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第20話 正義の終焉、孤独な祝杯

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 1949年──米国含める西側諸国は、防衛軍事同盟「北大西洋条約機構(NATO)」を発足させた。
 これに対抗すべく、1955年にソ連を中心とする東側諸国は「ワルシャワ条約機構(WTO/WPO)」を結成した。
 ​欧州を切り裂いた「鉄のカーテン」を挟み、張り詰めた緊張が長く続いた東西冷戦は終焉へと向かい、国家科学技術財団(NSTF)の世界における、米国の技術的優位性を確立し始めて、まだ間もない頃の話だ。
「正義」という大義名分の裏側で、組織が長年積み上げてきた研究はその年、数多(あまた)の犠牲の上に「禁忌の果実」を実らせることとなった。
 今も消えることのない、顔に刻まれた醜悪な火傷跡が疼く。
 それは、9年前の1987年。
 あの日、愛すべき日常が無垢な「正義」によって永遠に奪われた──ヴァレンタインの苦き記憶である。

 星条旗の陰に秘匿された地下深くにある、NSTF機関の極秘研究施設。
 一筋の光も届かない漆黒の回廊に、二人の足音が重なった。

「ミスター・スティーブン、ここは一体⋯⋯」

 当時30歳。組織への忠誠を誓い、幹部昇進を目前に控えた彼女は、かつて先生と仰ぎ、今は組織の重鎮となった男の背中を追って、最深部へと足を踏み入れていた。

「──見ての通りNSTF(われら)の研究施設だ、ミス・ヴァレンタイン。だがここを知るのは、我々幹部クラスの人間か、それに携わる研究員だけだ」

 スーツに身を包む男──スティーブンは重厚な防壁扉の認証を通すと、隔壁が低い唸りを上げて開かれる。
 その先は、呼吸さえ吸い込まれそうな、完全なる静寂と暗闇──虚無に支配された漆黒の空間が広がっていた。
 ベトナム、そして湾岸。硝煙(しょうえん)泥濘(ぬかるみ)の中で生死を共にした、ヴァレンタインにとって、隣を歩くスティーブンは、戦場での生き残る術を説いた唯一無二の“先生”。

「⋯⋯私がここに立ち入っても、平気なんですか?」
「あぁ、案ずるな。直(じき)にお前は、我々幹部の一員だからな。昇進式という形式を待たずとも、その資格は十分にあるとこちらが判断したまでだ」
 スティーブンは親しげに彼女の肩を叩き、静かに笑う。
「──っ、ありがとうございます⋯⋯!! これからも組織に全力を注ぎます──っ!!」
 溢れんばかりの歓喜に、ヴァレンタインの頬は上気し、その瞳は期待に潤んだ。
 それは組織という大きな機構の一部になれた喜び。

 ──その瞬間だった。

 扉の奥から漏れた強烈な光が、ヴァレンタインの視界を白く染め上げる。
 しかしその「正義」への陶酔が──この後に待ち受ける地獄への踏み台であることを、彼女はまだ知る由もなかった。



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 1949年──米国含める西側諸国は、防衛軍事同盟「北大西洋条約機構《NATO》」を発足させた。 これに対抗すべく、1955年にソ連を中心とする東側諸国は「ワルシャワ条約機構(WTO/WPO)」を結成した。
 ​欧州を切り裂いた「鉄のカーテン」を挟み、張り詰めた緊張が長く続いた東西冷戦は終焉へと向かい、国家科学技術財団《NSTF》の世界における、米国の技術的優位性を確立し始めて、まだ間もない頃の話だ。
「正義」という大義名分の裏側で、組織が長年積み上げてきた研究はその年、数多《あまた》の犠牲の上に「禁忌の果実」を実らせることとなった。
 今も消えることのない、顔に刻まれた醜悪な火傷跡が疼く。
 それは、9年前の1987年。
 あの日、愛すべき日常が無垢な「正義」によって永遠に奪われた──ヴァレンタインの苦き記憶である。
 星条旗の陰に秘匿された地下深くにある、NSTF機関の極秘研究施設。
 一筋の光も届かない漆黒の回廊に、二人の足音が重なった。
「ミスター・スティーブン、ここは一体⋯⋯」
 当時30歳。組織への忠誠を誓い、幹部昇進を目前に控えた彼女は、かつて先生と仰ぎ、今は組織の重鎮となった男の背中を追って、最深部へと足を踏み入れていた。
「──見ての通り|NSTF《われら》の研究施設だ、ミス・ヴァレンタイン。だがここを知るのは、我々幹部クラスの人間か、それに携わる研究員だけだ」
 スーツに身を包む男──スティーブンは重厚な防壁扉の認証を通すと、隔壁が低い唸りを上げて開かれる。
 その先は、呼吸さえ吸い込まれそうな、完全なる静寂と暗闇──虚無に支配された漆黒の空間が広がっていた。
 ベトナム、そして湾岸。硝煙《しょうえん》と泥濘《ぬかるみ》の中で生死を共にした、ヴァレンタインにとって、隣を歩くスティーブンは、戦場での生き残る術を説いた唯一無二の“先生”。
「⋯⋯私がここに立ち入っても、平気なんですか?」
「あぁ、案ずるな。直《じき》にお前は、我々幹部の一員だからな。昇進式という形式を待たずとも、その資格は十分にあるとこちらが判断したまでだ」
 スティーブンは親しげに彼女の肩を叩き、静かに笑う。
「──っ、ありがとうございます⋯⋯!! これからも組織に全力を注ぎます──っ!!」
 溢れんばかりの歓喜に、ヴァレンタインの頬は上気し、その瞳は期待に潤んだ。
 それは組織という大きな機構の一部になれた喜び。
 ──その瞬間だった。
 扉の奥から漏れた強烈な光が、ヴァレンタインの視界を白く染め上げる。
 しかしその「正義」への陶酔が──この後に待ち受ける地獄への踏み台であることを、彼女はまだ知る由もなかった。