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第91話 世界の守護者

ー/ー



 ベオウルフは圧倒的優位な状況から一矢を一方的に攻め立てながら異様な感覚に襲われる。

(何かがおかしい……!)

 アマガセ・カズヤは数多の戦いをくぐり抜けてきたといっても精々が中堅の死神である。

 それが全く同じ性能の武器を持った自身の猛攻を間一髪のところで受け流している。おそらく立ち回りからしても大剣を扱ったことなどないにも関わらずだ。

 本来瞬殺されてもおかしくない経験差と実力差があるはずだった。

 現代に死神の序列制度は無い。

 だがかつて権能を用いずに「序列第一位」に上り詰めたベオウルフである。「序列第八位」レックスですら一蹴できる彼に食らいつくこの男は何者なのか。

「アマガセ・カズヤ! 君は一体何を隠しているんだ!」

「でまかせで隙を作ろうとしても!」

 一矢はベオウルフの精神的な揺さぶりの一環だと勘違いし、取り合わない。

(レックスの権能を併用しているのか……!? なら止めを刺さずに落ちてきたのは失策だったな……!)

「いつまでそうやってレックスの力と僕の権能を同時に使いこなせるかな!?」

 そう結論付け大きく振りかぶったベオウルフの胸を一矢がそれまでとは一線を画すスピードで切り裂く。

「……なっ!」

 すかさず飛び退くベオウルフ。傷は浅い。だが一矢が本来の実力以上の力を発揮している事実に驚きを隠せない。

「この力、俺にもよくわからない。けどきっとお前を倒してみんなを守るための力だ」

「ここに来て真の権能が開花したのか! 最後の敵に相応しいと思ってしまうのは僕だけかな?」

「もう戦いは散々だ。最後の敵であって欲しいのはお互い様みたいだな」

 ベオウルフは一度だけ「巨人の剣」(ななしのけん)を使ったことのあるため、ほんの少しだけ一矢より扱いに長けている。

 彼は地面に剣を突き立て霊力を剣先から噴射する。地面は割れ、高く飛び上がったベオウルフは一矢の視界から外れる。

 いつ仕掛けてくるか一矢は身構えるが一向にベオウルフが落下してくる気配がない。

 彼は地下空間の天井にしがみ付き一矢の隙を伺っている。そして一矢が周囲を見回した瞬間、上空から霊力強化した跳躍で「巨人の剣」ごと一矢の頭を叩き折ろうと神速の一撃を叩き込む。

 だが一矢はその一撃を防ぐことなく大きく跳躍して回避した。

 躱された一撃により地面がクレーター状に抉られその一撃の重さを物語る。

「やるじゃないか、賞賛に値するよ!」

「……お前に聞きたいことがある。何故現世を乱してまで、成功するともわからない新たな秩序にこだわる?」

 一矢は一分の隙もなく大剣を構え、ベオウルフに問う。

 ベオウルフはその問いに鼻で笑いながら答える。

「カグツチと吸血鬼にあれだけしてやられるヴァルキリーを我々『ウロボロス』は見限ったんだよ。ヴァルキリーは世界の運行に、死神は現世の統治に完全に専念する。僕らがヴァルキリーを降し、死神の王として君臨すればあの魔術師に見せられた未来もきっと変わる。アマガセ、君も僕らと一緒に来ないか?」

「『僕ら』? 坂上以外の全員が討たれたのに? それに死神は全員がお前のように高潔じゃない。私利私欲に走った死神に俺は姉さんを殺された!」

 一矢が激しく踏み込み、地面が抉られる。言い返そうとしたベオウルフはすぐさま防御の姿勢を取る。

 激しい金属音と共に火花が散り、一撃を受け止めたベオウルフはじりじりと後退する。

(やはりおかしい……! 同じ武器のはずなのに出力が違う!)

「私利私欲に走る死神は僕が討つさ! それで十分だろう! 君がその役目を果たしても構わない!」

「そういう話をしたいんじゃない! お前だって自分の気に食わない世界を改変しようとしているその一人じゃないか! お前の理想もそれに至る手段だって俺は気に食わない! 真に正しい死神なんていないんだ!」

 ぶつかり合う剣越しに二人は怒鳴り合う。

 ベオウルフは全力で一矢の剣を押し返す。彼に全力を出させるほどの存在。それが生まれて一年も経たない死神になるとは計画を始動した当初には思っても見なかった。

 剣を弾かれがら空きになった胴にベオウルフが蹴りを叩き込む。

 お互いに剣で武装している以上、「巨人の剣」の効果による「丸腰による攻撃の威力の減衰」は起こらないと彼は踏んだ。

 確かにそれは本来の一矢であれば腹部に大穴が開いても仕方ない威力の一撃だった。

 だが一矢は立っている。流石に無傷とはいかなかったようだが、その目から闘志は失われていない。

「いい加減教えてくれてもいいんじゃないかな? 君の権能は『権能の模倣』だったはずだ。レックスの権能とこの『巨人の剣』の同時併用でも説明がつかない。明らかにさっき剣の出力が上がっていたからね」

「カグツチの時は権能と呼べるほどのものじゃなかった。けど、今は新しい力として理解した。きっと『みんなを守るための力』……それが俺の死神としてのあり方だと」

 一矢のもつ「巨人の剣」が赤黒く染まっていく。彼は「巨人の剣」そのものを赤口としてベオウルフを斬るつもりだった。それを見てベオウルフはある一つの覚悟をした。

「みんなだって? 僕の新たな秩序こそが死神に新たな役目を与え、人類を救うものだとどうして分からない? そこに君の言う『みんな』だって含まれているというのにさ!」

「赤口改・無間」(しゃっこうあらため・むげん)

 今までの赤口を使った技と違う点。それは「巨人の剣」ごと破壊するほどの一撃を放つ大技であるということ。今の新たな力に目覚めた一矢だからこそできる技だ。

 一矢が先ほど以上の力で飛び掛かる。

 その瞬間。ベオウルフが自らの「巨人の剣」を叩き折った。破片を握りしめた拳で振り下ろされた「赤口改・無間」を止めて見せる。

 止められた一矢の「巨人の剣」にひびが入っていく。

 丸腰の相手を弱体化する「巨人の剣」に対して、ベオウルフは剣の破片を握りしめることでその条件を回避。格闘戦最強の拳で赤口を止める一撃を全力で放ったのだ。

 両者の「巨人の剣」が砕け散る。

「どうする? アマガセ。素手の勝負といくかい?」

 再度一矢は権能を発動させようとするが、既に「巨人の剣」は使用不可になったことを悟る。

 返事を待たずにベオウルフは空気を裂く拳を一矢の顔面目がけて放つ。

 一矢がレックスの権能を用いるのであれば多少は手こずるが倒してしまうことは可能だ。

 その様子を見ている椿とティルヴィングは手出しすることができず歯がゆい思いで見守る。

 坂上田村麻呂との誓いがあるからだ。「契約」を守る死神である椿であればなおさらそこに入り込むことはできない。

 だが一矢はそのベオウルフの一撃を容易く止めて見せた。逆に拳を握られたベオウルフが痛みと困惑で顔を歪める。

「お前と戦っていてよくわかったよ。 お前のくだらない野望を理解していくごとに力が増していくのを感じる……俺は少し勘違いをしてた。俺の第二の権能はただ『みんなを守る』だけの力じゃない。『世界を守る』力だったんだ」

 ベオウルフの拳の砕ける音が響いた。


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 ベオウルフは圧倒的優位な状況から一矢を一方的に攻め立てながら異様な感覚に襲われる。
(何かがおかしい……!)
 アマガセ・カズヤは数多の戦いをくぐり抜けてきたといっても精々が中堅の死神である。
 それが全く同じ性能の武器を持った自身の猛攻を間一髪のところで受け流している。おそらく立ち回りからしても大剣を扱ったことなどないにも関わらずだ。
 本来瞬殺されてもおかしくない経験差と実力差があるはずだった。
 現代に死神の序列制度は無い。
 だがかつて権能を用いずに「序列第一位」に上り詰めたベオウルフである。「序列第八位」レックスですら一蹴できる彼に食らいつくこの男は何者なのか。
「アマガセ・カズヤ! 君は一体何を隠しているんだ!」
「でまかせで隙を作ろうとしても!」
 一矢はベオウルフの精神的な揺さぶりの一環だと勘違いし、取り合わない。
(レックスの権能を併用しているのか……!? なら止めを刺さずに落ちてきたのは失策だったな……!)
「いつまでそうやってレックスの力と僕の権能を同時に使いこなせるかな!?」
 そう結論付け大きく振りかぶったベオウルフの胸を一矢がそれまでとは一線を画すスピードで切り裂く。
「……なっ!」
 すかさず飛び退くベオウルフ。傷は浅い。だが一矢が本来の実力以上の力を発揮している事実に驚きを隠せない。
「この力、俺にもよくわからない。けどきっとお前を倒してみんなを守るための力だ」
「ここに来て真の権能が開花したのか! 最後の敵に相応しいと思ってしまうのは僕だけかな?」
「もう戦いは散々だ。最後の敵であって欲しいのはお互い様みたいだな」
 ベオウルフは一度だけ|「巨人の剣」《ななしのけん》を使ったことのあるため、ほんの少しだけ一矢より扱いに長けている。
 彼は地面に剣を突き立て霊力を剣先から噴射する。地面は割れ、高く飛び上がったベオウルフは一矢の視界から外れる。
 いつ仕掛けてくるか一矢は身構えるが一向にベオウルフが落下してくる気配がない。
 彼は地下空間の天井にしがみ付き一矢の隙を伺っている。そして一矢が周囲を見回した瞬間、上空から霊力強化した跳躍で「巨人の剣」ごと一矢の頭を叩き折ろうと神速の一撃を叩き込む。
 だが一矢はその一撃を防ぐことなく大きく跳躍して回避した。
 躱された一撃により地面がクレーター状に抉られその一撃の重さを物語る。
「やるじゃないか、賞賛に値するよ!」
「……お前に聞きたいことがある。何故現世を乱してまで、成功するともわからない新たな秩序にこだわる?」
 一矢は一分の隙もなく大剣を構え、ベオウルフに問う。
 ベオウルフはその問いに鼻で笑いながら答える。
「カグツチと吸血鬼にあれだけしてやられるヴァルキリーを我々『ウロボロス』は見限ったんだよ。ヴァルキリーは世界の運行に、死神は現世の統治に完全に専念する。僕らがヴァルキリーを降し、死神の王として君臨すればあの魔術師に見せられた未来もきっと変わる。アマガセ、君も僕らと一緒に来ないか?」
「『僕ら』? 坂上以外の全員が討たれたのに? それに死神は全員がお前のように高潔じゃない。私利私欲に走った死神に俺は姉さんを殺された!」
 一矢が激しく踏み込み、地面が抉られる。言い返そうとしたベオウルフはすぐさま防御の姿勢を取る。
 激しい金属音と共に火花が散り、一撃を受け止めたベオウルフはじりじりと後退する。
(やはりおかしい……! 同じ武器のはずなのに出力が違う!)
「私利私欲に走る死神は僕が討つさ! それで十分だろう! 君がその役目を果たしても構わない!」
「そういう話をしたいんじゃない! お前だって自分の気に食わない世界を改変しようとしているその一人じゃないか! お前の理想もそれに至る手段だって俺は気に食わない! 真に正しい死神なんていないんだ!」
 ぶつかり合う剣越しに二人は怒鳴り合う。
 ベオウルフは全力で一矢の剣を押し返す。彼に全力を出させるほどの存在。それが生まれて一年も経たない死神になるとは計画を始動した当初には思っても見なかった。
 剣を弾かれがら空きになった胴にベオウルフが蹴りを叩き込む。
 お互いに剣で武装している以上、「巨人の剣」の効果による「丸腰による攻撃の威力の減衰」は起こらないと彼は踏んだ。
 確かにそれは本来の一矢であれば腹部に大穴が開いても仕方ない威力の一撃だった。
 だが一矢は立っている。流石に無傷とはいかなかったようだが、その目から闘志は失われていない。
「いい加減教えてくれてもいいんじゃないかな? 君の権能は『権能の模倣』だったはずだ。レックスの権能とこの『巨人の剣』の同時併用でも説明がつかない。明らかにさっき剣の出力が上がっていたからね」
「カグツチの時は権能と呼べるほどのものじゃなかった。けど、今は新しい力として理解した。きっと『みんなを守るための力』……それが俺の死神としてのあり方だと」
 一矢のもつ「巨人の剣」が赤黒く染まっていく。彼は「巨人の剣」そのものを赤口としてベオウルフを斬るつもりだった。それを見てベオウルフはある一つの覚悟をした。
「みんなだって? 僕の新たな秩序こそが死神に新たな役目を与え、人類を救うものだとどうして分からない? そこに君の言う『みんな』だって含まれているというのにさ!」
|「赤口改・無間」《しゃっこうあらため・むげん》
 今までの赤口を使った技と違う点。それは「巨人の剣」ごと破壊するほどの一撃を放つ大技であるということ。今の新たな力に目覚めた一矢だからこそできる技だ。
 一矢が先ほど以上の力で飛び掛かる。
 その瞬間。ベオウルフが自らの「巨人の剣」を叩き折った。破片を握りしめた拳で振り下ろされた「赤口改・無間」を止めて見せる。
 止められた一矢の「巨人の剣」にひびが入っていく。
 丸腰の相手を弱体化する「巨人の剣」に対して、ベオウルフは剣の破片を握りしめることでその条件を回避。格闘戦最強の拳で赤口を止める一撃を全力で放ったのだ。
 両者の「巨人の剣」が砕け散る。
「どうする? アマガセ。素手の勝負といくかい?」
 再度一矢は権能を発動させようとするが、既に「巨人の剣」は使用不可になったことを悟る。
 返事を待たずにベオウルフは空気を裂く拳を一矢の顔面目がけて放つ。
 一矢がレックスの権能を用いるのであれば多少は手こずるが倒してしまうことは可能だ。
 その様子を見ている椿とティルヴィングは手出しすることができず歯がゆい思いで見守る。
 坂上田村麻呂との誓いがあるからだ。「契約」を守る死神である椿であればなおさらそこに入り込むことはできない。
 だが一矢はそのベオウルフの一撃を容易く止めて見せた。逆に拳を握られたベオウルフが痛みと困惑で顔を歪める。
「お前と戦っていてよくわかったよ。 お前のくだらない野望を理解していくごとに力が増していくのを感じる……俺は少し勘違いをしてた。俺の第二の権能はただ『みんなを守る』だけの力じゃない。『世界を守る』力だったんだ」
 ベオウルフの拳の砕ける音が響いた。