表示設定
表示設定
目次 目次




蘇生

ー/ー



 シスターのエリシアは、今日も死亡した冒険者たちを生き返らせる仕事をしていた。



 死に方は実に様々だ。全身を引き裂かれた者、焼け焦げた者、見るに堪えない姿の者たち……だが、エリシアにとってはもはや日常茶飯事であり、特に感情を揺さぶられることもなかった。



「——では100万Gの寄付を。」



 ——ペイペイ♪



 支払い音が響き渡り、エリシアは早速蘇生の儀式に取り掛かる。棺桶の蓋を慎重に開ける。



 ——ガラ。



「……。」



 棺の中には何かが横たわっている。

 それがエリシアの目に入った瞬間——。



 ——ギョロ。



「……。」



 ——ギョロ。





「マグロ……。」





 そこにいたのは、死んだ魚のような目をした……というか、死んだ魚そのもの。

 立派なマグロが横たわっていた。



「いや……マグロ……。」



 エリシアは、マグロを見つめたまま、依頼人である冒険者に目を向ける。



「な、仲間なんで……。」



「〜〜?」



 ???????????????



 エリシアの脳内に「?????」が乱舞する。



「え、いや……魚やん……え?仲間?……いや……でもマグロですわよ、これ。ねえ!ちょっと!」



 彼女は棺桶を指差しながら、言葉にならない声を上げる。



「私ね、てっきり人間だと思いますわよ。でもね、これ……開けてびっくり……マグロですわよ!ちょっと!ねえ!なんで……おま……えええええぇ!?」



 混乱するエリシアをよそに、依頼人は真顔で頷いていた。



「大事な仲間なんです……ぜひ……。」



 「いやいやいやいや!ちょっと!これ……釣ってきたんですの!?」



 エリシアが指を震わせながら叫ぶ。

 依頼人は無言で視線を逸らした。



「ちょほほほ!……じゃなくて……いや、どう見たって産地直送ですわよ!」



 エリシアが棺桶の中のマグロを指差しながら、半ば笑いそうになりつつも、懸命に怒りをこらえている。



(産地直葬……いや違う、「直送」か……)



 頭の中で変な言葉がよぎるのを振り払いつつ、エリシアは咳払いして気を取り直した。



「こんなん!生き返らせるとかじゃなくて!ちょほほほ……いや、違うわ!おっほん!」



 彼女は一呼吸置いてから改めて指摘する。



「こんなんお前……刺身にするかカマ焼きにするかの分かれ目ですわよ!いや、てか……生き返らせてどうするんですの!?なにぃ?海に……そっと返すんですの!?ねえ!私が持って帰りましょうか!?」



 その場の空気は一瞬で凍りつく。依頼人は必死の形相で手を振り、首を横に振った。



「違うんです!違うんです!仲間なんですってば!いや本当に!」



 エリシアは額に手を当て、深くため息をついた。



「……わかりましたわ。とりあえず蘇生してみますけど……生き返った瞬間に海に帰りたいとか言い出したら、絶対私のせいにしないでくださいましよ?」



 こうしてエリシアは、初めてマグロを対象に蘇生の儀式を行うことになったのだった。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 着ねえよ!


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 シスターのエリシアは、今日も死亡した冒険者たちを生き返らせる仕事をしていた。
 死に方は実に様々だ。全身を引き裂かれた者、焼け焦げた者、見るに堪えない姿の者たち……だが、エリシアにとってはもはや日常茶飯事であり、特に感情を揺さぶられることもなかった。
「——では100万Gの寄付を。」
 ——ペイペイ♪
 支払い音が響き渡り、エリシアは早速蘇生の儀式に取り掛かる。棺桶の蓋を慎重に開ける。
 ——ガラ。
「……。」
 棺の中には何かが横たわっている。
 それがエリシアの目に入った瞬間——。
 ——ギョロ。
「……。」
 ——ギョロ。
「マグロ……。」
 そこにいたのは、死んだ魚のような目をした……というか、死んだ魚そのもの。
 立派なマグロが横たわっていた。
「いや……マグロ……。」
 エリシアは、マグロを見つめたまま、依頼人である冒険者に目を向ける。
「な、仲間なんで……。」
「〜〜?」
 ???????????????
 エリシアの脳内に「?????」が乱舞する。
「え、いや……魚やん……え?仲間?……いや……でもマグロですわよ、これ。ねえ!ちょっと!」
 彼女は棺桶を指差しながら、言葉にならない声を上げる。
「私ね、てっきり人間だと思いますわよ。でもね、これ……開けてびっくり……マグロですわよ!ちょっと!ねえ!なんで……おま……えええええぇ!?」
 混乱するエリシアをよそに、依頼人は真顔で頷いていた。
「大事な仲間なんです……ぜひ……。」
 「いやいやいやいや!ちょっと!これ……釣ってきたんですの!?」
 エリシアが指を震わせながら叫ぶ。
 依頼人は無言で視線を逸らした。
「ちょほほほ!……じゃなくて……いや、どう見たって産地直送ですわよ!」
 エリシアが棺桶の中のマグロを指差しながら、半ば笑いそうになりつつも、懸命に怒りをこらえている。
(産地直葬……いや違う、「直送」か……)
 頭の中で変な言葉がよぎるのを振り払いつつ、エリシアは咳払いして気を取り直した。
「こんなん!生き返らせるとかじゃなくて!ちょほほほ……いや、違うわ!おっほん!」
 彼女は一呼吸置いてから改めて指摘する。
「こんなんお前……刺身にするかカマ焼きにするかの分かれ目ですわよ!いや、てか……生き返らせてどうするんですの!?なにぃ?海に……そっと返すんですの!?ねえ!私が持って帰りましょうか!?」
 その場の空気は一瞬で凍りつく。依頼人は必死の形相で手を振り、首を横に振った。
「違うんです!違うんです!仲間なんですってば!いや本当に!」
 エリシアは額に手を当て、深くため息をついた。
「……わかりましたわ。とりあえず蘇生してみますけど……生き返った瞬間に海に帰りたいとか言い出したら、絶対私のせいにしないでくださいましよ?」
 こうしてエリシアは、初めてマグロを対象に蘇生の儀式を行うことになったのだった。