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30.脱ぎ捨てたのは、心の衣

ー/ー



 ヒューと交代し、ミウが浴室を使う。

「お兄さん……ですか?」
「違う、旅の仲間だ」
「失礼しました……その……」
「話せ」

 ミウがどうしてここに居て、どうしてこうなったのかを聞き出し、ため息をつく。

「少女を好み、食い散らかす兄に逆らえず、ミウを誘拐、ミウのお願いを聞くことを了承した結果……この惨状か」
「詳しいことを聞かず……返事をしてしまった自分の責任です……ですが……助けて、もらったことは、本当です」

 綺麗になったヒューの姿をまじまじと見て、納得した様子のアダルヘルム。

「北方の商家に有名な双子がいる事は知っている、片方は大人しく聡明、もう片方は人当たりがよく快活……表向きの姿であれ、正しかったというわけか……いや、いい……家族間の問題に関しては深く聞かん、これがお前の出した答えであるならな」
「ありがとうございます……」
「それにしても……すまない、部屋を汚してしまった」

 部屋の大半を染めている赤い色……べっとりと鈍い光沢を放つそれは、少しずつ乾き始めていた。

「ここは私の部屋ではありませんから、問題ありませんよ」
「しかし……」
「幾度……兄の起こした事の始末をつけてきたと?」
「そうか……それは、心強い、な……」

 ニコッと笑うヒュー……大人しいのは確か……かつ、聡明で、したたかであることに、納得がいく。

「やっぱり、ヒューは……強い、ね」

 振り向くふたり……そこには、素っ裸のミウ。

「はっ……はだ……ひぅ――」
「タオルはどうした?!いつも巻いて出てこいと言っているだろう!!」
「いっこしかない……髪につかったら、ないよ?」

 真っ赤になってヒューは倒れ、アダルヘルムは慌ててかわりのタオルを探し、髪にだけタオルを巻いたミウはくすりと笑った。

「お恥ずかしいところを……」

 ヒューの意識を戻し、一時的に部屋を封鎖して、宿へ向かう。

「どうやって、ミウ……着替えさせたの?」
「布をかけて……手探りで……」
「へんなとこ……触った?」
「……っ!わ、わざとじゃないんだ、許してくれるかな!?」
「んふふ……いいよ、ゆるす、よ」

 なぜ、あんな事になっていながら仲良くできるのかと眉間にシワを寄せ、並んで歩くミウとヒューを睨むアダルヘルム。

「解せん……っ」

 圧を察したヒュー、速度を落としてアダルヘルムの隣まで下がった。

「ミウは……私になにを見たのでしょうか」
「それは……」
溢れ出す魔力(オーバーフローター)、だよ?」

 立ち止まるヒュー。

「なるほど……そうですか」

 安心したような、少し悲しげな笑みをこぼし、再び歩き出した。

「ミウ、ふたつ見えた……小さくて黒いのと、大きくて黒く光る……器」

 くるっと回って前に出たミウ、ヒューの胸の真ん中を触り、

「ママは、きれいなものが好き……だから、ヒュー……あなたのきれいな器が、必要」
「ミウのお願い……だね」
「すまない、ヒュー……」

 溢れ出す魔力(オーバーフローター)が、この都でどういう使われ方をされるかを、知っている様子のヒュー。
 けれど、どこか晴れやかな顔をしている。

「どうやら私は……兄が兄でなくなった時点で、吹っ切れているようです」
「こちらとしては願ってもないことだが……いいのか?もう、この都を出ることは、叶わぬことになるのだぞ」
「家の心配ですか?」

 はっと強く息を吐き、ヒューは言った。

「フーゴが家督を継いだ時点で……いえ、城に呼び出された父が消された時点で終わっていたのです……あの件に関わった名家の中では新しい方、ゆえに、扱う商品を……私も触れたことがあります」

 アダルヘルムの眉が動く。
 ヒューが取った行動次第……このまま無事に屋敷に行けるかが決まるからだ。

「そんな顔なさらないでください?私は止めましたし、流通も切りました……長い目で見なくても、不利益にしかならないものを扱うなんてしたくありませんでしたからね?……なのに、隠れて馬鹿な真似を続けて……こんな奴らと血が繋がっていることに、心底虫酸が走る」
「ヒュー、いい顔……してる」
「ありがとうミウ……こんな風に言葉に出せるようにしてくれたのは、ミウが助けてくれたからだよ」

 パッと明るく笑うふたりにムッとしながらも、ゼンの『破壊』の対象から外れたことに安堵した。

「そんな馬鹿な家の商売に、これ以上尽力する必要もないでしょう……そうですね、旅の途中で魔物に襲われたとでもして死んだことにしましょう……召使いたちもこのまま生きていても職を失い路頭に迷うだけです、領主様に頼めば暗殺も容易いでしょうか?」
「ヒュー……中々に恐ろしい事を言うのだな……」
「あはは……ねぇアダルさん?このまま自分の仕事を続けることの方が、私にとっての恐怖……この終わらない夜に命を捧げた方が、幾分も、救われることなのです」

 血塗れの部屋で垣間見たヒューの隠れた狂気が、向けられた笑顔から滲み出る……アダルヘルムはこれ以上何も言えなかった。

「それに……ミウに助けられたのですから、ミウのお願いを聞かないわけにはいきません!」
「男らしい……ヒュー、かっこいい」
「ありがとう、ミウ」
「む……」

 宿に着き、ゼンと顔を合わせることになった。

「やるじゃんおチビ〜お手柄!」
「当然……あくま、寝てただけ、ね?ふふん」
「フフ……あまりいじめてはダメよ?ミウ」
「ふぁぁ……誰だ?」

 角の生えた男、ほぼ裸の女、目つきも態度も悪い男と……中々強烈な面子に目を丸くしているヒュー。

「はじめまして、私はヒュー……ご所望の、商品になります」

 営業スマイルととっていいだろう、皮肉めいた挨拶をかまし、このメンツに負けない印象を植え付けるヒュー。

「はん?なかなかおもしれぇの連れてきたなミウ」
「ヒュー、強い……おすすめ」

 自信満々で鼻を鳴らすミウに品物扱いされ、苦笑いするヒュー。

「ファイン、念のため確かめましょう?」
「はいは〜い」

 すぐにベタベタと体を触られ始めるヒュー……平然として受け入れていた。
 ミウの裸には過剰に反応していたにも関わらず、裸同然のクロエに近づかれ、触られているのに顔色を変えない。

「やはり……危険だ」
「なにがだ?」
「あの男……ミウを狙っている」
「はっ!そんな度胸は無さそうだけどなぁ?ミウがうまくかわすだろ」
「しかし……!」
「おにいちゃんは大変、てか?ははは!」

 アダルヘルムの心配をひと蹴りするゼン。

「問題なさそうですね」
「ボクが欲しいくらい……ジュル……」
「申し訳ないですが……私の器はミウの物ですので……差し上げられません」
「えぇ〜?おチビ……なにしたの?」
「内緒……ね、ヒュー」
「そうだね、ミウ」

 わずかな時間で仲良くなった事が気になるファインと、意味ありげに笑うクロエに……わなわな震えるアダルヘルム、その様子を見て笑うゼン。
 おかしな顔合わせを済ませ、アラリケの待つ屋敷へ向かう。

 初日同様にすんなりとアラリケの部屋まで通される。

「はやかったのね?で?贈り物は?」

 よほど待ち遠しかったのだろう、挨拶をする前に声を掛けたアラリケ。
 膝をつき、かしずいたままのアダルヘルムの声を待っているようだ。

「ママ」
「あらあら?どうしたのミウちゃん?あなたは関係ないはずよ?」
「ミウ、やめるんだ」
「あにぃ……ミウも、ママの子だもん……大丈夫」

 ミウがアダルヘルムの前に立つと……アラリケの表情が変わった。

「背いたわね?」
「うん、そうだよ……ママ」

 扇子を口元に当て、アラリケは冷ややかな視線を刺す。


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次のエピソードへ進む 31.偽りは消え去り、修復される


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 ヒューと交代し、ミウが浴室を使う。
「お兄さん……ですか?」
「違う、旅の仲間だ」
「失礼しました……その……」
「話せ」
 ミウがどうしてここに居て、どうしてこうなったのかを聞き出し、ため息をつく。
「少女を好み、食い散らかす兄に逆らえず、ミウを誘拐、ミウのお願いを聞くことを了承した結果……この惨状か」
「詳しいことを聞かず……返事をしてしまった自分の責任です……ですが……助けて、もらったことは、本当です」
 綺麗になったヒューの姿をまじまじと見て、納得した様子のアダルヘルム。
「北方の商家に有名な双子がいる事は知っている、片方は大人しく聡明、もう片方は人当たりがよく快活……表向きの姿であれ、正しかったというわけか……いや、いい……家族間の問題に関しては深く聞かん、これがお前の出した答えであるならな」
「ありがとうございます……」
「それにしても……すまない、部屋を汚してしまった」
 部屋の大半を染めている赤い色……べっとりと鈍い光沢を放つそれは、少しずつ乾き始めていた。
「ここは私の部屋ではありませんから、問題ありませんよ」
「しかし……」
「幾度……兄の起こした事の始末をつけてきたと?」
「そうか……それは、心強い、な……」
 ニコッと笑うヒュー……大人しいのは確か……かつ、聡明で、したたかであることに、納得がいく。
「やっぱり、ヒューは……強い、ね」
 振り向くふたり……そこには、素っ裸のミウ。
「はっ……はだ……ひぅ――」
「タオルはどうした?!いつも巻いて出てこいと言っているだろう!!」
「いっこしかない……髪につかったら、ないよ?」
 真っ赤になってヒューは倒れ、アダルヘルムは慌ててかわりのタオルを探し、髪にだけタオルを巻いたミウはくすりと笑った。
「お恥ずかしいところを……」
 ヒューの意識を戻し、一時的に部屋を封鎖して、宿へ向かう。
「どうやって、ミウ……着替えさせたの?」
「布をかけて……手探りで……」
「へんなとこ……触った?」
「……っ!わ、わざとじゃないんだ、許してくれるかな!?」
「んふふ……いいよ、ゆるす、よ」
 なぜ、あんな事になっていながら仲良くできるのかと眉間にシワを寄せ、並んで歩くミウとヒューを睨むアダルヘルム。
「解せん……っ」
 圧を察したヒュー、速度を落としてアダルヘルムの隣まで下がった。
「ミウは……私になにを見たのでしょうか」
「それは……」
「|溢れ出す魔力《オーバーフローター》、だよ?」
 立ち止まるヒュー。
「なるほど……そうですか」
 安心したような、少し悲しげな笑みをこぼし、再び歩き出した。
「ミウ、ふたつ見えた……小さくて黒いのと、大きくて黒く光る……器」
 くるっと回って前に出たミウ、ヒューの胸の真ん中を触り、
「ママは、きれいなものが好き……だから、ヒュー……あなたのきれいな器が、必要」
「ミウのお願い……だね」
「すまない、ヒュー……」
 |溢れ出す魔力《オーバーフローター》が、この都でどういう使われ方をされるかを、知っている様子のヒュー。
 けれど、どこか晴れやかな顔をしている。
「どうやら私は……兄が兄でなくなった時点で、吹っ切れているようです」
「こちらとしては願ってもないことだが……いいのか?もう、この都を出ることは、叶わぬことになるのだぞ」
「家の心配ですか?」
 はっと強く息を吐き、ヒューは言った。
「フーゴが家督を継いだ時点で……いえ、城に呼び出された父が消された時点で終わっていたのです……あの件に関わった名家の中では新しい方、ゆえに、扱う商品を……私も触れたことがあります」
 アダルヘルムの眉が動く。
 ヒューが取った行動次第……このまま無事に屋敷に行けるかが決まるからだ。
「そんな顔なさらないでください?私は止めましたし、流通も切りました……長い目で見なくても、不利益にしかならないものを扱うなんてしたくありませんでしたからね?……なのに、隠れて馬鹿な真似を続けて……こんな奴らと血が繋がっていることに、心底虫酸が走る」
「ヒュー、いい顔……してる」
「ありがとうミウ……こんな風に言葉に出せるようにしてくれたのは、ミウが助けてくれたからだよ」
 パッと明るく笑うふたりにムッとしながらも、ゼンの『破壊』の対象から外れたことに安堵した。
「そんな馬鹿な家の商売に、これ以上尽力する必要もないでしょう……そうですね、旅の途中で魔物に襲われたとでもして死んだことにしましょう……召使いたちもこのまま生きていても職を失い路頭に迷うだけです、領主様に頼めば暗殺も容易いでしょうか?」
「ヒュー……中々に恐ろしい事を言うのだな……」
「あはは……ねぇアダルさん?このまま自分の仕事を続けることの方が、私にとっての恐怖……この終わらない夜に命を捧げた方が、幾分も、救われることなのです」
 血塗れの部屋で垣間見たヒューの隠れた狂気が、向けられた笑顔から滲み出る……アダルヘルムはこれ以上何も言えなかった。
「それに……ミウに助けられたのですから、ミウのお願いを聞かないわけにはいきません!」
「男らしい……ヒュー、かっこいい」
「ありがとう、ミウ」
「む……」
 宿に着き、ゼンと顔を合わせることになった。
「やるじゃんおチビ〜お手柄!」
「当然……あくま、寝てただけ、ね?ふふん」
「フフ……あまりいじめてはダメよ?ミウ」
「ふぁぁ……誰だ?」
 角の生えた男、ほぼ裸の女、目つきも態度も悪い男と……中々強烈な面子に目を丸くしているヒュー。
「はじめまして、私はヒュー……ご所望の、商品になります」
 営業スマイルととっていいだろう、皮肉めいた挨拶をかまし、このメンツに負けない印象を植え付けるヒュー。
「はん?なかなかおもしれぇの連れてきたなミウ」
「ヒュー、強い……おすすめ」
 自信満々で鼻を鳴らすミウに品物扱いされ、苦笑いするヒュー。
「ファイン、念のため確かめましょう?」
「はいは〜い」
 すぐにベタベタと体を触られ始めるヒュー……平然として受け入れていた。
 ミウの裸には過剰に反応していたにも関わらず、裸同然のクロエに近づかれ、触られているのに顔色を変えない。
「やはり……危険だ」
「なにがだ?」
「あの男……ミウを狙っている」
「はっ!そんな度胸は無さそうだけどなぁ?ミウがうまくかわすだろ」
「しかし……!」
「おにいちゃんは大変、てか?ははは!」
 アダルヘルムの心配をひと蹴りするゼン。
「問題なさそうですね」
「ボクが欲しいくらい……ジュル……」
「申し訳ないですが……私の器はミウの物ですので……差し上げられません」
「えぇ〜?おチビ……なにしたの?」
「内緒……ね、ヒュー」
「そうだね、ミウ」
 わずかな時間で仲良くなった事が気になるファインと、意味ありげに笑うクロエに……わなわな震えるアダルヘルム、その様子を見て笑うゼン。
 おかしな顔合わせを済ませ、アラリケの待つ屋敷へ向かう。
 初日同様にすんなりとアラリケの部屋まで通される。
「はやかったのね?で?贈り物は?」
 よほど待ち遠しかったのだろう、挨拶をする前に声を掛けたアラリケ。
 膝をつき、かしずいたままのアダルヘルムの声を待っているようだ。
「ママ」
「あらあら?どうしたのミウちゃん?あなたは関係ないはずよ?」
「ミウ、やめるんだ」
「あにぃ……ミウも、ママの子だもん……大丈夫」
 ミウがアダルヘルムの前に立つと……アラリケの表情が変わった。
「背いたわね?」
「うん、そうだよ……ママ」
 扇子を口元に当て、アラリケは冷ややかな視線を刺す。