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第18話 偽りのマリファナ

ー/ー




「……神の領域(ロードレンジ)、開始──っ!!」

 クルクスの目がカッと開き、言葉が呟かれた刹那──彼女の立っていた場所に、圧縮されたエネルギーが着弾する。

「あれぇーっ?」

 直撃したかと思われたが……彼女の姿はどこにもなかった。

「もしかしてぇー、かくれぼーっ? ニナニナ、かくれんぼだーいすきーっ!」

 神の領域(ロードレンジ)──​数多の戦場を蹂躙せし、絶対の『神速』。
 それはクルクスが研ぎ澄ました、技の1つに過ぎない。
 全身を赤く液状化させ、人間の視覚認識速度を遥かに凌駕するスピードで、時間制限はあるものの縦横無尽に駆け巡ることが可能である。
 ただし、常人が使用すれば、肉体は衝撃に耐えられず、跡形もなく木っ端微塵に弾け飛んでしまう。
 そう、普通の人間であれば────

「……こっちよ、ニナ」

 クルクスの声が後ろから聞こえたため、ニナニナは勢いよく振り返った。

「えーっ? ──はむっ?!」

 突如、ニナニナの小さな口に葉巻状の物が、クルクスによって突っ込まれる。

「……あなたが好きな、マリファナよ」

 クルクスは、ニナニナが気分屋であることを熟知している。
 そのため、危険行動をした際はより関心が強いものへ少女の意識を誘導する。
 暴走のストッパーとしての役割を、彼女は担っている。

「マリファナアァァアアアア──っ!?!?」

 幼女の瞳が太陽の如く輝いたかと思えば、喜びのあまり、たちまちそれに吸い付いた。
 吸うのに夢中のニナニナは、クルクスが持つマリファナの箱に書かれた、「1日1本は絶対吸え(Make sure to smoke one a day)」という言葉に目が行かなかった。
 ワクチン入りタバコを“マリファナ”と称して、クルクスは与えている。
 発端はニナニナが「マリファナを吸うのに、憧れてるんだーっ!」と理由(わけ)の分からないことを言い始めたことだった。
「……どう? おいし……?」
「うん、美味しいっ! クーちゃんも吸おっ!」
「……えぇ」
 素直にクルクスは「ニナニナにマリファナを吸わせたい」と、組織に打診した結果、却下された……ので、妥協案としてこれを提示したわけである。
 それがまさか通ると、微塵もクルクスは思っていなかったが、上層部的には理に(かな)った判断とされたらしい。
「はいっ、クーちゃんっ!」
「えっ……?」
 クルクスの口元にタバコが突き出された。
「おすそ分けぇ〜〜、ニヒヒっ!!」
 そのタバコは数秒前まで、ニナニナが吸っていたものだ。
「……あっ、えっ、と、間接キスに……なる、け、ど……」
 想定外の事態に戸惑いを隠せず、しどろもどろになってしまうクルクス。
「間接、きっす〜……っ? って、なあに〜〜っ? おさかなさーんっ? おいしいのぉ〜〜っ??」
 羞恥に身を焼き、​降り注ぐ無邪気な追撃で心を(えぐ)られるも、クルクスは辛うじて冷静さを保つ。
「……そ、そう……ね。……美味しい、おさかな、さん、よっ……」
 誤魔化した罪悪感に(さいな)まれながら、クルクスは静かに一服するのだった。

 


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「……|神の領域《ロードレンジ》、開始──っ!!」
 クルクスの目がカッと開き、言葉が呟かれた刹那──彼女の立っていた場所に、圧縮されたエネルギーが着弾する。
「あれぇーっ?」
 直撃したかと思われたが……彼女の姿はどこにもなかった。
「もしかしてぇー、かくれぼーっ? ニナニナ、かくれんぼだーいすきーっ!」
 |神の領域《ロードレンジ》──​数多の戦場を蹂躙せし、絶対の『神速』。
 それはクルクスが研ぎ澄ました、技の1つに過ぎない。
 全身を赤く液状化させ、人間の視覚認識速度を遥かに凌駕するスピードで、時間制限はあるものの縦横無尽に駆け巡ることが可能である。
 ただし、常人が使用すれば、肉体は衝撃に耐えられず、跡形もなく木っ端微塵に弾け飛んでしまう。
 そう、普通の人間であれば────
「……こっちよ、ニナ」
 クルクスの声が後ろから聞こえたため、ニナニナは勢いよく振り返った。
「えーっ? ──はむっ?!」
 突如、ニナニナの小さな口に葉巻状の物が、クルクスによって突っ込まれる。
「……あなたが好きな、マリファナよ」
 クルクスは、ニナニナが気分屋であることを熟知している。
 そのため、危険行動をした際はより関心が強いものへ少女の意識を誘導する。
 暴走のストッパーとしての役割を、彼女は担っている。
「マリファナアァァアアアア──っ!?!?」
 幼女の瞳が太陽の如く輝いたかと思えば、喜びのあまり、たちまちそれに吸い付いた。
 吸うのに夢中のニナニナは、クルクスが持つマリファナの箱に書かれた、「|1日1本は絶対吸え《Make sure to smoke one a day》」という言葉に目が行かなかった。
 ワクチン入りタバコを“マリファナ”と称して、クルクスは与えている。
 発端はニナニナが「マリファナを吸うのに、憧れてるんだーっ!」と理由《わけ》の分からないことを言い始めたことだった。
「……どう? おいし……?」
「うん、美味しいっ! クーちゃんも吸おっ!」
「……えぇ」
 素直にクルクスは「ニナニナにマリファナを吸わせたい」と、組織に打診した結果、却下された……ので、妥協案としてこれを提示したわけである。
 それがまさか通ると、微塵もクルクスは思っていなかったが、上層部的には理に適《かな》った判断とされたらしい。
「はいっ、クーちゃんっ!」
「えっ……?」
 クルクスの口元にタバコが突き出された。
「おすそ分けぇ〜〜、ニヒヒっ!!」
 そのタバコは数秒前まで、ニナニナが吸っていたものだ。
「……あっ、えっ、と、間接キスに……なる、け、ど……」
 想定外の事態に戸惑いを隠せず、しどろもどろになってしまうクルクス。
「間接、きっす〜……っ? って、なあに〜〜っ? おさかなさーんっ? おいしいのぉ〜〜っ??」
 羞恥に身を焼き、​降り注ぐ無邪気な追撃で心を抉《えぐ》られるも、クルクスは辛うじて冷静さを保つ。
「……そ、そう……ね。……美味しい、おさかな、さん、よっ……」
 誤魔化した罪悪感に苛《さいな》まれながら、クルクスは静かに一服するのだった。