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第36話 儚い平穏

ー/ー




「これお父さんが作ったのー?! すごーいっ!」

 数分前に目を覚ましたあたしは、お父さんの力作──らしい、先ほど話題に上げた紫ニキシー管時計を両手に抱え、目を輝かせて子どものようにはしゃいでいた。

「ニナニナにも、見せて見せて──っ!!」

 あたしと同様に隣に座る小女も、掻()き立てられる好奇心旺盛を抑えられなかったようで、身を乗り出してくる。

「おいおい。盛り上がるのは構わないが、割れもんだから丁重に扱ってくれよ?」
「もっちろんっ!」
「うんっ!」

 ほぼ同時に返事を返したあたしと小女は、顔を見合って可笑しさのあまり思わず吹き出した。

「ほんっと……姉妹だな──」

 ポケットに右手を突っ込み、お父さんは何やらガサゴソと手を動かす。

「ほらよっ」

 手に何かを握ったと思うのも束の間。
 投げ渡されたことを思考で理解するよりも先にあたしの体が動く。

「これは────」

 膝上にニキシー管時計を置き、反射的に触腕でキャッチしたそれは十字架を模した3つの小物──イヤリング、前髪を留めるためのヘアピン、チェーンネックレス──だった。
 黄緑のヘアピンは爽やかで癒しの印象がある反面、銀色である残る2つを一段と冷たく光らせている。

「それらは離さず持っておきなさい」
「うん──分かった」
 
 間髪入れずにあたしはそう返し、すぐさま行動を開始。
 まずはイヤリングを着けようと、自身の腰まである長い髪を耳にかけ、両手でイヤリングを開く。
 次に耳たぶを軽く指でつまみながら外側に引っ張り、もう片方の手でしっかりと挟み込み強めに押さえる。
 黙々と反対側の耳にも、同様な手順でそれを行う。
 イヤリングを左右両方の耳に着け終えたところで、見栄えが悪いと感じ位置の最適解を探す。
 手鏡は持ち合わせていないので、都度あたしは車内のバックミラーで位置確認しつつ、微調整を繰り返す。
 最後にイヤリングを下に優しく引っ張り、落ちないことをチェックした後、あたしは(やわ)い耳たぶから手を離した。
 そして支えを失った長い髪は重力に従って落下する。

 チャリンッ

 それと同時に髪が僅かにかすり、片側の耳飾りは揺れ、その特有の音が車内へ響く。
 続いて手に取ったチェーンネックレスを首から下げると、ジャラッと音を立てる。
 あたしはそれに接吻(せっぷん)を施し、残される最終工程へと移った。
 ラストは指先でスッと前髪を払い、パチンとヘアピンを弾いて──セット完了っ!!

「んっ、なあに?」

 服の裾を誰かに引っ張られ、そちらに視線を向ける。

「ねぇねぇっ! ニナニナにもないのーっ?!」

 小女の純粋な眼差しが、あたしの瞳を見つめて離さない。

「そうね──ちょっと待ってね」

 今しがた前髪に留めたヘアピンが弾かれると、再びパチンと音を鳴らす。
 それをそっと小女の天真爛漫でかわいらしいおでこへと、あたしは持っていく。
「はやく、はやくーっ!」
「はいはい。慌てないの──」
 ヘアピンから奏でられる音が、あたしとこの子に不思議と繋がりがあるような感覚を覚えさせた。
「──よしっ、できた。いい仕上がりでしょっ?」
「わーい、クーちゃんのだっ! わーいっわーいっ!」
「ふふっ、変な子ね。あたしからもらったのがそんなに嬉しい?」
 この時……ちらりとルームミラー越しに注がれた視線が、瞬時に逸らされたのを──あたしは見逃さなかった。

「ん……? どうかしたの? お父さん──?」

 その視線の正体は他でもない。あたしのお父さんだった。

「いや……何でもない。気にしないでくれ」

 一方的に話を打ち切られてしまった。

「ふーんっ。変なのー」

 当然ここで諦めたりするあたしではない。
 そんな不器用でぶっきらぼうなお父さんに対し、助け舟としてあたしは話題を切り出すことにする。

「……どこに向かってるのー?」
「着いてからのお楽しみだ──」

 ありゃ、即答。しかも、一瞬で終わっちゃった。10秒も経ってないのに。
 会話のキャッチボールが成立しない……違う、させてもらえないのか、これは……?
 偶然? 意図して? それとも────
 そんな感じに脳内で思考を巡らしていて、ふと自身の服装に目が行く。
 てか、今気付いたけど──どうしてあたしはこんな格好を?!

 ────ハレンチなっ!? 

 羞恥により急速的に頬を紅潮させてしまう。
 身体のラインと、お、おお、おっ、お尻が──くっきりと出過ぎよ。
 死ぬほど恥ずかしいじゃない……これっ!! 
 はあ──だったら服着てない方が、絶対にマシよ……っ! 
 
「お父さん、って……警察官、なのっ? 研究者、じゃなくって?」

 恥ずかしさで悶絶する中、あたしは必死に言葉を振り絞る。
 てゆうか、あたしの服を見てお父さん何とも思わないわけっ?!

「……今は市民を守る警官だ」
「へぇ~。そ、そうなんだ〜。ふ~んっ。お父さん、か、カッコうぃーっ!」

 声が裏返ってしまった、最悪である。

「ありがとな。そう言ってもらえるだけで、俺は嬉しいぞ」
「あっ、うん。そ、そだねー。あははっ……」

 恥ずい恥ずい、めっちゃ恥ずいって!
 お父さんは特に気にしてる様子はないけど……あたしだけ意識してるみたいで、何だか癪ね。
 そんなやり取りを繰り返すうちに、あたしたちは目的地へと到着した。

 


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次のエピソードへ進む 第37話 非合理な兵器開発計画


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「これお父さんが作ったのー?! すごーいっ!」
 数分前に目を覚ましたあたしは、お父さんの力作──らしい、先ほど話題に上げた紫ニキシー管時計を両手に抱え、目を輝かせて子どものようにはしゃいでいた。
「ニナニナにも、見せて見せて──っ!!」
 あたしと同様に隣に座る小女も、掻《か》き立てられる好奇心旺盛を抑えられなかったようで、身を乗り出してくる。
「おいおい。盛り上がるのは構わないが、割れもんだから丁重に扱ってくれよ?」
「もっちろんっ!」
「うんっ!」
 ほぼ同時に返事を返したあたしと小女は、顔を見合って可笑しさのあまり思わず吹き出した。
「ほんっと……姉妹だな──」
 ポケットに右手を突っ込み、お父さんは何やらガサゴソと手を動かす。
「ほらよっ」
 手に何かを握ったと思うのも束の間。
 投げ渡されたことを思考で理解するよりも先にあたしの体が動く。
「これは────」
 膝上にニキシー管時計を置き、反射的に触腕でキャッチしたそれは十字架を模した3つの小物──イヤリング、前髪を留めるためのヘアピン、チェーンネックレス──だった。
 黄緑のヘアピンは爽やかで癒しの印象がある反面、銀色である残る2つを一段と冷たく光らせている。
「それらは離さず持っておきなさい」
「うん──分かった」
 間髪入れずにあたしはそう返し、すぐさま行動を開始。
 まずはイヤリングを着けようと、自身の腰まである長い髪を耳にかけ、両手でイヤリングを開く。
 次に耳たぶを軽く指でつまみながら外側に引っ張り、もう片方の手でしっかりと挟み込み強めに押さえる。
 黙々と反対側の耳にも、同様な手順でそれを行う。
 イヤリングを左右両方の耳に着け終えたところで、見栄えが悪いと感じ位置の最適解を探す。
 手鏡は持ち合わせていないので、都度あたしは車内のバックミラーで位置確認しつつ、微調整を繰り返す。
 最後にイヤリングを下に優しく引っ張り、落ちないことをチェックした後、あたしは柔《やわ》い耳たぶから手を離した。
 そして支えを失った長い髪は重力に従って落下する。
 チャリンッ
 それと同時に髪が僅かにかすり、片側の耳飾りは揺れ、その特有の音が車内へ響く。
 続いて手に取ったチェーンネックレスを首から下げると、ジャラッと音を立てる。
 あたしはそれに接吻《せっぷん》を施し、残される最終工程へと移った。
 ラストは指先でスッと前髪を払い、パチンとヘアピンを弾いて──セット完了っ!!
「んっ、なあに?」
 服の裾を誰かに引っ張られ、そちらに視線を向ける。
「ねぇねぇっ! ニナニナにもないのーっ?!」
 小女の純粋な眼差しが、あたしの瞳を見つめて離さない。
「そうね──ちょっと待ってね」
 今しがた前髪に留めたヘアピンが弾かれると、再びパチンと音を鳴らす。
 それをそっと小女の天真爛漫でかわいらしいおでこへと、あたしは持っていく。
「はやく、はやくーっ!」
「はいはい。慌てないの──」
 ヘアピンから奏でられる音が、あたしとこの子に不思議と繋がりがあるような感覚を覚えさせた。
「──よしっ、できた。いい仕上がりでしょっ?」
「わーい、クーちゃんのだっ! わーいっわーいっ!」
「ふふっ、変な子ね。あたしからもらったのがそんなに嬉しい?」
 この時……ちらりとルームミラー越しに注がれた視線が、瞬時に逸らされたのを──あたしは見逃さなかった。
「ん……? どうかしたの? お父さん──?」
 その視線の正体は他でもない。あたしのお父さんだった。
「いや……何でもない。気にしないでくれ」
 一方的に話を打ち切られてしまった。
「ふーんっ。変なのー」
 当然ここで諦めたりするあたしではない。
 そんな不器用でぶっきらぼうなお父さんに対し、助け舟としてあたしは話題を切り出すことにする。
「……どこに向かってるのー?」
「着いてからのお楽しみだ──」
 ありゃ、即答。しかも、一瞬で終わっちゃった。10秒も経ってないのに。
 会話のキャッチボールが成立しない……違う、させてもらえないのか、これは……?
 偶然? 意図して? それとも────
 そんな感じに脳内で思考を巡らしていて、ふと自身の服装に目が行く。
 てか、今気付いたけど──どうしてあたしはこんな格好を?!
 ────ハレンチなっ!? 
 羞恥により急速的に頬を紅潮させてしまう。
 身体のラインと、お、おお、おっ、お尻が──くっきりと出過ぎよ。
 死ぬほど恥ずかしいじゃない……これっ!! 
 はあ──だったら服着てない方が、絶対にマシよ……っ! 
「お父さん、って……警察官、なのっ? 研究者、じゃなくって?」
 恥ずかしさで悶絶する中、あたしは必死に言葉を振り絞る。
 てゆうか、あたしの服を見てお父さん何とも思わないわけっ?!
「……今は市民を守る警官だ」
「へぇ~。そ、そうなんだ〜。ふ~んっ。お父さん、か、カッコうぃーっ!」
 声が裏返ってしまった、最悪である。
「ありがとな。そう言ってもらえるだけで、俺は嬉しいぞ」
「あっ、うん。そ、そだねー。あははっ……」
 恥ずい恥ずい、めっちゃ恥ずいって!
 お父さんは特に気にしてる様子はないけど……あたしだけ意識してるみたいで、何だか癪ね。
 そんなやり取りを繰り返すうちに、あたしたちは目的地へと到着した。