160. 殺意の海

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「では、これから大逆転するぞ。いいね?」

 レオンは静かに、けれど力強く宣言した。その翠色の瞳の奥で、黄金の光が確かに輝いている。

「もっちろん!」

 ルナが真っ先に拳を突き上げた。運命を結んだばかりの少女の瞳には、かつてない輝きが宿っている。

「あの魔物どもなんて、吹き飛ばしてやって!」

 シエルが銀髪を揺らしながらグッと拳を握った。

「全てあなたにお任せしますわ。ね? 私の旦那様?」

 ミーシャが爽やかな微笑みを浮かべる。その空色の瞳には、深い信頼と、隠しきれない愛情が溢れていた。

「……早くやっちゃって」

 エリナも挑戦的な笑みを見せた。

 五人は、互いを見つめ合った。

 言葉はいらなかった。視線を交わすだけで、互いの想いが伝わってくる。

 寿命を差し出す覚悟は、とうに決まっている。世界を救うために。大切な人たちを守るために。

 そして何より――この五人で、共に生きていくために。

 レオンはゆっくりと目を閉じた。

 四つの温もりが、魂の奥底で繋がっているのを感じる。まるで、五本の指が一つの手になるように。五つの川が一つの大河になるように。別々だった魂が、今、一つに溶け合おうとしている。

 エリナの強さが、ミーシャの聡明さが、ルナの情熱が、シエルの純真さが、レオンの中に流れ込んでくる。

 その全てがレオンの中で一つになり、巨大な力へと収束していく。胸の奥で何かが目覚め、血潮が熱く(たぎ)り始める。これが――運命を創る力。世界の理を書き換える、神の領域の力。

 レオンは天を仰ぎ、魂の底から叫んだ。

「我が願いに応え、邪悪な者どもに終焉の鉄槌を!」

 その声は牢獄の壁を震わせ、天井を揺らし、大地の奥深くまで響いていく。それは祈りであり、誓いであり、そしてイザベラへの宣戦布告だった。

「【運命創造】!!」

 レオンがぐっと拳を掲げた瞬間――奇跡が顕現した。

 ブワァァァッ!

 五人の身体から、黄金の輝きが吹き上がった。それは生き物のように渦を巻き、螺旋(らせん)を描きながら天井へと昇っていく。五つの魂が一つの奔流となり、五つの命が一つの奇跡となって、世界を塗り替える力へと変わっていく。

 (まぶし)い。あまりにも眩い。

 辺りが――黄金の光に包まれた。闇を払い、絶望を焼き尽くし、全てを塗り替える圧倒的な輝きの奔流。牢獄の壁が、天井が、鉄格子が、その光の中で透けていくように見える。

 レオンは不思議な感覚に包まれていた。

 身体が、軽い。いや――身体がない。幽体離脱(ゆうたいりだつ)のように、下の方に自分の肉体が牢獄に残っているのが見える。

 意識だけが――黄金の輝きの渦に乗って、上空へと舞い上がっていく。

 牢獄の天井をすり抜け、石造りの遺跡を貫通する。冷たい岩盤を、湿った土を、全てを透過して昇っていく。そして――空へ。

 青い空がレオンを迎えた。どこまでも広がる、澄み渡った蒼穹(そうきゅう)

 地下の牢獄とは全く違う無限の青。風が頬を撫でる感覚がある。身体がないはずなのに、風を感じる。不思議な感覚だった。まるで魂そのものが空を泳いでいるような――鳥になった気分とはこういうものなのだろうか。自由で、軽やかで、どこまでも行けそうな――そんな解放感。

 けれど、その感慨は長くは続かなかった。

 ぐぐぐっと一気に王都の方へと流されていき――眼下を見下ろした瞬間、その心臓が凍りついた。

 そこには地獄絵図が広がっていた。

 十万の魔物。黒く、おぞましい大軍勢が、王都を目指して森を進軍している。森の木々を草のようになぎ倒し、大地を蹂躙しながら進んでいく。ゴブリン、オーク、ワーウルフ、そして名も知らぬ異形の魔物たち。それらが波のように、津波のように、大地を覆い尽くしていた。

 黒い絨毯。死の行軍。見渡す限りの、殺意の海。

 その中心には、まるで恐竜のような見たこともない巨大な魔獣たちが闊歩(かっぽ)している。城壁すら一撃で崩すであろう、破壊の権化たち。一歩進むたびに大地が震え、一声吼えるたびに空気が震撼する。

「なんて……凄まじいんだ……」

 レオンは戦慄した。背筋を冷たいものが這い上がる。あれが王都に到達したら、何十万という罪なき人々が虐殺される。子供たちが。老人たちが。明日を夢見る若者たちが。全てが、あの黒い波に飲み込まれるだろう。

 軍勢の先頭には、クリスタルで作られた豪華な輿が見えた。陽光を受けて妖しく煌めくその上に、白い人影が立っている。イザベラだ。彼女がこの地獄を指揮している。美しい微笑みを浮かべながら、破滅の指揮者として君臨している。まるで死神が人の皮を被っているかのような、その美しさがかえって恐ろしかった。

 彼らの運命を――街を滅ぼすという運命を、今から塗り替える。

 けれど、どうやって?

 こんな凄まじい死の行軍を止める方法など、あるのだろうか。レオンは首を傾げた。

 【運命創造】が何をするのか、まだ分からない。ただ、魂の奥底で何かが動き始めているのを感じる。巨大な歯車がゆっくりと回り始めるような、運命そのものが書き換えられていく予感。世界の理が(きし)む音が、確かに聞こえる。




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「では、これから大逆転するぞ。いいね?」
 レオンは静かに、けれど力強く宣言した。その翠色の瞳の奥で、黄金の光が確かに輝いている。
「もっちろん!」
 ルナが真っ先に拳を突き上げた。運命を結んだばかりの少女の瞳には、かつてない輝きが宿っている。
「あの魔物どもなんて、吹き飛ばしてやって!」
 シエルが銀髪を揺らしながらグッと拳を握った。
「全てあなたにお任せしますわ。ね? 私の旦那様?」
 ミーシャが爽やかな微笑みを浮かべる。その空色の瞳には、深い信頼と、隠しきれない愛情が溢れていた。
「……早くやっちゃって」
 エリナも挑戦的な笑みを見せた。
 五人は、互いを見つめ合った。
 言葉はいらなかった。視線を交わすだけで、互いの想いが伝わってくる。
 寿命を差し出す覚悟は、とうに決まっている。世界を救うために。大切な人たちを守るために。
 そして何より――この五人で、共に生きていくために。
 レオンはゆっくりと目を閉じた。
 四つの温もりが、魂の奥底で繋がっているのを感じる。まるで、五本の指が一つの手になるように。五つの川が一つの大河になるように。別々だった魂が、今、一つに溶け合おうとしている。
 エリナの強さが、ミーシャの聡明さが、ルナの情熱が、シエルの純真さが、レオンの中に流れ込んでくる。
 その全てがレオンの中で一つになり、巨大な力へと収束していく。胸の奥で何かが目覚め、血潮が熱く|滾《たぎ》り始める。これが――運命を創る力。世界の理を書き換える、神の領域の力。
 レオンは天を仰ぎ、魂の底から叫んだ。
「我が願いに応え、邪悪な者どもに終焉の鉄槌を!」
 その声は牢獄の壁を震わせ、天井を揺らし、大地の奥深くまで響いていく。それは祈りであり、誓いであり、そしてイザベラへの宣戦布告だった。
「【運命創造】!!」
 レオンがぐっと拳を掲げた瞬間――奇跡が顕現した。
 ブワァァァッ!
 五人の身体から、黄金の輝きが吹き上がった。それは生き物のように渦を巻き、|螺旋《らせん》を描きながら天井へと昇っていく。五つの魂が一つの奔流となり、五つの命が一つの奇跡となって、世界を塗り替える力へと変わっていく。
 |眩《まぶし》い。あまりにも眩い。
 辺りが――黄金の光に包まれた。闇を払い、絶望を焼き尽くし、全てを塗り替える圧倒的な輝きの奔流。牢獄の壁が、天井が、鉄格子が、その光の中で透けていくように見える。
 レオンは不思議な感覚に包まれていた。
 身体が、軽い。いや――身体がない。|幽体離脱《ゆうたいりだつ》のように、下の方に自分の肉体が牢獄に残っているのが見える。
 意識だけが――黄金の輝きの渦に乗って、上空へと舞い上がっていく。
 牢獄の天井をすり抜け、石造りの遺跡を貫通する。冷たい岩盤を、湿った土を、全てを透過して昇っていく。そして――空へ。
 青い空がレオンを迎えた。どこまでも広がる、澄み渡った|蒼穹《そうきゅう》。
 地下の牢獄とは全く違う無限の青。風が頬を撫でる感覚がある。身体がないはずなのに、風を感じる。不思議な感覚だった。まるで魂そのものが空を泳いでいるような――鳥になった気分とはこういうものなのだろうか。自由で、軽やかで、どこまでも行けそうな――そんな解放感。
 けれど、その感慨は長くは続かなかった。
 ぐぐぐっと一気に王都の方へと流されていき――眼下を見下ろした瞬間、その心臓が凍りついた。
 そこには地獄絵図が広がっていた。
 十万の魔物。黒く、おぞましい大軍勢が、王都を目指して森を進軍している。森の木々を草のようになぎ倒し、大地を蹂躙しながら進んでいく。ゴブリン、オーク、ワーウルフ、そして名も知らぬ異形の魔物たち。それらが波のように、津波のように、大地を覆い尽くしていた。
 黒い絨毯。死の行軍。見渡す限りの、殺意の海。
 その中心には、まるで恐竜のような見たこともない巨大な魔獣たちが|闊歩《かっぽ》している。城壁すら一撃で崩すであろう、破壊の権化たち。一歩進むたびに大地が震え、一声吼えるたびに空気が震撼する。
「なんて……凄まじいんだ……」
 レオンは戦慄した。背筋を冷たいものが這い上がる。あれが王都に到達したら、何十万という罪なき人々が虐殺される。子供たちが。老人たちが。明日を夢見る若者たちが。全てが、あの黒い波に飲み込まれるだろう。
 軍勢の先頭には、クリスタルで作られた豪華な輿が見えた。陽光を受けて妖しく煌めくその上に、白い人影が立っている。イザベラだ。彼女がこの地獄を指揮している。美しい微笑みを浮かべながら、破滅の指揮者として君臨している。まるで死神が人の皮を被っているかのような、その美しさがかえって恐ろしかった。
 彼らの運命を――街を滅ぼすという運命を、今から塗り替える。
 けれど、どうやって?
 こんな凄まじい死の行軍を止める方法など、あるのだろうか。レオンは首を傾げた。
 【運命創造】が何をするのか、まだ分からない。ただ、魂の奥底で何かが動き始めているのを感じる。巨大な歯車がゆっくりと回り始めるような、運命そのものが書き換えられていく予感。世界の理が|軋《きし》む音が、確かに聞こえる。