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ep.51 岩壁の攻防3

ー/ー



「うわっぷ!?」

 魔獣(マインドイーター)が破裂した際の肉片や消化液が顔にかかる。
 その肉片は強烈な粘性があり、鳥肌が立つほどに不快で気持ちの悪い感触だが、今は助かったことの実感、そして何より、シャルを守れたことの嬉しさが勝っていた。
 壁面は魔獣(マインドイーター)の飛び散った肉片でみるも悍ましい光景を成していた。
 千寿流は面食らったのも束の間、状況を確認するため足早に横穴の出口に駆け顔を覗かせる。見上げると崖の上で夜深がこちらに手を振っているのが視えた。

「いやー、無事だった? あはは、無事じゃないみたいだね。千寿流ちゃん、めちゃくちゃ汚いじゃん、君。それに臭そうだし。命さんに怒られちゃうね」

「っは!」

 言われて思い出す。この服は今日、命にもらった思い出の品とも呼べる服だった。そんな大切なものをもらったその日にドロドロに汚してしまった。もらったその日にだ。さすがの命も開いた口が塞がらないだろう。
 目が泳ぐ。顔から血の気がサーッと引いていくのが自分でも分かる。腕の痛みなんてもうどうでもいいぐらいに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「まあ、こればっかりはしょうがないよね。ところで、あの気っ色悪い芋虫どうなったの? なんかよくわかんないうちに破裂して消えちゃったみたいだけど。あれ、君がやったの?」

「えっと、たぶん。あ、あの夜深ちゃん、あたしたちどうやって登ればいい? 助けて、夜深ちゃん!」

 夜深は頭をポリポリと掻いた後、考える仕草をとる。魔獣(マインドイーター)はもういない。恐らくあいつがここら一帯を牛耳っていた、主といえる立場の魔獣(マインドイーター)だろう。
 これ以上の襲撃は無いはずだ。なら、橋を架けた要領で千寿流のいる場所まで、同じように蔦で橋をつくってやればいいと考えた。

「まあ、問題ないか。千寿流ちゃん、シャルちゃんもそこにいるんだろう? 出口まで連れてこれるかな?」

「う、ごめん。あたし、腕すごく痛くて、自分で動かせないの。あうぅ、これ自分の腕じゃないみたい」

「そうか、わかったよ。じゃあ僕がそこまで行って治療してあげる。君は先にシャルちゃんのもとに行ってあげるといい」

「うん! お願い、夜深ちゃん!」

 そう言うと千寿流は横穴の中にゆっくりと歩いていき視界から消える。
 千寿流が視えなくなるのを確認してから、夜深は先ほどと同じように地面に手を付け、異能(アクト)で蔦をつくりだす。
 先ほどとっさに千寿流たちを救ってやれなかったのは、“植物を編み込んで橋をつくる”といった精密な操作には神経を要するからだった。

「うんにゃ ちずる どうしたの?」

「シャルちゃん! よかったぁ! 目を覚ましたんだね! あたし、心配で心配で!」

 シャルが無事目を覚ました嬉しさのあまり涙ぐむ千寿流。

「あれ ちずるかとおもったけど ちずるじゃない? うえぇ だれ? くさいよ?」

 目を覚まして初めに飛び込んできたのは、体中に魔獣(マインドイーター)の肉片や消化液を被った千寿流のような誰か。
 声はそのままだったが、あまりにも外見に面影がなかったので誰かの判断がつかなかったようだ。

「う……っ。ひどいよぉ、シャルちゃん」

 その後、夜深の治療と洗濯やお風呂を借りに、命の家に再度厄介になることになった一行。
 結局今日一日の疲れが溜まっていた千寿流がお風呂の中で寝てしまい、出るころにはすっかり日が暮れてしまっていた。
 命の好意もあり、もう一晩だけ泊めてもらうことになった際は、何日でも泊って行ってくれていいと言っていたが、それを前提にすると延々と足止めを食らってしまいそうなジンクスになりかねない。
 さすがに不運がもう続くことは勘弁したいので、「今日が最後だよ! 命ちゃんには迷惑かけない!」と千寿流は自信満々に言い切るのだった。


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「うわっぷ!?」
 |魔獣《マインドイーター》が破裂した際の肉片や消化液が顔にかかる。
 その肉片は強烈な粘性があり、鳥肌が立つほどに不快で気持ちの悪い感触だが、今は助かったことの実感、そして何より、シャルを守れたことの嬉しさが勝っていた。
 壁面は|魔獣《マインドイーター》の飛び散った肉片でみるも悍ましい光景を成していた。
 千寿流は面食らったのも束の間、状況を確認するため足早に横穴の出口に駆け顔を覗かせる。見上げると崖の上で夜深がこちらに手を振っているのが視えた。
「いやー、無事だった? あはは、無事じゃないみたいだね。千寿流ちゃん、めちゃくちゃ汚いじゃん、君。それに臭そうだし。命さんに怒られちゃうね」
「っは!」
 言われて思い出す。この服は今日、命にもらった思い出の品とも呼べる服だった。そんな大切なものをもらったその日にドロドロに汚してしまった。もらったその日にだ。さすがの命も開いた口が塞がらないだろう。
 目が泳ぐ。顔から血の気がサーッと引いていくのが自分でも分かる。腕の痛みなんてもうどうでもいいぐらいに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「まあ、こればっかりはしょうがないよね。ところで、あの気っ色悪い芋虫どうなったの? なんかよくわかんないうちに破裂して消えちゃったみたいだけど。あれ、君がやったの?」
「えっと、たぶん。あ、あの夜深ちゃん、あたしたちどうやって登ればいい? 助けて、夜深ちゃん!」
 夜深は頭をポリポリと掻いた後、考える仕草をとる。|魔獣《マインドイーター》はもういない。恐らくあいつがここら一帯を牛耳っていた、主といえる立場の|魔獣《マインドイーター》だろう。
 これ以上の襲撃は無いはずだ。なら、橋を架けた要領で千寿流のいる場所まで、同じように蔦で橋をつくってやればいいと考えた。
「まあ、問題ないか。千寿流ちゃん、シャルちゃんもそこにいるんだろう? 出口まで連れてこれるかな?」
「う、ごめん。あたし、腕すごく痛くて、自分で動かせないの。あうぅ、これ自分の腕じゃないみたい」
「そうか、わかったよ。じゃあ僕がそこまで行って治療してあげる。君は先にシャルちゃんのもとに行ってあげるといい」
「うん! お願い、夜深ちゃん!」
 そう言うと千寿流は横穴の中にゆっくりと歩いていき視界から消える。
 千寿流が視えなくなるのを確認してから、夜深は先ほどと同じように地面に手を付け、|異能《アクト》で蔦をつくりだす。
 先ほどとっさに千寿流たちを救ってやれなかったのは、“植物を編み込んで橋をつくる”といった精密な操作には神経を要するからだった。
「うんにゃ ちずる どうしたの?」
「シャルちゃん! よかったぁ! 目を覚ましたんだね! あたし、心配で心配で!」
 シャルが無事目を覚ました嬉しさのあまり涙ぐむ千寿流。
「あれ ちずるかとおもったけど ちずるじゃない? うえぇ だれ? くさいよ?」
 目を覚まして初めに飛び込んできたのは、体中に|魔獣《マインドイーター》の肉片や消化液を被った千寿流のような誰か。
 声はそのままだったが、あまりにも外見に面影がなかったので誰かの判断がつかなかったようだ。
「う……っ。ひどいよぉ、シャルちゃん」
 その後、夜深の治療と洗濯やお風呂を借りに、命の家に再度厄介になることになった一行。
 結局今日一日の疲れが溜まっていた千寿流がお風呂の中で寝てしまい、出るころにはすっかり日が暮れてしまっていた。
 命の好意もあり、もう一晩だけ泊めてもらうことになった際は、何日でも泊って行ってくれていいと言っていたが、それを前提にすると延々と足止めを食らってしまいそうなジンクスになりかねない。
 さすがに不運がもう続くことは勘弁したいので、「今日が最後だよ! 命ちゃんには迷惑かけない!」と千寿流は自信満々に言い切るのだった。