第58話 強敵と共闘と
ー/ー(風ではびくともしなかったが、これならどうだ)
自身の後ろに風を発生させ、その勢いに乗ってすれ違いざまに大鎌を振り抜いた。
「チッ!」
まるでコンクリートの壁を攻撃したような手応えが返ってきて、効果がないことを実感した。
「そんな攻撃では傷一つつかないぞ」
頭上から声が降ってきた。声の主を睨みつけるが、涼しい顔をしたままで全く意に介する様子はない。
「馬鹿な奴だ。あのとき、森の中で刀を交えたときに私には勝てないとわかっていただろう。そこのできそこないの鬼にのされて、そのまま眠っていればいいものを」
ペチャクチャと煩い奴だ。耳を貸す必要はない。まずは、目の前のコイツをなんとかしなければ。
そう思った矢先だった。とんでもない攻撃が飛び出し、颯太の集中を途切れさせた。
「ぺちゃくちゃとうるさいわね、あんた!」
柳田沙夜子がこともあろうに啖呵を切ったのだ。
「おい、バカ、やめ――」
「さっきは暗くてわからなかったけど、あんたあの妙な妖怪を私にとりつかせた男じゃない! 今度は何? こんな毛むくじゃらの気色悪い大蜘蛛に戦わせて自分は高みの見物気取り? あんた自分じゃ戦えないんじゃないの?」
沙夜子の顔を巨大な影を覆った。それに気づき顔を真上にもたげたときには、もうすでに頭上から鋭利な刃物が振り下ろされていた。
「沙夜子さん!」
3人の男が、一斉に飛び出し沙夜子の体を弾き飛ばした。牛鬼の脚が畳を破る。
「口に気をつけることだな、小娘。お前を葬ることなど造作もないこと」
沙夜子は打ちつけた頭をさすりながら立ち上がると、変わらず視線をぬらりひょんにぶつける。
「だからうるさいって言ってんのよ! 『お前を葬る』? やれるならやってみなさいよ! だいたいすぐに暴力にしか訴えられないなんて、あんたよっぽど自分の行動に自信がないのね!」
「おい、女、いいから黙っとけ。また、あいつに狙われるぞ」
「あんたも女、女って! いい加減に人を名前で呼んだら? いい? 私はさ、や、こ──」
また視界が暗くなり、沙夜子は颯太の風に飛ばされて攻撃を逃れた。
「いいから黙れ。また喚いても、今度は助けない」
頭をさすりながら上体を起こす栗色の髪の少女を呆れた目で一瞥すると、颯太は禍々しい大蜘蛛へと向かっていった。
「大丈夫ですか? 沙夜子さん」
囁き声に顔を上げると、爽やかな笑顔で手を差し伸べる蓮の姿があった。が、沙夜子はその表情の裏にある邪な願望を直感的に察知して、自らの手で起き上がった。
「そんなに警戒しなくても。いくらオレでもこんなときにそんなこと考えてないっスよ」
「誰も何も言ってないじゃない」
「あ……」
蓮の反応を無視すると、沙夜子は腕を組んで目の前で繰り広げられる壮絶な戦闘の分析をはじめた。颯太に言われなくとも自分には見ていることしかできないことはわかっていた。声を荒げることがどんなに危険なことかも。
(……何回もこんな危険な目にあえば嫌でもわかるわよ)
だが、それでも声を出さずにはいられなかったし、今もこうして逃げるわけにはいかなかった。逃げてしまえば、人間の、いや自分の尊厳が、そして私たちを守ろうとした御言の死したあとも残るその尊厳も奴らに奪われてしまう。
沙夜子は細く長い息を吐いた。
(とはいえ、このままじゃ殺られてしまうわね)
紙都と颯太はお互いを庇いながら果敢に攻撃を試みていたが、それらは全て弾き返されてしまっていた。今までどんな妖怪も切り裂いてきた紙都の一撃がまるで歯が立たない。
(……本来、蜘蛛の外骨格はさほど硬いものではないはず。なのにあの硬さ。顔は鬼だから硬いってわけ? やっぱり化け物ね。足先も鋭いし……でも、あの隠れている腹部はどうなのかしら。ああいう、這いつくばってるやつってだいたいお腹が弱点とか言うわよね。あれがジャンプした瞬間とかに上手く下から突ければあるいは──)
「沙夜子さん、オレ、バカなんでわからないんスけど、一ついいですか?」
「何よ」
この場に相応しくない気の抜けた声に思考を中断され、沙夜子は苛立ちながら返答した。
「あの蜘蛛みたいな化け物、沙夜子さんを2回も攻撃してきたじゃないですか」
「それが何!」
「でも、今は攻撃してこない。オレだったらまず弱いやつから狙いますけどね、邪魔だし。あれってもしかして音に反応してるんですか?」
「え、待って……」
沙夜子は口元に手を当てた。
確かに私が襲われた2回とも大声を上げたときに襲われた。あの化物は声に反応するということ?
「だとしたら、大声を出せばあれの注意を引き付けられる」
その隙に紙都とあの男が同時に下から突けば、倒せるかもしれない。よし。
沙夜子は再び大声を上げるために大きく息を吸った。
「かみ──」
しかし、その口が犬山の武骨な大きな手で塞がれる。驚いたがすぐにその手をどけると、
「何するのよ! このエロい──」
と叫ぼうとしたが、その先は続かなかった。獲物を射るような冷たい双眸が紙都に注がれていたからだ。
「いやいや。そういうのは男がすることっすよ。俺がやります! どうすか? 少し惚れましたか?」
そう言った蓮の顔はいつものようにニヤニヤとしていた。今垣間見たものは見間違いだろうか。
(いや、違う……)
確かに一瞬紙都を見ていた。しかし、その理由を問い質す前に蓮は沙夜子から駆け足で離れて声を張り上げた。
「紙都に颯太とか言ったか! 今から俺がこのデカ蜘蛛の注意を引けるから、あとはお前らでなんとかしろ!!」
本堂に響き渡るその声に向かって、今しがた紙都と颯太を襲っていた牛鬼が高く跳び上がった。
「蓮! 何を言ってるんだ!」
地鳴りとともに大量の埃が巻き散らかされる。 紙都は目を丸くしたままその場所を凝視していた。
「大丈夫、だいじょうぶ~今までいろんな修羅場を潜り抜けてきたこの犬山! そう簡単にはやられません!!」
蓮の態度に嘲笑が起こった。顔を上げるとぬらりひょんが口を手の平で覆う。
「おっと、失礼。よく立ち回りますねぇ、無駄な足掻きだと思いませんか? おっと、また牛鬼が」
頭上高くから脚が振り下ろされ、複数の破れた畳が空中を舞った。
「ムダだとは思わないよ。一見ムダと思う情報や出来事がターゲットを落とすことにつながるんだぜ? 効率優先主義じゃ恋愛は上手くいかねーよ」
「あいつ何言ってんだ?」
遠巻きに様子を窺っていた紙都は、蓮を止めさせようと足を踏み出す。その肩にポンと手を置いて颯太が紙都を制止した。
「待て。あいつの意図がわかった」
自身の後ろに風を発生させ、その勢いに乗ってすれ違いざまに大鎌を振り抜いた。
「チッ!」
まるでコンクリートの壁を攻撃したような手応えが返ってきて、効果がないことを実感した。
「そんな攻撃では傷一つつかないぞ」
頭上から声が降ってきた。声の主を睨みつけるが、涼しい顔をしたままで全く意に介する様子はない。
「馬鹿な奴だ。あのとき、森の中で刀を交えたときに私には勝てないとわかっていただろう。そこのできそこないの鬼にのされて、そのまま眠っていればいいものを」
ペチャクチャと煩い奴だ。耳を貸す必要はない。まずは、目の前のコイツをなんとかしなければ。
そう思った矢先だった。とんでもない攻撃が飛び出し、颯太の集中を途切れさせた。
「ぺちゃくちゃとうるさいわね、あんた!」
柳田沙夜子がこともあろうに啖呵を切ったのだ。
「おい、バカ、やめ――」
「さっきは暗くてわからなかったけど、あんたあの妙な妖怪を私にとりつかせた男じゃない! 今度は何? こんな毛むくじゃらの気色悪い大蜘蛛に戦わせて自分は高みの見物気取り? あんた自分じゃ戦えないんじゃないの?」
沙夜子の顔を巨大な影を覆った。それに気づき顔を真上にもたげたときには、もうすでに頭上から鋭利な刃物が振り下ろされていた。
「沙夜子さん!」
3人の男が、一斉に飛び出し沙夜子の体を弾き飛ばした。牛鬼の脚が畳を破る。
「口に気をつけることだな、小娘。お前を葬ることなど造作もないこと」
沙夜子は打ちつけた頭をさすりながら立ち上がると、変わらず視線をぬらりひょんにぶつける。
「だからうるさいって言ってんのよ! 『お前を葬る』? やれるならやってみなさいよ! だいたいすぐに暴力にしか訴えられないなんて、あんたよっぽど自分の行動に自信がないのね!」
「おい、女、いいから黙っとけ。また、あいつに狙われるぞ」
「あんたも女、女って! いい加減に人を名前で呼んだら? いい? 私はさ、や、こ──」
また視界が暗くなり、沙夜子は颯太の風に飛ばされて攻撃を逃れた。
「いいから黙れ。また喚いても、今度は助けない」
頭をさすりながら上体を起こす栗色の髪の少女を呆れた目で一瞥すると、颯太は禍々しい大蜘蛛へと向かっていった。
「大丈夫ですか? 沙夜子さん」
囁き声に顔を上げると、爽やかな笑顔で手を差し伸べる蓮の姿があった。が、沙夜子はその表情の裏にある邪な願望を直感的に察知して、自らの手で起き上がった。
「そんなに警戒しなくても。いくらオレでもこんなときにそんなこと考えてないっスよ」
「誰も何も言ってないじゃない」
「あ……」
蓮の反応を無視すると、沙夜子は腕を組んで目の前で繰り広げられる壮絶な戦闘の分析をはじめた。颯太に言われなくとも自分には見ていることしかできないことはわかっていた。声を荒げることがどんなに危険なことかも。
(……何回もこんな危険な目にあえば嫌でもわかるわよ)
だが、それでも声を出さずにはいられなかったし、今もこうして逃げるわけにはいかなかった。逃げてしまえば、人間の、いや自分の尊厳が、そして私たちを守ろうとした御言の死したあとも残るその尊厳も奴らに奪われてしまう。
沙夜子は細く長い息を吐いた。
(とはいえ、このままじゃ殺られてしまうわね)
紙都と颯太はお互いを庇いながら果敢に攻撃を試みていたが、それらは全て弾き返されてしまっていた。今までどんな妖怪も切り裂いてきた紙都の一撃がまるで歯が立たない。
(……本来、蜘蛛の外骨格はさほど硬いものではないはず。なのにあの硬さ。顔は鬼だから硬いってわけ? やっぱり化け物ね。足先も鋭いし……でも、あの隠れている腹部はどうなのかしら。ああいう、這いつくばってるやつってだいたいお腹が弱点とか言うわよね。あれがジャンプした瞬間とかに上手く下から突ければあるいは──)
「沙夜子さん、オレ、バカなんでわからないんスけど、一ついいですか?」
「何よ」
この場に相応しくない気の抜けた声に思考を中断され、沙夜子は苛立ちながら返答した。
「あの蜘蛛みたいな化け物、沙夜子さんを2回も攻撃してきたじゃないですか」
「それが何!」
「でも、今は攻撃してこない。オレだったらまず弱いやつから狙いますけどね、邪魔だし。あれってもしかして音に反応してるんですか?」
「え、待って……」
沙夜子は口元に手を当てた。
確かに私が襲われた2回とも大声を上げたときに襲われた。あの化物は声に反応するということ?
「だとしたら、大声を出せばあれの注意を引き付けられる」
その隙に紙都とあの男が同時に下から突けば、倒せるかもしれない。よし。
沙夜子は再び大声を上げるために大きく息を吸った。
「かみ──」
しかし、その口が犬山の武骨な大きな手で塞がれる。驚いたがすぐにその手をどけると、
「何するのよ! このエロい──」
と叫ぼうとしたが、その先は続かなかった。獲物を射るような冷たい双眸が紙都に注がれていたからだ。
「いやいや。そういうのは男がすることっすよ。俺がやります! どうすか? 少し惚れましたか?」
そう言った蓮の顔はいつものようにニヤニヤとしていた。今垣間見たものは見間違いだろうか。
(いや、違う……)
確かに一瞬紙都を見ていた。しかし、その理由を問い質す前に蓮は沙夜子から駆け足で離れて声を張り上げた。
「紙都に颯太とか言ったか! 今から俺がこのデカ蜘蛛の注意を引けるから、あとはお前らでなんとかしろ!!」
本堂に響き渡るその声に向かって、今しがた紙都と颯太を襲っていた牛鬼が高く跳び上がった。
「蓮! 何を言ってるんだ!」
地鳴りとともに大量の埃が巻き散らかされる。 紙都は目を丸くしたままその場所を凝視していた。
「大丈夫、だいじょうぶ~今までいろんな修羅場を潜り抜けてきたこの犬山! そう簡単にはやられません!!」
蓮の態度に嘲笑が起こった。顔を上げるとぬらりひょんが口を手の平で覆う。
「おっと、失礼。よく立ち回りますねぇ、無駄な足掻きだと思いませんか? おっと、また牛鬼が」
頭上高くから脚が振り下ろされ、複数の破れた畳が空中を舞った。
「ムダだとは思わないよ。一見ムダと思う情報や出来事がターゲットを落とすことにつながるんだぜ? 効率優先主義じゃ恋愛は上手くいかねーよ」
「あいつ何言ってんだ?」
遠巻きに様子を窺っていた紙都は、蓮を止めさせようと足を踏み出す。その肩にポンと手を置いて颯太が紙都を制止した。
「待て。あいつの意図がわかった」
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