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第86話 最終決戦

ー/ー



 決戦の時が来た。

 ヴァルキリー側は謁見の間に迫られ、「ウロボロス」側はモルガンが倒された以上行動範囲を広げることができない。互いに背水の陣である。

 故に彼らが勝利すれば謁見の間を支配し、ヴァルハラと現世を同一化させる何らかの手段を取るだろう。

 それに備えてシュヴェルトライテが死神を率いて謁見の間にて待機している。

 打ち漏らした「ウロボロス」を討つべく万全の態勢で「運行管理」のために眠っているヴァルキリーたちを守っているのだ。

 そして「ウロボロス」を討つべくヴァルキリー側の死神とヴァルキリーたちが姿を現す。

 天ケ瀬一矢。レックス。グリムゲルデ。ロスヴァイセ。

 この勝負は一矢がいかにベオウルフを攻略するかということにかかっている。

 残りの坂上田村麻呂とカインを攻略しても、彼自体が残りの死神勢力を殲滅し得る特別な戦力だからだ。

 転移してきたヴァルキリー陣営を一瞥してベオウルフが言う。

「悪くはない。仮に全戦力を投入されでもしたらどこまでを殺すかの塩梅が難しいからね。死神たちには今後現世を統治してもらう役割があるから。だが、ヴァルキリーが二騎もいるのはいいね。勝てば僕らの正当性が確かなものとなる」

「言うだけなら勝手だ。が、仲間に狙われているのに正当性とは笑わせる」

 仮面のヴァルキリーがベオウルフに忠告する。彼の横に立っている坂上田村麻呂がベオウルフのことをじっと見据えているのだ。

 ヴァルキリーの二騎はカインへ、一矢とレックスがベオウルフに向き直ったのを見ての行動だった。

「我の相手がおらぬ。これでは我は戦わずして支配者となった卑怯者として後ろ指を指されるというもの。ならばベオウルフよ、先に最強の死神としてどちらが相応しいか決着をつけてから、この者らの相手をしても遅くはあるまい」

「僕が勝つから別に構わないよ。でも君には戦後の死神統治の中核を担ってもらいたいと思っていたんだ。殺すつもりはないが、文句ないね?」

 二人の手にする剣。坂上田村麻呂の黒漆剣が、ベオウルフのフルンティングが霊力を帯びる。

「待てよ。もう勝った後の算段なんざ少し気が早すぎるんじゃないか? ちゃんとお前の相手はいるから安心しろよ。リベンジマッチだ」

「そういうことだ。あまり先のことを言っていると鬼が笑うぞ。この剣に憑りついているのは悪霊だがな」

 タイミングよく転移してきたと思われるティルヴィングと椿響子の声。だがそこにある気配は一人分だけだ。

 補修された剣としてのティルヴィングを椿が手にしているのだ。

「生憎完全には治らなかった。だが剣としての性能は十分だ。相手にとって不足はないと思うが」

「笑止千万。その剣は既に我に破れている。折れかかったそれが今さら出てきて何だと言うのだ」

 坂上は現在のティルヴィングを明らかに見くびっている。

 それもそのはず。彼は自らの手で「根源抜刀」による本気のティルヴィングを打ち倒し、半壊させているのだ。

「見た方が早い。『終極抜刀・ティルヴィング』」

 椿がティルヴィングを構えると、ティルヴィングの纏う霊力が激的に増加した。

「ふむ。これは……」

 坂上が息をのむ。「根源抜刀」とはティルヴィングの精神に、魔剣に憑りついた悪霊を引き受け、剣としての「ティルヴィング」の本来の性能を最大限に引き出す機能。

 それに対して「終極抜刀」とはティルヴィングがその身に宿す悪霊を燃料として消費し、使い手と剣そのものに絶大な力を引き出すもの。

 持ち主への精神的負担は悪霊が燃え尽きてしまうため存在しない。

 それは戦う時間が長くなるほど、彼を構成する無数の悪霊が消費され元には戻れなくなる不可逆的な強化。

「時間があまりない。死んでもらうぞ」

 椿が斬りかかると坂上田村麻呂も第二権能である「素早丸」(そはやまる)に持ち替え、椿に対抗する。「素早丸」は鬼や異形の類に効果を持つ剣である。これに対し、かつてのティルヴィングは手も足も出ずに完敗した。

 だが坂上は以前ほどの手応えを感じない。

 ティルヴィングが支配権を椿に譲り渡し、自らを燃料として彼女に提供している以上、一介の死神である椿にその能力は通用しなかったのだ。

「我は貴殿に詫びねばならぬ。故に全力で貴殿を打ち破って見せよう」

「別にほどほどでいいんだがねえ!」

「同感だ」



 椿と坂上の斬り合いと同時にグリムゲルデ、ロスヴァイセとカインの戦いが始まっていた。

 ロスヴァイセは自身が最も得意とする死神の動きを封じる権能が機能していないことを再認識する。

 やはり国会周辺が、内部まではヴァルキリーの管轄でない「ヴァルハラ」と化していることが理由のようだ。

 固有の権能は十分に使えるので「白馬」の権能を用い、召喚した馬に騎乗して、カインを翻弄するロスヴァイセ。

 そして彼と切り結ぶのはグリムゲルデ。仮面を付けている間はどんな攻撃も一度だけ防ぐことのできる「加護」の権能を持つヴァルキリー。

 グリムゲルデがカインを抑え、ロスヴァイセが一撃離脱で彼に攻撃を加えていく。

 だが、元々人間の中でも最上位の性能だったカインは死神と化してからさらにその力を増している。

 故に二人の攻撃が響いている様子はない。今カインはどちらから連携を崩すべきか耐えながら模索していた。

 そして一矢、レックスとベオウルフ。

 ベオウルフから彼らに仕掛けてくることはなく、彼は坂上田村麻呂とカインの戦闘を傍観している。だがその間も彼には一分の隙も無かった。

「前にやった組み合わせじゃないか。勝負の結果は見えていると思うけど」

 ベオウルフはようやく喋り始めた。

 即興の連携ということもあったが、以前一矢がレックスの身体強化の権能を借り受け戦った際はベオウルフに有効打を与えることはできなかった。

「ベオウルフ、お前は剣で挑めば応じてくれるんだって?」

 一矢が空亡(くうぼう)を、レックスが白鴉(しろがらす)をそれぞれ抜く。

 かつてヘルムヴィーゲの挑発に乗って剣での勝負に乗ったことを思い出し、彼は苦笑した。

「いいだろう。ヘルムヴィーゲの挑戦だけ受けて君たちのそれを無視するのはフェアじゃない。少なくとも王のすることじゃないな」

 彼はフルンティング、ネイリングの二振りの剣を抜いて二人に向かい合う。

 ベオウルフにとってここまで挑戦的な敵は久しぶりだった。

 吊り上がった口角を隠そうともせず、一歩ずつベオウルフが二人の死神に向かう。

 そこに今までの「遊び」はなかった。


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次のエピソードへ進む 第87話 剣の舞


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 決戦の時が来た。
 ヴァルキリー側は謁見の間に迫られ、「ウロボロス」側はモルガンが倒された以上行動範囲を広げることができない。互いに背水の陣である。
 故に彼らが勝利すれば謁見の間を支配し、ヴァルハラと現世を同一化させる何らかの手段を取るだろう。
 それに備えてシュヴェルトライテが死神を率いて謁見の間にて待機している。
 打ち漏らした「ウロボロス」を討つべく万全の態勢で「運行管理」のために眠っているヴァルキリーたちを守っているのだ。
 そして「ウロボロス」を討つべくヴァルキリー側の死神とヴァルキリーたちが姿を現す。
 天ケ瀬一矢。レックス。グリムゲルデ。ロスヴァイセ。
 この勝負は一矢がいかにベオウルフを攻略するかということにかかっている。
 残りの坂上田村麻呂とカインを攻略しても、彼自体が残りの死神勢力を殲滅し得る特別な戦力だからだ。
 転移してきたヴァルキリー陣営を一瞥してベオウルフが言う。
「悪くはない。仮に全戦力を投入されでもしたらどこまでを殺すかの塩梅が難しいからね。死神たちには今後現世を統治してもらう役割があるから。だが、ヴァルキリーが二騎もいるのはいいね。勝てば僕らの正当性が確かなものとなる」
「言うだけなら勝手だ。が、仲間に狙われているのに正当性とは笑わせる」
 仮面のヴァルキリーがベオウルフに忠告する。彼の横に立っている坂上田村麻呂がベオウルフのことをじっと見据えているのだ。
 ヴァルキリーの二騎はカインへ、一矢とレックスがベオウルフに向き直ったのを見ての行動だった。
「我の相手がおらぬ。これでは我は戦わずして支配者となった卑怯者として後ろ指を指されるというもの。ならばベオウルフよ、先に最強の死神としてどちらが相応しいか決着をつけてから、この者らの相手をしても遅くはあるまい」
「僕が勝つから別に構わないよ。でも君には戦後の死神統治の中核を担ってもらいたいと思っていたんだ。殺すつもりはないが、文句ないね?」
 二人の手にする剣。坂上田村麻呂の黒漆剣が、ベオウルフのフルンティングが霊力を帯びる。
「待てよ。もう勝った後の算段なんざ少し気が早すぎるんじゃないか? ちゃんとお前の相手はいるから安心しろよ。リベンジマッチだ」
「そういうことだ。あまり先のことを言っていると鬼が笑うぞ。この剣に憑りついているのは悪霊だがな」
 タイミングよく転移してきたと思われるティルヴィングと椿響子の声。だがそこにある気配は一人分だけだ。
 補修された剣としてのティルヴィングを椿が手にしているのだ。
「生憎完全には治らなかった。だが剣としての性能は十分だ。相手にとって不足はないと思うが」
「笑止千万。その剣は既に我に破れている。折れかかったそれが今さら出てきて何だと言うのだ」
 坂上は現在のティルヴィングを明らかに見くびっている。
 それもそのはず。彼は自らの手で「根源抜刀」による本気のティルヴィングを打ち倒し、半壊させているのだ。
「見た方が早い。『終極抜刀・ティルヴィング』」
 椿がティルヴィングを構えると、ティルヴィングの纏う霊力が激的に増加した。
「ふむ。これは……」
 坂上が息をのむ。「根源抜刀」とはティルヴィングの精神に、魔剣に憑りついた悪霊を引き受け、剣としての「ティルヴィング」の本来の性能を最大限に引き出す機能。
 それに対して「終極抜刀」とはティルヴィングがその身に宿す悪霊を燃料として消費し、使い手と剣そのものに絶大な力を引き出すもの。
 持ち主への精神的負担は悪霊が燃え尽きてしまうため存在しない。
 それは戦う時間が長くなるほど、彼を構成する無数の悪霊が消費され元には戻れなくなる不可逆的な強化。
「時間があまりない。死んでもらうぞ」
 椿が斬りかかると坂上田村麻呂も第二権能である|「素早丸」《そはやまる》に持ち替え、椿に対抗する。「素早丸」は鬼や異形の類に効果を持つ剣である。これに対し、かつてのティルヴィングは手も足も出ずに完敗した。
 だが坂上は以前ほどの手応えを感じない。
 ティルヴィングが支配権を椿に譲り渡し、自らを燃料として彼女に提供している以上、一介の死神である椿にその能力は通用しなかったのだ。
「我は貴殿に詫びねばならぬ。故に全力で貴殿を打ち破って見せよう」
「別にほどほどでいいんだがねえ!」
「同感だ」
 椿と坂上の斬り合いと同時にグリムゲルデ、ロスヴァイセとカインの戦いが始まっていた。
 ロスヴァイセは自身が最も得意とする死神の動きを封じる権能が機能していないことを再認識する。
 やはり国会周辺が、内部まではヴァルキリーの管轄でない「ヴァルハラ」と化していることが理由のようだ。
 固有の権能は十分に使えるので「白馬」の権能を用い、召喚した馬に騎乗して、カインを翻弄するロスヴァイセ。
 そして彼と切り結ぶのはグリムゲルデ。仮面を付けている間はどんな攻撃も一度だけ防ぐことのできる「加護」の権能を持つヴァルキリー。
 グリムゲルデがカインを抑え、ロスヴァイセが一撃離脱で彼に攻撃を加えていく。
 だが、元々人間の中でも最上位の性能だったカインは死神と化してからさらにその力を増している。
 故に二人の攻撃が響いている様子はない。今カインはどちらから連携を崩すべきか耐えながら模索していた。
 そして一矢、レックスとベオウルフ。
 ベオウルフから彼らに仕掛けてくることはなく、彼は坂上田村麻呂とカインの戦闘を傍観している。だがその間も彼には一分の隙も無かった。
「前にやった組み合わせじゃないか。勝負の結果は見えていると思うけど」
 ベオウルフはようやく喋り始めた。
 即興の連携ということもあったが、以前一矢がレックスの身体強化の権能を借り受け戦った際はベオウルフに有効打を与えることはできなかった。
「ベオウルフ、お前は剣で挑めば応じてくれるんだって?」
 一矢が|空亡《くうぼう》を、レックスが|白鴉《しろがらす》をそれぞれ抜く。
 かつてヘルムヴィーゲの挑発に乗って剣での勝負に乗ったことを思い出し、彼は苦笑した。
「いいだろう。ヘルムヴィーゲの挑戦だけ受けて君たちのそれを無視するのはフェアじゃない。少なくとも王のすることじゃないな」
 彼はフルンティング、ネイリングの二振りの剣を抜いて二人に向かい合う。
 ベオウルフにとってここまで挑戦的な敵は久しぶりだった。
 吊り上がった口角を隠そうともせず、一歩ずつベオウルフが二人の死神に向かう。
 そこに今までの「遊び」はなかった。