プリン越しの距離
ー/ー「ポイントカードは、結構です」
レジ袋に商品を詰める乾いた音の中で、私はいつもの定型句を口にした。
「承知しました。……ただ」
レジに立つ青年が、そこで言葉を区切った。いつも絶やさない営業用の笑みが、少しだけ形を崩す。眉の端を下げて、困ったように、けれどどこか愛おしそうに商品を覗き込んだ。
「こちらの『至福の琥珀プリン』、今日で販売終了なんです。ポイントカードここで作られると、今なら無料です」
彼の指先が、レジ横のショーケースにある最後の一個を指した。
「そうですか。でも、カードは作りません」
私はそう言って店を出た。けれど、背中に刺さった彼の「困ったような笑い」が、夜風の中でも消えなかった。
それから三日後の夜。
「ポイントカードは、結構です」
「はい、承知しました。……あ、今日発売の新商品、ご覧になりました?」
彼はまた、あの困った顔で笑った。
「今度は『焦がし塩プリン』です。これ、僕が発注担当で。もし売れ残ったら寂しいなと思って、つい」
嘘だ、と私は思った。
この店は立地がいい。彼がわざわざ客に勧めなくても、商品は飛ぶように売れるはずだ。
四回目、五回目。
いつの間にか私は、プリンを買うためにそのコンビニへ足を運んでいた。
レジの列に並び、彼が担当になるのを待つ。
私の順番が来る。
「ポイントカードは、」
「結構です、ですよね」
彼は私の言葉を先回りして、いたずらっぽく笑った。その表情からは、もう「困った」ニュアンスは消えていた。
「その代わりに、と言っては何ですが。……プリンの感想、一言だけでいいので、教えてくれませんか」
レジ袋の中に、小さなスプーンが滑り込む。
「……美味しかったです。昨日の、プリン」
私が小さく告げると、彼は今日一番の笑顔で、深く頷いた。
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