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第100話 肩書

ー/ー



 第一分身体の悠木はベッドで目を覚ました。

「ここは家か」
 悠木がつぶやいた。

「そうよ」
 枕元で瞳が答えた。

「ぼくはなぜ生きているの?」と悠木。

「あなたを一人で死なせたりはしないわ」と瞳。

「姉さんが伊佐々姫だったの?」と悠木。

「それ、どこの女?」と瞳。

「姉さんはずるいよ。全部知ってたんだ」と悠木。

「神をなめるからよ」と瞳。

「ぼくは姉さんも伊佐々姫も好きだよ」と悠木。

「気に入らないわ」と瞳。

「かまわないよ。どうせぼくは姉さんに敵わない」と悠木。

「あなた、いいかげんにしなさい!」と瞳。

「もう逆らわないよ」と悠木。「ぼくはもう動くこともできない」

「何が真理の探究よ!」と瞳。「臆病者の泣き虫のくせに」

「え?」と悠木。

「わかってるわよ。あなた、恒星に突っ込んだのは、何が起こるか見たかったからでしょう?」
 瞳は悠木に怖い顔を見せた。

 悠木は驚いて答えた。
「だけど必要なことだったんだ」

「あなたならもっと他の方法を思いついたはずよ」と瞳。「泣き虫魔術師さん」

「あれが一番いい方法だったんだ」と悠木。

「超新星爆発に飛び込んでみたかったなんて、馬鹿じゃないの」と瞳。「別の世界に飛ばされて終わりよ」

「そうなのか? どのように、どこに飛ばされる? 別次元か? 違う世界線か?」と悠木。

「教えないわ。そして二度と試させない」と瞳。

「俺はあんたの飼い犬じゃない」と悠木。

「何を偉そうに減らず口をたたいて」
 瞳は悠木の頬をつねり上げた。

「痛いよ、姉さん」と悠木。「いたい、いたい!」

「私たちがどれだけ心配したと思ってるのよ!」と瞳。

「ごめんなさい……」と悠木。

「それで?」
 瞳は悠木をにらみつけた。

「姉さんを心配させることはもう二度としません」と悠木。

「あなた、第一次特別攻撃作戦で私たちに何も言わずに出撃したわよね」と瞳。

「あれは仕方ないだろ?」と悠木。

「なぜ?」と瞳。

「お馬鹿で役立たずの姉さんを戦場に連れて行くわけにいかないじゃないか」と悠木。

 瞳は何も言わず、悠木の頬を再びつねり上げた。

「いたい、いたい、いたい!」と悠木。「わかったよ、姉さん!」

「何が分かったの?」
 瞳はつねり続けた。

「どこか行くときには事前に姉さんに相談する!」と悠木。

「相談?」
 瞳はさらに力を入れて悠木の頬をつねった。

「分かったよ!」と悠木。「分かったから、痛いよ姉さん! どこへでも姉さんと一緒に行くから!」

「本当?」と瞳

「本当だよ」と悠木。

「もう一度言って」と瞳。

「これからはどこへでも姉さんと行きます」と悠木。

「もし、一瞬でもいなくなったら許さないわよ」と瞳。

「分かってる」と悠木。「トイレに行くときも姉さんと一緒だよ」

「今度勝手に動いたら首輪をつけてリードでつないでおくわよ」と瞳。「いいわよね」

「もちろんだ」と悠木。

「そう、分かればいいわ」
 瞳はつねって赤くなった悠木の頬にキスをした。


「ところで、翆鶴(すいかく)はどうなったの?」と悠木。

「第二分身体のあなたが操艦して無事にベータ星に突入したわ」と瞳。「第二分身体は回収されて、今は桐子の元にいるわ」

「どうして助かった?」と悠木。

「翆鶴にはリコ・ファレンが乗ってついて行ったわ」と瞳。「彼女があなたの体の一部を回収した」

「どうしてそんなことができた! リコはどうなった!」と悠木。

「翆鶴の艦長席には小型のゲート生成装置が仕込まれてたのよ」と瞳。「第二分身体のあなたが魔力を使い果たして肉体が分解し始めたとき、彼女がゲート生成装置を起動してパープルキティに転移した」

「それでリコは生きているのか!」と悠木。

「肉体が無くなって、元の物の怪に戻ったわ」と瞳。「だけど女王が体を作り直して、また人間としてラグランジュフォーの基地で仕事を続けているそうよ」

「そうか」と悠木。

「ここに来るように手配しておいたわ」と瞳。「会ってあげなさい」

「リコをここに呼んでもいいの?」と悠木。

「もちろんよ。彼女は第二分身体を回収した大功労者よ」と瞳。

「姉さんたち神々は物の怪を嫌ってるだろ?」と悠木。

「もう、彼女は物の怪ではないわ」と瞳。

「どういうこと?」と悠木。

「立場が変わったってことよ」と瞳。「女王の覚えもめでたいわ」

「釈然としないよ」と悠木。

「とにかく会ってあげなさい」と瞳。

「わかったよ」と悠木。


 少し間をおいて悠木が言った。
「ところで、ぼくはもう分身を維持できないよ」

「わかっているわ。四体の分身体を集めて合体させてあげる」と瞳。「来週の予定よ」

「そうか、ありがたい」と悠木。

「合体すれば、四体の経験をすべて引き継ぐことになるけど、覚悟はいい?」と瞳。

「ちょっとめんどうくさいしがらみが増えそうな気がするけど」と悠木。「元の体に戻れるなら、それくらいは我慢するよ」

「それはよかったわ」と瞳。「ちなみに、第二分身体は桐子つまり地之神の主神『国産之大神(くにうみのおおかみ)』の夫で現在の称号は『黒魚之風大神(こくぎょのかぜおおかみ)』、第三分身体は第三公女瑠璃子の婚約者でなお且つ天之神の主神『伊佐佐之天之光(あまのひかり)』である私の夫、第四分身体は冥界の女王で神界の統率者である『伊佐佐之ナミ』の夫にして冥界の『黒魚王』の称号を今でも持っているわ。この程度、大したことないでしょ?」

 悠木は絶句した。

「ちなみにこの指輪、第三分身体のあなたが私にプロポーズした時にくれたのよ」
 瞳は左手の指を悠木の目の前でひらひらさせた。
「もう絶対にあなたを逃がさないわ」



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 第一分身体の悠木はベッドで目を覚ました。
「ここは家か」
 悠木がつぶやいた。
「そうよ」
 枕元で瞳が答えた。
「ぼくはなぜ生きているの?」と悠木。
「あなたを一人で死なせたりはしないわ」と瞳。
「姉さんが伊佐々姫だったの?」と悠木。
「それ、どこの女?」と瞳。
「姉さんはずるいよ。全部知ってたんだ」と悠木。
「神をなめるからよ」と瞳。
「ぼくは姉さんも伊佐々姫も好きだよ」と悠木。
「気に入らないわ」と瞳。
「かまわないよ。どうせぼくは姉さんに敵わない」と悠木。
「あなた、いいかげんにしなさい!」と瞳。
「もう逆らわないよ」と悠木。「ぼくはもう動くこともできない」
「何が真理の探究よ!」と瞳。「臆病者の泣き虫のくせに」
「え?」と悠木。
「わかってるわよ。あなた、恒星に突っ込んだのは、何が起こるか見たかったからでしょう?」
 瞳は悠木に怖い顔を見せた。
 悠木は驚いて答えた。
「だけど必要なことだったんだ」
「あなたならもっと他の方法を思いついたはずよ」と瞳。「泣き虫魔術師さん」
「あれが一番いい方法だったんだ」と悠木。
「超新星爆発に飛び込んでみたかったなんて、馬鹿じゃないの」と瞳。「別の世界に飛ばされて終わりよ」
「そうなのか? どのように、どこに飛ばされる? 別次元か? 違う世界線か?」と悠木。
「教えないわ。そして二度と試させない」と瞳。
「俺はあんたの飼い犬じゃない」と悠木。
「何を偉そうに減らず口をたたいて」
 瞳は悠木の頬をつねり上げた。
「痛いよ、姉さん」と悠木。「いたい、いたい!」
「私たちがどれだけ心配したと思ってるのよ!」と瞳。
「ごめんなさい……」と悠木。
「それで?」
 瞳は悠木をにらみつけた。
「姉さんを心配させることはもう二度としません」と悠木。
「あなた、第一次特別攻撃作戦で私たちに何も言わずに出撃したわよね」と瞳。
「あれは仕方ないだろ?」と悠木。
「なぜ?」と瞳。
「お馬鹿で役立たずの姉さんを戦場に連れて行くわけにいかないじゃないか」と悠木。
 瞳は何も言わず、悠木の頬を再びつねり上げた。
「いたい、いたい、いたい!」と悠木。「わかったよ、姉さん!」
「何が分かったの?」
 瞳はつねり続けた。
「どこか行くときには事前に姉さんに相談する!」と悠木。
「相談?」
 瞳はさらに力を入れて悠木の頬をつねった。
「分かったよ!」と悠木。「分かったから、痛いよ姉さん! どこへでも姉さんと一緒に行くから!」
「本当?」と瞳
「本当だよ」と悠木。
「もう一度言って」と瞳。
「これからはどこへでも姉さんと行きます」と悠木。
「もし、一瞬でもいなくなったら許さないわよ」と瞳。
「分かってる」と悠木。「トイレに行くときも姉さんと一緒だよ」
「今度勝手に動いたら首輪をつけてリードでつないでおくわよ」と瞳。「いいわよね」
「もちろんだ」と悠木。
「そう、分かればいいわ」
 瞳はつねって赤くなった悠木の頬にキスをした。
「ところで、|翆鶴《すいかく》はどうなったの?」と悠木。
「第二分身体のあなたが操艦して無事にベータ星に突入したわ」と瞳。「第二分身体は回収されて、今は桐子の元にいるわ」
「どうして助かった?」と悠木。
「翆鶴にはリコ・ファレンが乗ってついて行ったわ」と瞳。「彼女があなたの体の一部を回収した」
「どうしてそんなことができた! リコはどうなった!」と悠木。
「翆鶴の艦長席には小型のゲート生成装置が仕込まれてたのよ」と瞳。「第二分身体のあなたが魔力を使い果たして肉体が分解し始めたとき、彼女がゲート生成装置を起動してパープルキティに転移した」
「それでリコは生きているのか!」と悠木。
「肉体が無くなって、元の物の怪に戻ったわ」と瞳。「だけど女王が体を作り直して、また人間としてラグランジュフォーの基地で仕事を続けているそうよ」
「そうか」と悠木。
「ここに来るように手配しておいたわ」と瞳。「会ってあげなさい」
「リコをここに呼んでもいいの?」と悠木。
「もちろんよ。彼女は第二分身体を回収した大功労者よ」と瞳。
「姉さんたち神々は物の怪を嫌ってるだろ?」と悠木。
「もう、彼女は物の怪ではないわ」と瞳。
「どういうこと?」と悠木。
「立場が変わったってことよ」と瞳。「女王の覚えもめでたいわ」
「釈然としないよ」と悠木。
「とにかく会ってあげなさい」と瞳。
「わかったよ」と悠木。
 少し間をおいて悠木が言った。
「ところで、ぼくはもう分身を維持できないよ」
「わかっているわ。四体の分身体を集めて合体させてあげる」と瞳。「来週の予定よ」
「そうか、ありがたい」と悠木。
「合体すれば、四体の経験をすべて引き継ぐことになるけど、覚悟はいい?」と瞳。
「ちょっとめんどうくさいしがらみが増えそうな気がするけど」と悠木。「元の体に戻れるなら、それくらいは我慢するよ」
「それはよかったわ」と瞳。「ちなみに、第二分身体は桐子つまり地之神の主神『|国産之大神《くにうみのおおかみ》』の夫で現在の称号は『|黒魚之風大神《こくぎょのかぜおおかみ》』、第三分身体は第三公女瑠璃子の婚約者でなお且つ天之神の主神『伊佐佐之|天之光《あまのひかり》』である私の夫、第四分身体は冥界の女王で神界の統率者である『伊佐佐之ナミ』の夫にして冥界の『黒魚王』の称号を今でも持っているわ。この程度、大したことないでしょ?」
 悠木は絶句した。
「ちなみにこの指輪、第三分身体のあなたが私にプロポーズした時にくれたのよ」
 瞳は左手の指を悠木の目の前でひらひらさせた。
「もう絶対にあなたを逃がさないわ」