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第77話 苛立ちの王子

ー/ー



 食堂を抜け出したバタフィー王子は、結局、先程の部屋まで戻ってきてしまった。
 部屋の中に入ったバタフィー王子は、机に手をつきながら、顔を真っ青にしている。一体何があってこうなったのだ。

「バタフィー、大丈夫か? 顔色が優れないようだが……」

 さすがのマルガンも、バタフィー王子のただならぬ様子に落ち着いていられない。どうしたものかとあたふたしている。

「くそっ、なんだ、あの気持ち悪い空間は……」

「ば、バタフィー。一体どうしたっていうんだ。あそこは、学園の食堂だぞ?」

 あまりにも強い嫌悪感を示すバタフィー王子の様子に、マルガンはまったく理解ができないようだった。
 マルガンからしてみれば、普段と何も変わらない学園の食堂だったというのに、何が一体、バタフィー王子を苦しめているのか。そのことにまったく理解が追いつかないのである。
 混乱するマルガンを、顔を青ざめさせたまま、バタフィー王子が睨みつける。その呼吸はとにかく荒い。

「お前は、あの場に何も感じなかったのか?」

 バタフィー王子はマルガンに強い口調で迫っている。

「わ、私は何も感じなかったよ。いつもの学園の食堂でしかなかった」

「そうか……。お前には分からなかったか、あの異様な雰囲気が」

「い、異様?」

 唇を強くかみしめながら話すバタフィー王子の言葉は、マルガンにはまったく理解できない内容だった。
 一体バタフィー王子は、あの場に何を感じ取ったというのだろうか。気になるマルガンは、詳しく聞いてみることにする。

「分からんが、あの場に入った瞬間、ねじ曲がったかのような魔力の流れが感じられてな。俺はその魔力に酔わされかかったんだ」

「ねじ曲がった魔力? 一体それはどういうことなんだ、バタフィー」

 バタフィーから詳しい話を聞いても、マルガンにはまったく理解できない話だった。どうやら、バタフィーだけが、あの空間の異常を感じ取ることができたようなのである。
 このままではまったくもって話は平行線だ。バタフィー王子は話を諦めて、気持ち悪くなった状態を落ち着けるために、ソファーにだらしなくもたれかかっている。

「くそっ……。こういう時にホーネット家が役に立てばいいのだがな……」

 バタフィー王子は、ソファーにもたれかかったまま、顔の上に腕を置いてつぶやいている。

「ホーネット伯爵家……。ご息女であるメープル嬢が亡くなられてからというもの、すっかり意気消沈しているものな。数百年に一度の天才といわれた少女ですら、魔族には敵わなかったとは……」

 バタフィー王子の言葉を受けて、マルガンも苦虫をかみつぶしたかのような表情を浮かべている。ホーネット伯爵家の一件は、王国にいまだに深刻な影響を与えているようなのだ。
 聖女が現れずに教会の力が弱まっているというのに、そこに追い打ちをかけるかのように、魔法使いたちの力も弱まってしまっている。
 イクセン王国は、現状、王家の力だけでどうにかなっている状況なのだ。なんともいえない、悩ましい状況なのである。
 だが、バタフィー王子は次期国王として、この問題を放ってはおけない。なので、学園生活がおろそかになっても、いろいろと問題の対応にあたっていたのだ。

「それだというのに、なんだ、この学園の中の空気の歪みというのは……。問題が解決するどころか、悪化の一途だ。……くそっ!」

 現実を突きつけられたバタフィー王子は、体を起こすとそのまま目の前の机を力強く叩いていた。
 まだ十三歳の少年とは思えないくらいにその力は強く、よく見ると机に小さくひびが入っている。バタフィー王子の精神状態が、どれだけ不安定なものかを物語っているのだ。

「それにしても、どうするっていうのさ、バタフィー。感じただけじゃ、原因を特定できないだろう?」

「ああ、そうだな……」

 カリカリするバタフィー王子ではあるものの、さすがに友人からの真っ当な指摘を受けてしまっては、黙り込むしかなかった。
 違和感を感じるとはいえど、その原因の絞り込みには至らなかったのだ。あまりに気持ち悪すぎて、すぐにその場を離れてしまったのは、実に痛恨の判断ミスだろう。
 とはいえど、バタフィー王子は、その場に長く居続けるだけのに体力が存在してしなかった。不調に見舞われる前にその場を離れられたのは、実にナイス判断だったと言ってもいいくらいである。
 しかし、それとは引き換えに、なんとも言い知れない恐怖を感じたのは間違いないだろう。

「バタフィー、講義が終わってから、もう一度食堂に行ってみるか?」

「ああ、そうだな。何事もなければいいのだが、もし何かあったとしたら、早急に何か対策を講じなければならないな……。実に汚らわしい話だ」

 マルガンの提案に、バタフィー王子は乗るようである。
 時間を改めて向かうことで、もしかしたら状況が改善している可能性があるからだ。そうすれば、自分が気分が悪くなった原因を突き止めることができるかも知れない。

「だが、今は動く時じゃないな。気分がすこぶる悪いから、回復を待たないことには動けない。くそっ、せっかく久しぶりに学園に来たというのに、実に不愉快だ」

「そうカリカリするなよ。未来の国王なれば、冷静さを持っていないことには務まらないんだからな」

「ああ、気をつけるよ」

 マルガンとの話を終えたバタフィーは、もう一度、ソファーにもたれかかって気分が回復するのを待つことにする。
 自分がいない間に、一体学園に何が起きたのか。
 バタフィー王子の気が休まる時は、どうやらひと時もなさそうだった。


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 食堂を抜け出したバタフィー王子は、結局、先程の部屋まで戻ってきてしまった。
 部屋の中に入ったバタフィー王子は、机に手をつきながら、顔を真っ青にしている。一体何があってこうなったのだ。
「バタフィー、大丈夫か? 顔色が優れないようだが……」
 さすがのマルガンも、バタフィー王子のただならぬ様子に落ち着いていられない。どうしたものかとあたふたしている。
「くそっ、なんだ、あの気持ち悪い空間は……」
「ば、バタフィー。一体どうしたっていうんだ。あそこは、学園の食堂だぞ?」
 あまりにも強い嫌悪感を示すバタフィー王子の様子に、マルガンはまったく理解ができないようだった。
 マルガンからしてみれば、普段と何も変わらない学園の食堂だったというのに、何が一体、バタフィー王子を苦しめているのか。そのことにまったく理解が追いつかないのである。
 混乱するマルガンを、顔を青ざめさせたまま、バタフィー王子が睨みつける。その呼吸はとにかく荒い。
「お前は、あの場に何も感じなかったのか?」
 バタフィー王子はマルガンに強い口調で迫っている。
「わ、私は何も感じなかったよ。いつもの学園の食堂でしかなかった」
「そうか……。お前には分からなかったか、あの異様な雰囲気が」
「い、異様?」
 唇を強くかみしめながら話すバタフィー王子の言葉は、マルガンにはまったく理解できない内容だった。
 一体バタフィー王子は、あの場に何を感じ取ったというのだろうか。気になるマルガンは、詳しく聞いてみることにする。
「分からんが、あの場に入った瞬間、ねじ曲がったかのような魔力の流れが感じられてな。俺はその魔力に酔わされかかったんだ」
「ねじ曲がった魔力? 一体それはどういうことなんだ、バタフィー」
 バタフィーから詳しい話を聞いても、マルガンにはまったく理解できない話だった。どうやら、バタフィーだけが、あの空間の異常を感じ取ることができたようなのである。
 このままではまったくもって話は平行線だ。バタフィー王子は話を諦めて、気持ち悪くなった状態を落ち着けるために、ソファーにだらしなくもたれかかっている。
「くそっ……。こういう時にホーネット家が役に立てばいいのだがな……」
 バタフィー王子は、ソファーにもたれかかったまま、顔の上に腕を置いてつぶやいている。
「ホーネット伯爵家……。ご息女であるメープル嬢が亡くなられてからというもの、すっかり意気消沈しているものな。数百年に一度の天才といわれた少女ですら、魔族には敵わなかったとは……」
 バタフィー王子の言葉を受けて、マルガンも苦虫をかみつぶしたかのような表情を浮かべている。ホーネット伯爵家の一件は、王国にいまだに深刻な影響を与えているようなのだ。
 聖女が現れずに教会の力が弱まっているというのに、そこに追い打ちをかけるかのように、魔法使いたちの力も弱まってしまっている。
 イクセン王国は、現状、王家の力だけでどうにかなっている状況なのだ。なんともいえない、悩ましい状況なのである。
 だが、バタフィー王子は次期国王として、この問題を放ってはおけない。なので、学園生活がおろそかになっても、いろいろと問題の対応にあたっていたのだ。
「それだというのに、なんだ、この学園の中の空気の歪みというのは……。問題が解決するどころか、悪化の一途だ。……くそっ!」
 現実を突きつけられたバタフィー王子は、体を起こすとそのまま目の前の机を力強く叩いていた。
 まだ十三歳の少年とは思えないくらいにその力は強く、よく見ると机に小さくひびが入っている。バタフィー王子の精神状態が、どれだけ不安定なものかを物語っているのだ。
「それにしても、どうするっていうのさ、バタフィー。感じただけじゃ、原因を特定できないだろう?」
「ああ、そうだな……」
 カリカリするバタフィー王子ではあるものの、さすがに友人からの真っ当な指摘を受けてしまっては、黙り込むしかなかった。
 違和感を感じるとはいえど、その原因の絞り込みには至らなかったのだ。あまりに気持ち悪すぎて、すぐにその場を離れてしまったのは、実に痛恨の判断ミスだろう。
 とはいえど、バタフィー王子は、その場に長く居続けるだけのに体力が存在してしなかった。不調に見舞われる前にその場を離れられたのは、実にナイス判断だったと言ってもいいくらいである。
 しかし、それとは引き換えに、なんとも言い知れない恐怖を感じたのは間違いないだろう。
「バタフィー、講義が終わってから、もう一度食堂に行ってみるか?」
「ああ、そうだな。何事もなければいいのだが、もし何かあったとしたら、早急に何か対策を講じなければならないな……。実に汚らわしい話だ」
 マルガンの提案に、バタフィー王子は乗るようである。
 時間を改めて向かうことで、もしかしたら状況が改善している可能性があるからだ。そうすれば、自分が気分が悪くなった原因を突き止めることができるかも知れない。
「だが、今は動く時じゃないな。気分がすこぶる悪いから、回復を待たないことには動けない。くそっ、せっかく久しぶりに学園に来たというのに、実に不愉快だ」
「そうカリカリするなよ。未来の国王なれば、冷静さを持っていないことには務まらないんだからな」
「ああ、気をつけるよ」
 マルガンとの話を終えたバタフィーは、もう一度、ソファーにもたれかかって気分が回復するのを待つことにする。
 自分がいない間に、一体学園に何が起きたのか。
 バタフィー王子の気が休まる時は、どうやらひと時もなさそうだった。