「帰郷」第三節
ー/ー 都が亡くなっていてから、数週間後ーー。
湊は息を整える。火葬を済ませて、警察署の前に立っていた。孝がやってきたデザインズ・ベイビーの実験内容が入ったUSBを、警察側に提供しにやってきた。実験を記憶していた鈴が、資料を作って残してくれていた。
しっかりと前を見据える。
今の鬱々とした日本を変えられるのなら、マスコミに送っても、気にはしない。都を引き取って育ててきた家族も、覚悟は決めていると思われる。
いずれ、こんな日が来ると理解をして送りだしたはずだ。 都を育ててきたのである。芯が通っている人たちだと見受けられた。
湊の相田家への評価でもある。
どちらにせよ、自分たちが動かなくても、研究所は傾き始めている。近い将来、湊が介入しなくても、没落していく。分かっていていても、自分の手で孝を倒したかった。
警察に引き渡したかった。
――都を殺した教授を許せない。
湊は孝を倒したいと、皆に伝える。思い詰める前に、自分たちに相談をしてほしかった。
湊の役に立ちたい。
研究所にいる誰もが思っていた。
――所長。
――俺たちが集まった理由が分かるか?
――しかも、真夜中に二十人全員だぞ?
――所長はバカか?
――いや、予想をしている以上にバカだな。
仲間の厳しい言葉がふってくる。辛辣だが気持ちはこもっていた。
――勝手に責任をとろうとするなよ。
――俺たちにも責任はある。
――無理をする人だな。 頼ってくれてもいいのに。
――大切な人を守もろうとするのは、十河所長らしいね。
――そうだな。
――原田教授を倒してくれ。
――期待している。
――死ぬなよ。
――生きるための戦いだ。
――何があっても生きろ。
――幸せになってもらいたい。
――笑顔で会えるといいな。
本当にこのメンバーでよかった。苦楽をともにしたのである。きっと、またどこかで会える気がする。仲間たちの思いを湊は受け取った。
孝と向き合った。
「教授。僕はあなたを許さない」
「メッセージを送ったのは、おまえたちの仕業か?」
「今更、気付くとは鈍い人ですね」
「湊。死にたいのか?」
「死にたい? 面白い質問ですね。私はあなたを倒すまで死にもしないし、逃げもしません」
「私を倒せるなら、やってみろ。楽しみにしている」
湊はすれ違う時、孝の上着のポケットにさりげなく発信機を入れた。振り向きもせず、オートバイに乗って立ち去った。しばらく走って、反射的にブレーキをかける。
オートバイから降りてヘルメットを取る。湊の見間違いではない。 湊の瞳には鈴の姿が入っていた。
「十河さん」
「山口さん。来ていたのですね」
「成功したみたいですね」
「皆の協力がなければ、無理でした。僕は君と出会えてよかったです。山口さんがいなければ立ち止まれずに、歩き続けていたかもしれません」
研究所から鈴がいなくなり、ぽっかりと開いた穴は、うまる気配はなかった。現実では湊を鈴が追いかけてきてくれた。 心臓の鼓動が鈴に聞こえてしまいそうだった。
彼女を欲していた。
ほしいと訴えていた。
――一生をかけて、君を愛そう。
鈴の紅い瞳を見た。
紅い瞳も愛おしかった。
湊は流れる涙を、指ですくいとった。額に軽く口付けを落とす。
全身全霊をかけて、風よけになる。
「十河さん――それは」
「僕は山口さんの瞳は、ルビーを見ているみたいで奇麗だと思います。山口さん――いえ、僕は鈴が好きです」
僕の手を取ってくれますか? と、湊は鈴へと手を差し出す。湊の手を鈴は握り返した。月明かりが二人を照らし出していた。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。