これから昼休みだという時に、突然進路指導主任に「藤原。お前至急進路指導室に来い」と呼び出された。
やけに焦ってるみたいだけど、思い当たる事はまるでないなぁ。
かなっぺたちといつもの場所で食事をとろうとしていたのに何の用だろうか。お腹減ったのに。
「親から進学は認めてもらえなかった。就職も難色を示された」と以前先生に報告したら「お前たち親子はもっと話し合うべきだ。今の段階では学校も何もできない」と返されたので、私の進路指導の話というわけではないだろう。
二人に先に行って食べててと告げて渋々進路指導室へと向かうと、主任と担任が揃って待っていた。やけに神妙な表情。
なんだろう。まさか、優待生取消?
戸惑う私に座るように促すと主任は渋面のまま重い口を開いた。
「以前、お前に進路のことについて親御さんと話し合えって言ったよな」
うん? 進路の事なの? お昼休みに呼び出してまで?
怪訝に思いながらも、この間忍さんに言われた事を話す。
「やっぱり家に戻れって言われました。このまま母の承諾なしに就職しても先方に迷惑がかかるだろうからって私の就職先の斡旋は保留にするって先生もおっしゃってたはずですけど」
実際、忍さんなら私の就職先に押し掛けてきそうだ。ナギの時のように。
「……さっきお前の親御さんから電話があった。『学校を退学させてくれ』だってよ」と担任が痛む頭を押さえるように発言する。
「は?」
え、今なんて? 退学?
「担任、本人との三者面談が必要だと伝えたら、お母さんは後日また日取りを決めるって言って電話を切ったわけだが」
「え、あの。……は?? え、意味が分からないんですが」
「奇遇だな、俺たちも困惑している」という担任の後を学年主任が「俺たち教師は生徒を守るのも仕事だ。お前が学校をやめたくないというのなら力にはなりたいが、いかんせんお前はまだ未成年だからな。親御さんの意向には逆らえん。正直、俺たちもどこまでできるかわからん」と引き継いだ。
「うーん……」
天を仰ぐ。
まさかこんな強硬手段に打って出るとは。甘く見てた。いや、あの人ならやりかねないか、ナギの職場に乗り込んだくらいだし。
忍さんの私への執着を考えるとこの行動は予期しておかなければならなかった。
この次の彼女の動きを想定する。このままじゃアパートの方も契約を打ち切りそうだ。そう考えると、のんびりしてられないな。
私の話は受け入れてもらえないだろうけど、アパートを追い出されたら終わりだから、とりあえず直接忍さんと話し合わなきゃ。
「先生、私早退させてもらっていいですか? ちょっと実家に行ってきます」
今から家に向かって話し合ってきたら、夕方からのバイトにはギリ間に合いそうだ。学校はともかくバイトには穴を開けられない。
「お前の親御さんに話が通じるとは思えんが。……大丈夫か?」
高校三年の、この時期の退学打診を受けて先生たちもうちのお母さんの異常性を感じ取ったようだ。
「正直、キツイですね」
かといってこのまま黙って従うわけにはいかない。
「こういう時には第三者が立ち会った方がいいのだろうが……そうだ、お前の番いに同伴してもらったらどうだ?」
「詳しくは知らんが、お前の番いとやらはきちんとした社会人なんだろ」
ナギかぁ。彼が同席したら余計にお母さんは頭に血が上りそうだ。
だけど、一応ナギにも伝えておくか。このまま私を監禁、とはしないだろうけど念のために。
「そうですね、彼も昼休みだろうから連絡は入れてみます。ただ待てないから一人で実家に向かいますが」
アパートの大家さんは良くも悪くも昔気質の人だから、親が契約を解除したいと言い出したら「子供は親のいう事を聞くものだ」と未成年である私の言い分は聞いてもらえないだろう。
賃貸契約の名義も忍さんのものだし、そうなれば私にはどうすることもできなくなってしまう。それだけは阻止しなければ。
急ぎ鞄を持ち学校を出る。教室で食事をしているクラスメイトの視線が痛いけど構ってられない。
かなっぺ達に「急用が出来た。早退する」とメッセージを送り、ナギには直接電話をする。
丁度昼休みだったようで、すぐに電話に出てくれた。
駅へ向かいながら端的に用件を言う。心配をかけたくないから退学の話は伝えなかった。
ただ「実家に行かなきゃいけない用事が出来た」とだけ伝えた。
そして次に実家へと電話を掛けると「電話が来るとわかってた」とばかりに落ち着き払った忍さんの声がした。
「あなたは何も心配しなくていいからお母さんに全てを任せて」と不穏なことを言い出した。
――もうナギとは二度と会えない、そんな予感がした。軽く頭を振り、嫌な考えを払拭する。
「アパートの契約解除だけはしないで、今からそっちに行くからとりあえず話し合おう」と頼み込んだ。
「そうね。あなたが戻ってくるまで待つわ。だから帰ってきて。お母さんの元へ」
今まで聞いたこともない、ねっとりとした声を聴いてると脳内に毒が廻る感覚に襲われる。
何故だが、怖気が走った。もしかしたら私は取り返しのつかない選択をしてしまったのだろうか。