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【1】②

ー/ー



「瑛璃、夏休みだけどさあ──」
「あ、……ごめん朱音(あかね)。私、家の都合で夏休みずっと親戚のとこに行くことになったんだ。いきなりでホントごめん!」
 次の日学校で、一番親しい友人に声を掛けられた瑛璃は顔の前で両手を合わせて謝る。
 いろいろ予定を考えて話していたのだ。朱音の家も旅行は行かないというし、……いや高校生にもなれば家族旅行でもないのか?
 プールに行こうか、日焼けしたくないし屋内がいいよね。テーマパーク、は真夏に炎天下で並ぶのちょっとやだなあ。あとは食べ歩き!
 そんな風に希望を並べて、直後に控えた期末試験を乗り切ろうと楽しみにしていたのに。
「──そーなんだ。ちょっとざんねーん。まあ夏休みじゃなきゃ行けないとこもないし、九月になってからでもいいよね! プールも夏休み混みそうじゃん?」
 中学から一緒の朱音は、瑛璃の事情もそれとなく察している、気がしていた。
 打ち明けたことも相談したこともないけれどこの友人は結構鋭くて、……それを詮索したりしない思いやりもあるのだ。
「うん。あ、そういえばさ、朱音の好きなあのアニメ、九月に映画やるんじゃなかった? 一人で浸りたいんじゃなかったら一緒に行こうよ」
「一人じゃ終わったあと感想言い合えないじゃん! 瑛璃はあんまり興味ないかなと思って誘うの迷ってたんだ。絶対行こ~。観たあとのごはんもセットでさ!」
 せっかく合わせてくれる友人に景気の悪い顔など見せられない。
 だから瑛璃も全力で朱音の案に乗ることにした。
「ねえ、瑛璃。あの、もし何かあったらいつでも連絡して来てよ。メッセージでも電話でも。夜中に掛けて来ても大丈夫だよ。どうせあたし、夏休みなんていい加減な生活してるからさあ」
 学校帰り、駅に向かう途中での会話の合間。さりげない様子で口にした朱音に、一瞬上手く表情が作れなかった。
「ありがと。もしかしたらそうするかも。──ごめん」
「いやあ、あたしも瑛璃と夏中離れてんの寂しいもん」
 ただ甘えるだけで何も説明できない自分が申し訳なくて思わず零れた謝罪の言葉に、彼女は何も気づかない振りで笑う。
 詳しくは言えないことも、けれど瑛璃が何らかの困難を抱えていることも。その結果の「夏休み中の急な予定」であることも。
 無理に訊き出そうはしない親友の心遣いがありがたい。
「九月にいっぱい遊ぼう。私も観たい映画あるんだけど付き合ってよ。十月になってからでもいいし」
「いいよ〜。あ、もしかしてあのドラマの劇場版?」
「そうそう」
 普段から互いの好きなことはよく話しているので、朱音にはすぐ通じたらしい。正直、今はそういう気にもなれないのだが、観たいと思っていたのは確かだ。
「アニメと違ってグッズ配布とかないなら、封切りすぐは混むからちょっと空いてからのがいいかもね」
「てことは、朱音のお目当ての映画はまたグッズあるの? ……無事にもらえたら私の分もあげるよ」
「いや、今度もランダムで複数よ! そんな何回も観に行けないし、できたらコンプリートしたいけど二個でも助かるわ。これで同じの出たらもう運命だし。よろしく!」
 無理矢理にでも「楽しい」話をしていれば、その時だけでも不安が消える気がした。


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みんなのリアクション

「瑛璃、夏休みだけどさあ──」
「あ、……ごめん|朱音《あかね》。私、家の都合で夏休みずっと親戚のとこに行くことになったんだ。いきなりでホントごめん!」
 次の日学校で、一番親しい友人に声を掛けられた瑛璃は顔の前で両手を合わせて謝る。
 いろいろ予定を考えて話していたのだ。朱音の家も旅行は行かないというし、……いや高校生にもなれば家族旅行でもないのか?
 プールに行こうか、日焼けしたくないし屋内がいいよね。テーマパーク、は真夏に炎天下で並ぶのちょっとやだなあ。あとは食べ歩き!
 そんな風に希望を並べて、直後に控えた期末試験を乗り切ろうと楽しみにしていたのに。
「──そーなんだ。ちょっとざんねーん。まあ夏休みじゃなきゃ行けないとこもないし、九月になってからでもいいよね! プールも夏休み混みそうじゃん?」
 中学から一緒の朱音は、瑛璃の事情もそれとなく察している、気がしていた。
 打ち明けたことも相談したこともないけれどこの友人は結構鋭くて、……それを詮索したりしない思いやりもあるのだ。
「うん。あ、そういえばさ、朱音の好きなあのアニメ、九月に映画やるんじゃなかった? 一人で浸りたいんじゃなかったら一緒に行こうよ」
「一人じゃ終わったあと感想言い合えないじゃん! 瑛璃はあんまり興味ないかなと思って誘うの迷ってたんだ。絶対行こ~。観たあとのごはんもセットでさ!」
 せっかく合わせてくれる友人に景気の悪い顔など見せられない。
 だから瑛璃も全力で朱音の案に乗ることにした。
「ねえ、瑛璃。あの、もし何かあったらいつでも連絡して来てよ。メッセージでも電話でも。夜中に掛けて来ても大丈夫だよ。どうせあたし、夏休みなんていい加減な生活してるからさあ」
 学校帰り、駅に向かう途中での会話の合間。さりげない様子で口にした朱音に、一瞬上手く表情が作れなかった。
「ありがと。もしかしたらそうするかも。──ごめん」
「いやあ、あたしも瑛璃と夏中離れてんの寂しいもん」
 ただ甘えるだけで何も説明できない自分が申し訳なくて思わず零れた謝罪の言葉に、彼女は何も気づかない振りで笑う。
 詳しくは言えないことも、けれど瑛璃が何らかの困難を抱えていることも。その結果の「夏休み中の急な予定」であることも。
 無理に訊き出そうはしない親友の心遣いがありがたい。
「九月にいっぱい遊ぼう。私も観たい映画あるんだけど付き合ってよ。十月になってからでもいいし」
「いいよ〜。あ、もしかしてあのドラマの劇場版?」
「そうそう」
 普段から互いの好きなことはよく話しているので、朱音にはすぐ通じたらしい。正直、今はそういう気にもなれないのだが、観たいと思っていたのは確かだ。
「アニメと違ってグッズ配布とかないなら、封切りすぐは混むからちょっと空いてからのがいいかもね」
「てことは、朱音のお目当ての映画はまたグッズあるの? ……無事にもらえたら私の分もあげるよ」
「いや、今度もランダムで複数よ! そんな何回も観に行けないし、できたらコンプリートしたいけど二個でも助かるわ。これで同じの出たらもう運命だし。よろしく!」
 無理矢理にでも「楽しい」話をしていれば、その時だけでも不安が消える気がした。