれた店員にそう告げると、笑顔で奥に案内される。
今日は、小学校の初めての同窓会にやって来たのだ。
大学に入学してひと月と少し経ち、季節はもう初夏。晴天の日中なら半袖でも過ごせるくらいになった。
「こちらになります」
先導してくれた店員に礼を述べてパーテーションで区切られたその一角に足を踏み入れる。
「おー! 小野寺、久しぶりぃ」
一番手前のテーブルで受付をしていたらしい男子が、片手を上げて呼び掛けて来た。
「佐野」
考えるまでもなく、彼の名が口をついて出ていた。
小学校の同級生とは大半が中学卒業以来になる。それも一学年二クラスだけだった小学校と違い、七クラスあった中学では疎遠になってしまったメンバーも含めて、の話だ。
なのに、ほんの一瞬で記憶が蘇った。変わったのに変わっていない。おそらくは自分も同様なのだろう。
「覚えててくれてサンキュ。あ、受付してって」
「小野寺くん、これ席順のくじ引いて~」
佐野の言葉に、隣に座っていた女子がくじの入っているらしい紙袋を差し出して来る。
「あ、うん。えっと、津島さん?」
女子はさすがに髪型や化粧もあって、変わり具合が男子の比ではなかった。当然、親しさの度合いそのものも異なる。
そのため多少疑問符付ではあったものの、すっと名が出て宏基は逆に驚きを覚えた。
「そうそう。卒業してもう六年経つけど意外とわかるもんだよね。中学も一緒の子多いからかもしれないけど」
そういえば、同窓会の案内に幹事としてこの二人の名が記されていたような、と思い当たる。
「今日は何人くらい来るの?」
割り当てられたスペースはそれほど広くはないように感じられた。宏基の問いに佐野が答えてくれる。
「二十人ってとこ。やっぱ小学校じゃなかなか集まんないか。まー大学進学で遠く行った奴らもいるし、浪人組はそれどころじゃないみたいだしな」
話しながらくじを引いて席を決め、会費を払った。
「きゃー、陽奈ちゃん!?」
受付も済ませて、幹事を労い席に向かおうかと顔を上げたタイミングで甲高い歓声が上がったのを耳が拾う。
思わずそちらに目を向けた瞬間、宏基は己を取り巻く世界のすべてがスローモーションに切り替わった気がした。
「……み、くらさん」
無意識に零れた呟きに、津島が即座に反応する。
「あ、そーなの! 陽奈ちゃん、東京の大学来たんだよね。別に『六年一組二組の同窓会』じゃないからいいでしょ?」
二クラスで六年過ごし全員がクラスメイトのようなものなので、特に『何年何組』と対象クラスを区切らす学年全体の同窓会という括りらしい。
「そ、れはいいんじゃない? うん、別に」
津島の言葉に何とか相槌を打って、宏基は足元がおぼつかないまま奥のテーブルの方へ進んだ。
三倉 陽奈は、五年生の夏に名古屋へと転校して行った元クラスメイトだ。宏基の、淡い初恋の相手でもある。
芽生えてすぐに目の前から立ち消えた恋の。
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