表示設定
表示設定
目次 目次




最接近5年前

ー/ー



最初にそれを見つけたのは、地方の山間部に住む、名もなきアマチュア天文家だった。

彼は毎日のように裏山に小さな望遠鏡を据え、星図とにらめっこしながら、“誰も知らない星を見つける”という子どもの頃からの夢を追い続けていた。
ある日の夕暮れの終わり、春の空気はまだ冷たく、虫の声もまばらな中、彼はいつものように星を眺めていた。

ふと視界の端で、星図にない暗い点が動いた。

最初は人工衛星かと思った。
しかし、軌道が違う。
人工衛星にしては、速度も遅い。
何より、暗すぎた。
「…小惑星か?」

彼は焦りながら望遠鏡の角度を微調整し、星図と照らし合わせ、データを記録し始める。
数分後、彼は興奮に震えていた。

サンワードアプローチ―太陽の方向から来る天体は観測が難しい。
それでも、これは既知の人工衛星とも、小惑星とも動きが合わない。
光度の割に、わずかな時間で位置が変わりすぎる。
まるで、見た目よりもずっと近くにあるかのようだ。

彼は震える指で、国際天文学連合の観測ネットにデータを送信した。

数日後、世界がざわつき始める。
最初に反応したのは、海外の天文フォーラムだった。

「太陽の方向からやって来た新天体?」
「暗すぎる。アルベド低すぎじゃないか?」
「ケレス級?」
「名前は?誰が見つけた?」

SNSでは“#謎の天体”がトレンド入りし、科学系YouTuberたちがこぞって動画を上げ始めた。

そしてさらに数日後、国際天文学連合は正式に発表した。

―新天体『ウルゴス』発見

その名は、最初に発見したアマチュア天文家の希望で、古代語で“影の主”を意味する言葉から取られた。
ウルゴスは、光度の割に動きが速く、既知の小惑星とは明らかに異なる軌道を持つ“異常天体”とされた。

そして数年後、地球のすぐ近くを通過する。

衝突の危険はない。
天文学者たちはそう断言した。

世界は浮き立った。
「世紀の天体ショーだ!」
「人類史上最大の接近!」
「観測史に残るイベント!」

テレビは特集を組み、科学館は特別展示を始め、学校でも話題になった。
ウルゴスの軌道は度々ニュースで報じられ、世界中の人々が空を見上げるようになった。

誰もが期待していた。
数千年に一度の天体ショーが見られると。
誰も知らなかった。
その天体が、文明の終わりを連れてくることを。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 最接近8時間前


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



最初にそれを見つけたのは、地方の山間部に住む、名もなきアマチュア天文家だった。
彼は毎日のように裏山に小さな望遠鏡を据え、星図とにらめっこしながら、“誰も知らない星を見つける”という子どもの頃からの夢を追い続けていた。
ある日の夕暮れの終わり、春の空気はまだ冷たく、虫の声もまばらな中、彼はいつものように星を眺めていた。
ふと視界の端で、星図にない暗い点が動いた。
最初は人工衛星かと思った。
しかし、軌道が違う。
人工衛星にしては、速度も遅い。
何より、暗すぎた。
「…小惑星か?」
彼は焦りながら望遠鏡の角度を微調整し、星図と照らし合わせ、データを記録し始める。
数分後、彼は興奮に震えていた。
サンワードアプローチ―太陽の方向から来る天体は観測が難しい。
それでも、これは既知の人工衛星とも、小惑星とも動きが合わない。
光度の割に、わずかな時間で位置が変わりすぎる。
まるで、見た目よりもずっと近くにあるかのようだ。
彼は震える指で、国際天文学連合の観測ネットにデータを送信した。
数日後、世界がざわつき始める。
最初に反応したのは、海外の天文フォーラムだった。
「太陽の方向からやって来た新天体?」
「暗すぎる。アルベド低すぎじゃないか?」
「ケレス級?」
「名前は?誰が見つけた?」
SNSでは“#謎の天体”がトレンド入りし、科学系YouTuberたちがこぞって動画を上げ始めた。
そしてさらに数日後、国際天文学連合は正式に発表した。
―新天体『ウルゴス』発見
その名は、最初に発見したアマチュア天文家の希望で、古代語で“影の主”を意味する言葉から取られた。
ウルゴスは、光度の割に動きが速く、既知の小惑星とは明らかに異なる軌道を持つ“異常天体”とされた。
そして数年後、地球のすぐ近くを通過する。
衝突の危険はない。
天文学者たちはそう断言した。
世界は浮き立った。
「世紀の天体ショーだ!」
「人類史上最大の接近!」
「観測史に残るイベント!」
テレビは特集を組み、科学館は特別展示を始め、学校でも話題になった。
ウルゴスの軌道は度々ニュースで報じられ、世界中の人々が空を見上げるようになった。
誰もが期待していた。
数千年に一度の天体ショーが見られると。
誰も知らなかった。
その天体が、文明の終わりを連れてくることを。