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ep.53 荒廃地区 横浜

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 千寿流たちは真っ黒に染まる湖を迂回して、荒れ果てた公道を歩いていた。
 九月だというのに、ここらは英雄変革(アドベントシフト)による異常気象の影響が強いのか、温度は三十八度を記録しており、真夏のような暑さだった。
 初めのうちは日陰を利用しながら、何とか暑さにも耐えて歩く一行だったが、次第に日差しを遮る倒壊したビル街なども徐々に減ってくる。
 それとは入れ替わりに荒れ果てた大地が姿を見せ始める。ざっと見渡すだけでも先が霞むほどに広く、それは壮観と表現しても差し支えのないものだったが、同時に先の視えないほどに長く、この過酷な環境は続くということを意味していた。

ep.53 荒廃地区 横浜

 見渡す赤い大地には、ところどころ縦に長く伸びる山々が聳え立つ。赤く染まった大地、それはさながらアメリカ南西部に広がるモニュメントバレーのようだ。
 時折、遠くで風が砂を舞わせ小さな塵柱が立ち上がる。それはまるでこの荒廃した大地が悲鳴を上げているかのようだった。
 当たり前だが気の利いた日陰になるような建物もない。日光を遮る建物が無くなると、直射日光が千寿流たちの体力をじわじわと奪っていく。

「あ、暑~。汗が止まらない。次から次へと出てくるよ」

「シャルルも とろけちゃいそー ちずるぅ おんぶしてぇ」

 シャルも本気で背負ってもらおうという気はないものの、文句の一つでも言って気を紛らわせないとやってられないようだった。ただ、千寿流にはその手の冗談は通用しないようで。

「でも、シャルちゃんがどうしても歩けないっていうなら、うん。えと、あたしの背中、たぶん汗でべとべとだけど大丈夫?」

「……やっぱり いい」

 弱音は吐いても思っても体に悪い。悪いことを考えてばかりいると良いことは逃げていく。これは前にパパに言われたことだ。暑いからと下ばかり見てると余計に気が滅入ってくる。だからせめて景色だけは楽しもうと顔を上げてみる。
 東のほうには火山でもあるのか時々火花のようなものも上がっており、先ほどの黒い海や、ぐちゃぐちゃに倒壊してしまったビルの残骸を見てきたことと相まって、現実感というものが欠如しかけていた。

(余計に気が重くなりそうだよ……パパ)

 そんなこんなで数時間、たわいもないやり取りをしながら公道を歩いていると、周りには家屋など何もないところにぽつんと建っていた民家を見つける。

「あぅ、あれって家? それとも家の形をした岩? なんかあたし、ぼーっとしちゃってよくわかんなくなっちゃった」

 暑さで意識が朦朧とし始めていた千寿流は正確な判断ができず、隣を涼しげな顔で歩いている夜深に訊ねる。

「……」

 周りには電信柱も水道のようなものもない。こんな何もないところに家が建っているのであれば、当然そういった生活に必要であろうインフラは何も機能していないだろう。
 怪しいと思うべきである。というよりはだれも住んでいないという可能性のほうがはるかに高いはずだ。
 しかし、眼前にぽつりと立つ家は決して大きいとはいえないものの、その見てくれは古びているという様子は全くなく“誰かが今住んでいる”ことを強く実感させられた。

「うーん、どこからどう見ても普通の家だね。ちょうどいいや。このままこの劣悪な環境を歩き続けるのも無謀だし、ちょっと話を聞くついでに休ませてもらおうか」

 夜深もそれは感じたのだろうか、そう涼しげに答える。というか、なんで隣を歩いている夜深はこんなにも涼しげな顔をしていられるのだろうか?
 自分よりも服を着こんで、頭にはフードを被り、光の吸収しやすい真っ黒なカラーの服装なのに、全然暑がっているようには見えない。

「ね、ねぇ、夜深ちゃん……って、ちょっと待ってっ。っわ!」

 後ろを歩いていた夜深の方向に向き直り、そう問いかけようとする千寿流を置いて、スタスタと先を行ってしまう。
 慌てて追いかけようとするものの、足がこんがらがってしまって、その場で回転するように転んでしまう。

「だいじょうぶ ちずる?」

 さっきまで横で一言も発さずにぐったりとしていたシャルも、千寿流のあまりの間抜けっぷりに目をぱちくりと開いて心配の声をかける。

 ――コンコン。
 当然インターホンのような気の利いたものは存在しない。だから、扉を気づいてもらえる程度に強めにノックする。
 一度では気のせいと気づいてもらえないこともあるだろう。何度か間隔を空けてノックをしてみる。しかし、一向に反応はない。
 ようやく休めるところが見つかったと、期待に満ちていた千寿流たちの表情が曇る。誰も住んでいないのかと思い、踵を返し立ち去ろうとしたその時だった。


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 千寿流たちは真っ黒に染まる湖を迂回して、荒れ果てた公道を歩いていた。
 九月だというのに、ここらは|英雄変革《アドベントシフト》による異常気象の影響が強いのか、温度は三十八度を記録しており、真夏のような暑さだった。
 初めのうちは日陰を利用しながら、何とか暑さにも耐えて歩く一行だったが、次第に日差しを遮る倒壊したビル街なども徐々に減ってくる。
 それとは入れ替わりに荒れ果てた大地が姿を見せ始める。ざっと見渡すだけでも先が霞むほどに広く、それは壮観と表現しても差し支えのないものだったが、同時に先の視えないほどに長く、この過酷な環境は続くということを意味していた。
 見渡す赤い大地には、ところどころ縦に長く伸びる山々が聳え立つ。赤く染まった大地、それはさながらアメリカ南西部に広がるモニュメントバレーのようだ。
 時折、遠くで風が砂を舞わせ小さな塵柱が立ち上がる。それはまるでこの荒廃した大地が悲鳴を上げているかのようだった。
 当たり前だが気の利いた日陰になるような建物もない。日光を遮る建物が無くなると、直射日光が千寿流たちの体力をじわじわと奪っていく。
「あ、暑~。汗が止まらない。次から次へと出てくるよ」
「シャルルも とろけちゃいそー ちずるぅ おんぶしてぇ」
 シャルも本気で背負ってもらおうという気はないものの、文句の一つでも言って気を紛らわせないとやってられないようだった。ただ、千寿流にはその手の冗談は通用しないようで。
「でも、シャルちゃんがどうしても歩けないっていうなら、うん。えと、あたしの背中、たぶん汗でべとべとだけど大丈夫?」
「……やっぱり いい」
 弱音は吐いても思っても体に悪い。悪いことを考えてばかりいると良いことは逃げていく。これは前にパパに言われたことだ。暑いからと下ばかり見てると余計に気が滅入ってくる。だからせめて景色だけは楽しもうと顔を上げてみる。
 東のほうには火山でもあるのか時々火花のようなものも上がっており、先ほどの黒い海や、ぐちゃぐちゃに倒壊してしまったビルの残骸を見てきたことと相まって、現実感というものが欠如しかけていた。
(余計に気が重くなりそうだよ……パパ)
 そんなこんなで数時間、たわいもないやり取りをしながら公道を歩いていると、周りには家屋など何もないところにぽつんと建っていた民家を見つける。
「あぅ、あれって家? それとも家の形をした岩? なんかあたし、ぼーっとしちゃってよくわかんなくなっちゃった」
 暑さで意識が朦朧とし始めていた千寿流は正確な判断ができず、隣を涼しげな顔で歩いている夜深に訊ねる。
「……」
 周りには電信柱も水道のようなものもない。こんな何もないところに家が建っているのであれば、当然そういった生活に必要であろうインフラは何も機能していないだろう。
 怪しいと思うべきである。というよりはだれも住んでいないという可能性のほうがはるかに高いはずだ。
 しかし、眼前にぽつりと立つ家は決して大きいとはいえないものの、その見てくれは古びているという様子は全くなく“誰かが今住んでいる”ことを強く実感させられた。
「うーん、どこからどう見ても普通の家だね。ちょうどいいや。このままこの劣悪な環境を歩き続けるのも無謀だし、ちょっと話を聞くついでに休ませてもらおうか」
 夜深もそれは感じたのだろうか、そう涼しげに答える。というか、なんで隣を歩いている夜深はこんなにも涼しげな顔をしていられるのだろうか?
 自分よりも服を着こんで、頭にはフードを被り、光の吸収しやすい真っ黒なカラーの服装なのに、全然暑がっているようには見えない。
「ね、ねぇ、夜深ちゃん……って、ちょっと待ってっ。っわ!」
 後ろを歩いていた夜深の方向に向き直り、そう問いかけようとする千寿流を置いて、スタスタと先を行ってしまう。
 慌てて追いかけようとするものの、足がこんがらがってしまって、その場で回転するように転んでしまう。
「だいじょうぶ ちずる?」
 さっきまで横で一言も発さずにぐったりとしていたシャルも、千寿流のあまりの間抜けっぷりに目をぱちくりと開いて心配の声をかける。
 ――コンコン。
 当然インターホンのような気の利いたものは存在しない。だから、扉を気づいてもらえる程度に強めにノックする。
 一度では気のせいと気づいてもらえないこともあるだろう。何度か間隔を空けてノックをしてみる。しかし、一向に反応はない。
 ようやく休めるところが見つかったと、期待に満ちていた千寿流たちの表情が曇る。誰も住んでいないのかと思い、踵を返し立ち去ろうとしたその時だった。