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【2】②

ー/ー



「じゃあ夕ご飯の用意するから。ちょっと待ってね」
 玄関を入るなり、伯母が瑛璃に声を掛けて来る。
「あの、私お手伝いします」
「あらあ、そんなこと言われたの初めて! いいのよ。これが伯母さんの仕事だから」
 ただの「お客さん」のつもりでいてはいけない、と口にした瑛璃に、伯母は笑って手を振った。
「でも──」
「だったらまたおいおいね。今日はもう下拵えもしてるし、何より瑛璃ちゃんの歓迎会だから」
 これ以上逆らわない方がいいのか。伯母も途中から手を出されるのは嫌かもしれない。悪いが今日は甘えておこう、と引く。
「瑛璃ちゃん、部屋に案内するからおいで」
 伯父のあとをついて、瑛璃は階段を上がった。
「荷物は全部そのまま置いてあるからね。もし何か手伝うことがあったら遠慮しなくていいよ。伯父さんに言い難かったら伯母さんにな。世話好きで気のいい人だから」
 廊下の両側に並んだドアの一つを開けて、伯父が中を指して話してくれるのを聞く。伯母に対する評が航と同じだ。瑛璃の印象とも重なる。
 そして部屋。
 ……そうだ、夏の間泊まるのだから当然かもしれないとはいえ、「瑛璃の部屋」を用意してくれたのだ。
 そこへ伯母の「ご飯よ」という声が掛かり、斜め向かいの部屋から出てきた航も一緒に一階へ向かった。
「どう? 口に合うかしら?」
「美味しいです! 伯母さん、お料理上手なんですね。……私、手伝うなんて言ったけど別に料理得意でもないし」
 瑛璃が食べるのを見ていた伯母が少し不安そうに訊くのにすぐに答える。
 万が一違う感想を持ったとしても、返しとしては「美味しいです」以外にはあり得ない。
 ただ、伯母の料理は忖度なく美味しかった。
 味付けも特に癖はなく、食材は瑛璃の家庭とは違う感じのものもあったが、思い切って口に入れたらすべて好みの味だった。
 これは瑛璃に合わせてくれたわけではないので、もともとの味覚が似ているのか。
 この町は母の故郷なのだから、母の料理のベースもここの味になるのだろう。父がよく「味が違う」と文句をつけていたものだ。
 もしかしたら伯母の味付けもこの地元に寄せていて、そのため瑛璃にも馴染みがあるということなのかもしれない。
 ただし、父の不満は土地柄の問題ではなく「自分の家の味に合わせない」という一点らしかった。
 実際、学校で友人と弁当のおかずを交換しても、母の料理は常に「美味しい」と好評だったからだ。中には「レシピ教えて! お母さんに作ってもらう」という子までいた。
 そういった経過もあり母も料理は普通に上手だと思っているものの、もし順位をつけるなら問答無用で伯母の方が上だ。
「あたし、主婦歴二十年以上になるのよぉ。高校生の女の子より上手くできるのなんて当たり前じゃない。それより、作ったもの『美味しい』って言われたらこんなに嬉しいのねぇ」
 伯父と航の方をチラッと見やると、伯母がまた瑛璃に視線を戻して笑う。
「いや、俺だって『美味しい』くらい言って、……た、たまには、言ってる、じゃん」
「そうね~。『これだけかよ!』『あー、肉がいいなあ』とかの二十分の一くらいは言ってるかもね」
 伯母の笑い混じりの返しに、航はバツが悪そうに俯いていた。ここで開き直らないというのは、きっと性格が良いのだろう。
「ああ、お母さんごめんな。美味しいのが当然だからつい言わなくなってて」
「お父さんは結婚したころはすごい大袈裟に喜んでくれてたもんねえ」
 伯父の台詞はまさに彼のキャラクターに合っていると感じる。
 今まで会っていた時にも、口数は少なかったが無神経なところはなく、瑛璃と母に細かく気を遣ってくれていた。
「瑛璃ちゃんて聖花(せいか)よね?」
「はい、そうです」
「セイカ?」
 伯母に問われ答えた瑛璃に、従兄が不思議そうに首を傾げる。
「学校よ。聖花女子学園。──今も制服は変わってないの? あのワンピース可愛いのよねえ。大学の同級生にも聖花女子の子がいて、高校時代の写真見せてもらったのよ」
「はい。もう何十年もそのままのワンピースです。たまに卒業生の方に『懐かしい』って言われます」
 確かに、伯母の年齢なら確実に今と同様の制服だった筈だ。「ワンピース」という一点だけでも、少し他と違うのは間違いなかった。
「もう都会っぽくてお洒落で、流石に東京は違う! ってびっくりしたもの。当時は特にだけど、今でもあのデザインなら十分可愛いわ」
「そうですね。今も制服目当ての子も多いみたいです。冬服は紺で地味ですけど、合服と夏服は結構目立つので」
 瑛璃は「制服目当て」で選んだわけではないが、制服も気に入っているのは確かだ。


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「じゃあ夕ご飯の用意するから。ちょっと待ってね」
 玄関を入るなり、伯母が瑛璃に声を掛けて来る。
「あの、私お手伝いします」
「あらあ、そんなこと言われたの初めて! いいのよ。これが伯母さんの仕事だから」
 ただの「お客さん」のつもりでいてはいけない、と口にした瑛璃に、伯母は笑って手を振った。
「でも──」
「だったらまたおいおいね。今日はもう下拵えもしてるし、何より瑛璃ちゃんの歓迎会だから」
 これ以上逆らわない方がいいのか。伯母も途中から手を出されるのは嫌かもしれない。悪いが今日は甘えておこう、と引く。
「瑛璃ちゃん、部屋に案内するからおいで」
 伯父のあとをついて、瑛璃は階段を上がった。
「荷物は全部そのまま置いてあるからね。もし何か手伝うことがあったら遠慮しなくていいよ。伯父さんに言い難かったら伯母さんにな。世話好きで気のいい人だから」
 廊下の両側に並んだドアの一つを開けて、伯父が中を指して話してくれるのを聞く。伯母に対する評が航と同じだ。瑛璃の印象とも重なる。
 そして部屋。
 ……そうだ、夏の間泊まるのだから当然かもしれないとはいえ、「瑛璃の部屋」を用意してくれたのだ。
 そこへ伯母の「ご飯よ」という声が掛かり、斜め向かいの部屋から出てきた航も一緒に一階へ向かった。
「どう? 口に合うかしら?」
「美味しいです! 伯母さん、お料理上手なんですね。……私、手伝うなんて言ったけど別に料理得意でもないし」
 瑛璃が食べるのを見ていた伯母が少し不安そうに訊くのにすぐに答える。
 万が一違う感想を持ったとしても、返しとしては「美味しいです」以外にはあり得ない。
 ただ、伯母の料理は忖度なく美味しかった。
 味付けも特に癖はなく、食材は瑛璃の家庭とは違う感じのものもあったが、思い切って口に入れたらすべて好みの味だった。
 これは瑛璃に合わせてくれたわけではないので、もともとの味覚が似ているのか。
 この町は母の故郷なのだから、母の料理のベースもここの味になるのだろう。父がよく「味が違う」と文句をつけていたものだ。
 もしかしたら伯母の味付けもこの地元に寄せていて、そのため瑛璃にも馴染みがあるということなのかもしれない。
 ただし、父の不満は土地柄の問題ではなく「自分の家の味に合わせない」という一点らしかった。
 実際、学校で友人と弁当のおかずを交換しても、母の料理は常に「美味しい」と好評だったからだ。中には「レシピ教えて! お母さんに作ってもらう」という子までいた。
 そういった経過もあり母も料理は普通に上手だと思っているものの、もし順位をつけるなら問答無用で伯母の方が上だ。
「あたし、主婦歴二十年以上になるのよぉ。高校生の女の子より上手くできるのなんて当たり前じゃない。それより、作ったもの『美味しい』って言われたらこんなに嬉しいのねぇ」
 伯父と航の方をチラッと見やると、伯母がまた瑛璃に視線を戻して笑う。
「いや、俺だって『美味しい』くらい言って、……た、たまには、言ってる、じゃん」
「そうね~。『これだけかよ!』『あー、肉がいいなあ』とかの二十分の一くらいは言ってるかもね」
 伯母の笑い混じりの返しに、航はバツが悪そうに俯いていた。ここで開き直らないというのは、きっと性格が良いのだろう。
「ああ、お母さんごめんな。美味しいのが当然だからつい言わなくなってて」
「お父さんは結婚したころはすごい大袈裟に喜んでくれてたもんねえ」
 伯父の台詞はまさに彼のキャラクターに合っていると感じる。
 今まで会っていた時にも、口数は少なかったが無神経なところはなく、瑛璃と母に細かく気を遣ってくれていた。
「瑛璃ちゃんて|聖花《せいか》よね?」
「はい、そうです」
「セイカ?」
 伯母に問われ答えた瑛璃に、従兄が不思議そうに首を傾げる。
「学校よ。聖花女子学園。──今も制服は変わってないの? あのワンピース可愛いのよねえ。大学の同級生にも聖花女子の子がいて、高校時代の写真見せてもらったのよ」
「はい。もう何十年もそのままのワンピースです。たまに卒業生の方に『懐かしい』って言われます」
 確かに、伯母の年齢なら確実に今と同様の制服だった筈だ。「ワンピース」という一点だけでも、少し他と違うのは間違いなかった。
「もう都会っぽくてお洒落で、流石に東京は違う! ってびっくりしたもの。当時は特にだけど、今でもあのデザインなら十分可愛いわ」
「そうですね。今も制服目当ての子も多いみたいです。冬服は紺で地味ですけど、合服と夏服は結構目立つので」
 瑛璃は「制服目当て」で選んだわけではないが、制服も気に入っているのは確かだ。