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ep.57 導2

ー/ー



 (しるべ)はその役割を終えたのだ。
 皆が皆、そう考え始めていた。

「えっと、あたし、いまいち会話に入っていけなくって置いてけぼり状態なんだけど。導についてはもう大丈夫ってことだよね。ただ大口ってところは昔酷いことが起きていろいろ危ないよ、って話なんだよね?」

 千寿流が分からないなりに頭を働かせて、なんとか理解できた部分を声にだして整理した。
 言っていることは間違っていない。
 導は終わり、過去にするため人々は前を向き始めている最中だ。大口という場所も横浜と同じく荒れ果てた地区なのだろう。
 しかし、それでもなお大口には生き残った者たちがいるはずだ。かすかな希望を抱きつつ、未来に向けての一歩を踏み出そうとしているはずだ。
 実際に見たわけじゃない。けど、そう思いたい自分がいる。

「じゃあ、そんなことでやめるわけにはいかないよ! だって、クラマちゃんを助けるためにここまで来たんだから!」

 それに、そこがどんな場所かなんてどうでもいい。
 クラマがそこに向かったというのであれば、逃げ出すわけにはいかないのだ。

「大口が危険なだけかって言われりゃその通りだ。ただ単純に危険って話だ。けど、お前さんらを止める理由にゃ十分だろ。危ないとわかってる場所に、はいそうですかって送り出すわけにはいかねえんだよ」

 タクミは折れなかった。真っ直ぐな千寿流の目を見て、このまま行かせたくないと思ったのだ。
 少し呼吸を置いて再び口を開く。

「知り合いの一人が大口に行ったきり帰ってこねえ。そいつはただの日雇いの傭兵やって路銀を稼いでいる。能無し(ノーレア)だが腕っぷしは男にも負けてねえ。まあ、色眼鏡かもしんねえけどな」

 緊張感が戻ってくる。
 ごくりと唾を飲む音がした。
 他でもない自分の出した音と気づくのに数秒かかった。

「大口には何かがいる。だから……」

「じゃ、じゃあ、なんでクラマちゃんを行かせちゃったんですか!? タクちゃんが止めてくれれば!」

 割り込むように思っている言葉をぶつけた。
 クラマはここにきてタクミを訪ねた。けれど、その時本当に危険だと伝えたのだろうか?
 なんにせよクラマが大口に行くことはやめなかったわけだ。知り合いが返ってこないことも分かっていたはずなのに、なぜもっと強く止めてくれなかったのか。
 もちろん、タクミのせいではないのかもしれない。タクミの制止を押し切ってでもクラマには向かうべき理由があったのかもしれない。
 けれどその結果、クラマとは再会することもできず、連絡すらつかない状態になってしまった。
 自分では何が正しいのか分からないからタクミの口から真実を、その理由を聞きたかった。

「ちずるの いうとおりだよ! タクミは クラマのこと しんぱいじゃないの!?」

 シャルも詰め寄った。
 ここまで何か言いたそうにしていたものの傍観を決め込んでいたシャルも、さすがにタクミに落ち度があると気づいたのだろう。だから、訴えるように縋る。
 二人の少女に詰め寄られタクミは困り顔で頭をかく。どう対応するのが正解なのか、振り払ってしまってはいいものなのか、口に出して答えてしまってはいいものなのか決めかねている様子だった。

「大丈夫ですよ。二人とも頼りなさそうな見た目ですけど、友だちのためなら自分を投げうってでも行動できるぐらいの気概はありますよ。それに話してくれないと、その子たちきっと納得してくれないですよ?」

 心中を察した夜深がタクミにそう言った。その言葉を受けより一層眉をひそめた。
 唇をぎりりと噛む。
 隠していることがまだあるのだ。
 言わなくては納得してもらえない。けれど言い淀んでしまう。ならば言えば納得してもらえるのだろうか。ならば納得してもらえればいいのだろうか。その判断がつかない。なぜなら口に出してしまえばもう取り返しはつかないのだから。
 その二つの天秤の境でタクミは苦悩した。
 そうしてしばらく逡巡した後、ようやく口を開いた。

「――殺されかけたからだよ」

 二人を傷つけてしまわぬよう、喉に閊えさせていたその言葉を溜息を吐くように呟いた。


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 |導《しるべ》はその役割を終えたのだ。
 皆が皆、そう考え始めていた。
「えっと、あたし、いまいち会話に入っていけなくって置いてけぼり状態なんだけど。導についてはもう大丈夫ってことだよね。ただ大口ってところは昔酷いことが起きていろいろ危ないよ、って話なんだよね?」
 千寿流が分からないなりに頭を働かせて、なんとか理解できた部分を声にだして整理した。
 言っていることは間違っていない。
 導は終わり、過去にするため人々は前を向き始めている最中だ。大口という場所も横浜と同じく荒れ果てた地区なのだろう。
 しかし、それでもなお大口には生き残った者たちがいるはずだ。かすかな希望を抱きつつ、未来に向けての一歩を踏み出そうとしているはずだ。
 実際に見たわけじゃない。けど、そう思いたい自分がいる。
「じゃあ、そんなことでやめるわけにはいかないよ! だって、クラマちゃんを助けるためにここまで来たんだから!」
 それに、そこがどんな場所かなんてどうでもいい。
 クラマがそこに向かったというのであれば、逃げ出すわけにはいかないのだ。
「大口が危険なだけかって言われりゃその通りだ。ただ単純に危険って話だ。けど、お前さんらを止める理由にゃ十分だろ。危ないとわかってる場所に、はいそうですかって送り出すわけにはいかねえんだよ」
 タクミは折れなかった。真っ直ぐな千寿流の目を見て、このまま行かせたくないと思ったのだ。
 少し呼吸を置いて再び口を開く。
「知り合いの一人が大口に行ったきり帰ってこねえ。そいつはただの日雇いの傭兵やって路銀を稼いでいる。|能無し《ノーレア》だが腕っぷしは男にも負けてねえ。まあ、色眼鏡かもしんねえけどな」
 緊張感が戻ってくる。
 ごくりと唾を飲む音がした。
 他でもない自分の出した音と気づくのに数秒かかった。
「大口には何かがいる。だから……」
「じゃ、じゃあ、なんでクラマちゃんを行かせちゃったんですか!? タクちゃんが止めてくれれば!」
 割り込むように思っている言葉をぶつけた。
 クラマはここにきてタクミを訪ねた。けれど、その時本当に危険だと伝えたのだろうか?
 なんにせよクラマが大口に行くことはやめなかったわけだ。知り合いが返ってこないことも分かっていたはずなのに、なぜもっと強く止めてくれなかったのか。
 もちろん、タクミのせいではないのかもしれない。タクミの制止を押し切ってでもクラマには向かうべき理由があったのかもしれない。
 けれどその結果、クラマとは再会することもできず、連絡すらつかない状態になってしまった。
 自分では何が正しいのか分からないからタクミの口から真実を、その理由を聞きたかった。
「ちずるの いうとおりだよ! タクミは クラマのこと しんぱいじゃないの!?」
 シャルも詰め寄った。
 ここまで何か言いたそうにしていたものの傍観を決め込んでいたシャルも、さすがにタクミに落ち度があると気づいたのだろう。だから、訴えるように縋る。
 二人の少女に詰め寄られタクミは困り顔で頭をかく。どう対応するのが正解なのか、振り払ってしまってはいいものなのか、口に出して答えてしまってはいいものなのか決めかねている様子だった。
「大丈夫ですよ。二人とも頼りなさそうな見た目ですけど、友だちのためなら自分を投げうってでも行動できるぐらいの気概はありますよ。それに話してくれないと、その子たちきっと納得してくれないですよ?」
 心中を察した夜深がタクミにそう言った。その言葉を受けより一層眉をひそめた。
 唇をぎりりと噛む。
 隠していることがまだあるのだ。
 言わなくては納得してもらえない。けれど言い淀んでしまう。ならば言えば納得してもらえるのだろうか。ならば納得してもらえればいいのだろうか。その判断がつかない。なぜなら口に出してしまえばもう取り返しはつかないのだから。
 その二つの天秤の境でタクミは苦悩した。
 そうしてしばらく逡巡した後、ようやく口を開いた。
「――殺されかけたからだよ」
 二人を傷つけてしまわぬよう、喉に閊えさせていたその言葉を溜息を吐くように呟いた。