【従業員】工房はとっても大忙し
ー/ー 世界規模で見れば物珍しい異種族国家パエデロスで最も賑わう繁華街の傍らに、その店はあった。
店主はエルフ。従業員もドワーフやオーガなど異種族の亜人が勤めており、それはそれは色々な意味で有名な魔具店だった。
いつも扉が開けば満員御礼のこの店も、今日は珍しく定休日。店の前には張り紙を読んで落胆する客たちでいっぱいだ。
店内はさぞかし静まり返っているのかと思いきや、そんなことはなかった。
店の中に設けられた工房からはひっきりなしにトンテンカンと工具を振るう音が響き渡る。はたまた、ガコンガコン、ギコギコという木材を加工する音が響き渡る。
外から聞いた限りでは、そこで何が行われているのかまでは分かるまい。
「ノイデスさん、机一脚仕上がりましたよ。次の材料はまだですか?」
「今切ってるところだよ! そんな急かすなよ!」
一脚の机が宙に浮かぶ――否、その下に小さな女の子がハンマーを腰に携えながら、机を運んでいた。彼女の名はサンシ。ドワーフ娘の職人だ。
その直ぐ近くで黒光りするムキムキの筋肉を持つ巨大な女がノコギリで両断したばかりの木材を抱え込む。彼女の名はノイデス。ハーフオーガの娘だ。
ノイデスは束になった木材をまとめてドサっとぶっきらぼうにもサンシのもとに置くと、再び定位置に戻るかのように、木材の加工に戻る。
一方のサンシは受け取った木材をひょいひょいと掴み、あたかも積み木を組み立てるくらいの要領で机へと加工していく。
ご覧の通り小さな娘と大きな娘が工房に篭もって何をしているのかは一目瞭然だ。
大量に発注の掛かった商品の製作にあっていた。
そのペースときたら本当に工房にはその二人しかいないのかと疑うほどに急ピッチであり、みるみるうちに机が工房の隅っこで束になって積まれていく。
「ノイデスさん。机が大分かさんできましたので倉庫にしまってもらえますかな」
「あいよ、わぁーったよ!」
ノコギリの手を止め、ノイデスは完成した机の山をいくつかまとめて軽々と担ぎ込み、工房の外に設けられた倉庫の方へと運び込んでいく。机がすっかり片付いた頃には既に新しい机が一脚、また完成させられていた。
「おい、机の発注はあといくつだっけか? もう倉庫が埋まってきちまったぞ」
「予定では後十二脚ほどでしたな。ほっほっほ」
ハンマーを振り下ろしながらサンシが言う。
言い終えたときには予定数がもう一脚減っていた。
「みなさぁ~ん、遅れてすみませぇ~ん! 馬車が到着しましたよぉ~!」
ほわわぁ~んとしたおっとりボイスが工房内に響く。
現われたのは、褐色肌に白髪のエルフ娘。その名もデニアだった。
「おう、待ってたぜ。そろそろ倉庫がパンパンになるとこだったんだ」
「ノイデスさん、運び出しの方、お願いしますぞ」
「こっちですよぉ~、お願いしまぁす」
デニアに誘導されるがまま、ノイデスは両手いっぱいに机をがっしりと持ったまま、外へと移動する。その顔には疲れ一つ見せない。さすがはオーガの血を引いているだけあるといったところだろうか。
店の裏口の前には荷台を空っぽにした数台の馬車が待機しており、荷物はまだかまだかと待ち構えている様子だった。
「こちらのぉ、手前の数台が入荷用でぇ、こっちは新しい材料ですぅ。順番に倉庫に運び出しましょぉ~」
「ああ、よかった。材料の方もそろそろ切らすとこだったんだわ」
完成した机を空の馬車の荷台にドスンと置き、今度は材料の詰まっているであろう木箱をよいしょといくつかまとめて担ぎ込む。とんでもない怪力だ。
その横で申し訳程度にデニアも木箱を一つ抱え込んで、店内へと戻る。
「おぅい、新しい材料も届いてたぜ」
「ほっほっほ。それは次の注文のものですな。そこに置いておいてください」
「ほいよ」
サンシの横に木箱が積まれ、遅れてよいしょよいしょとデニアも木箱を置く。
先ほどまでのサンシとデニアの動きと比較すると、やはり職人側ではないデニアの動きはワンテンポか、それよりも遅く思える。
「さてさて、デニアさん。確かいくつか魔法薬の注文も入っていましたが、そちらの方は大丈夫ですかな」
「ええ。そうですねぇ、店長たちが材料調達しにいってるからぁ、今ある材料でなんとか造れるものを造っておきますよぉ~」
デニアが薬の調合法の記された羊皮紙を確認している間にも、ノイデスはせっせと完成したばかりの商品を運び出し、新しい材料の入った木箱を運び入れと、ひっきりなしに動き回っていた。
薬草を熟成させた小瓶やら、切り刻んで乾燥させた茸やら、知らない者が見たら得体の知れない物体にしか見えないソレやらをテーブルの上に広げていき、デニアの方も準備を進めていく。
一言に工房といっても、この店は魔具の生産が主であり、木材や金属を加工する作業台の他に、魔法を取り扱うための作業テーブルも用意されている。
デニアのテーブルの上はまさに魔法作業専用のもの。ハンマーやノコギリなどの工具は一切置かれていない。その代わりに、怪しげな道具がチラホラと見えるが。
「おい、デニア。机の方は全部運んじまったぞ。あっちの馬車はどうすんだ」
「あ、はぁい、今行きますねぇ~」
おっとりエルフは、ゆっくり立ち上がり、まったりとした動きで外へと向かう。
残されたサンシは一人黙々と山積みの木箱に囲まれながら作業を続けていき、いつの間にやら作り終えていた机に次いで、新しい商品の製作へと移っていた。
材料も造るものも異なるにも関わらず、臨機応変に工具を持ち替え、見事と言わざるを得ない早業で、商品が仕上がっていく。
「うしっ! じゃあ再開すっか! 次は何を造ればいい?」
「そうですな。今度のは細かい部品が多いですから、そちらの方を頼みます」
颯爽と戻ってきたノイデスも自分の作業テーブルに移り、注文書の内容を今一度確かめると、一呼吸。
「じゃあ、俺はこれを造っとくわ」
「ええ、お願いします」
そういって設計図の書かれた羊皮紙をサンシに向けてピラピラと見せ、首がコクリと動いたのを確認すると、ノイデスはどっしりと自分専用の椅子に座り、どさっと大きめの皮つきの木材をテーブルの上に載せる。
サンシの動きと比較すれば目を見張るほど早くはないが、その丁寧かつ繊細な動きは誰にも真似できまい。巨大なムキムキ女のノイデスがきめ細かい作業している姿は、普段の彼女のぶっきらぼうさを知っている者ほど驚きに変わるだろう。
「ふぅ……次の仕入れもお願いしておきましたよぉ。さてさて、私の方も今のうちにできること済ませておきますねぇ」
馬車との交渉を済ませたのか、デニアも工房にまた戻ってくる。
ちょっと離れた位置ではサンシとノイデスの作業音が聞こえてくる最中、デニアのテーブルの上では食器のようなカシャカシャとした小さな金属音が密やかに鳴る。
「ええとぉ、加熱してぇ、少し希釈かなぁ……」
黙々と、とはならずボソリボソリと呟きながら調合を進めていく。
時折、指先から火と出したり、水を出したりと、魔法が使えるからこその行程が挟まれていく。
「――まず一つぅ」
知識のない者からしてみたら、魔法薬を造るのはこんなにも簡単なのかと誤解を招いてしまうくらい、手早く透明なガラス瓶の中に入ったポーションが置かれる。
その矢先、その隣にもう一瓶並ぶ。と思ったらまたもう一瓶。
店の外では常連たちが嘆いている一方、その店内の中では常軌を逸した作業が繰り広げられていることなど、露とも知れないのである。
店主はエルフ。従業員もドワーフやオーガなど異種族の亜人が勤めており、それはそれは色々な意味で有名な魔具店だった。
いつも扉が開けば満員御礼のこの店も、今日は珍しく定休日。店の前には張り紙を読んで落胆する客たちでいっぱいだ。
店内はさぞかし静まり返っているのかと思いきや、そんなことはなかった。
店の中に設けられた工房からはひっきりなしにトンテンカンと工具を振るう音が響き渡る。はたまた、ガコンガコン、ギコギコという木材を加工する音が響き渡る。
外から聞いた限りでは、そこで何が行われているのかまでは分かるまい。
「ノイデスさん、机一脚仕上がりましたよ。次の材料はまだですか?」
「今切ってるところだよ! そんな急かすなよ!」
一脚の机が宙に浮かぶ――否、その下に小さな女の子がハンマーを腰に携えながら、机を運んでいた。彼女の名はサンシ。ドワーフ娘の職人だ。
その直ぐ近くで黒光りするムキムキの筋肉を持つ巨大な女がノコギリで両断したばかりの木材を抱え込む。彼女の名はノイデス。ハーフオーガの娘だ。
ノイデスは束になった木材をまとめてドサっとぶっきらぼうにもサンシのもとに置くと、再び定位置に戻るかのように、木材の加工に戻る。
一方のサンシは受け取った木材をひょいひょいと掴み、あたかも積み木を組み立てるくらいの要領で机へと加工していく。
ご覧の通り小さな娘と大きな娘が工房に篭もって何をしているのかは一目瞭然だ。
大量に発注の掛かった商品の製作にあっていた。
そのペースときたら本当に工房にはその二人しかいないのかと疑うほどに急ピッチであり、みるみるうちに机が工房の隅っこで束になって積まれていく。
「ノイデスさん。机が大分かさんできましたので倉庫にしまってもらえますかな」
「あいよ、わぁーったよ!」
ノコギリの手を止め、ノイデスは完成した机の山をいくつかまとめて軽々と担ぎ込み、工房の外に設けられた倉庫の方へと運び込んでいく。机がすっかり片付いた頃には既に新しい机が一脚、また完成させられていた。
「おい、机の発注はあといくつだっけか? もう倉庫が埋まってきちまったぞ」
「予定では後十二脚ほどでしたな。ほっほっほ」
ハンマーを振り下ろしながらサンシが言う。
言い終えたときには予定数がもう一脚減っていた。
「みなさぁ~ん、遅れてすみませぇ~ん! 馬車が到着しましたよぉ~!」
ほわわぁ~んとしたおっとりボイスが工房内に響く。
現われたのは、褐色肌に白髪のエルフ娘。その名もデニアだった。
「おう、待ってたぜ。そろそろ倉庫がパンパンになるとこだったんだ」
「ノイデスさん、運び出しの方、お願いしますぞ」
「こっちですよぉ~、お願いしまぁす」
デニアに誘導されるがまま、ノイデスは両手いっぱいに机をがっしりと持ったまま、外へと移動する。その顔には疲れ一つ見せない。さすがはオーガの血を引いているだけあるといったところだろうか。
店の裏口の前には荷台を空っぽにした数台の馬車が待機しており、荷物はまだかまだかと待ち構えている様子だった。
「こちらのぉ、手前の数台が入荷用でぇ、こっちは新しい材料ですぅ。順番に倉庫に運び出しましょぉ~」
「ああ、よかった。材料の方もそろそろ切らすとこだったんだわ」
完成した机を空の馬車の荷台にドスンと置き、今度は材料の詰まっているであろう木箱をよいしょといくつかまとめて担ぎ込む。とんでもない怪力だ。
その横で申し訳程度にデニアも木箱を一つ抱え込んで、店内へと戻る。
「おぅい、新しい材料も届いてたぜ」
「ほっほっほ。それは次の注文のものですな。そこに置いておいてください」
「ほいよ」
サンシの横に木箱が積まれ、遅れてよいしょよいしょとデニアも木箱を置く。
先ほどまでのサンシとデニアの動きと比較すると、やはり職人側ではないデニアの動きはワンテンポか、それよりも遅く思える。
「さてさて、デニアさん。確かいくつか魔法薬の注文も入っていましたが、そちらの方は大丈夫ですかな」
「ええ。そうですねぇ、店長たちが材料調達しにいってるからぁ、今ある材料でなんとか造れるものを造っておきますよぉ~」
デニアが薬の調合法の記された羊皮紙を確認している間にも、ノイデスはせっせと完成したばかりの商品を運び出し、新しい材料の入った木箱を運び入れと、ひっきりなしに動き回っていた。
薬草を熟成させた小瓶やら、切り刻んで乾燥させた茸やら、知らない者が見たら得体の知れない物体にしか見えないソレやらをテーブルの上に広げていき、デニアの方も準備を進めていく。
一言に工房といっても、この店は魔具の生産が主であり、木材や金属を加工する作業台の他に、魔法を取り扱うための作業テーブルも用意されている。
デニアのテーブルの上はまさに魔法作業専用のもの。ハンマーやノコギリなどの工具は一切置かれていない。その代わりに、怪しげな道具がチラホラと見えるが。
「おい、デニア。机の方は全部運んじまったぞ。あっちの馬車はどうすんだ」
「あ、はぁい、今行きますねぇ~」
おっとりエルフは、ゆっくり立ち上がり、まったりとした動きで外へと向かう。
残されたサンシは一人黙々と山積みの木箱に囲まれながら作業を続けていき、いつの間にやら作り終えていた机に次いで、新しい商品の製作へと移っていた。
材料も造るものも異なるにも関わらず、臨機応変に工具を持ち替え、見事と言わざるを得ない早業で、商品が仕上がっていく。
「うしっ! じゃあ再開すっか! 次は何を造ればいい?」
「そうですな。今度のは細かい部品が多いですから、そちらの方を頼みます」
颯爽と戻ってきたノイデスも自分の作業テーブルに移り、注文書の内容を今一度確かめると、一呼吸。
「じゃあ、俺はこれを造っとくわ」
「ええ、お願いします」
そういって設計図の書かれた羊皮紙をサンシに向けてピラピラと見せ、首がコクリと動いたのを確認すると、ノイデスはどっしりと自分専用の椅子に座り、どさっと大きめの皮つきの木材をテーブルの上に載せる。
サンシの動きと比較すれば目を見張るほど早くはないが、その丁寧かつ繊細な動きは誰にも真似できまい。巨大なムキムキ女のノイデスがきめ細かい作業している姿は、普段の彼女のぶっきらぼうさを知っている者ほど驚きに変わるだろう。
「ふぅ……次の仕入れもお願いしておきましたよぉ。さてさて、私の方も今のうちにできること済ませておきますねぇ」
馬車との交渉を済ませたのか、デニアも工房にまた戻ってくる。
ちょっと離れた位置ではサンシとノイデスの作業音が聞こえてくる最中、デニアのテーブルの上では食器のようなカシャカシャとした小さな金属音が密やかに鳴る。
「ええとぉ、加熱してぇ、少し希釈かなぁ……」
黙々と、とはならずボソリボソリと呟きながら調合を進めていく。
時折、指先から火と出したり、水を出したりと、魔法が使えるからこその行程が挟まれていく。
「――まず一つぅ」
知識のない者からしてみたら、魔法薬を造るのはこんなにも簡単なのかと誤解を招いてしまうくらい、手早く透明なガラス瓶の中に入ったポーションが置かれる。
その矢先、その隣にもう一瓶並ぶ。と思ったらまたもう一瓶。
店の外では常連たちが嘆いている一方、その店内の中では常軌を逸した作業が繰り広げられていることなど、露とも知れないのである。
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