母、真弓は真幸と真菜に指示を出す。
「真幸はお肉の解凍をしてお米を研いで、炊飯器にセットしたらお肉を炒めて! 真菜はお野菜の皮むき!」
二人は元気よく返事をした。
「オッケー!」
三人の雇い主である亜子は、どうしようかとあたふたする。
「わ、私も何か手伝います! 手伝わせてください!」
真弓は包丁とまな板を準備しながら言った。
「あらあら、お嬢様。本当に大丈夫ですのに……」
「それじゃ、亜子お姉様は私と一緒に野菜の皮むきをしましょう!」
真菜がピーラーを持って亜子に提案する。
「う、うん! それじゃ、そうしようかな?」
人参とピーラーを手に持って亜子は皮むきを始めようとする。
「お姉様」
「ん? 何かな?」
「ピーラーって、勢いよく手が滑ると、手の皮をピーってやっちゃうらしいですよね」
「えっ!? え? こ、怖い事言わないで!!」
思わず最悪の事態を想像してしまった亜子は悲鳴を上げた。
それに気付いた真幸は真菜を叱る。
「こら、真菜!! 亜子お嬢様を怖がらせるな! あっでも……」
何か言いかけた真幸に亜子は疑問符が浮かぶ。
「でも?」
「バーガー屋で、俺は見た事無いんですけど、スライサーで自分のお肉をスライスしそうになった人なら居たって……」
「いやああああ!!!」
完全に刃物に怯えてしまった亜子。そこへ真弓がやって来る。
「こーら、真幸、真菜、亜子お嬢様を怖がらせないの! 亜子お嬢様、刃物は正しく使えば怖くありませんわ」
真弓は優しい笑顔で亜子に語り掛けた。
「ピーラーも、焦らずしっかりお野菜を持って使えば大丈夫!」
「そ、そうですよね!!」
亜子はうんうんと頷いて人参の皮をむき始める。
「そうそう、亜子お嬢様お上手!」
真弓に褒められて、少しだけ赤面し始めた亜子。
「流石はお姉様! よっ、人参皮むき日本一!!」
「そ、それは流石に褒めすぎ……」
真菜も褒め出したので、真幸も何かを言わなくてはと考える。
「お嬢様流石です。まるで人間人参皮むき器やぁー!!!」
「おにぃ、それは褒めてないと思う」
「あ、やっぱり?」
野菜の皮むきは真菜と亜子がやり、その野菜を真弓が切り始めた。
隣では解凍した豚肉を真幸が鍋で炒めている。
「あ、亜子お姉様! 玉ねぎの皮は下に剥くんじゃなくて、横に回すように|剥《む》くんですよ!」
「へ、へぇそうなの?」
真菜に言われる通りに玉ねぎを横にくるくる回して皮を剥くと、リンゴの皮むきの様に一枚につながって剥けた。
「わぁ、本当だ!」
皮を剥いた野菜を真弓が切っていく。その様子を亜子は見ていた。
「人参を転がしながら切るんですね」
「そう、これは乱切りって言いまして。大きさを合わせるのと、断面を大きくして味が染みやすくなるんですよ」
「へぇー。知らなかったです」
亜子は知らない知識を教えられ、感心していた。
「私も、若い頃に乱切りって文字だけ見て、適当に切ることなのかなって思ってましたので」
フフッと笑うその顔は、亜子には若い頃というか、充分若く見えるのだが。