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幕間 2

ー/ー



 墓守に志願したのは小さな子供だと思っていた。しかし、もう18だという。僕には12、3くらいに見えた。
 なるほどと今更思う。彼女の父親があまり心配していそうに見えなかったのは、大人扱いしていい年だったからだ。嫁に出す話も別におかしくもない。
 そして良い嫁ぎ先が見つからないと悩むことも。

 墓守はニコリとよく笑うが、心からの笑みではないことがわかる。伊達に僕も議会に使われる立場にない。心を押し隠すように皆が笑う。友好的に手を握りながら、相手が裏切り者ではないかと常に疑っている。

 自分が、裏切る、なんて考えずに。

 10日ほどの旅程は驚くほどになにもなかった。馬車が不調になることも天候が悪化することもなく、野盗の類もいなかった。多少腕に覚えはあるが、多少であったので幸いではあった。一人ならどうともなるが守りながらというのは難しいのだから。
 予定を予定通りに進められるということに居心地の悪さを感じながら、山の麓にたどり着いた。

 そこにつくまでに聞いた彼女の身の上は、ありふれた話と締めくくられた。それがありふれたのならば議会の敗北ではないかと不甲斐なく思えた。
 今まで通りを通すことを最初は恐れた。あの王と違うと認めさせなければいけないのだからと。しかし、引っ掻き回すだけでなにも良くはならなかった。

 十数年前のあのとき、間違えてしまったのではないだろうか。

 あのころ幼く、従騎士でしかなかったからこそ無責任にそう思えるのかもしれない。ただ、そこにいて、なにもしなかった。
 責任の一つもない。それが咎がないということでもないだろうに。

 僕は、そう決めてないと主張するのはみっともないし、改善もできぬだろう。そう思って今も役目を果たすが。

「わりとまともですね」

 好奇心たっぷりに小屋を覗き込んでいる娘に対しては複雑だ。
 金のためというが、先王を恐れているようではない。興味がない、知らない、というわけでもなさそうで、どうにも掴めない。
 最初は幼いせいと片付けたが、大人と扱われていい年ならば話は別だ。

 どこか気味が悪い。
 あの大きな目でじっとみつめられると何もかも見透かされるような気さえした。

「でも、荷物もなにもなくて死にますよ?」

「それは持ってきた」

「ほんとですか! やった! ありがとうございます」

 無邪気に喜ぶところは、嘘ではなさそうだった。私、力ないんで、と上目遣いで手伝いをねだるような態度はしたたかではあった。
 もともと手伝う気はあったが、仕方ないなと恩を売っておくことにした。
 形ばかりだろうが、礼を言われるのは嫌な気分ではなかった。

 片付けをしながら、連絡事項を伝えると彼女は表情を引きつらせた。

「ゆ、ゆうれい……」

「それは、怖いんだな」

「あったりまえじゃないですか! 大人の男も怖がってるのに! 小さい私ならなお怖いですよ」

「どうだかな。
 度胸はありそうだからな」

「……じゃあ、泊まっていってください」

「断る」

 そう言って、彼女を置いていった。幽霊は信じていないが、別のものはいるかもしれない。
 まだ、見つかっていない先王の使い魔。あれが退治されて居らず、どこかを彷徨っているなら一人で対処できるものでもない。今のところ無害そうなのだから放置するに限る。

 それより問題は1週間後、彼女は残っているだろうか。

 僕は近くの街で中央へ墓守の手配を終えたこととしばらく様子を見ると手紙を送った。特送で送ればすぐに届く。それが必要な相手まで届くのはまた時間がかかるだろうが。

 彼女を送った1週間後、再び訪れる。

「はぁい」

 のんびりとした応答と同時に扉が開く。

「警戒心のない」

「この何もないところでなにがあるってんです?
 人っ子一人、どころか、野生動物すら見ませんでしたよ」

「……それはそれは」

 聞いていた話とだいぶ違う。近くの村の者はこのあたりは時折、山から獣が降りてくると言っていた。戸を壊してまで入ってはこないが、近くまで来ることはあると。

「まあ、どうぞ。お茶入れますね。煎り豆茶、大丈夫です?」

「いただこう」

「ナゾノクサのお茶もありますけど」

「それは断る」

 そう言うと彼女はなにが嬉しいのかちょっと笑った。からかわれたらしい。最初に会ったときよりもずっと表情豊かで楽しそうに見える。
 小屋はきちんと人の家のように変わっていた。
 そこに違和感のあるものがある。

「あれは?」

「私の敗北なので放置してください」

 壁に貼り付けられている紙は人らしきものが描いてあった。人らしき、というのは、目鼻があるからだ。なにかを書こうとして失敗したというところだろうが、なにを描こうとしていたのかさっぱりわからなかった。

「それはいいんですけどね。
 ここなにもないので畑作りたいです。食糧危機を感じます」

 じっと見ているのに気が付かれたのか、彼女が僕の目の前に立つ。ニコリと笑っているが、なんだか怒りの波動がした。

「そ、そうか。ちょっと相談してみる」

 アテはないがそう言っておくことにした。まあ、近くを巡回している知り合いもいるかも知れない。
 まあひとまず、問題なさそうでよいことだ。
 例の白いものも出ていないというし、一泊くらいと思ったのが間違いだった。

 白い手が、声が、あの昔のあの人の……。


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 墓守に志願したのは小さな子供だと思っていた。しかし、もう18だという。僕には12、3くらいに見えた。
 なるほどと今更思う。彼女の父親があまり心配していそうに見えなかったのは、大人扱いしていい年だったからだ。嫁に出す話も別におかしくもない。
 そして良い嫁ぎ先が見つからないと悩むことも。
 墓守はニコリとよく笑うが、心からの笑みではないことがわかる。伊達に僕も議会に使われる立場にない。心を押し隠すように皆が笑う。友好的に手を握りながら、相手が裏切り者ではないかと常に疑っている。
 自分が、裏切る、なんて考えずに。
 10日ほどの旅程は驚くほどになにもなかった。馬車が不調になることも天候が悪化することもなく、野盗の類もいなかった。多少腕に覚えはあるが、多少であったので幸いではあった。一人ならどうともなるが守りながらというのは難しいのだから。
 予定を予定通りに進められるということに居心地の悪さを感じながら、山の麓にたどり着いた。
 そこにつくまでに聞いた彼女の身の上は、ありふれた話と締めくくられた。それがありふれたのならば議会の敗北ではないかと不甲斐なく思えた。
 今まで通りを通すことを最初は恐れた。あの王と違うと認めさせなければいけないのだからと。しかし、引っ掻き回すだけでなにも良くはならなかった。
 十数年前のあのとき、間違えてしまったのではないだろうか。
 あのころ幼く、従騎士でしかなかったからこそ無責任にそう思えるのかもしれない。ただ、そこにいて、なにもしなかった。
 責任の一つもない。それが咎がないということでもないだろうに。
 僕は、そう決めてないと主張するのはみっともないし、改善もできぬだろう。そう思って今も役目を果たすが。
「わりとまともですね」
 好奇心たっぷりに小屋を覗き込んでいる娘に対しては複雑だ。
 金のためというが、先王を恐れているようではない。興味がない、知らない、というわけでもなさそうで、どうにも掴めない。
 最初は幼いせいと片付けたが、大人と扱われていい年ならば話は別だ。
 どこか気味が悪い。
 あの大きな目でじっとみつめられると何もかも見透かされるような気さえした。
「でも、荷物もなにもなくて死にますよ?」
「それは持ってきた」
「ほんとですか! やった! ありがとうございます」
 無邪気に喜ぶところは、嘘ではなさそうだった。私、力ないんで、と上目遣いで手伝いをねだるような態度はしたたかではあった。
 もともと手伝う気はあったが、仕方ないなと恩を売っておくことにした。
 形ばかりだろうが、礼を言われるのは嫌な気分ではなかった。
 片付けをしながら、連絡事項を伝えると彼女は表情を引きつらせた。
「ゆ、ゆうれい……」
「それは、怖いんだな」
「あったりまえじゃないですか! 大人の男も怖がってるのに! 小さい私ならなお怖いですよ」
「どうだかな。
 度胸はありそうだからな」
「……じゃあ、泊まっていってください」
「断る」
 そう言って、彼女を置いていった。幽霊は信じていないが、別のものはいるかもしれない。
 まだ、見つかっていない先王の使い魔。あれが退治されて居らず、どこかを彷徨っているなら一人で対処できるものでもない。今のところ無害そうなのだから放置するに限る。
 それより問題は1週間後、彼女は残っているだろうか。
 僕は近くの街で中央へ墓守の手配を終えたこととしばらく様子を見ると手紙を送った。特送で送ればすぐに届く。それが必要な相手まで届くのはまた時間がかかるだろうが。
 彼女を送った1週間後、再び訪れる。
「はぁい」
 のんびりとした応答と同時に扉が開く。
「警戒心のない」
「この何もないところでなにがあるってんです?
 人っ子一人、どころか、野生動物すら見ませんでしたよ」
「……それはそれは」
 聞いていた話とだいぶ違う。近くの村の者はこのあたりは時折、山から獣が降りてくると言っていた。戸を壊してまで入ってはこないが、近くまで来ることはあると。
「まあ、どうぞ。お茶入れますね。煎り豆茶、大丈夫です?」
「いただこう」
「ナゾノクサのお茶もありますけど」
「それは断る」
 そう言うと彼女はなにが嬉しいのかちょっと笑った。からかわれたらしい。最初に会ったときよりもずっと表情豊かで楽しそうに見える。
 小屋はきちんと人の家のように変わっていた。
 そこに違和感のあるものがある。
「あれは?」
「私の敗北なので放置してください」
 壁に貼り付けられている紙は人らしきものが描いてあった。人らしき、というのは、目鼻があるからだ。なにかを書こうとして失敗したというところだろうが、なにを描こうとしていたのかさっぱりわからなかった。
「それはいいんですけどね。
 ここなにもないので畑作りたいです。食糧危機を感じます」
 じっと見ているのに気が付かれたのか、彼女が僕の目の前に立つ。ニコリと笑っているが、なんだか怒りの波動がした。
「そ、そうか。ちょっと相談してみる」
 アテはないがそう言っておくことにした。まあ、近くを巡回している知り合いもいるかも知れない。
 まあひとまず、問題なさそうでよいことだ。
 例の白いものも出ていないというし、一泊くらいと思ったのが間違いだった。
 白い手が、声が、あの昔のあの人の……。