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#9 「……やれやれ」

ー/ー



 一夜明け、朝が訪れた。


春一(はるかず)! 起きてるの!?」


 母さんの声と、ゴンゴンゴン、とドアノックの音が同時に不快に響く。


「んあぁ~……起きてるよぉ~……」
「だったら早く下りて来なさい。今日は入学式でしょ? 遅刻なんてしたら一年間の恥よ」


 今日もまた4月1日。
 仮病で入学式をサボッたことも、結局ループ阻止には繋がらなかった。


「……やれやれ、失敗か。まあ予想していたことではあるけど」


 吉野さんの変化に気付かないままだったならば、次の手段が思い付かず希望が絶たれ、ガクーッと両膝を突いていたかも知れない。


「……お早う、爺ちゃん」
「おお、お早う」


 階段を下りると、食卓には既に朝食が並んでいた。
 トーストと目玉焼き、それにサラダとヨーグルト。


「流石にもううんざりだな……」


 五連続で同じ朝食。
 これまでバターやマーガリン、ジャム、ハチミツを塗るなどして味に変化を出していたが、そろそろ見るのも嫌になってきた。


〈アメリカのニューマン大統領は、日本時間の昨日二十時にイギリスを訪問、ブラウン首相と会談し──〉


 聞き飽きたニュースは最早耳にも入らない。
 げんなりとしながらも、変わらない朝食を喉の奥へ流し込む。


「入学式だっていうのに──」
「はいはい、暗い顔なのは分かってるよ。人は第一印象で大体が決まる。愛想良くしないと人が逃げていく。人が逃げるということは運が逃げるということ、って言いたいんでしょ?」
「お、おう……その通りだが、よく言おうとしたことが分かったな」


 まるで心でも読まれたようにピンポイントで先取りされ、祖父が眼を丸くしていた。
 何度も何度も繰り返されれば、どんな馬鹿だろうと嫌でも覚える。


「行ってきます」


 朝の空気が僕をやや冷たく出迎える。


 さて、次のイベントは──もう分かっている。


「ようハルイチ!」
「やあ、お早う」


 照沢雄人(てるさわゆうと)海野大吾(うんのだいご)浜田敦(はまだあつし)
 すぐそこの曲がり角から、自転車に乗った三人が現れた。


「雄人たちは……今日は始業式なんだっけ? 在校生との交流とか、部活動の勧誘や体験入部も始まるんだよね? 当然バスケ部に入るんだろうけど、他の部も少し試してみたりするのかな?」
「お、おう。よく知ってるな。言ったっけ?」
「さあ? 俺は言ってないけど」
「何か今日のハルイチ、いつもと様子が違う気がする……」


 雄人と大吾の反応はこれまでと同じだが、敦だけは僕の微妙な異変に気付いたようだ。


「──っと、急いでるんだった。じゃあな」
「また今度一緒に遊ぼうな」
「ハルイチも頑張れよ」


 別れの挨拶を告げて、三人はペダルを──


 前回は変化を加えるため、遊びの予定を尋ねてみたが、この三人とどういう会話をしようと、恐らくループの阻止には繋がらない。


 家を出るタイミングをズラせば、こうして登校途中に遭遇すること自体が無くなるはずだが、それをしようとは思わなかった。
 近所とは言え、学校が変わってしまった今、三人と顔を合わせる機会は中学時代よりも減るのは間違い無いのだから。
 ほんの短い会話でも、彼らとの時間は大事にしたい。


「──っと、急いでるんだった。じゃあな」
「また今度一緒に遊ぼうな」
「ハルイチも頑張れよ」


 別れの挨拶を告げて、三人はペダルを漕ぎ出す。


「……うん、また」


 駅の方角へ去る三つの背中を見送ってから、僕も自分の道を再び歩き始めた。


 家を出るタイミングも、三人と出会い別れるタイミングもこれまで通り、寸分の狂いも無い。
 ならば、最初の4月1日の通り、校門前に到着した時点で彼女が居るはずだ。


 あちらの方でタイミングをズラしていなければ、の話だが。


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次のエピソードへ進む #10 「今日は何回目?」


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 一夜明け、朝が訪れた。
「|春一《はるかず》! 起きてるの!?」
 母さんの声と、ゴンゴンゴン、とドアノックの音が同時に不快に響く。
「んあぁ~……起きてるよぉ~……」
「だったら早く下りて来なさい。今日は入学式でしょ? 遅刻なんてしたら一年間の恥よ」
 今日もまた4月1日。
 仮病で入学式をサボッたことも、結局ループ阻止には繋がらなかった。
「……やれやれ、失敗か。まあ予想していたことではあるけど」
 吉野さんの変化に気付かないままだったならば、次の手段が思い付かず希望が絶たれ、ガクーッと両膝を突いていたかも知れない。
「……お早う、爺ちゃん」
「おお、お早う」
 階段を下りると、食卓には既に朝食が並んでいた。
 トーストと目玉焼き、それにサラダとヨーグルト。
「流石にもううんざりだな……」
 五連続で同じ朝食。
 これまでバターやマーガリン、ジャム、ハチミツを塗るなどして味に変化を出していたが、そろそろ見るのも嫌になってきた。
〈アメリカのニューマン大統領は、日本時間の昨日二十時にイギリスを訪問、ブラウン首相と会談し──〉
 聞き飽きたニュースは最早耳にも入らない。
 げんなりとしながらも、変わらない朝食を喉の奥へ流し込む。
「入学式だっていうのに──」
「はいはい、暗い顔なのは分かってるよ。人は第一印象で大体が決まる。愛想良くしないと人が逃げていく。人が逃げるということは運が逃げるということ、って言いたいんでしょ?」
「お、おう……その通りだが、よく言おうとしたことが分かったな」
 まるで心でも読まれたようにピンポイントで先取りされ、祖父が眼を丸くしていた。
 何度も何度も繰り返されれば、どんな馬鹿だろうと嫌でも覚える。
「行ってきます」
 朝の空気が僕をやや冷たく出迎える。
 さて、次のイベントは──もう分かっている。
「ようハルイチ!」
「やあ、お早う」
 |照沢雄人《てるさわゆうと》、|海野大吾《うんのだいご》、|浜田敦《はまだあつし》。
 すぐそこの曲がり角から、自転車に乗った三人が現れた。
「雄人たちは……今日は始業式なんだっけ? 在校生との交流とか、部活動の勧誘や体験入部も始まるんだよね? 当然バスケ部に入るんだろうけど、他の部も少し試してみたりするのかな?」
「お、おう。よく知ってるな。言ったっけ?」
「さあ? 俺は言ってないけど」
「何か今日のハルイチ、いつもと様子が違う気がする……」
 雄人と大吾の反応はこれまでと同じだが、敦だけは僕の微妙な異変に気付いたようだ。
「──っと、急いでるんだった。じゃあな」
「また今度一緒に遊ぼうな」
「ハルイチも頑張れよ」
 別れの挨拶を告げて、三人はペダルを──
 前回は変化を加えるため、遊びの予定を尋ねてみたが、この三人とどういう会話をしようと、恐らくループの阻止には繋がらない。
 家を出るタイミングをズラせば、こうして登校途中に遭遇すること自体が無くなるはずだが、それをしようとは思わなかった。
 近所とは言え、学校が変わってしまった今、三人と顔を合わせる機会は中学時代よりも減るのは間違い無いのだから。
 ほんの短い会話でも、彼らとの時間は大事にしたい。
「──っと、急いでるんだった。じゃあな」
「また今度一緒に遊ぼうな」
「ハルイチも頑張れよ」
 別れの挨拶を告げて、三人はペダルを漕ぎ出す。
「……うん、また」
 駅の方角へ去る三つの背中を見送ってから、僕も自分の道を再び歩き始めた。
 家を出るタイミングも、三人と出会い別れるタイミングもこれまで通り、寸分の狂いも無い。
 ならば、最初の4月1日の通り、校門前に到着した時点で彼女が居るはずだ。
 あちらの方でタイミングをズラしていなければ、の話だが。