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#6

ー/ー



 長老は意外に健脚だった。
 というか手にしていた例の杖をつくでもなく、普通に手にもってスタスタ歩いてるよ、この人。
 どうやら雰囲気作りのアイテムらしい。

 後ろを振り返らずにさっさと薄暗い裏路地へ入っていく長老のあとをどこまでついて行くべきかと考えている間に、長老は立派な石造りの建物……の裏口らしきところで立ち止まった。
 そして私達が後を付いてきていることを確認すると無言で頷いて扉を開け、中へ入ってしまった。

「ね、イサミ。どうする?このへんでバックレる?」
「あ?あの爺さんの話を聞きに来たんとちゃうんか?」
「もちろん、違うよ。あの場から逃げようと思っただけだからね。幸い街の人達は付いてきてないみたいだし、ヘルハウンド退治の依頼料は貰ってるし、もうこの街を出ちゃう?」
「んー、でも動いたら腹減ったで」

 私の言葉にイサミはしばらく考えてから脳天気な事を言った。
 いや、この街に留まっていたら黒騎士の仲間だって言われかねないんだけど。
 そう考えた私はイサミの手を引いて路地裏を抜けようとしたけど、私の細腕じゃいくらひっぱってもガタイのいいイサミを動かすことが出来ない。

 そう、イサミは立ち止まったまま長老が消えた扉の方をじっと見てるんだ……。

「なに、気になるの?確かに何か用がありそうな雰囲気だったけどさ」
「いや、ちゃうねん。……なんか、旨そうな臭いせぇへんか?もしかして、感謝の宴とか用意してくれとるんちゃうか?」
「はぁ……?まさか、そんな……」

 何を言ってるんだ、このお子様勇者は……。
 と思ったんだけど、改めて臭いを嗅ぐと確かに食欲をそそるような香ばしくてスパイシーな香りが扉の向こうから漂ってきてるような気もする。

「……確かに良い匂いするね」
「やろ?なら決まりや!」

 そう言うとイサミは私の返事を待たずに扉を開けてしまった。
 そして中から漂う臭いの暴力。

 ついフラフラと,イサミのあとについて建物の中へ入った私のことを誰が責められるだろうか!


 入ったところはダイニングでも食堂でもなく、何故か倉庫のような……いわゆるバックヤードのような所だった。
 長老の姿はないけど、正面に扉があるので、きっとその先で長老は待っているのだろう。
 そう考えた私は回りを見回しているイサミに先んじて扉を開いた。

 扉の先に広がっていたのは……いくつかのテーブルと椅子が置かれた、食堂らしき空間。
 そのうちの1つに長老が座っていて、彼の前のテーブルには料理が並んでいる。

「おお、茶色っぽい勇者よ、そして黒っぽい娘よ。よく参られた」
「なぁ、爺さん。これ食べてええんか?」
「う……うむ。儂の頼みを聞いてくれるなら……考えてもいいぞ」

 そそくさと席に着いたイサミが物欲しげな様子で料理を食べる許可を取ろうとしているけど……。
 いまの口ぶりって、ヘルハウンドを倒したお礼じゃなくて、これから依頼される話の前払いってことだよね?

 そう思った私はイサミを止めようとしたけど、さっきから空腹を訴えていたイサミは私が声を掛ける前に骨付き肉を握りしめて、勝手に食べ始めた!

「ちょ、イサミ!」
「サチ、これ旨いで!サチも喰うたらええやん!」
「……はぁ……仕方ないなぁ」

 この長老はなんちゃって長老っぽいけど、あの場から私達を連れ出し、料理を見せた上で話があると言ってきた。
 ということは状況的にきっと面倒な依頼に違いない。
 だからせめて話を聞いてから……と思ったんだけど。

 でもまぁいいか。どうせ依頼を達成する肉体労働担当はイサミだ。
 私は交渉担当のマネージャーで、少しでも良い条件で契約を締結てきたらそれでいい。

 諦め半分にそう自分に言い聞かせて、私も席に着く。

「それで、頼みってなんですか?」
「うむ、それなのじゃが……実は非常に深刻な事態でな」
「深刻……まぁ、確かにそうでしょうね」

 定期便のように黒騎士が街を襲ってくるんだから、この事態を深刻と呼ぶのは間違ってないだろう。
 ソースの掛かったベイクドポテトを口に放り込みながら、私はそんな事を考える。
 イサミはというと両手に肉を持って盛大に食い散らかしている。
 行儀悪いなぁ……。

 長老も、そんなイサミをジト目で見てるけど……あ、これ勇者としての評価が下がるやつだ。
 なら、せめて私が有能そうに立ち回ってイサミが下げた価値を回復させないと。

 そう考えた私は、名探偵が推理するシーンを脳内で再現しながら、芝居がかった身振りと共に長老に指を突きつけた。

「……わかりました。イサミがもう料理食べちゃってますし、話を聞きます」
「サチも喰うとるやん」
「黒騎士、ですね?」

 イサミの言葉を無視して私が言い放った言葉に、長老は一瞬目を大きく見開いた。
 そして……遠くを見る眼差しと共に、長老はおもむろに言った。

「黒き邪悪なる騎士……」

 その言葉に、私は少し違和感を感じた。
 いや、だって……イサミは茶色っぽい勇者って言われてたけど。
 私、黒っぽい娘って呼ばれてたよね?

 この流れだと私も黒き邪悪なる娘とか呼ばれそうじゃない!
 そう思った私は思わず突っ込んでいた。

「え、待って?それ、黒いから邪悪なの?邪悪だから黒いの?」

 いや、自分でも何を言ってるのかわからないけど、黒いから邪悪っていうのはやめて欲しいと思ったんだ。
 そして私が思わず発した疑問の言葉に長老はギロリとこちらを睨み付けてから重々しく言った。

「騎士は黒いが故に邪悪。それ故に黒いのじゃ」
「え……結局どっち……?」

 良くわからないけど、長老の中では黒と邪悪はイコールで結ばれるらしい。
 それ、色差別じゃない?
 黒猫(ブラックフェラル)の件もあるし、この世界の人達って黒に偏見でもあるんだろうか?
 もしそうだとしたら、自動的に私も邪悪認定されるってこと!?

「さて、では黒き聖女よ……」

 けど私の混乱を余所に、長老はそんな事を言い出した。
 いつの間にか黒が邪悪じゃなくなってる?
 いや、私の髪も瞳も確かに黒いし、それで邪悪呼ばわりされるのは心外だけども!

「あの、私は別に聖女とかじゃないんで。勇者様の金庫番、交渉役なんで」
「……ほう、金庫番とな……。それは頼もしい」
「……?ま、まぁ……それで黒騎士のことを聞かせて貰えますか?私達、相手のことを良く知らなくて」
「うむ。騎士は黒いが故に邪悪――」
「あ、色の話はいいんで。名前とか、なんで街を襲っているのかとか。後、黒騎士がどこにいるのか教えて……」

 私がそう口にした瞬間だった。
 眼鏡に、矢印と共に文字が表示される。

 ……左方向、直進12Km……。

 そうか、別に黒騎士がどこをねぐらを構えているかを長老に聞かなくても、ナビで調べればわかるんだっけ。

「あー、居場所はいいので、名前とか目的とか教えてください」
「知らぬ」
「ええ……」

 身もふたもなく言い切る長老に強い脱力感を感じる。
 普通、こういうときって街と黒騎士の間に存在する因縁とか、悲しい物語とか、黒騎士の残虐さとかをモノローグ的に語ってくれるものじゃないの!?




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 というか手にしていた例の杖をつくでもなく、普通に手にもってスタスタ歩いてるよ、この人。
 どうやら雰囲気作りのアイテムらしい。
 後ろを振り返らずにさっさと薄暗い裏路地へ入っていく長老のあとをどこまでついて行くべきかと考えている間に、長老は立派な石造りの建物……の裏口らしきところで立ち止まった。
 そして私達が後を付いてきていることを確認すると無言で頷いて扉を開け、中へ入ってしまった。
「ね、イサミ。どうする?このへんでバックレる?」
「あ?あの爺さんの話を聞きに来たんとちゃうんか?」
「もちろん、違うよ。あの場から逃げようと思っただけだからね。幸い街の人達は付いてきてないみたいだし、ヘルハウンド退治の依頼料は貰ってるし、もうこの街を出ちゃう?」
「んー、でも動いたら腹減ったで」
 私の言葉にイサミはしばらく考えてから脳天気な事を言った。
 いや、この街に留まっていたら黒騎士の仲間だって言われかねないんだけど。
 そう考えた私はイサミの手を引いて路地裏を抜けようとしたけど、私の細腕じゃいくらひっぱってもガタイのいいイサミを動かすことが出来ない。
 そう、イサミは立ち止まったまま長老が消えた扉の方をじっと見てるんだ……。
「なに、気になるの?確かに何か用がありそうな雰囲気だったけどさ」
「いや、ちゃうねん。……なんか、旨そうな臭いせぇへんか?もしかして、感謝の宴とか用意してくれとるんちゃうか?」
「はぁ……?まさか、そんな……」
 何を言ってるんだ、このお子様勇者は……。
 と思ったんだけど、改めて臭いを嗅ぐと確かに食欲をそそるような香ばしくてスパイシーな香りが扉の向こうから漂ってきてるような気もする。
「……確かに良い匂いするね」
「やろ?なら決まりや!」
 そう言うとイサミは私の返事を待たずに扉を開けてしまった。
 そして中から漂う臭いの暴力。
 ついフラフラと,イサミのあとについて建物の中へ入った私のことを誰が責められるだろうか!
 入ったところはダイニングでも食堂でもなく、何故か倉庫のような……いわゆるバックヤードのような所だった。
 長老の姿はないけど、正面に扉があるので、きっとその先で長老は待っているのだろう。
 そう考えた私は回りを見回しているイサミに先んじて扉を開いた。
 扉の先に広がっていたのは……いくつかのテーブルと椅子が置かれた、食堂らしき空間。
 そのうちの1つに長老が座っていて、彼の前のテーブルには料理が並んでいる。
「おお、茶色っぽい勇者よ、そして黒っぽい娘よ。よく参られた」
「なぁ、爺さん。これ食べてええんか?」
「う……うむ。儂の頼みを聞いてくれるなら……考えてもいいぞ」
 そそくさと席に着いたイサミが物欲しげな様子で料理を食べる許可を取ろうとしているけど……。
 いまの口ぶりって、ヘルハウンドを倒したお礼じゃなくて、これから依頼される話の前払いってことだよね?
 そう思った私はイサミを止めようとしたけど、さっきから空腹を訴えていたイサミは私が声を掛ける前に骨付き肉を握りしめて、勝手に食べ始めた!
「ちょ、イサミ!」
「サチ、これ旨いで!サチも喰うたらええやん!」
「……はぁ……仕方ないなぁ」
 この長老はなんちゃって長老っぽいけど、あの場から私達を連れ出し、料理を見せた上で話があると言ってきた。
 ということは状況的にきっと面倒な依頼に違いない。
 だからせめて話を聞いてから……と思ったんだけど。
 でもまぁいいか。どうせ依頼を達成する肉体労働担当はイサミだ。
 私は交渉担当のマネージャーで、少しでも良い条件で契約を締結てきたらそれでいい。
 諦め半分にそう自分に言い聞かせて、私も席に着く。
「それで、頼みってなんですか?」
「うむ、それなのじゃが……実は非常に深刻な事態でな」
「深刻……まぁ、確かにそうでしょうね」
 定期便のように黒騎士が街を襲ってくるんだから、この事態を深刻と呼ぶのは間違ってないだろう。
 ソースの掛かったベイクドポテトを口に放り込みながら、私はそんな事を考える。
 イサミはというと両手に肉を持って盛大に食い散らかしている。
 行儀悪いなぁ……。
 長老も、そんなイサミをジト目で見てるけど……あ、これ勇者としての評価が下がるやつだ。
 なら、せめて私が有能そうに立ち回ってイサミが下げた価値を回復させないと。
 そう考えた私は、名探偵が推理するシーンを脳内で再現しながら、芝居がかった身振りと共に長老に指を突きつけた。
「……わかりました。イサミがもう料理食べちゃってますし、話を聞きます」
「サチも喰うとるやん」
「黒騎士、ですね?」
 イサミの言葉を無視して私が言い放った言葉に、長老は一瞬目を大きく見開いた。
 そして……遠くを見る眼差しと共に、長老はおもむろに言った。
「黒き邪悪なる騎士……」
 その言葉に、私は少し違和感を感じた。
 いや、だって……イサミは茶色っぽい勇者って言われてたけど。
 私、黒っぽい娘って呼ばれてたよね?
 この流れだと私も黒き邪悪なる娘とか呼ばれそうじゃない!
 そう思った私は思わず突っ込んでいた。
「え、待って?それ、黒いから邪悪なの?邪悪だから黒いの?」
 いや、自分でも何を言ってるのかわからないけど、黒いから邪悪っていうのはやめて欲しいと思ったんだ。
 そして私が思わず発した疑問の言葉に長老はギロリとこちらを睨み付けてから重々しく言った。
「騎士は黒いが故に邪悪。それ故に黒いのじゃ」
「え……結局どっち……?」
 良くわからないけど、長老の中では黒と邪悪はイコールで結ばれるらしい。
 それ、色差別じゃない?
 |黒猫《ブラックフェラル》の件もあるし、この世界の人達って黒に偏見でもあるんだろうか?
 もしそうだとしたら、自動的に私も邪悪認定されるってこと!?
「さて、では黒き聖女よ……」
 けど私の混乱を余所に、長老はそんな事を言い出した。
 いつの間にか黒が邪悪じゃなくなってる?
 いや、私の髪も瞳も確かに黒いし、それで邪悪呼ばわりされるのは心外だけども!
「あの、私は別に聖女とかじゃないんで。勇者様の金庫番、交渉役なんで」
「……ほう、金庫番とな……。それは頼もしい」
「……?ま、まぁ……それで黒騎士のことを聞かせて貰えますか?私達、相手のことを良く知らなくて」
「うむ。騎士は黒いが故に邪悪――」
「あ、色の話はいいんで。名前とか、なんで街を襲っているのかとか。後、黒騎士がどこにいるのか教えて……」
 私がそう口にした瞬間だった。
 眼鏡に、矢印と共に文字が表示される。
 ……左方向、直進12Km……。
 そうか、別に黒騎士がどこをねぐらを構えているかを長老に聞かなくても、ナビで調べればわかるんだっけ。
「あー、居場所はいいので、名前とか目的とか教えてください」
「知らぬ」
「ええ……」
 身もふたもなく言い切る長老に強い脱力感を感じる。
 普通、こういうときって街と黒騎士の間に存在する因縁とか、悲しい物語とか、黒騎士の残虐さとかをモノローグ的に語ってくれるものじゃないの!?