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弔い

ー/ー



 翌日、私は山へ向かうことにした。
 昨夜はとっとと小屋に逃げ帰り、無限になにあれなにあれと呪文を呟いていたら朝だった。たぶん、途中で限界を超えて気絶した。

 今ほど無法者の兄弟たちが恋しかったことはない。タスケテ! 次元の壁を超えて助けに来て! 誰でもいいからとつけなかったのは、誰でも?ともう一度白いものがやってくる可能性を考慮したためである。
 いい感じに今も大混乱だし、山になんて行きたくないが放置も怖い。

 天秤にかけた結果、消極的な気分で山に向かうを選択したのだ。
 その前にと扉にメモを貼った。
 この小屋には週に一度、誰かが見回りに来る。食料も一緒に持ってきてくれるそうだ。その時に家にいなければ逃げたと判断されるとは聞いている。
 さすがに昨日の今日では来ないだろうと思ったが、不安になったので扉に山に出かけてくると残すことにしたのである。最低限、文字が読める程度の人が来る、と思いたい。

 山は山だった。
 都会とは言わないが、生まれてからずっと町育ちの私が歩き方をマスターしているわけもなく、10分で転んだ。森すら行ったことのない。いや、町を出たことすら、ない。そんなことを考える暇すらなかったのだ。
 渇いた笑いがこぼれる。こんなことがなければ、一生、街の外に出ることすらなく生きていた可能性すらあった。
 夢も希望もない異世界転生だ。なんのために、ここにいるのか、わからない。どうせなら記憶も何もなければ幸せにもなれたかもしれない。

 しかし、私が彼を忘れるのは無理だ。
 彼を殺した世界を呪いながら、生きていくしかない。そんな前世、関係ないと言えないままに。

 だから、この墓守は幸せと言える。

「幽霊でもいいから、出てこないかな」

 そう呟いてもなんにもならない。
 この山は、途中から妙にえぐれている。おそらく彼が亡くなったところなのだろう。魔導の王と呼ばれるだけあって、彼の魔法はとても強かった。火力とかそういうんじゃなくて、デバフがエグい。RPGってさーデバフよねーと今まで使ってきたものがそのまんま返される。
 速度、移動距離落とされるのマジで、死ぬ。あと高さあって落とされて追加ダメージとかな……。

 作中最凶の男として名を残しても、嬉しくはないけど、まあ、最凶だしな……と思ったりもした。いや、生きてて欲しかったけど、変に弱いよりはずっとマシだ。
 この世界にあの人を倒せるような人がいたんだと思うとわりと震える案件ではあるが。

 ただ、この件に従軍したものの八割は戻ってこず、五体満足となると一割を切るというらしい。後方支援職も含めてだというから、その討伐が容易ではなかったのは察して余りある。
 その中に主人公らしき人もいたのだが、この国にはもういないらしい。もともとよそ者だからねと言って去っていたと役人が言ってた。

 そんな苛烈な最後であったがゆえか彼の首は落とされて、頭は王都に。体はその場で焼かれたらしい。体の方は焼かれたあとに別の場所に埋葬はされている。埋めるを埋葬というかはわからないが、それはここではない。
 そう言う意味ではここで墓守などおかしな話だった。

 普通に死体がないんだから。
 なにを弔えばいいのか、さっぱりわからない。

 現場に行けば骨の一つで残っていないかなと思うくらいには、私は狂人だ。暇なんだから、探そうかなと思い立つのもそれほどおかしくもなかっただろう。

 まあ、それもあとにしよう。謎の白い浮遊物をさがしに山に入ったのだ。10分でこけて心折れそうだけども、完遂はしよう。
 そう思って山歩きを再開する。

 山というのは木だけでなく草も生えている。もちろん、虫もその他生物もいた。
 追加5分で断念した。

 私は都会の女なんで、と心の中で言いわけし、撤退する。白いものも夜にはまたやってくるだろう。その時に捕まえればいい。
 墓守するお仕事がある。……とはいったものの墓守はここにいることがお仕事らしいので他にすることがない。
 びっくりな仕事だ。

 しばらくの間は、生活をすることに注力することにした。ここは驚くほどに何もないのだ。油断したら死ぬ。食料はまじめに管理した。山に入って何かを狩猟できる技術があればよいがなにもない。
 スローライフする前に死ぬ。

 幸い井戸があり、水があったのが良かった。ほんっとーに良かった。
 役人が残していった食料は日持ちするものが多く、節約は可能だろう。ただ、役人が家事をしない人なのがよく分かるラインナップだった。ああ、小麦粉があってもパン種がなければパンは焼けぬのだよ。ふくらし粉も欲しかった。
 次に欲しいもののリストに記載しつつ、日々を過ごした。

 もちろん、推しへのお祈りも忘れない。どうか、この世の柵を離れ幸せにお過ごしくださいと。でも祈りにくくはある。うろ覚え推しの似顔絵も描いてみたものの画才のなさに涙する結果に。紙が無駄だった。

 きっちり一週してやってきた役人に畑を作りたいと打診した。えぇ? と嫌そうな顔をされながらも一週間の食糧事情を説明したら前向きに検討してくれるそうだ。
 雑談ついでに白いものを見たのも変な音を聞いたのも初日のみで、平穏であったと伝えれば驚かれた。山に入ってみたいが、山歩きの服も欲しいと要望をだしておいた。
 半信半疑の役人は怖いもの見たさなのか、泊まっていった。その夜、見事に変な音を聞いてしまったらしく朝に逃げるように帰っていった。
 ちゃんと来週来るか不安になってきた。

 なるようになるさと楽観できない。山に入れば野草や果物くらいあるだろうと思うが、山歩きで転倒してケガをする危険のほうが高い。前世の登山知識なんて道具メインで歩き方なんてのはなかった。
 やはり、畑、畑で解決するしか!

 くじけながらも挫折しながらも日当たりの良さそうなところの雑草を抜き、石を拾っては捨てていくことにした。
 食料の中にはじゃがいもやにんじんのようなものもあったので、ひとまず植えてみた。
 じゃがいものは荒れ地でも生きていける! 信じてるぞ! と毎日世話すればちょっとやる気をだしてちょこんと葉を出した。

「かわいいね。もっとおおきくなってね」

 そして私の胃袋を満たし給え。
 そんなささやかなお願いを聞くように少しずつ大きくなっていった。


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 翌日、私は山へ向かうことにした。
 昨夜はとっとと小屋に逃げ帰り、無限になにあれなにあれと呪文を呟いていたら朝だった。たぶん、途中で限界を超えて気絶した。
 今ほど無法者の兄弟たちが恋しかったことはない。タスケテ! 次元の壁を超えて助けに来て! 誰でもいいからとつけなかったのは、誰でも?ともう一度白いものがやってくる可能性を考慮したためである。
 いい感じに今も大混乱だし、山になんて行きたくないが放置も怖い。
 天秤にかけた結果、消極的な気分で山に向かうを選択したのだ。
 その前にと扉にメモを貼った。
 この小屋には週に一度、誰かが見回りに来る。食料も一緒に持ってきてくれるそうだ。その時に家にいなければ逃げたと判断されるとは聞いている。
 さすがに昨日の今日では来ないだろうと思ったが、不安になったので扉に山に出かけてくると残すことにしたのである。最低限、文字が読める程度の人が来る、と思いたい。
 山は山だった。
 都会とは言わないが、生まれてからずっと町育ちの私が歩き方をマスターしているわけもなく、10分で転んだ。森すら行ったことのない。いや、町を出たことすら、ない。そんなことを考える暇すらなかったのだ。
 渇いた笑いがこぼれる。こんなことがなければ、一生、街の外に出ることすらなく生きていた可能性すらあった。
 夢も希望もない異世界転生だ。なんのために、ここにいるのか、わからない。どうせなら記憶も何もなければ幸せにもなれたかもしれない。
 しかし、私が彼を忘れるのは無理だ。
 彼を殺した世界を呪いながら、生きていくしかない。そんな前世、関係ないと言えないままに。
 だから、この墓守は幸せと言える。
「幽霊でもいいから、出てこないかな」
 そう呟いてもなんにもならない。
 この山は、途中から妙にえぐれている。おそらく彼が亡くなったところなのだろう。魔導の王と呼ばれるだけあって、彼の魔法はとても強かった。火力とかそういうんじゃなくて、デバフがエグい。RPGってさーデバフよねーと今まで使ってきたものがそのまんま返される。
 速度、移動距離落とされるのマジで、死ぬ。あと高さあって落とされて追加ダメージとかな……。
 作中最凶の男として名を残しても、嬉しくはないけど、まあ、最凶だしな……と思ったりもした。いや、生きてて欲しかったけど、変に弱いよりはずっとマシだ。
 この世界にあの人を倒せるような人がいたんだと思うとわりと震える案件ではあるが。
 ただ、この件に従軍したものの八割は戻ってこず、五体満足となると一割を切るというらしい。後方支援職も含めてだというから、その討伐が容易ではなかったのは察して余りある。
 その中に主人公らしき人もいたのだが、この国にはもういないらしい。もともとよそ者だからねと言って去っていたと役人が言ってた。
 そんな苛烈な最後であったがゆえか彼の首は落とされて、頭は王都に。体はその場で焼かれたらしい。体の方は焼かれたあとに別の場所に埋葬はされている。埋めるを埋葬というかはわからないが、それはここではない。
 そう言う意味ではここで墓守などおかしな話だった。
 普通に死体がないんだから。
 なにを弔えばいいのか、さっぱりわからない。
 現場に行けば骨の一つで残っていないかなと思うくらいには、私は狂人だ。暇なんだから、探そうかなと思い立つのもそれほどおかしくもなかっただろう。
 まあ、それもあとにしよう。謎の白い浮遊物をさがしに山に入ったのだ。10分でこけて心折れそうだけども、完遂はしよう。
 そう思って山歩きを再開する。
 山というのは木だけでなく草も生えている。もちろん、虫もその他生物もいた。
 追加5分で断念した。
 私は都会の女なんで、と心の中で言いわけし、撤退する。白いものも夜にはまたやってくるだろう。その時に捕まえればいい。
 墓守するお仕事がある。……とはいったものの墓守はここにいることがお仕事らしいので他にすることがない。
 びっくりな仕事だ。
 しばらくの間は、生活をすることに注力することにした。ここは驚くほどに何もないのだ。油断したら死ぬ。食料はまじめに管理した。山に入って何かを狩猟できる技術があればよいがなにもない。
 スローライフする前に死ぬ。
 幸い井戸があり、水があったのが良かった。ほんっとーに良かった。
 役人が残していった食料は日持ちするものが多く、節約は可能だろう。ただ、役人が家事をしない人なのがよく分かるラインナップだった。ああ、小麦粉があってもパン種がなければパンは焼けぬのだよ。ふくらし粉も欲しかった。
 次に欲しいもののリストに記載しつつ、日々を過ごした。
 もちろん、推しへのお祈りも忘れない。どうか、この世の柵を離れ幸せにお過ごしくださいと。でも祈りにくくはある。うろ覚え推しの似顔絵も描いてみたものの画才のなさに涙する結果に。紙が無駄だった。
 きっちり一週してやってきた役人に畑を作りたいと打診した。えぇ? と嫌そうな顔をされながらも一週間の食糧事情を説明したら前向きに検討してくれるそうだ。
 雑談ついでに白いものを見たのも変な音を聞いたのも初日のみで、平穏であったと伝えれば驚かれた。山に入ってみたいが、山歩きの服も欲しいと要望をだしておいた。
 半信半疑の役人は怖いもの見たさなのか、泊まっていった。その夜、見事に変な音を聞いてしまったらしく朝に逃げるように帰っていった。
 ちゃんと来週来るか不安になってきた。
 なるようになるさと楽観できない。山に入れば野草や果物くらいあるだろうと思うが、山歩きで転倒してケガをする危険のほうが高い。前世の登山知識なんて道具メインで歩き方なんてのはなかった。
 やはり、畑、畑で解決するしか!
 くじけながらも挫折しながらも日当たりの良さそうなところの雑草を抜き、石を拾っては捨てていくことにした。
 食料の中にはじゃがいもやにんじんのようなものもあったので、ひとまず植えてみた。
 じゃがいものは荒れ地でも生きていける! 信じてるぞ! と毎日世話すればちょっとやる気をだしてちょこんと葉を出した。
「かわいいね。もっとおおきくなってね」
 そして私の胃袋を満たし給え。
 そんなささやかなお願いを聞くように少しずつ大きくなっていった。