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第25話 捕食者あやとり

ー/ー



 クルクスがヴァレンタインたちと合流し、あれから数時間が経過していた。

「──総員に伝達。本車は現時刻を以て、立ち入り禁止区域へ進入する」 

 ヴァレンタインが伝声管に口を寄せ、短く、しかし力強く告げた。
「行き先は、この砂漠地帯に立地された軍管理下にあるエリア0。我々は基地に到着後、速やかに待機中のC-130へ搭乗。空路にて友軍護衛機と合流した(のち)、司令部へ帰還する。各員、直ちに装備を点検し、移乗準備を急げ──以上だ」
 日没が迫り、薄暗がりに包まれ始めた車内。
 そこに伝声管から漏れる彼女の声が、後部区画へと響いた。

「⋯⋯はい……スライム」

「わ~っ! クーちゃん、クーちゃんっ!! すごいすごいっ! もっとそれ、見せて、見せてぇーっ!!」

 初めて見るあやとりに、幼女はすっかりご執心のようだった。

「⋯⋯え、えぇ。……ちょっと、待ってね⋯⋯」

 床にしゃがみ込み、ライディンググローブから突き出るしなやかな指先で、暗殺用ワイヤーを器用に操りながら、「鮫(ジョーズ)」、「蝙蝠(バット)」、「蛇」、「毒蟹」、「鯱(オルカ)」をあやとりで表現する。
 クルクスは様々なオリジナル技を、彼女に連続で披露して見せた。

「クーちゃんっ! ニナニナもやりた〜いっ!」
 彼女が持ったワイヤーにニナニナは手を伸ばす。

「……ダメよ」

 立ち上がったクルクスは、その迫る手をすっと躱した。

「えぇーーっ? なんで、なんでぇーっ?」

 高く持ち上げられたワイヤーを取ろうと、ぴょんぴょんとジャンプするニナニナ。

「……危ないわ」
「あぶ、ない……? あやとりの、なにが危ないの〜っ?」

 彼女の言葉にニナニナは首を傾げる。

「……ケガでもしたら、どうするの?」

 ワイヤーを手渡した後の問題行動が、クルクスには目に見えていた。
 そのため、刺激しないよう言葉選びを慎重に行う。
 その近くには、先ほどまで入っていたであろう箱型カプセルが転がり、無理やりこじ開けられた形跡があった。
 非戦闘員は前方車両に全員避難を済ませており、現在ここにいるのは護衛兼監視担当のクルクスと死神の(くちばし)で顔を覆い武装する黒衣の兵士のみだった。

「む〜〜っ! クーちゃんのケチぃっ! いじわる〜っ!」

 小さな巨人は頬をぷくぅ~と膨らませ、小さな拳でクルクスのお腹をポカポカと叩く。

「……悪くは──ないわね」

 言葉とは裏腹に力のない拳。
 彼女が(じゃ)れているだけと判断する。
 クルクスにとって、この仕事は今回で2回目だ。
 2年前に検査した診断結果より、狂気が漏れ出るニナニナの精神が平常値を示していたこと。
 そのデータを信じた上層部は、クルクスをニナニナの担当から外し、彼女に別任務を与え移動を命じた。
 それからの彼女は、任務と並行で支部間転送装置を駆使して、ニナニナが管理される研究拠点を頻繁に出入りする日々を送っていた。
 しかし、クルクスの持ち場が改められて2年──ニナニナの精神値が前触れなく、急激に上昇を始め制御不能に陥る。
 それを組織は抑え込めず、彼女の脱走を許してしまうことになった。
 その後──​事態を重く見た上層部が動いたのは、その直後のことだ。
 Zipangu(ジパング)における技術レベルの調査報告書をまとめ、クルクスが組織上層部宛てに専用端末で提出し、次なる任務概要の詳細に目を通していた矢先──その組織からの緊急連絡は届いた。

『脱走したニナニナを、可及的速やかに連れ帰るように』────と、専用端末に追加事項として送られてきたのだ。

 それがこの任務を任された、大まかな経緯(いきさつ)である。
 そして、今目の前にいる可愛い女の子は少々ご機嫌斜め。
 このまま放置しても、ろくでもないことになりかねないことは明白。

 だから──

「……ニナ、手を出して」
「ふぇっ?」

 クルクスに呼ばれ視線を合わせるニナニナ。

「……やるなら、ね」

 すると、彼女の両手には結び目のない輪っか状の毛糸が、1つ乗せられた。
「クー、ちゃん…………」
「……ニナ。……やろっか……っ!」
「………っ!! うんっ、一緒やろ! クーちゃんっ!!」
 そうして目的地に着くまでの間、2人は時間いっぱいあやとりを愉しみ、彼女たちの乗った車両は『エリア0』へと辿り着くのだった。


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 クルクスがヴァレンタインたちと合流し、あれから数時間が経過していた。
「──総員に伝達。本車は現時刻を以て、立ち入り禁止区域へ進入する」 
 ヴァレンタインが伝声管に口を寄せ、短く、しかし力強く告げた。
「行き先は、この砂漠地帯に立地された軍管理下にあるエリア0。我々は基地に到着後、速やかに待機中のC-130へ搭乗。空路にて友軍護衛機と合流した後《のち》、司令部へ帰還する。各員、直ちに装備を点検し、移乗準備を急げ──以上だ」
 日没が迫り、薄暗がりに包まれ始めた車内。
 そこに伝声管から漏れる彼女の声が、後部区画へと響いた。
「⋯⋯はい……スライム」
「わ~っ! クーちゃん、クーちゃんっ!! すごいすごいっ! もっとそれ、見せて、見せてぇーっ!!」
 初めて見るあやとりに、幼女はすっかりご執心のようだった。
「⋯⋯え、えぇ。……ちょっと、待ってね⋯⋯」
 床にしゃがみ込み、ライディンググローブから突き出るしなやかな指先で、暗殺用ワイヤーを器用に操りながら、「鮫《ジョーズ》」、「蝙蝠《バット》」、「蛇」、「毒蟹」、「鯱《オルカ》」をあやとりで表現する。
 クルクスは様々なオリジナル技を、彼女に連続で披露して見せた。
「クーちゃんっ! ニナニナもやりた〜いっ!」
 彼女が持ったワイヤーにニナニナは手を伸ばす。
「……ダメよ」
 立ち上がったクルクスは、その迫る手をすっと躱した。
「えぇーーっ? なんで、なんでぇーっ?」
 高く持ち上げられたワイヤーを取ろうと、ぴょんぴょんとジャンプするニナニナ。
「……危ないわ」
「あぶ、ない……? あやとりの、なにが危ないの〜っ?」
 彼女の言葉にニナニナは首を傾げる。
「……ケガでもしたら、どうするの?」
 ワイヤーを手渡した後の問題行動が、クルクスには目に見えていた。
 そのため、刺激しないよう言葉選びを慎重に行う。
 その近くには、先ほどまで入っていたであろう箱型カプセルが転がり、無理やりこじ開けられた形跡があった。
 非戦闘員は前方車両に全員避難を済ませており、現在ここにいるのは護衛兼監視担当のクルクスと死神の嘴《くちばし》で顔を覆い武装する黒衣の兵士のみだった。
「む〜〜っ! クーちゃんのケチぃっ! いじわる〜っ!」
 小さな巨人は頬をぷくぅ~と膨らませ、小さな拳でクルクスのお腹をポカポカと叩く。
「……悪くは──ないわね」
 言葉とは裏腹に力のない拳。
 彼女が戯《じゃ》れているだけと判断する。
 クルクスにとって、この仕事は今回で2回目だ。
 2年前に検査した診断結果より、狂気が漏れ出るニナニナの精神が平常値を示していたこと。
 そのデータを信じた上層部は、クルクスをニナニナの担当から外し、彼女に別任務を与え移動を命じた。
 それからの彼女は、任務と並行で支部間転送装置を駆使して、ニナニナが管理される研究拠点を頻繁に出入りする日々を送っていた。
 しかし、クルクスの持ち場が改められて2年──ニナニナの精神値が前触れなく、急激に上昇を始め制御不能に陥る。
 それを組織は抑え込めず、彼女の脱走を許してしまうことになった。
 その後──​事態を重く見た上層部が動いたのは、その直後のことだ。
 |Zipangu《ジパング》における技術レベルの調査報告書をまとめ、クルクスが組織上層部宛てに専用端末で提出し、次なる任務概要の詳細に目を通していた矢先──その組織からの緊急連絡は届いた。
『脱走したニナニナを、可及的速やかに連れ帰るように』────と、専用端末に追加事項として送られてきたのだ。
 それがこの任務を任された、大まかな経緯《いきさつ》である。
 そして、今目の前にいる可愛い女の子は少々ご機嫌斜め。
 このまま放置しても、ろくでもないことになりかねないことは明白。
 だから──
「……ニナ、手を出して」
「ふぇっ?」
 クルクスに呼ばれ視線を合わせるニナニナ。
「……やるなら、《《こっち》》ね」
 すると、彼女の両手には結び目のない輪っか状の毛糸が、1つ乗せられた。
「クー、ちゃん…………」
「……ニナ。……やろっか……っ!」
「………っ!! うんっ、一緒やろ! クーちゃんっ!!」
 そうして目的地に着くまでの間、2人は時間いっぱいあやとりを愉しみ、彼女たちの乗った車両は『エリア0』へと辿り着くのだった。