5 拗らせヴィラン

ー/ー



「我がこの空間に囚われていることは話したが……」

 真っ暗闇の空間で、チルクサンダーはどこという事もなく腰を下ろしている。
 ミチルはそれで自分もまたよくわからないところに座っていると自覚した。

 床なのか、絨毯なのか、それともソファ的なものなのかは判然としない。
 ただ膝を折っていても固さに痛む感覚はない。便利な空間だと思った。


 
「我をここに連れてきたのは、テン・イーという者だ」

「て、ててて、テン・イー!?」

 急に出てくる。と言うより、またしても出てきた、毎度お馴染み黒幕候補の真っ黒商人の名前。ミチルは思考を現実に戻されて、今までとは別の意味で心臓がキュッとした。

「そう、オマエたちが随分と怪しんでいる、そのテン・イーだ」

 慌てるミチルとは対極の反応でチルクサンダーが頷いた。その態度にミチルは違和感を感じる。

「ん? オレたちがテン・イーを知ってるって、なんで知ってるの?」

 出会ってたった数十分のイケメンが、ミチルたちの仇敵を知っている。
 チルクサンダーは何故、テン・イーがその人物であると既に知っているのだろう。
 自分の問いかけにもこんがらがりそうなミチルに、チルクサンダーはしれっとした態度で答えた。

「何故も何も、我はオマエのこの世界での動向を全て知っているぞ」

「えええっ!」

 ミチルはものすごく驚いた。
 そうだ、チルクサンダーは「オマエたち」と言った。それ即ち、ミチルだけではなくイケメン達の事も知っているかのような口ぶりだ。

「我は、ここでずっと夢を見ているのだ。オマエがこの世界でどう過ごしたか、それをつぶさに見続けている」

「……と、おっしゃいますと?」

 オレが今までこの世界でどう過ごしたか。
 イケメン五人でさえ個別では全て知らないと言うのに、チルクサンダーは全て知ってる?
 ミチルはその重大さに気づきたくなくて、希望込みで尋ねた。まさかですよね……?

「オマエがカエルラ=プルーマに召喚され、ジェイという男と同衾し、アニーという男に腰を撫でられ、エリオットという男とはキスを三十回、ジンという男とは夜な夜な稽古、ルークという男からは毎朝ペロペロされ放題……」

「ギャアァア! 全部知ってんじゃん! ていうかピックアップに悪意を感じるッ!」

 もっと重要なバトルシーンがたくさん……はないな。
 ミチルは改めて己の爛れた異世界生活を反省する。

「もちろんコレだけではない」

「ふえ……っ!」

 慌てふためくミチルの様子を冷ややかに見つめて、なおも続けようとするチルクサンダー。
 まさか、嫁ぎ♡が決定してしまったラーウスの夜のアレコレも見られていたのか……
 逆に覚えてないんで、教えて欲しいかもしんない。でも聞いたら恥ずかしさで死ぬかもしんないっ!

 心の準備をさせてくれ! オレは、オレのお尻はどうなってしまったのかを……! 万が一の喪失があったのか?
 ミチルは心臓バックンバックンでチルクサンダーの言葉を待った。



「我は、オマエが地球という異世界で生まれ、そこで健やかに育っていくのも夢に見ていた」

「ぷええぇえッ! ……ぇええ?」

 どんな猥談が飛び出すかと思いきや、チルクサンダーからは「地球」という言葉が出た。
 もう帰ることは叶わない、ミチルの故郷。そんなノスタルジーにひたる余裕は今はないが。

「我も全く知らぬ環境の世界で、オマエがすくすくと育つ様をずっと見ていたぞ」

「う、ウッソだあー」

 思わずミチルははぐらかす。
 そんな事今更言われても、後付け設定にしか思えないでしょうよ! ねえ?

「……オマエの初恋は五歳。近所の女児だと思っていたら、男児であったな」

「な・ぜ・そ・れ・を・ッ!?」

 言われてミチルは忘れていた過去を思い出す。小学生のボーイッシュなお姉ちゃん。だけどその子はお兄ちゃんだった。名前も思い出せない初恋の君を、チルクサンダーが知っている事にミチルは寒気すら覚える。

「何故って、見たからな。男児だと知った時のオマエときたら……」

「ワー! アー! もういいです、わかりましたァア!」

 この世の全てが信じられなくなって風船握って飛んで行こうとした、そんな黒歴史を披露されたら恥ずかしさで死ぬ!
 羞恥で顔を両手で覆いジタバタ暴れるミチルに、チルクサンダーは更に何かを思い出そうとしていた。

「それからしばらく経って、少し成長したオマエに我は話しかけたのだ。ちょうど病で伏せっていたオマエは、我の声に耳を傾け自分の名前はミチルだと教えてくれた」

「ぴょ……っ!?」

 何それ。それは全然覚えてない。
 ミチルの顔は鳩が豆鉄砲状態。そんな間抜けな顔に、すっと手を伸ばしてチルクサンダーは笑った。

「それから、我はミチル……オマエをずっと夢に見ていた。オマエの事だけを。それは何故だろうと考えた」

「な、何故……なんでしょ?」

 チルクサンダーの薔薇色の瞳はとても優しい色で輝く。
 向けられる眼差しには愛情がこもっており、ミチルはその雰囲気に心臓が再びバックンバックン跳ね上がった。

「オマエはきっと、我の運命の伴侶になる存在なのだ。いつか我の元に舞い降りて生涯を添い遂げるのだと確信した」
 
「……」
 
 すんごくイイ笑顔で照れながら言いましたけど。

「……」
 
 あんなに敵っぽくエーデルワイスにメンチ切って、オレをこんな異空間に攫っておいて。

「……」
 
 こんなに威厳で尊大な、悪魔みたいな見た目なのにカミの眷属とかのたまって。



「ミチル……やっとオマエを我の側に迎えることができた」



 超絶イケてる顔面で愛を語るだなんて!



 真っ黒異空間にいたヴィラン風のイケメンの正体は……
 初恋拗らせ・妄想つよつよ・孤独なヴィラン、だって言うんかいっ!


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 真っ暗闇の空間で、チルクサンダーはどこという事もなく腰を下ろしている。
 ミチルはそれで自分もまたよくわからないところに座っていると自覚した。
 床なのか、絨毯なのか、それともソファ的なものなのかは判然としない。
 ただ膝を折っていても固さに痛む感覚はない。便利な空間だと思った。
「我をここに連れてきたのは、テン・イーという者だ」
「て、ててて、テン・イー!?」
 急に出てくる。と言うより、またしても出てきた、毎度お馴染み黒幕候補の真っ黒商人の名前。ミチルは思考を現実に戻されて、今までとは別の意味で心臓がキュッとした。
「そう、オマエたちが随分と怪しんでいる、そのテン・イーだ」
 慌てるミチルとは対極の反応でチルクサンダーが頷いた。その態度にミチルは違和感を感じる。
「ん? オレたちがテン・イーを知ってるって、なんで知ってるの?」
 出会ってたった数十分のイケメンが、ミチルたちの仇敵を知っている。
 チルクサンダーは何故、テン・イーがその人物であると既に知っているのだろう。
 自分の問いかけにもこんがらがりそうなミチルに、チルクサンダーはしれっとした態度で答えた。
「何故も何も、我はオマエのこの世界での動向を全て知っているぞ」
「えええっ!」
 ミチルはものすごく驚いた。
 そうだ、チルクサンダーは「オマエたち」と言った。それ即ち、ミチルだけではなくイケメン達の事も知っているかのような口ぶりだ。
「我は、ここでずっと夢を見ているのだ。オマエがこの世界でどう過ごしたか、それをつぶさに見続けている」
「……と、おっしゃいますと?」
 オレが今までこの世界でどう過ごしたか。
 イケメン五人でさえ個別では全て知らないと言うのに、チルクサンダーは全て知ってる?
 ミチルはその重大さに気づきたくなくて、希望込みで尋ねた。まさかですよね……?
「オマエがカエルラ=プルーマに召喚され、ジェイという男と同衾し、アニーという男に腰を撫でられ、エリオットという男とはキスを三十回、ジンという男とは夜な夜な稽古、ルークという男からは毎朝ペロペロされ放題……」
「ギャアァア! 全部知ってんじゃん! ていうかピックアップに悪意を感じるッ!」
 もっと重要なバトルシーンがたくさん……はないな。
 ミチルは改めて己の爛れた異世界生活を反省する。
「もちろんコレだけではない」
「ふえ……っ!」
 慌てふためくミチルの様子を冷ややかに見つめて、なおも続けようとするチルクサンダー。
 まさか、嫁ぎ♡が決定してしまったラーウスの夜のアレコレも見られていたのか……
 逆に覚えてないんで、教えて欲しいかもしんない。でも聞いたら恥ずかしさで死ぬかもしんないっ!
 心の準備をさせてくれ! オレは、オレのお尻はどうなってしまったのかを……! 万が一の喪失があったのか?
 ミチルは心臓バックンバックンでチルクサンダーの言葉を待った。
「我は、オマエが地球という異世界で生まれ、そこで健やかに育っていくのも夢に見ていた」
「ぷええぇえッ! ……ぇええ?」
 どんな猥談が飛び出すかと思いきや、チルクサンダーからは「地球」という言葉が出た。
 もう帰ることは叶わない、ミチルの故郷。そんなノスタルジーにひたる余裕は今はないが。
「我も全く知らぬ環境の世界で、オマエがすくすくと育つ様をずっと見ていたぞ」
「う、ウッソだあー」
 思わずミチルははぐらかす。
 そんな事今更言われても、後付け設定にしか思えないでしょうよ! ねえ?
「……オマエの初恋は五歳。近所の女児だと思っていたら、男児であったな」
「な・ぜ・そ・れ・を・ッ!?」
 言われてミチルは忘れていた過去を思い出す。小学生のボーイッシュなお姉ちゃん。だけどその子はお兄ちゃんだった。名前も思い出せない初恋の君を、チルクサンダーが知っている事にミチルは寒気すら覚える。
「何故って、見たからな。男児だと知った時のオマエときたら……」
「ワー! アー! もういいです、わかりましたァア!」
 この世の全てが信じられなくなって風船握って飛んで行こうとした、そんな黒歴史を披露されたら恥ずかしさで死ぬ!
 羞恥で顔を両手で覆いジタバタ暴れるミチルに、チルクサンダーは更に何かを思い出そうとしていた。
「それからしばらく経って、少し成長したオマエに我は話しかけたのだ。ちょうど病で伏せっていたオマエは、我の声に耳を傾け自分の名前はミチルだと教えてくれた」
「ぴょ……っ!?」
 何それ。それは全然覚えてない。
 ミチルの顔は鳩が豆鉄砲状態。そんな間抜けな顔に、すっと手を伸ばしてチルクサンダーは笑った。
「それから、我はミチル……オマエをずっと夢に見ていた。オマエの事だけを。それは何故だろうと考えた」
「な、何故……なんでしょ?」
 チルクサンダーの薔薇色の瞳はとても優しい色で輝く。
 向けられる眼差しには愛情がこもっており、ミチルはその雰囲気に心臓が再びバックンバックン跳ね上がった。
「オマエはきっと、我の運命の伴侶になる存在なのだ。いつか我の元に舞い降りて生涯を添い遂げるのだと確信した」
「……」
 すんごくイイ笑顔で照れながら言いましたけど。
「……」
 あんなに敵っぽくエーデルワイスにメンチ切って、オレをこんな異空間に攫っておいて。
「……」
 こんなに威厳で尊大な、悪魔みたいな見た目なのにカミの眷属とかのたまって。
「ミチル……やっとオマエを我の側に迎えることができた」
 超絶イケてる顔面で愛を語るだなんて!
 真っ黒異空間にいたヴィラン風のイケメンの正体は……
 初恋拗らせ・妄想つよつよ・孤独なヴィラン、だって言うんかいっ!