164. 眩いプラチナ

ー/ー



 その時だった。

「私も手伝う!」

 凛とした声が牢獄に響き渡る。

 ルナだ。

 赤髪の少女が、躊躇いを振り切るようにミーシャの背中に抱きついた。小さな身体を、ぴったりと密着させる。

「ル、ルナ……?」

 ミーシャが、驚いたように振り返る。空色の瞳が、大きく見開かれていた。

「私の魔力……受け取りなさいよ!」

 その瞬間――ルナの身体が、緋色の光を(まと)い始めた。

 竜殺(りゅうごろ)しの魔力。

 古代の竜さえも屠るとされる、規格外の火力を秘めた、彼女だけの力。

「行くわよぉぉぉ!」

 多少副作用で減衰しているとはいえ、その膨大な魔力が、ミーシャの身体へと流れ込んでいく。熱く、激しく、けれどどこか優しく――。

「ほぉぉぉ!?」

 流れ込んでくる魔力にミーシャは慌てながらも、必死に調和させようと試行錯誤する。

「使えるだけ使って! 全部あげるから!」

 ルナが、必死に叫ぶ。

 その声は震えていた。けれど、その瞳には、確かな覚悟が宿っていた。

「ルナ……ありがとう」

 ミーシャは、輝き始めた両手を再び天に掲げた。

 今度は、違った。

 ルナの緋色の魔力と、ミーシャの黄金色の魔力。

 二つの光が、美しく混ざり合っていく。

 炎と光。

 情熱と慈愛。

 激しさと穏やかさ。

 正反対のようで、どこか似ている二人の力が、螺旋を描きながら一つになっていく。

 シールドが、徐々に形を成していった。

 緋色と黄金が織りなす、この世のものとは思えないほど美しい魔法障壁。それは二人の少女の絆が生み出した、小さな奇跡だった。

 その時だった。

 ズゥゥゥン!

 これまでで最も激しい揺れが、牢獄を襲った。

 世界が終わるかのような、凄まじい衝撃。

 そして――ついに、天井が崩落した。

「きゃぁぁぁ!」

「ひぃぃぃ!」

 少女たちの悲鳴が、崩壊の轟音にかき消される。

 巨大な岩塊が、容赦なく降り注いでくる。数トンはあろうかという瓦礫の雨。直撃すれば、即死は免れない。

 終わったかも!?――誰もがそう思った。

 けれど――。

 パキィィィン!

 シールドが、瓦礫を受け止めた。

 緋色と黄金の光が、必死に岩塊を押し返している。二色の輝きが()ざり合い、美しい虹彩(こうさい)を放ちながら、少女たちを守っていた。

 ミシミシと、魔力の壁が軋む音が聞こえる。

「くっ……!」

 ミーシャの顔が、苦痛に歪む。額の汗が、顎を伝って落ちていく。

「うぅぅ……っ!」

 ルナも、歯を食いしばっている。小さな身体が、限界を超えた負荷に震えている。

 二人の少女が、全身全霊でシールドを維持していた。互いの背中を感じながら、互いの温もりを支えにしながら。

 しかし――限界は、確実に近づいていた。

 シールドに、蜘蛛の巣のような亀裂が走り始める。光が、徐々に薄れていく。魔力が、枯渇しようとしている。

 このままでは、長くは持たない。

「ダ、ダメ……! もう持たないわ……!」

「くぅぅぅ……っ」

 二人はもう限界を超えていた。身体が悲鳴を上げ、意識が朦朧としてくる。それでも、手を離すことだけはしなかった。

 その時だった。

 ポゥ――。

 五人の身体が、突然虹色に輝き始めた。

「へ?」

「こ、これは……?」

「き、来た……!」

 ポゥポゥポゥポゥポゥポゥ……。

 止まらない光の連鎖。天からの祝福が、滝のように降り注いでくる。

 レベルアップ、レベルアップ、レベルアップ――――。

 十万もの魔物を葬った功績。その途方もない偉業が、神々の加護となって五人の存在そのものを書き換えていく。

 全身の細胞が再構築され、魂が何段階も昇華していく。骨が、筋肉が、血液が、すべてが生まれ変わっていくような感覚。

 これが、さらなる覚醒(かくせい)

 これが、運命に選ばれし者たちへの、神々からの贈り物。

「来たわぁぁぁ!」

「ほわぁぁぁ!」

 ミーシャとルナが、歓喜の声を上げた。

 二人の中で、圧倒的な魔力が奔流のように駆け巡る。血管が光の糸のように輝き、心臓が新たな鼓動を刻み始める。枯渇しかけていた魔力の泉が、一瞬にして満ち溢れていく。

 いや、溢れるどころではない。

 以前とは比べものにならない、桁違いの魔力が、二人の中で渦巻いている。

 刹那、シールドが圧倒的な輝きを放った。

 緋色と黄金が混ざり合い、もはや別々の色ではなく、一つの眩い白金色へと昇華していく。それは太陽よりも(まぶし)い奇跡の光だった。

 ズォォォォン!

 シールドが一気に拡大した。

 数百トンの瓦礫が、紙くずのように吹き飛んでいく。壊れかけの牢獄の壁が、天井が、全てが白金の光に飲み込まれ、爆散していく。石と土と塵が舞い上がり、そして――。

 青空が、のぞいた。

 雲一つない、澄み渡った蒼穹。

 なんとかギリギリのところで、活路が開いたのだった。

「やったぁ!」
「うわぁぁぁ!」
「助かったぁ……!」

 五人は互いに抱き合い、起死回生の奇跡に涙を流した。

 エリナがレオンの胸に顔を埋め、声を殺して泣いている。いつもクールな彼女が、今だけは感情を隠そうとしない。ミーシャがシエルの手を握りしめ、二人で肩を震わせている。ルナがレオンの腕にしがみつき、子供のように泣きじゃくっている。

 生きている。みんな、生きている。

 世界を救った。王都を守った。そして、五人とも無事に生き残った。

 これ以上の奇跡が、あるだろうか。

 青空の下、瓦礫の山の底で、五人は互いの温もりを確かめ合った。涙と、笑顔と、安堵と、喜びが入り混じった、言葉にならない感情が溢れ出していく。

 戦いは、終わった。

 長い長い戦いが、ようやく終わりを告げたのだ。

 レオンは仲間たちを抱きしめながら、青い空を見上げた。雲の切れ間から差し込む陽光が、五人を優しく包んでいる。まるで、神々が祝福を与えてくれているかのように。



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 その時だった。
「私も手伝う!」
 凛とした声が牢獄に響き渡る。
 ルナだ。
 赤髪の少女が、躊躇いを振り切るようにミーシャの背中に抱きついた。小さな身体を、ぴったりと密着させる。
「ル、ルナ……?」
 ミーシャが、驚いたように振り返る。空色の瞳が、大きく見開かれていた。
「私の魔力……受け取りなさいよ!」
 その瞬間――ルナの身体が、緋色の光を|纏《まと》い始めた。
 |竜殺《りゅうごろ》しの魔力。
 古代の竜さえも屠るとされる、規格外の火力を秘めた、彼女だけの力。
「行くわよぉぉぉ!」
 多少副作用で減衰しているとはいえ、その膨大な魔力が、ミーシャの身体へと流れ込んでいく。熱く、激しく、けれどどこか優しく――。
「ほぉぉぉ!?」
 流れ込んでくる魔力にミーシャは慌てながらも、必死に調和させようと試行錯誤する。
「使えるだけ使って! 全部あげるから!」
 ルナが、必死に叫ぶ。
 その声は震えていた。けれど、その瞳には、確かな覚悟が宿っていた。
「ルナ……ありがとう」
 ミーシャは、輝き始めた両手を再び天に掲げた。
 今度は、違った。
 ルナの緋色の魔力と、ミーシャの黄金色の魔力。
 二つの光が、美しく混ざり合っていく。
 炎と光。
 情熱と慈愛。
 激しさと穏やかさ。
 正反対のようで、どこか似ている二人の力が、螺旋を描きながら一つになっていく。
 シールドが、徐々に形を成していった。
 緋色と黄金が織りなす、この世のものとは思えないほど美しい魔法障壁。それは二人の少女の絆が生み出した、小さな奇跡だった。
 その時だった。
 ズゥゥゥン!
 これまでで最も激しい揺れが、牢獄を襲った。
 世界が終わるかのような、凄まじい衝撃。
 そして――ついに、天井が崩落した。
「きゃぁぁぁ!」
「ひぃぃぃ!」
 少女たちの悲鳴が、崩壊の轟音にかき消される。
 巨大な岩塊が、容赦なく降り注いでくる。数トンはあろうかという瓦礫の雨。直撃すれば、即死は免れない。
 終わったかも!?――誰もがそう思った。
 けれど――。
 パキィィィン!
 シールドが、瓦礫を受け止めた。
 緋色と黄金の光が、必死に岩塊を押し返している。二色の輝きが|混《ま》ざり合い、美しい|虹彩《こうさい》を放ちながら、少女たちを守っていた。
 ミシミシと、魔力の壁が軋む音が聞こえる。
「くっ……!」
 ミーシャの顔が、苦痛に歪む。額の汗が、顎を伝って落ちていく。
「うぅぅ……っ!」
 ルナも、歯を食いしばっている。小さな身体が、限界を超えた負荷に震えている。
 二人の少女が、全身全霊でシールドを維持していた。互いの背中を感じながら、互いの温もりを支えにしながら。
 しかし――限界は、確実に近づいていた。
 シールドに、蜘蛛の巣のような亀裂が走り始める。光が、徐々に薄れていく。魔力が、枯渇しようとしている。
 このままでは、長くは持たない。
「ダ、ダメ……! もう持たないわ……!」
「くぅぅぅ……っ」
 二人はもう限界を超えていた。身体が悲鳴を上げ、意識が朦朧としてくる。それでも、手を離すことだけはしなかった。
 その時だった。
 ポゥ――。
 五人の身体が、突然虹色に輝き始めた。
「へ?」
「こ、これは……?」
「き、来た……!」
 ポゥポゥポゥポゥポゥポゥ……。
 止まらない光の連鎖。天からの祝福が、滝のように降り注いでくる。
 レベルアップ、レベルアップ、レベルアップ――――。
 十万もの魔物を葬った功績。その途方もない偉業が、神々の加護となって五人の存在そのものを書き換えていく。
 全身の細胞が再構築され、魂が何段階も昇華していく。骨が、筋肉が、血液が、すべてが生まれ変わっていくような感覚。
 これが、さらなる|覚醒《かくせい》。
 これが、運命に選ばれし者たちへの、神々からの贈り物。
「来たわぁぁぁ!」
「ほわぁぁぁ!」
 ミーシャとルナが、歓喜の声を上げた。
 二人の中で、圧倒的な魔力が奔流のように駆け巡る。血管が光の糸のように輝き、心臓が新たな鼓動を刻み始める。枯渇しかけていた魔力の泉が、一瞬にして満ち溢れていく。
 いや、溢れるどころではない。
 以前とは比べものにならない、桁違いの魔力が、二人の中で渦巻いている。
 刹那、シールドが圧倒的な輝きを放った。
 緋色と黄金が混ざり合い、もはや別々の色ではなく、一つの眩い白金色へと昇華していく。それは太陽よりも|眩《まぶし》い奇跡の光だった。
 ズォォォォン!
 シールドが一気に拡大した。
 数百トンの瓦礫が、紙くずのように吹き飛んでいく。壊れかけの牢獄の壁が、天井が、全てが白金の光に飲み込まれ、爆散していく。石と土と塵が舞い上がり、そして――。
 青空が、のぞいた。
 雲一つない、澄み渡った蒼穹。
 なんとかギリギリのところで、活路が開いたのだった。
「やったぁ!」
「うわぁぁぁ!」
「助かったぁ……!」
 五人は互いに抱き合い、起死回生の奇跡に涙を流した。
 エリナがレオンの胸に顔を埋め、声を殺して泣いている。いつもクールな彼女が、今だけは感情を隠そうとしない。ミーシャがシエルの手を握りしめ、二人で肩を震わせている。ルナがレオンの腕にしがみつき、子供のように泣きじゃくっている。
 生きている。みんな、生きている。
 世界を救った。王都を守った。そして、五人とも無事に生き残った。
 これ以上の奇跡が、あるだろうか。
 青空の下、瓦礫の山の底で、五人は互いの温もりを確かめ合った。涙と、笑顔と、安堵と、喜びが入り混じった、言葉にならない感情が溢れ出していく。
 戦いは、終わった。
 長い長い戦いが、ようやく終わりを告げたのだ。
 レオンは仲間たちを抱きしめながら、青い空を見上げた。雲の切れ間から差し込む陽光が、五人を優しく包んでいる。まるで、神々が祝福を与えてくれているかのように。