表示設定
表示設定
目次 目次




第94話 海への誘い

ー/ー



翌朝、俺は6時きっかりに目覚めた。
外に出て崖下を見ると、柳助は座り込んでいた。
さすがに寝てるか?と思って近づいてみたら、普通に反応してきた。
「おう。目覚めたか」

「柳助…本当にずっと起きてたのか?」

「自ら買って出た手前、仕事を放棄するわけにはいかんからな。それと、この子はずっと寝たままだったぞ」

「そうか…まあ後は俺が引き継ぐよ。柳助はゆっくり休んでくれ」

「そうする…と言いたい所だが、その前に食事を済ませたい」
そう言われて気づいた。まだ朝食を取ってない。 

「あ…俺も朝まだ食ってないんだ。一緒に行こうぜ?」

「…いや、ならいい。姜芽が食事を取ってから交代する」

そこまできっちりやってくれるのか。
まあありがたいが、なんか申し訳ない。



俺が朝食を終えて戻ると、柳助は俺に見張りを引き継いで馬車へ戻っていった。
ちなみに、俺と同じように海人の様子が気になるということで(いつき)煌汰(こうた)も一緒に見に来ている。

「まだ起きてないのか」

「ああ…ずっとこのままだったらしい」

「大丈夫なのかな…」

「息はあったから、大丈夫だと思うが…」

「早く目覚めて欲しいな」
なんてことを言ってたら、早くもそれは現実となった。
海人が、目を覚ましたのだ。

「…あれ、ここは?」
なぜかちょっと不安だったが、声は若い女のそれだった。
「起きたか?」
さっそく樹が声をかけると、彼女は樹を見、そして驚いた様子だった。
「…陸人!?ってことは、私…!」

「ああ、ここは陸だ。海岸だ」

「…」
海人は、自分の体を眺めた。
そして、俺達の方を見た。

「あなたたちは、陸人だよね?…私を、助けてくれたの?」

「ああ、君がたまたま、釣り…」
すると、樹が俺の口を塞いだ。
「あー、たまたま流れついてたのを見つけて、いつ目覚めるかなーって待ってたんだ」

樹を押しのけ、小声で言った。
(おい、何すんだよ!)

(海人は『釣り』って言葉が嫌いなんだよ!)
なるほど、まあそれはそうかもしれない。
たまに釣り上げられることもあるって言ってたし。

「そうなの…ありがとう。私はリトっていうの」

「そうか。オレは樹。こっちが煌汰、こっちが姜芽だ」

「やあ!僕は煌汰、騎士だよ!」
煌汰が明るくそう言ったので、俺達も種族を名乗る。

「オレは探求者って種族だぜ」

「俺は守人って種族だ」
すると、少女は反応した。
「守人…なんか私達に似てるね。私、水守人って種族なの」
本当に水守人って種族だったのか。樹の見立てに間違いはなかったようだ。

「まあ名前はな。海人と陸の異人じゃ、起源も性質も全然違う。姜芽…というかオレたちは、人間から進化した種族だ」

「うん、知ってる。人間は昔から好き…」

「へえ、意外だな」

「私達は、結構人間や陸人が好きな人が多いよ。私達、陸では生きていけないけど、みんな一回は陸に上がってみたいって思ってる」

「もう上がってない?」
煌汰のツッコミ風な発言を全力でスルーし、俺は続けて聞いた。
「それで、君はなんで意識を失ってたんだ?」

「それは…あっ!」
リトは手を叩き、しばし俯いて考え事をした。
「そうだ…私はあなたたちに…陸人に、助けを求めに来たんだ…!」

「助けだって?」
樹が首を突っ込んだ。
「うん…話すと長くなるんだけどね…」

そうして、リトは話しだした。
彼女はもともと、ここからずっと西の海域で家族と共に暮らしていた。しかし、数十年前に陸人に憎しみと恨みを抱く「マクダット」と呼ばれる海人の一派が押しかけてきて、自分たちの築いている集落に入るよう迫った。もちろん抵抗したが、マクダットはみな武装しており、しかも戦闘テクにも優れていた為に手出しが出来なかった。

そうして、彼女の一家は奴らの作った集落の一員にされ、常に監視されている。そしてもし陸に行きたいとか、陸人に会いたいとかと口走ると、たちまち捕らえられて殺されるという。
そんな状況にうんざりしたリトは、命からがら集落を抜け出し、陸人に助けを求めて陸へ向かった。しかし、その途中で異形に襲われ、ひどい傷を負った。なんとか逃げ延びたものの、傷をなんとか癒やしながら泳いでいるうちに、意識を失ってしまったらしい。

すべてを話し終えると、リトは碧の目を潤ませて言った。
「お願い…!私達を助けて。私の家族を、同族を、助けて!」

みな、黙り込んだ。
だが、答えは決まってる。

「そんなの…助けるに決まってんだろ!」

「そうだよ!そんなの、放っておけるわけない!」

「オレたちは旅人だぜ?こういう依頼を引き受けないでどうする!」

俺達3人がそう言うと、リトは顔をほころばせた。
「本当…?ありがとう!」
リトは人間のそれより大きく、そして平べったい手で目を擦った。
何があったのかはよく知らないが、そいつらの行いのせいで苦しんでる異人がいるなら、助けるのみだ。

「でも、どうやって海に入ろう?」

「それなら大丈夫。私があなたたちに力を与える。そうすれば、海に入れるようになる」

「そんなこと出来るのか?」

「うん。…えい」
リトが手に魔力を溜めて払うと、俺達の体に不思議な力がまとわりついた。
それとなく海水に触れてみたら、無性に飛び込みたい気持ちが湧いてきた。
たまらず海に飛び込んでしまった…自分の体が水に弱いことも忘れて。

「姜芽!?何してんだ!」

樹の声が飛んできたが、関係なかった。
静かな海中に浮かぶ安定感。そして、実家のような安心感。
この気持ちは、一体何だろう。


海面から顔を出し、樹達に言った。
「すごいぜこれ!俺でも普通に泳げるし、海の中にいるとなんか安心する!」

「え、マジで!?」

「さすが海人の力だな…よし、みんなを呼んでこよう!」




樹と煌汰は馬車のメンバーを全員呼んできた。
何人かがリトを見て「すげえ…海人だ…」と言っていたあたり、やはり海人というのは、大陸的には珍しい種族であるようだ。
リトは「こんなにいるの…?」と驚いていたが、俺が「大丈夫か?」と聞くと、「まあ、大丈夫だよ」と答えた。
また、樹も「言うてオレも異人を水中適応させることはできるしな、協力するよ」と言ってくれた。



そうして、全員が水に入れるようになった。
ただし馬車は水中に入れる訳にはいかないので、海岸に置いていくことにした。
「これだけいれば、大丈夫だろ!」
煌汰が尋ねると、リトは微かに笑って頷いた。

「さあ、それじゃ行くよ。陸人さんたち、私達の海にお連れするね…」


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第95話 海色ダイビング


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



翌朝、俺は6時きっかりに目覚めた。外に出て崖下を見ると、柳助は座り込んでいた。
さすがに寝てるか?と思って近づいてみたら、普通に反応してきた。
「おう。目覚めたか」
「柳助…本当にずっと起きてたのか?」
「自ら買って出た手前、仕事を放棄するわけにはいかんからな。それと、この子はずっと寝たままだったぞ」
「そうか…まあ後は俺が引き継ぐよ。柳助はゆっくり休んでくれ」
「そうする…と言いたい所だが、その前に食事を済ませたい」
そう言われて気づいた。まだ朝食を取ってない。 
「あ…俺も朝まだ食ってないんだ。一緒に行こうぜ?」
「…いや、ならいい。姜芽が食事を取ってから交代する」
そこまできっちりやってくれるのか。
まあありがたいが、なんか申し訳ない。
俺が朝食を終えて戻ると、柳助は俺に見張りを引き継いで馬車へ戻っていった。
ちなみに、俺と同じように海人の様子が気になるということで|樹《いつき》と|煌汰《こうた》も一緒に見に来ている。
「まだ起きてないのか」
「ああ…ずっとこのままだったらしい」
「大丈夫なのかな…」
「息はあったから、大丈夫だと思うが…」
「早く目覚めて欲しいな」
なんてことを言ってたら、早くもそれは現実となった。
海人が、目を覚ましたのだ。
「…あれ、ここは?」
なぜかちょっと不安だったが、声は若い女のそれだった。
「起きたか?」
さっそく樹が声をかけると、彼女は樹を見、そして驚いた様子だった。
「…陸人!?ってことは、私…!」
「ああ、ここは陸だ。海岸だ」
「…」
海人は、自分の体を眺めた。
そして、俺達の方を見た。
「あなたたちは、陸人だよね?…私を、助けてくれたの?」
「ああ、君がたまたま、釣り…」
すると、樹が俺の口を塞いだ。
「あー、たまたま流れついてたのを見つけて、いつ目覚めるかなーって待ってたんだ」
樹を押しのけ、小声で言った。
(おい、何すんだよ!)
(海人は『釣り』って言葉が嫌いなんだよ!)
なるほど、まあそれはそうかもしれない。
たまに釣り上げられることもあるって言ってたし。
「そうなの…ありがとう。私はリトっていうの」
「そうか。オレは樹。こっちが煌汰、こっちが姜芽だ」
「やあ!僕は煌汰、騎士だよ!」
煌汰が明るくそう言ったので、俺達も種族を名乗る。
「オレは探求者って種族だぜ」
「俺は守人って種族だ」
すると、少女は反応した。
「守人…なんか私達に似てるね。私、水守人って種族なの」
本当に水守人って種族だったのか。樹の見立てに間違いはなかったようだ。
「まあ名前はな。海人と陸の異人じゃ、起源も性質も全然違う。姜芽…というかオレたちは、人間から進化した種族だ」
「うん、知ってる。人間は昔から好き…」
「へえ、意外だな」
「私達は、結構人間や陸人が好きな人が多いよ。私達、陸では生きていけないけど、みんな一回は陸に上がってみたいって思ってる」
「もう上がってない?」
煌汰のツッコミ風な発言を全力でスルーし、俺は続けて聞いた。
「それで、君はなんで意識を失ってたんだ?」
「それは…あっ!」
リトは手を叩き、しばし俯いて考え事をした。
「そうだ…私はあなたたちに…陸人に、助けを求めに来たんだ…!」
「助けだって?」
樹が首を突っ込んだ。
「うん…話すと長くなるんだけどね…」
そうして、リトは話しだした。
彼女はもともと、ここからずっと西の海域で家族と共に暮らしていた。しかし、数十年前に陸人に憎しみと恨みを抱く「マクダット」と呼ばれる海人の一派が押しかけてきて、自分たちの築いている集落に入るよう迫った。もちろん抵抗したが、マクダットはみな武装しており、しかも戦闘テクにも優れていた為に手出しが出来なかった。
そうして、彼女の一家は奴らの作った集落の一員にされ、常に監視されている。そしてもし陸に行きたいとか、陸人に会いたいとかと口走ると、たちまち捕らえられて殺されるという。
そんな状況にうんざりしたリトは、命からがら集落を抜け出し、陸人に助けを求めて陸へ向かった。しかし、その途中で異形に襲われ、ひどい傷を負った。なんとか逃げ延びたものの、傷をなんとか癒やしながら泳いでいるうちに、意識を失ってしまったらしい。
すべてを話し終えると、リトは碧の目を潤ませて言った。
「お願い…!私達を助けて。私の家族を、同族を、助けて!」
みな、黙り込んだ。
だが、答えは決まってる。
「そんなの…助けるに決まってんだろ!」
「そうだよ!そんなの、放っておけるわけない!」
「オレたちは旅人だぜ?こういう依頼を引き受けないでどうする!」
俺達3人がそう言うと、リトは顔をほころばせた。
「本当…?ありがとう!」
リトは人間のそれより大きく、そして平べったい手で目を擦った。
何があったのかはよく知らないが、そいつらの行いのせいで苦しんでる異人がいるなら、助けるのみだ。
「でも、どうやって海に入ろう?」
「それなら大丈夫。私があなたたちに力を与える。そうすれば、海に入れるようになる」
「そんなこと出来るのか?」
「うん。…えい」
リトが手に魔力を溜めて払うと、俺達の体に不思議な力がまとわりついた。
それとなく海水に触れてみたら、無性に飛び込みたい気持ちが湧いてきた。
たまらず海に飛び込んでしまった…自分の体が水に弱いことも忘れて。
「姜芽!?何してんだ!」
樹の声が飛んできたが、関係なかった。
静かな海中に浮かぶ安定感。そして、実家のような安心感。
この気持ちは、一体何だろう。
海面から顔を出し、樹達に言った。
「すごいぜこれ!俺でも普通に泳げるし、海の中にいるとなんか安心する!」
「え、マジで!?」
「さすが海人の力だな…よし、みんなを呼んでこよう!」
樹と煌汰は馬車のメンバーを全員呼んできた。
何人かがリトを見て「すげえ…海人だ…」と言っていたあたり、やはり海人というのは、大陸的には珍しい種族であるようだ。
リトは「こんなにいるの…?」と驚いていたが、俺が「大丈夫か?」と聞くと、「まあ、大丈夫だよ」と答えた。
また、樹も「言うてオレも異人を水中適応させることはできるしな、協力するよ」と言ってくれた。
そうして、全員が水に入れるようになった。
ただし馬車は水中に入れる訳にはいかないので、海岸に置いていくことにした。
「これだけいれば、大丈夫だろ!」
煌汰が尋ねると、リトは微かに笑って頷いた。
「さあ、それじゃ行くよ。陸人さんたち、私達の海にお連れするね…」