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000 子供達

ー/ー



 ー≪???城 城壁≫ー

 そこは巨大な城の城壁の上だった。
  下から吹き上げる風に体がふわりと浮きそうになり、思わず隣の女性にしがみつく。

「わわわっ、飛ばされる……!」
「母上は軽いのですから、我に捕まっていていいのですよ」
「だから、ワタシはあなたのお母さんじゃないって言ってるでしょ!」
「わははは!」

 鱗の生えた大柄な女性が、ワタシの否定を聞いて豪快に笑った。
  ワタシは拳を握りしめて力説するが、当の本人はどこ吹く風だ。

「もう、上姉さんはそうやってお母さんをからかって…」
「ははは、すまんすまん。母上を見るとつい揶揄(からか)いたくなってしまって」
「それには同意します。お母さんはこう……庇護欲を掻き立てられるというか、構いたくなるというか…」
「ううう……敬われてるのか、バカにされているのか……」

 後ろから緑髪の鳥人の女性が窘めるが、大柄な女性は悪びれず、鳥人も同意してしまう。
  この時点で、ワタシの味方はいなくなった。

 この緊張感ゼロの会話を聞いていると、今まさに城塞都市オルセンが滅亡へ突き進んでいることを忘れそうになる。
  いや、オルセンだけではない。
  その背後に広がる中央大陸の人々すべてが、押し寄せる魔物に蹂躙されるだろう。

「それにしても見渡す限りの大群ですなぁ」


 そう呟いた大柄な女性――シンヴィ。
  9大ダンジョンの1つ【ゆりかご(クレイドル)】の双璧をなす守護獣(ガーディアン)だ。

 【 クレイドル守護獣(ガーディアン) シンヴィ 】:竜族系

 城壁から見下ろす森は、地面が見えないほどの魔物で埋め尽くされていた。
  元は動物や人間だった者たち――この地で命を落とし、動く死体(リビングデッド)となった者たちだ。
 
「だっ大丈夫かなぁ、あんなに沢山。もちろんシンヴィの力は信じているけど、数が……」
「母上が心配というのなら、少し数を減らしますか」

 アースの不安に、シンヴィが軽く応じる。
  額と胸元の魔石が光り、魔方陣がいくつも展開される。
  魔力が限界まで満ちた瞬間――

 ドォンッ!!

 光の奔流が森を薙ぎ払い、数千のアンデッドが一瞬で吹き飛んだ。
  だが、空いた場所はすぐに周囲から流れ込む魔物で埋まってしまう。

「あちゃー、多勢に無勢か。これだときりがないな」
「それに、この匂い…、うぷっ 上姉さんのブレス、悪臭が風に乗ってここまで……人間には毒でしょ」

 鳥人のフェザーが顔をしかめる。

【 クレイドル近衛獣(ロイヤルガード) フェザー 】:鳥人(とりびと)

「えええ?毒?これ毒なの??吸ったらみんな死んじゃう?」
「私たちは平気ですが、あれは病原体の塊ですから、これ以上飛散すると……」
「それはダメだよ、どうしよう……何かいい手は……」
「我は嫌だぞ。周りを気にしてちまちまやるなど性に合わん!」

 シンヴィが不満を露わにしたところで、フェザーがひらめいたように言う。

「別に上姉さんに頼まなくても、お母さんがやればいいのでは?」
「え?ワタシ?」
「ええ、お母さんが全部飲み込んで溶かせば解決です」
「おっ、いいな。久しぶりに母上の大津波(あれ)が見られるのか」

 こうなると、もう止まらない。

「これするとワタシって魔力量しか取り柄が無いって思えて落ち込むんだよね……」
「森を覆い尽くすほどの極小単生物(プチスライム)を生み出せるのはお母さんだけです」
「そうだぞ、我のブレスでも1/10しか倒せんのを丸ごと飲み込むのは母上くらいだ」

 2人がワタシを気遣って褒めてくれてるけどそんな見え見えのよいしょに騙されるほど子供じゃないといいたい。 
愚痴をこぼしながらも両手の手のひらに魔力を集めていく。アースの周りに魔力の風が渦巻きどんどん凝縮されていく。
「おいで、極小単生物(プチスライム)
 そう小さくつぶやくと、手のひらから魔力が噴き出す。それは極小単生物(プチスライム)となり勢いよく溢れ出した。
 手のひらから零れ、アースの周りに広がっていく。勢いは衰えることもなく極小単生物(プチスライム)の水たまりが出来た。
 水たまりはどんどん大きくなり、ついにはオルセンの城壁を伝って地面に落ちると森の奥に広がっていった。


 しばらくすると魔物の進軍の音が変わった。地鳴りと思えた音が湿地を歩くようなパシャパシャという音に変わったのだ。
 魔物の足元には極小単生物(プチスライム)が溢れていた。いや極小単生物(プチスライム)の中を魔物が歩いていると言った方がいいだろう。

「おっ、そろそろかの」
「ええ、そろそろかと」

 次の瞬間――
  数万倍のプチスライムが噴き出し、城壁下はスライムの海と化した。
 津波のように隆起したスライムがアンデッドを飲み込み、溶かし、押し流していく。
  そして、すべてが消えた。

「全て溶けて消えた様ですねぇ」
「さすがは母上、まさに圧巻!」
「ううう、ただ溶かしただけで工夫もなにもない……」

 でも、この子たちが一緒なら、どんなことも乗り越えられる気がする――
  あれ?なんでこの子たちって……?
  ワタシはまだ子供なのに…


 ……。
「……」
「…ぉぃ! おい!」
「いい加減起きろ! 昼休みはとっくに終わってるぞ!」

 見張り役の男に起こされた。
  どうやら昼休みに居眠りしていたらしい。

「ごっごめんなさい」

 小屋へ戻りながら、夢の内容を思い出そうとするが、霧のように消えていく。
 いけない。早く戻らないと、また殴られる。


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次のエピソードへ進む 001 干し肉と魔晶石


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 ー≪???城 城壁≫ー
 そこは巨大な城の城壁の上だった。
  下から吹き上げる風に体がふわりと浮きそうになり、思わず隣の女性にしがみつく。
「わわわっ、飛ばされる……!」
「母上は軽いのですから、我に捕まっていていいのですよ」
「だから、ワタシはあなたのお母さんじゃないって言ってるでしょ!」
「わははは!」
 鱗の生えた大柄な女性が、ワタシの否定を聞いて豪快に笑った。
  ワタシは拳を握りしめて力説するが、当の本人はどこ吹く風だ。
「もう、上姉さんはそうやってお母さんをからかって…」
「ははは、すまんすまん。母上を見るとつい|揶揄《からか》いたくなってしまって」
「それには同意します。お母さんはこう……庇護欲を掻き立てられるというか、構いたくなるというか…」
「ううう……敬われてるのか、バカにされているのか……」
 後ろから緑髪の鳥人の女性が窘めるが、大柄な女性は悪びれず、鳥人も同意してしまう。
  この時点で、ワタシの味方はいなくなった。
 この緊張感ゼロの会話を聞いていると、今まさに城塞都市オルセンが滅亡へ突き進んでいることを忘れそうになる。
  いや、オルセンだけではない。
  その背後に広がる中央大陸の人々すべてが、押し寄せる魔物に蹂躙されるだろう。
「それにしても見渡す限りの大群ですなぁ」
 そう呟いた大柄な女性――シンヴィ。
  9大ダンジョンの1つ【|ゆりかご《クレイドル》】の双璧をなす|守護獣《ガーディアン》だ。
 【 クレイドル|守護獣《ガーディアン》 シンヴィ 】:竜族系
 城壁から見下ろす森は、地面が見えないほどの魔物で埋め尽くされていた。
  元は動物や人間だった者たち――この地で命を落とし、動く死体《リビングデッド》となった者たちだ。
「だっ大丈夫かなぁ、あんなに沢山。もちろんシンヴィの力は信じているけど、数が……」
「母上が心配というのなら、少し数を減らしますか」
 アースの不安に、シンヴィが軽く応じる。
  額と胸元の魔石が光り、魔方陣がいくつも展開される。
  魔力が限界まで満ちた瞬間――
 ドォンッ!!
 光の奔流が森を薙ぎ払い、数千のアンデッドが一瞬で吹き飛んだ。
  だが、空いた場所はすぐに周囲から流れ込む魔物で埋まってしまう。
「あちゃー、多勢に無勢か。これだときりがないな」
「それに、この匂い…、うぷっ 上姉さんのブレス、悪臭が風に乗ってここまで……人間には毒でしょ」
 鳥人のフェザーが顔をしかめる。
【 クレイドル|近衛獣《ロイヤルガード》 フェザー 】:|鳥人《とりびと》系
「えええ?毒?これ毒なの??吸ったらみんな死んじゃう?」
「私たちは平気ですが、あれは病原体の塊ですから、これ以上飛散すると……」
「それはダメだよ、どうしよう……何かいい手は……」
「我は嫌だぞ。周りを気にしてちまちまやるなど性に合わん!」
 シンヴィが不満を露わにしたところで、フェザーがひらめいたように言う。
「別に上姉さんに頼まなくても、お母さんがやればいいのでは?」
「え?ワタシ?」
「ええ、お母さんが全部飲み込んで溶かせば解決です」
「おっ、いいな。久しぶりに母上の|大津波《あれ》が見られるのか」
 こうなると、もう止まらない。
「これするとワタシって魔力量しか取り柄が無いって思えて落ち込むんだよね……」
「森を覆い尽くすほどの|極小単生物《プチスライム》を生み出せるのはお母さんだけです」
「そうだぞ、我のブレスでも1/10しか倒せんのを丸ごと飲み込むのは母上くらいだ」
 2人がワタシを気遣って褒めてくれてるけどそんな見え見えのよいしょに騙されるほど子供じゃないといいたい。 
愚痴をこぼしながらも両手の手のひらに魔力を集めていく。アースの周りに魔力の風が渦巻きどんどん凝縮されていく。
「おいで、|極小単生物《プチスライム》」
 そう小さくつぶやくと、手のひらから魔力が噴き出す。それは|極小単生物《プチスライム》となり勢いよく溢れ出した。
 手のひらから零れ、アースの周りに広がっていく。勢いは衰えることもなく|極小単生物《プチスライム》の水たまりが出来た。
 水たまりはどんどん大きくなり、ついにはオルセンの城壁を伝って地面に落ちると森の奥に広がっていった。
 しばらくすると魔物の進軍の音が変わった。地鳴りと思えた音が湿地を歩くようなパシャパシャという音に変わったのだ。
 魔物の足元には|極小単生物《プチスライム》が溢れていた。いや|極小単生物《プチスライム》の中を魔物が歩いていると言った方がいいだろう。
「おっ、そろそろかの」
「ええ、そろそろかと」
 次の瞬間――
  数万倍のプチスライムが噴き出し、城壁下はスライムの海と化した。
 津波のように隆起したスライムがアンデッドを飲み込み、溶かし、押し流していく。
  そして、すべてが消えた。
「全て溶けて消えた様ですねぇ」
「さすがは母上、まさに圧巻!」
「ううう、ただ溶かしただけで工夫もなにもない……」
 でも、この子たちが一緒なら、どんなことも乗り越えられる気がする――
  あれ?なんでこの子たちって……?
  ワタシはまだ子供なのに…
 ……。
「……」
「…ぉぃ! おい!」
「いい加減起きろ! 昼休みはとっくに終わってるぞ!」
 見張り役の男に起こされた。
  どうやら昼休みに居眠りしていたらしい。
「ごっごめんなさい」
 小屋へ戻りながら、夢の内容を思い出そうとするが、霧のように消えていく。
 いけない。早く戻らないと、また殴られる。