第5話 碧い宝石
ー/ー
「最初はね、彼女のマウスだったのよ」
「マウス?」
「実験用のハツカネズミ。迷路とか走るやつ。そのうちの一匹、ハルがすごく可愛がってた子の性格が変ったって気づいたの。馴致が全く消えて狂暴になって。で、そんな状態が四時間半続いてたのに急に戻ったのよ、元の状態に。そこからは追試の連続」
「触媒は少しだけ特殊な蛍光試料が混ざった服用薬だったの。人体ならおよそ三日後には分解排出されるその試薬を体内に取り込み、全身に行き渡った状態で特異曲線を通過すると、その瞬間に別世界線に存在する同一対象の魂だか精神だかと入れ替わる。そして次の特異曲線との交差タイミングで戻ってくる」
「とはいえ、よく自分でやってみたって思うわよ、私に言わせれば」
ケィさんのその台詞にはボクは頷かない。
「いや、それはやるでしょ。発見しちゃったら」
だって身体に影響ないんですよね、その薬。ネズミも元に戻ったし。ボクは思ったことを口にする。
「試しますね。どの世界線であれ、ボクなら」
「ハルって、どの子もみんなそういう感じなのね。思い切りがいいっていうか、無茶っていうか」
血は争えないのね、などと意味不明を呟くケィさん。そりゃそうですよ。双子以上に同じなんですから。
「最初の入れ替わりから帰ってきたハルは目を輝かせてた。私、他の自分たちに新しい世界を見せるって」
「新しい世界?」
「そう。あの子はそう言ってた。最初のちょっと不幸な世界線、二番目のまったく針路の違う世界線、そのどちらも、今ここのハルが手にしてる視点は持ち合わせてなかった」
ケィさんは息継ぎをしてから続ける。
「さっき『宇宙からの帰還』の話をしたでしょ。ハルの視点はまさにそれ」
「碧い宝石の星を一望して初めて得られる感覚。降りてくる啓示を体験してもらうって」
「見ろ。人がゴミのようだ。みたいな?」
「人とか見えないし(笑)」
茶化しはしたけど、正直ボクはこの世界のハルに感謝してた。そしてこうも思った。もしボクがこの世界のハルだったら同じことをしただろうな。
そっか。この世界線のハルはボクに地球外のこの空間、この環境、この景色を体感させたいって思ったんだ。ここに来た自分が劇的に変わったっていう体験をしたんだな。
「ケィさん。ボクとハル、やっぱり同じ個体なんですね。ここのハルの考えたこと、じわじわと沁みてきてボクの中のモノと繋がります」
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「マウス?」
「実験用のハツカネズミ。迷路とか走るやつ。そのうちの一匹、ハルがすごく可愛がってた子の性格が変ったって気づいたの。馴致が全く消えて狂暴になって。で、そんな状態が四時間半続いてたのに急に戻ったのよ、元の状態に。そこからは追試の連続」
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「とはいえ、よく自分でやってみたって思うわよ、私に言わせれば」
ケィさんのその台詞にはボクは頷かない。
「いや、それはやるでしょ。発見しちゃったら」
だって身体に影響ないんですよね、その薬。ネズミも元に戻ったし。ボクは思ったことを口にする。
「試しますね。どの世界線であれ、ボクなら」
「ハルって、どの子もみんなそういう感じなのね。思い切りがいいっていうか、無茶っていうか」
血は争えないのね、などと意味不明を呟くケィさん。そりゃそうですよ。双子以上に同じなんですから。
「最初の入れ替わりから帰ってきたハルは目を輝かせてた。私、他の自分たちに新しい世界を見せるって」
「新しい世界?」
「そう。あの子はそう言ってた。最初のちょっと不幸な世界線、二番目のまったく針路の違う世界線、そのどちらも、今ここのハルが手にしてる視点は持ち合わせてなかった」
ケィさんは息継ぎをしてから続ける。
「さっき『宇宙からの帰還』の話をしたでしょ。ハルの視点はまさにそれ」
「碧い宝石の星を一望して初めて得られる感覚。降りてくる啓示を体験してもらうって」
「見ろ。人がゴミのようだ。みたいな?」
「人とか見えないし(笑)」
茶化しはしたけど、正直ボクはこの世界のハルに感謝してた。そしてこうも思った。もしボクがこの世界のハルだったら同じことをしただろうな。
そっか。この世界線のハルはボクに地球外のこの空間、この環境、この景色を体感させたいって思ったんだ。ここに来た自分が劇的に変わったっていう体験をしたんだな。
「ケィさん。ボクとハル、やっぱり同じ個体なんですね。ここのハルの考えたこと、じわじわと沁みてきてボクの中のモノと繋がります」